お久しぶりだったのですね。
「ナラ柾目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
葉山 T様
design:evergreenhome/Tさん
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:Tさん
そういえば私たちのキッチンのカタログを見たいというメールを頂いておりました。
茅ヶ崎にあるエバーグリーンホームさんから、「イマイさんにキッチンの製作をお願いしたいと思っているのです。そのお客様は以前イマイさんのキッチンを見たことがあるそうで、それでぜひお願いしたいと。」と言うご連絡を頂いたのです。
以前ここに来て下さったTさんかぁ、・・うーん・・、ちょっと思い出せないなあ・・。ごめんなさい、Tさん・・。
あの人だっけ、このひとだっけ、と思い巡らせておりましたら、エバーさんが原案となるプランを持って来て下さいました。
「今のところまだ確定ではないのですが、こういうコの字のキッチンを考えているのです。そこで、まずはこの形で製作可能かどうかを検討して頂けますでしょうか。」
うーん、コの字か、コの字と言うと「子供を呼ぶ声」のYさんのキッチンが浮かびます。
あの時もカウンタートップをすべてステンレスにするべきか、木を取り入れるか迷ったのです。
なぜ迷うのかと言うと、ステンレスのカウンター部分は極力つなぎ目を出したくないのです。コの字だと物理的に搬入が無理と言う現場が多いので、どうしてもL型の天板が限界かなって考えてしまうのです。重量もかなりのものになりますし。そこで、Yさんの時は、主に料理作業をする部分はステンレス、軽作業や収納がメインになる部分は木製のカウンター、と言う用途を分けて考えたのでした。
今回のTさんもそうさせて頂こうかな。設置階も2階だし。
さっそくいろいろと検討しておおよそかかる費用をお伝えしまして、そこからは、より細かい部分をエバーさんと検討していきます。
そうしておおよそ方向性がまとまったところで、エバーさんのスタジオである打ち合わせに、と言うか思い出せなかったTさんのお顔を見に行ったのでした。
そうして、いらして下さったのは、おぉ、思い出しました。Tさん。
奥様の魅力的なおしゃべりとご主人が時々つぶやいてくださる的確なアドバイス。1年前に私たちのところに来て下さった時のことが楽しく思い出されます。たしかあの時はまだご新居の話もまだ先だったと思うのですが、こうしてあらためてお声掛け頂けるのはとてもうれしいことです。クライアントと言うよりは、懐かしい友人に再開したような気分でありました。
さてそこからとTさんと直接お話を進めて、より具体的な内容へと進んでいきます。
当初クォーツで考えていたカウンターはステンレスになり、チェリーがナラの柾目になり、軽やかなキッチンに変わっていったのでした。
「・・・あと、少しでも減額できる要素って何でしょうか、イマイさん。」と奥様。
そうですね・・、塗装ですかね。
使い勝手と好みのテイストを探しながらも、どこかで抑えたい部分も考えながらその形に向かっていくのです。
フリーハンドイマイの家具がイマイさんらしいねって言われるのは、その柔軟性があるからなのかなって時々思います。
今まで作ってきた形を見返してみても、どこかに似たモチーフが使われている家具たちがあったとしてもやっぱり同じ形ではなくて。それが柔軟性につながっているのかな。だからみんなが声を掛けやすいのかな。
そういう立ち位置で皆さんに声を掛けてもらえることはとてもうれしいよね。
作る人と使う人の境界線が無くなって、時には、教わる人と教える人に入れ替わっちゃったりする。そうして、お互いがお互いを支え合って、家具を一緒に作っていく。そういう体験を通して物事ができあがっていく。
できあがる過程から、そして、その将来までがみんなひとつながりになっている。そういう様子を全部好きになってくれる皆さんがいる。
おもしろい仕事だなあとつくづく思います。
今もそうだけれど、昔からずっと考えてきました。
あと何年後の自分はどんな自分になっているのだろう。今のように家具を作っていられるのかなって。でも、やっぱりどうにかきちんと家具を作っていられる現在がある。
それはきっとその時の自分がそうしていたから、今の自分があるのでしょう。
自分が自分にきちんと問いかけていられる間は自分は自分の道を進むことができるんじゃないかな。
「人生は選択の連続です。」って何かで聞きました。
「選択」ってなんだか大げさだなあ。自分は自分で思った通りに進んでいるんじゃないかなって若い時は何も考えずにそう思っておりました。
何も考えていないようで、自分は自分で選んでいるんです。
「今日は右の道から進んだからあの温かい猫に会えた。」
「傘を忘れちゃったから気持ちの良いスコールを浴びることができたけれど風邪ひいちゃった。」
「街灯のないトンネルを歩いていたおかげで、陽射しがいつもよりまぶしく見えた。」
あの時あっちへ向かっていれば、って思う時もあるけれど、いまここにいるのは今までそうしてきたからなんです。
自分に問いかけて、自分はきっと持っている答えを見つけることができれば、いつでもフリーハンドイマイの家具になるのだなあ。
そんなことを考えつつ、Tさんとキャッチボールを繰り返しながら、ひとつのキッチンができあがりました。
Tさんの新居が建つ場所は、葉山の海から少し上がった丘の麓。だから、海が見えます。風が気持ちよく通りぬける場所です。そういう場所にするためにリビングが2階にできています。
いつものように階段は回り込んだ形なので、やっぱり心配なのは荷揚げです。
コの字をステンレスで作るのはやっぱり搬入が困難で、今回のL型でも手摺がついていない状態で搬入させてもらえたからこそどうにかうまくいきました。
壁の一部がモルタル仕上げということで、取付は少し難しい部分がありましたが、一度工房で組みあがているので、その壁面の関わりをクリアしてしまえばあとはスムーズに完了。
取付が終わったことで、次は塗装です。
キッチンの取付が終わって、そのほかの内装工事がほぼ終わって、業者さんが入らない日曜日にいよいよ塗るのです、と思っていたら、その日は施主検査の日。
そのお施主さん本人がお友達を連れて、朝早くから家具を塗っているというのはとてもうれしい光景です。
その時の様子。
2016年10月22日「さあ、塗装だ!」
まずは扉や引き出しの外し方をお伝えします。外すのは一緒に行なっても、再び取り付けるのはTさんのお仕事になりますので。最近の金物はとても良くできておりますので、ワンアクションで取り付け、取り外しができるようになっています。取り外したのに、取り付けたら、扉が傾いちゃったということもないし、レールが軋んじゃうこともありません。
こういう見えにくい部分がどんどん進んでいて、作る私たちも大変助かります。
ちょっとしたコツを覚えて取外し、取付ができるようになりましたら、扉や引き出しを並べます。
その前に、塗料が垂れちゃうので、床にビニルを敷いて。
並べ終わったら、刷毛でオイルとペンキとを塗っていきます。最初はラフに塗って、あとから延ばすようにして余分なオイルやペンキを取り除くと、きれいに均一に仕上がるのです。
よくいろんな現場で、オイル仕上げはザラザラするのが‥、って言われたり、実際にそういう仕上がりを目にしてきましたが、きちんと研磨して塗布することで、心地良くツルっとした手ざわりと落ち着いたツヤに仕上がるのですが、その施工方法がまだまだ塗装屋さんにも知られていないことも多いようなのです。
そのあたりのノウハウもTさんにお伝えして、作業に慣れてきたところ(「楽しい!」っておっしゃってくださいました。)で、施主検査も始まるということで私は戻らせて頂きました。
「頑張ってください!」
その後、無事に塗装も検査も終わりお引き渡しとお引越しまでがスムーズに終わって、ひと段落しましたところで、Tさんからご連絡を頂きました。
「イマイさん、お世話になっております。
無事引っ越しましてキッチンも快適に使わせて頂いております。塗装もお陰様できれいに仕上げることができました。
是非見て頂きたいのでお待ちしております。イマイさんのご都合でご連絡頂ければと思います。
宜しくお願い致します。」
さっそくその楽しみにしていたTさんのキッチンを見にお邪魔してきました。
「こんにちは、おひさしぶりです。」
ほっそりしていた奥様のおなかがまんまるくなっていて、今度赤ちゃんが生まれるのだということです。
いやぁ、素敵だ、素敵だ。すてきなことばっかりだ。
拝見させて頂いたキッチンも、Tさんがとても楽しんでこの場所を使ってくださっていることがよく分かりました。
「そうか、オーブンの部分はこう使うのか。」
「引き出しは、こういうふうに物を分けているのですね。」
「ここに時計が来るとは、おもしろい。」
ワクワクしながらTさんらしさを拝見させて頂きました。
家族が増えると、もっともっとこの場所に建つのが楽しくなるはず。
またその頃、お声掛け頂けたらうれしいです。
Tさん、ありがとうございました。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | ナラ柾目突板練り付け |
本体外側 | ナラ柾目突板練り付け |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ柾目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン
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