カップのこわい顔
2018.03.13
子供のころ、祖母の家に行くのが怖いことがあったのです。
祖母の家は両方とも都内にあったので、私にとっては野山を駆け巡るじいちゃんばあちゃんちというのがうらやましかったのですが、それでも時々しか訪れることができない祖母の家は子供心にワクワクするのでした。
父方の祖母の家のだいぶ前から物置になってしまった部屋には縁側を通っていかないといけないのですが、そこに入ると古い匂いがして、日は入っては来ますし、すぐにみんながいる隣の部屋に行けるのですが、なぜかみんなの声が少し遠く聞こえていて別の世界のようでした。
でも、この部屋にたどり着くための縁側に出る前にお仏壇がある部屋(ここがいつも私たちが遊びに来ると寝泊まりする部屋なのです)を通るのですが、この部屋に子供心にとても怖いカップがあったのでした。
カップ?と、周りに話すとくすっと笑われてしまうのですが、小学校の自分にはとても恐ろしいカップでした。
普通のマグカップにまつげが長くて真ん丸な目が大きく描かれていて、その下には厚ぼったい唇が描かれているカップ。
この部屋に入ってそのカップが正面を向いていると、もう私は恐ろしくて恐ろしくて、おいおい母にすがって泣いていたものでした。
そんな私の様子を見て、両親は時々いたずらするようにカップを動かしたりするのですが、それがもう何だかよく分からないけれどこわいこわい。
弟は全くそんなことなくケロッとしているので、まったく情けない兄でしたが、あのカップはどこに行ったのだろうか。
きっとあの大きなギラギラした目が怖かったのだろうなあ。
私が子供の時分はこうして暗くてよく分からなかったり、自分では理解できないものに漠然と畏怖の感情を持ったりしていたのですが、今ではかなりいろいろなことが分かってしまう世の中になりました。
わが娘たちは、まだ暗い部屋をきちんと怖がってくれるので安心です。
「悪いことをすると、押し入れのお化けが連れに来るよ。」
そういう漠然とした怖さってとても大切な感覚ですので、それを忘れないようにしたいなあとカップを見つめながら思うのです。