踊るように

「ナラ柾目材とステンレス磨き仕上げのオーダーキッチン」

横浜 M様

design:Mさん
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kanai/kouhei kobayashi
painting:yasukazu kanai/kouhei kobayashi

クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

こちらがご主人が熱望していたリビングボード。クルミの板目と差し色としてブラックウォールナットを使っています。天板にもブラックウォールナットを入れたのはある条件があったため・・。


ステンレス400仕上げのカウンターとナラ柾を使ったキッチン

こちらが奥様のスペースのキッチン。リビングとは印象を大きく変えて、「よく食べてよくたべる」の茅ヶ崎Fさんの印象がお気に入りと言うことで、ナラ柾目をホワイトオイルで塗って仕上げています。


ナラ柾のキッチンと食器棚

そして、キッチンの向かい側には食器棚。こちらもナラ柾目ホワイトオイル仕上げ。奥様のアトリエのような印象になりました。


クルミのミラー付き玄関収納

Mさんの家に入って一番に目につく玄関収納。クルミの無垢材で作った扉の表情がとてもきれいなのです。森の中の洞窟に入ったら、温かく火が炊かれていたって感じなのです。

キッチンの相談をしたいのです。と言う、電話の向こうから聞こえる声は、この人は建築業界で働いている人だなと言うことが分かる声でした。
専門用語を話された、と言うはなく家を作ることにおいて、作る人の話を聞けて、さらに自分の意見を率直に伝えてくださる、そういうのってやっぱりもの作りを知らないとできない姿勢で、それが受話器の向こうから感じられたのでした。
メールではなく直接お話したいという印象は、何だか自分のイメージが混とんとしてきてしまった、という自分が思い描いてきたものに迷いが出てきてしまった風情ではなく、また、何を必要としているのか自分でも分からないのです、というこれからの取り掛かりを知りたい、と言う印象でもなく、会って話をすることで、自分の考えを前に進めたいのです、と言う何というか飾りのないしっかりとした口調だったのです。

「ありがとうございます。それでは、一度キッチンを見にいらして下さい。」
そうお伝えしてまもなくMさんご夫婦がいらっしゃいました。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

キッチンシンクの様子。右奥に洗剤ポケットを設け、ポケットの下の方にバーをつけています。

「こんにちはー。」とさわやかに入ってこられたMさん。
まるで、映画「beyond the sea」で、ボビー・ダーリンを演じたケヴィン・スペイシーのように軽やかなステップを踏むような仕草でにこやかに奥様と笑顔でうなずきあって入ってこられたのです。
(実際はそうじゃなかったかもしれませんが、私にはそう映ったのでした。)

「はじめまして、Mさん。」
「はじめまして、イマイさん。んー、いいねぇ、こういう印象。やっぱりオーダーのキッチンは素晴らしいよね。」とお二人の足取り軽やかに、ぐるりとショールームを見渡してそうおっしゃってくださいました。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

磨き仕上げが使い込まれた様子。この良さは実際に目の当たりにしないと分からないかなあ。

「ありがとうございます。よろしければ、詳しいお話をお聞かせくださいますか。」
「おぉ、そうですね。」
と席について見せてくださったのは、ある室内の家具で少し変わった家具でした。
「こういう家具をリビングに置きたいのです。実は今リフォームを考えておりまして、実は自分で設計をしているのですが、家具のことをいろいろ探すうちにイマイさんのことを知ったのです。そして今日見たらやっぱりキッチンも良いなと思いまして。」
うれしい言葉を頂きながら打ち合わせを進めていきました。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

キッチンの引き出しの様子、その1。


調味料用引き出し

キッチンの引き出しの様子、その2。調味料用の引き出しの底には掃除しやすいようにステンレスを張っています。


調味料用引き出し

ちょっと広めに作った調味料用の引き出しとボトル用の引き出しは、使い道が多いのです。

ご主人が考えていたのは、2色の木を使った家具で、ちょっと華々しい印象。
私たちの考える形はまったくゼロから作っていくものですが、その取り掛かりは何かの形に突き動かされて生まれるものが多いのです。デザインと言うと聞こえは派手やかに聞こえるかもしれませんが、その作用と言うものはその必要とする場所、人、事にうまくフィット(と言うニュアンスでしょうか)させることです。
作家さんとは違って、ひらめきや秀でたうつくしさへの感覚を研ぎ澄ませて表現するのではなく、与えられた条件をうまく組み立てて、その結果、その答えを必要とするところに整えていくことが大きな仕事だと思っております。
言い訳かも知れませんが、だから私は「全てお任せします。」と言われることがとても苦手で、そうなってしまうともうイメージがグルグルグルグルと頭を巡るだけで何もそこから抜け出てこないのです。
皆さんから提示されるカードに記されたヒントを一つずつ拾い集めていくことのほうがよほどしやすく、楽しみやすいのです。
そのようなわけで、リビングの家具のイメージもMさんが持って来て下さった雑誌の切り抜きからスタートするのでした。
その形は赤茶色の木とこげ茶色の木でできたその家具の印象をMさんの部屋にどのように合わせていくか、それを考えていきます。染色で赤茶色に表現することをどう思うか、素材が赤茶色いものを用いることをどう思うか、古いマンションと言う限られた搬入スペースで、長い天板をどう納めるか、そしてMさんの使いたい形をそこにどう落とし込むかな、パズルのように提示されたカードを、Mさんと一緒になんだかんだと言いながら、うまく並べてゆくのです。
よし、どうにかひとつにまとまりましたね。
「俺はもう済んだよ。あとは君のキッチンだね。」
と、ケヴィンはニンマリ。(敬称略)

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

リンナイのデリシアグリレとコンベックの組み合わせ。

続いて奥様。

今回のキッチンは、開けたリビングとつながる場所ではなく、キッチンと言う独立した場所に作るキッチンです。見せられるような作りにするのではなく、奥様が使いやすく、好きな印象を組み込むことにしたのでした。

コンロ脇に土鍋を置く

何故、調味料の引き出したちが少し幅が広かったかと言うと、この黒い丸々した土鍋を置くスペースがここに欲しかったから。Mさんは土鍋でご飯を炊くのですが、土鍋を使いやすい位置に置いておきたい、っていう思いがずっとあったのだそうです。

イメージは、「よく食べてよくたべる」の福原さんのキッチン。
福原さんらしい柾目の落ち着いた印象のあのキッチンを表現したいのだそうです。濃いめのリビングと淡い色のキッチン。どんな対比になるか楽しみです。
そして今回初めて使う磨き仕上げの天板。
「そもそもヘアラインもバイブレーションもピカピカよりも傷が目立たないようにできた表情なので、傷は確かに目立ちにくいですが、汚れが落ちにくい部分があるって何かにあったのを聞いたのです。」と、奥様。
私もちょうどそのころ同じような話を聞きました。
結局研磨したラインの中に油や水あかが入ると取れにくかったりします。また研磨してしまえば削り落とせるのですが、磨き仕上げにしてあれば汚れは染み込みにくいのです。
「キズはいずれつくものですし、そういう経年変化は気にしません。それよりも掃除がしやすいほうが良いです。」
と言うことで、400番の磨き仕上げの天板にすることになったのです。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

吊戸棚下にはLEDのダウンライトを組み込んでいます。

どちらの家具も楽しみな形になりそうです。
そうお話するうちに、玄関収納もお願いしたい、と言うことになりまして、玄関からリビングへ、そして、部屋の奥にあるキッチンへと視線が移る場所に私たちの家具を導入させて頂けることになりました。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

レンジフードの幕板もキッチンの素材と合わせて、ナラ柾ホワイトオイル仕上げ。

おおかた形も決まって、いよいよ工事が着工。解体が終わったタイミングで現場にお伺いしました。
たしかに古いマンションで、エレベーターもすこしゆっくり動くタイプのちょっとコンパクトなもの。
ちょっと搬入が大変かもしれないなあ。

ステンレス400仕上げのカウンタートップとナラ柾を使ったキッチン

食器棚の吊戸棚には、本がずらっと。食器をしまうスペースと言うよりは本棚になっています。


ナラ柾ホワイトオイル仕上げの食器棚

オーブンはガスオーブンを使うので、温めたりする簡単な調理用に専用のコンパクトなレンジを置いています。


ナラ柾ホワイトオイル仕上げの食器棚

天板はナラ柾目無垢材。


ナラ柾ホワイトオイル仕上げの食器棚

食器棚の引き出しの様子、その1。


ナラ柾ホワイトオイル仕上げの食器棚

食器棚の引き出しの様子、その2。


ナラ柾ホワイトオイル仕上げの食器棚

食器棚の扉を中の様子。カセットコンロなどの少し大きなものは引き出しにしまうよりこのように扉を開けて棚板に置くほうが、シンプルなしまい方、取り出し方ができるし、コストも抑えられます。

「こんにちは、失礼します。」
紺色のパリっとした背広を着たケヴィンは、腕組みをしながら軽やかに現場の皆さんに的確な指示を出しておりました。(敬称略)
「あ、Mさん、こんにちは。」
「おぉ、イマイさん、こんにちは。こちらイマイさん。今回キッチンと家具を作ってくれる家具屋さん。」
照れくさいですが、そう皆さんに紹介してくれました。
でも、そう照れてもいられないので、監督さんの挨拶をかわして家具をどう納めるか、コンクリート内に通せない配線立をどう取り回せて、家具とどう納めるか、キッチンの配管もどう納めるか、いろいろとお話をしていきます。

クルミのリビングボードとナラ柾のキッチン

リビングからキッチンを眺めた様子。

何しろまだ解体したてなので必要な壁も立っていないし、あるのは大工さんが引いてくれた地墨だけ。
ここから寸法を拾ってほしい、と言われるのだけれど、今までなかなかそれできれいに納まったことが少なくて、なるべく壁が立ってからもう一度寸法を測りたいのですが、リフォームで製作する家具も手が込んでいるということもあり、このタイミングから製作を始めないと、難しそう。

クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

リビングボードの両端の扉は、開き勝手を一般的な開きからと反対にしています。これはMさんの提案で、壁に向かって開くと、壁も扉も傷になりやすいし、透明なクッションを壁に貼るのも味気なくて、とのこと。興味深い考え方で勉強になります。


クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

奥様もご主人もたくさんの本をお持ちなのです。

ところで、Mさんは住友林業ホームテックさんで設計をされています。
住林さんのお仕事は、以前「子供を呼ぶ声」でお世話になったので、しっかりしたお仕事を確認しているし、私たちの家具の寸法を優先して、壁を立ててくれるということですので、解体してどうしても調整が難しい部分のみ寸法を修正して、無事に進められることが分かりました。
ありがとうございます。
現場の工程を確認したあと、さっそく工房に戻って図面を修正し、製作の段取りに入りました。

クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

差し色として使ったブラックウォールナット。もともとは雑誌に載っていた家具の場合だと、家具の本体の小口だけ濃い色になっていて、目地を濃く見せるためのポイントとして使われていたのですが。


クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

今回、Mさんのマンションは少し古い建物で、エレベーターも小さく、間取りからして天板を1枚の長さで作ると搬入ができない、と言うこともあって、このブラックウォールナットの部分で分割して作ったのです。


クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

そして、この材の使い分けかたのおかげでセンターが印象的なスペースになったのです。

今回はクルミとブラックウォールナットの2樹種を使った家具になりますので、早めに段取りしておかないと材料の確保も難しくなります。
また今回のハンドルは、大好きな「かなぐや」さんのものを使うのですが、オリジナルで作って頂くサイズのものがあったりして、いろいろ必要なものを揃えていきます。
リフォームで台数が多い現場だと納期がタイトになってくるので、こうしてバタバタするのであります。

クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

また、写真では分からないのですが、今回コンセントを増設するためのケーブルをこの家具の後ろにずっと這わせています。壁が躯体、と言うこともあって、ケーブルを壁内に埋め込めなかったためです。そのケーブルが家具内に露出しないように家具の背板をふかして、壁との間に空間を作ってケーブルを這わせているのですが、AV機器収納部だけはしまうコンポーネントを考えると奥行が必要、と言うことで、外からは見えないのですが、内部はかなり変則した形になっているのです。


クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

Mさんがお持ちのコンポは2台大きなものがあります。それをここにしまう形にしたのですが、デザインは統一させたい、と言うことで、扉を閉めた時に下の引き出しと同じバランスになるように設計しています。


クルミとブラックウォールナットを使ったリビングボード

引き出しはこのような感じです。

そうしてできあがり次第納品へと進めていくのですが、今回は時期を融通して頂いたこともあって、一度にまとめて運ぶことができたのでした。
心配だった古いエレベーターにどうにか長い天板が入って搬入も終わったし、いよいよ設置工事です。
躯体の不陸もどうにかなりそうで、既存の吊戸棚で使用していた吊ボルトもそのまま活用できそうだし、配管の位置はちょっとだけずらす必要が出できましたが、2日間かけて、キッチン、食器棚、リビングボード、玄関収納のすべてがきちんと必要とされた場所に納まりました。
どの家具もきれいに納まってひと安心。
これであとは無事にお引き渡しをするのみです。

クルミのミラー付き玄関収納

そして、宙に浮いた玄関収納。この家具の位置のバランスをMさんはずっと考えていて、左右は壁が同じ量だけ見えて、下はブーツが入るくらいのスペースを取った形で取り付けました。


クルミのミラー付き玄関収納

そして、室内側の側面は鏡梁にしています。鏡だけにすると急に印象が冷たくなってしまうので、きちんと枠を回したデザインに。


クルミのミラー付き玄関収納

家の顔にしたい、と言うことで、表情豊かなクルミの板目材を接いで扉を作っています。無垢だと当然木が動いてくるので、裏面にはステンレスの反り止めを入れています。


クルミのミラー付き玄関収納

引き出しの印象。

そうして、無事にお引き渡しが終わり、ご新居で新年を迎えたMさんのところにあらためて挨拶にお伺いしたのでした。
季節はもっとも空気が乾燥している2月。
「やはり無垢材ですから、少しは動いて空いたりした部分はありますが、大丈夫ですよ。問題なく使えています。」とMさん。
ブラックウォールナットとクルミの象嵌のように見せている部分も狂いなく使えていました。
キッチンはもちろんカウンターはすり傷があちこちについていますが、ヘアーラインやバイブレーションとは違った光沢と使い込んだ具合は、良い風合いなのでした。
お掃除もしやすいということで、とても気分よく使ってくださっている様子が分かりました。

かなぐやさんの真鍮つまみ

かなぐやさんのつまみ。こちらは玄関に使った「真鍮つまみ六角柱」。


かなぐやさんの真鍮つまみ

かなぐやさんのつまみ。こちらは玄関に使った「真鍮すな目つまみねじれ六角錐」。


かなぐやさんの真鍮ハンドル

こちらはキッチンに使った「真鍮とって六角棒コの字」をもとにしたタオル掛けをオリジナルで作って頂きました。一つずつ丁寧に作っている作家さんだからできる形はどれもうれしいくらいに美しい。

こういう家具たちの姿が見られるのはうれしいことです。
Mさん、お邪魔しました。
また何かあればいつでもお声掛け下さい。

キッチン仕上
天板 ステンレス400番磨き仕上げ
扉・前板 ナラ柾目突板練り付け
本体外側 ナラ柾目突板練り付け
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」
塗装 オイル「ホワイト」塗装仕上げ

ナラ柾目材とステンレス磨き仕上げのオーダーキッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

ちょっと関わりのありそうな家具たち