Bariton
「チェリー板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」
鎌倉 Y様
design:Yさん
planning:Yさん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
「先日ご連絡さしあげました、Yと申します。
一年ほど前にカタログを送っていただきまして、やっと工事を進められる段階になりましたのでご連絡いたしました。
今回の由比ヶ浜の家は、私達夫婦の住宅です。自分達での設計・監理となります。
偶然見かけた御社のウェブサイトで、木製でありながらシンプルでモダンなキッチンにとても心惹かれました。
紆余曲折を経て設計したLDKにぜひ御社のキッチンを設置したいと思っています。
まずは見積もり用の図面(キッチン詳細図・平面図)をお送りします。
キッチンに関しましては、だいたいの希望のサイズ・使用目的などを書き込みました。
決め打ちしているものではありませんので、こうすればもっと使い勝手がよい・コストダウンできる・
製作しやすい等ありましたら、ぜひご提案ください。
また、キッチンは木造3階建住宅の3階となります。
ご不明な点がありましたら、ご連絡お願いします。
どうぞよろしくお願いします。」
と、ご夫婦で建築設計のお仕事をされているYさん。ですので、頂いた図面にはキッチンの形はしっかり描かれておりましたので、まずはその形で作るとどのくらいの費用が掛かるかをお伝えしまして、それからこちらにいらして頂けることになりました。
「こんにちは。」といらしてくださったお二人はとても対照的な印象で、静かで物腰が柔らかな奥様と、とても太い声を響かせながら朗らかにお話しされるご主人なのでした。
さっそくキッチンの打ち合わせをするわけですが、おおよそキッチンのイメージはYさんの中で決まっておりましたので、細かなお話をさせていただくくらいで、あとはお父様の代から建築設計のお仕事をされているということで、建築にまつわるとても魅力的なお話をしてくださいます。
そのお話とご主人の雰囲気になんというか圧倒されてしまいまして、ただ、うんうんとうなずくばかりになってしまいましたが、とても素敵な時間を頂いたのでした。
それから、何度かメールでやり取りさせて頂いて、ナラやタモで考えていた木柄を深みのあるチェリーに変えていったり、ダイニング側の使い方をちょっと面白さを出してみようということになったり、今は調布で活動されているお二人ですが、いずれはこの由比ガ浜を拠点に、この自宅をアトリエにして、1階ではいろいろな人が集うことができる場所にしたい、っていう思いがあるのだそうです。
そうなったときにキッチンを見せられるような形にしたいなあ、と低く深い声で、そして笑い声を轟かせながらご主人がおっしゃるのでした。
「でもね、イマイさん。家を建てるにあたって先日この辺りをぐるっと歩いたのですよ。そうしたら、私たちのようなお仕事をされてらっしゃる方々は皆さん同じようにサロンやカフェを持っていて。どなたも考え方が似るのですね。やはり地元に根付くのはそういうご近所付き合いが一番ですものね。でも、みんなと同じになっちゃったら私たちは後発になるのだから、どうしようかなあ。」
と、言いながらも楽しそうです。
確かに、みんな同じような考えや店構えになってしまう部分はあるかもしれませんが、鎌倉の店の並びを見ていると、同じお仕事の形でもいろいろな表現のしかたが工夫されていて、どこを見ていても楽しい場所ばかり。きっとYさんの場所もこの街の魅力の一つになるはず。
その魅力の一つとしてお聞きしていたのが、「イマイさん、搬入がとてもとても大変なのです。」ということでした。
どのようなことかというと、車が家の下につけられないのだそうです。県道に車を寄せて、そこから大人がどうにかすれ違えるくらいの細道を3分ほど歩いたところにYさんのご新居が建つのでした。
おぉ、住むには物静かでとても魅力があるのですが、搬入はどうしよう・・。
「それと、リビングは3階になりますが、掃き出し窓がないのです。」
おぉ、どうしよう・・。
うーん、うーんと図面を何度も何度もにらむのですが、そうしていても始まりません。空間ができあがってこないとうまく運べるのかどうか分からないし、現調する時に確認して運べるサイズで作ればどうにかなるだろう、と根拠のない自信を持つしかないのでした・・。
そうして、いよいよ上棟、そして現調となりました。
この近くはお客様も多く、ちょくちょく歩く道なのですが、この細道は知らなかったなあというくらい地元の人しか通らない道。
そこを通っていくと青い養生シートがかけられた現場がありました。
わぁ、どうやって運ぼう・・。そればかりが頭を巡るのでした。
「お邪魔します。」現場でYさんと監督さんを交えて、搬入、設置の工程やキッチンの納まりについて打ち合わせを行ないます。
「上棟の時は、警備員さん立てて片側道を塞いでやりましたよ。どちらかというと、時間がたつにつれて観光の人たちで往来が激しくなってくるので、朝早いほうが良いですよ。通勤の渋滞よりは観光の渋滞のほうが大きいので。」
「そうですか、分かりました。」と言いながらも実際どのようになるか私にもわかりません。
なるべくキャビネットはコンパクトに考えるけれども、天板がL型だからなあ・・。
そして、リビングまで案内してもらって、やっぱり心配なのでした。現場まで荷物を持ってこれても階上にうまく上がるだろうか・・。幸い、階段がぐるりと回りこんでいないで、まっすぐに上階へと上がる形でしたので、うまくすれば屋内から運び込めるかも。
そんな不安を抱きながら、製作が始まりました。
プランは比較的シンプルで、少し手の込んだダイニング側の細工もありましたが、ノガミ君が段取り良く進めてくれて、製作は無事に完了。
そして、いよいよ設置工事の日。お盆の少し前の猛暑の8月10日がその日になりました。うまくいってね。
当日は、車を道路わきに長時間寄せておけないと思うので、もう全員で出動です。
朝一番で運び入れを始められるように早めに工房を出て、お盆休みが幸いしているのか車どおりが少ない中、荷下ろしは完了。それを徐々に会場へと上げていこうと思うのですが、キッチンと食器棚ということで、荷物の数が多くお隣さんの塀の前まで荷物がはみ出てしまったら怒られてしまったりして。
猛暑で流れる汗とは違った汗もかきながらどうにか頑張ります。
「なるべく短時間で作業を済ませますので、どうか少しお待ちいただけますでしょうか。」
以前からここに住む皆さんにとっては、新しい人たちが来ることを素直に歓迎できない部分もあるのかなあ、人付き合いは難しいなあ、と思いながら、小さなものから手早く足場を使って、小さな窓を通して、階上に上げていくことに。
心配していた天板は、階段の上のスペースが比較的ゆったりしていたこともあって、屋内から搬入できて、ほっとひと安心。
これですべて上がりました。
屋内に入れてしまえれば、あとは工房で組んだとおりに組み上げていくのみ。きちんと同じ手順でキレイに組み上げていきます。
長い時間をかけて、丁寧に作業を進めてもうすぐで終わるかなと思ったところで、「引き出しが開かないです・・。」とノガミ君。
L型のキッチンでやってしまいがちなミスを私がしてしまいました。
今回はガスコンロとオーブンにハーマンを導入しているのですが、取っ手がほかのコンロやオーブンに比べると大きいのです。ちょうど角に作った引き出しが空けると途中でコンロのハンドルにあたってしまうことに・・。
急きょ正面の前板の幅を縮めて、その分コーナー隙間調整材のサイズを大きくして対応することで無事に開閉できるようになりました。
コンロやオーブンも工房で仮組しておけば事前に気が付けたかもしれないのですが、かなかそこまで手が回らず、機器類の組み込みは現場で行なうことが多いために起きてしまったミスでした。このあたりは今後の課題で良い方向に考えていかなければ。
まずはこうして設置も完了して、その後しばらくしまして無事にお引渡しを受けたというご連絡も頂いて、あらためてご挨拶にお伺いすることに。
「まだね、調布の家をすべて片付けたわけではなくて向こうで週の半分、こちらで半分という暮らしなので、まだいろいろ足りてないものもあるのですが、どうぞ見ていってください。」と奥様。
設置した夏から約1年後にこうしてお邪魔させて頂いたのでした。
チェリーは当時よりもかなり良く具合に日焼けしていて、とてもきれいに使っていてくださっている様子も良く分かって、良い顔をしておりました。
ここから新しい建築が生まれていくのを楽しみにしております。
ありがとうございました。
天板 | ステンレスヘアライン仕上げ |
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扉・前板 | チェリー板目突板練り付け |
本体外側 | チェリー板目突板練り付け |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | オイル「ナチュラル」塗装仕上げ |
チェリー板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。