山の麓の劇場
「ナラ節アリ材とクォーツストーンのオーダーキッチン」
鎌倉 O様
design:tetsuya ishiko
planning:tetsuya ishiko/daisuke imai
producer:yasukazu kanai/kouhei kobayashi
painting:haraki tosou
石子さんが設計事務所icaaさんに勤めていらした時にお手伝いさせて頂いた鎌倉のO様のお仕事です。
思い返すと、2011年に青葉台のMさんから家具のご相談を頂いて、その時に設計事務所さんがicaaさんだったというのが最初の出会いでした。
「寺家町」という名前はすてきな場所だっていうことを以前から聞いていたのですが、その場所でこのようなすてきな設計事務所さんがあるのか、ってうれしくなったものでした。
ちょうどMさんのご新居の設計を担当されていた石子さんが私たちに興味を持ってくださって、それから幾度となくicaaさんのお客様の家具作りをお手伝いさせて頂いておりました。
お客様だけではなく、石子さんのご自宅やほかのスタッフさんの家にまで上がりこんだり、主催してくれたクラフト市にも参加させて頂いたりと、とても有意義な時間でした。
そのスタッフ皆さんが晴れてそれぞれ独立されまして、今回のMさんはその事務所時代の最後のほうのお客様となり、あらためてとても勉強になるお仕事だったのでした。
「今度鎌倉で新築を建てるにあたりまして、またイマイさんにお手伝いして頂けたらと思いまして。」といつもの優しい物腰で話す石子さんの言葉を、少し濃いめのエスプレッソを頂きながら聞いておりました。
うれしいことに、最初の頃はキッチンや家具単体でのご相談が多かったのですが、このところは、家の中の重要な家具を多く任せて頂ける機会も増えてきたのでした。
そして、Oさんの図面を拝見させて頂いて、こことこことここと・・、と聞いていくうちに苦笑い・・。
石子さんが「?」という表情をされましたので、「いつもありがとうございます。でも家具のボリュームが多いと、間に合うかなって心配になってしまって・・。(笑)」
「そうですね。でも、それぞれの家具の納品のタイミングはずらせると思いますので、できればイマイさんにすべてお願いしたいなと考えております。」
いつもながらうれしい言葉です。
石子さんとは年がひとつ違いで私のほうが一つ上なだけですので、気持ちがとても近いのです。
事務所にいらした時はどちらかというと、少しスタイリッシュな形をご提案頂くことが多かったのですが、今聞いてみると、「好きな作家さんは好文さんのようなその人の暮らしに自然と溶け込んでいるようなさりげない形が好きなんです。」と好きな印象も近いのでした。
だからね、そういう人が考える家の中に居ると心地良いのです。
今回のMさんもきっと心地良い場所になるはずって楽しみにしておりました。
でも、ひとつだけ気に掛かることが・・。それは立地です。
鎌倉はどの場所を歩いていてもとても魅力のある土地です。でも魅力と同じくらい湿気も多い土地なのです。
今までも鎌倉に住むお客様の家具を何度も作らせて頂いておりますが、その住んでいる様子をお聞きすると、皆さん必ず「湿気がね・・。」とおっしゃいます。
Oさんの立地も大仏様の近くの谷戸になっている場所。そして、山というか丘の裾に当たる場所。風が抜けるかもしれませんが湿った風が丘を越えていってくれるかどうか。
その場所で作る家具に使う素材は、節アリのナラ材。無垢を主に使った形でキッチンやテレビボードを作らせて頂くことになったのです。
そこで製作に取り掛かる前にそれぞれの家具の設置場所を確認にお伺いしたのですが、うーん、やはり現場の空気がちょっと重く感じるのでした。
でも、家具の取付は真夏の8月でしたが無事に完了しそのまま無事にお引き渡しを迎え、冬が始まる頃、石子さんが写真の撮影にOさんのお宅にお邪魔するというので、私もその機会に撮影させて頂くことにしたのです。
「ご無沙汰しております。」とさっそくキッチンに上がらせて頂くと、あれほどしっかり養生して作ったのでしたがやはり心配していた大きな引き出しの前板が大きく手前に反り返っておりました。
「これは、やっぱり無垢だから仕方ないかなと思っておりました。」とOさん。
いえ、これはやはり動きが大きすぎます、すみません。
リビングの扉も予想以上に木が縮んでいて、これは湿気ばかり気にしていただのですが外気を受けた部分が大きく縮んだのでした。
ふーむ・・。
リビング側の扉は、また時期が来るとの延びると思われますので、このまま手を付けないようにして調整だけさせて頂き、キッチン側の大きな引き出しの前板のほうを引き出しの構造を変えて作ることで、反りを矯正することにしたのです。テレビボードがそのほかの家具はきちんと不具合なく使えていて、この大きな前板だけ後日あらためてお伺いして引き出しを交換して調整させて頂き、無事に使いやすい引き出しにすることができたのでした。
刻んでしまった木は生きているとは言いませんがずっと動き続けます。その動きが使い勝手に支障が出ないように工夫しながら作るのですが、木のほうも頑固ですのでそう一筋縄ではいかないのです。
それが良さでもあり、大変な部分でもあるわけで、作る人も使う人もそこを楽しんでもらえるとうれしいのです。
Oさんもそのあたりを楽しんで使ってくださっていて、その様子が部屋を見渡すとよく分かるのでした。
うれしいことです。
イキイキとした緑がそこかしこにちりばめられて、窓を開放すると山の緑も入り込んできて、葉がサラサラ鳴ります。
2階のバルコニーは落ち葉が積もりますが、冬でも開け放しておける心地良いところ。
おや、いまなにか通り過ぎたよって思っていたら、リスが木立の奥から顔をのぞかせました。
外の木々のささやきと、内の家具の豊かな表情と。ここはまるで劇場のような具合です。
天板 | クォーツストーン「シーザーストーン」/シンクはステンレスヘアライン |
---|---|
扉・前板 | 節アリナラ無垢材 |
本体外側 | 節アリナラ無垢材/ナラ板目突板練り付け |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | ウレタンクリア塗装全つや消し仕上げ |
ナラ節アリ材とクォーツストーンのオーダーキッチン
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。