思われていたこと
「タモ柾目のセパレートタイプの食器棚のオーダー」
海老名 K様
design:Fさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
そもそもKさんは、うれしいことに私たちのことを知っていたようです。
それはこのようなご相談のメールを頂いたからです。
「はじめまして。
私は御社のカップボードを、三つ拝見致しました。以前、お隣にお住まいだったKa様、横浜に引っ越しされたF様です。
その時から、オーダー家具の素晴らしさ、木の暖かみに憧れていました。
こちらのマンションに引っ越してきた際に、食器棚としての既存の吊り戸棚は撤去してしまいました。
今は、市販の食器棚を使っておりますが、物も多くなら、狭いマンションですので、デッドスペースを最大限活用したいと思っています。
我が家は明るい木目の家具が多いです。」
おおみなさん、懐かしいです。
「新しいおようふくでとてもうれしい」海老名のFさん
「すぐそばに居ること」希望ヶ丘のFさん
Kさん、みなさんとお友達だったのですね。
最初にKaさんに食器棚を作らせて頂いたのが、あの時のきっかけでした。Kaさんのお父さんと私たちがお仕事のつながりがあって、それで生まれたご縁なのですが、それが15年近く経っても良縁を頂くことができるというのは本当に素晴らしいことです。KaさんもFさんももうこのマンションを出て、戸建に移られたので、なかなか会う機会がなくなってしまったのですが、こうしてここで懐かしいお話が効けるとは思ってもいませんでした。
さっそく、今回の食器棚のご要望をKさんにお伺いして、プランを考えていきます。
KaさんもFさんも入居当時に依頼した食器棚がもともとキッチン背面についていたのですが、今回のKさんのスペースは据え置き型の食器棚が置かれているのみでしたので、全く新しく作ることができそうです。
間取りとしてはKaさんと同じ感じで、プランの大まかな様子はFさんのイメージをもとに考えて一つの形がまとまりました。
でも、どうしても難しい部分がありました。
予算でした。
「主人とも話し合った結果、予算を超えてしまうので、もう少し余裕が出るようになってから、出直す方がいいのではないかという結論に達しました。
迅速に対応して頂いたのに、大変申し訳ありません。
いつの日か、今井様のカップボードを迎えられるよう、頑張ります。
その時は、何卒宜しくお願い致します。」
とても的確な判断だと思います。自分が思う食器棚のイメージは形だけではなく、そこに掛かるコストも大切な要素。自分の思い描いた形が自分の思っている以上のコストが掛かるようでは、そもそも良くないことです。
そういうことを知って頂くためにも、家具を依頼して頂ける、頂けないにかかわらず、見積金額を知ってもらうということは良いことだと思っています。
そして、私たちが作るとこのくらいの金額になる、ということを知ってもらう良い機会でもあります。
相見積という言葉があります。複数社から金額を聞いて決める方法です。その会社さんそれぞれの特色があって、それを汲み取って、金額を重視して選ぶのも良いですし、提案を重視して選ぶのも良いですし、お手入れを重視して選ぶのも良いです。コストを見積もってもらったり、相見積を出してもらったりすることは、このような選択肢がある、ということを知って頂くための良い機会なのです。
そのようなわけで、形はまとまりましたら、お話は一旦ストップしてしまいました。
「いつの日か」はいつかなあ、なんて思ってその年の冬を迎えたのでした。
私たちは、毎冬「クレミル」という名前の小さなイベントを工房で開催しております。今年も例年のように知り合いの作家さんにワークショップを開いてもらったり、お店を出してもらったり、木工教室を開いてもらったりとにぎやかな9日間を過ごしたのでした。
その中で、あるご夫婦がいらしてくださいました。
特にその時工房内はがらんとしておりましたので、お話しようかなと思ったのですが、スゥスゥと軽やかにショールームで開かれているマーケットをご覧くださって、ほんの僅かでしたがお話しできただけで「ありがとうございました。」と軽やかに帰られてしまったのでした。
で、それがKさんでして私はてっきり「いつの日か」はまだまだ遠い未来のお話だと思っていたのですが、そうでもなかったようです。
「こんにちは。
先日は、クレミルお疲れ様でした。
突然お邪魔したにもかかわらず、ご夫婦で笑顔でお出迎えして頂き、ありがとうございました。
作り上げられた世界で暮らしていると、作ることの大切さを忘れてしまいがちですが、素敵なスタジオで手作りの温かさと尊さをあらためて実感致しました!
また、お子様がかわいいエプロン姿で台所仕事をお手伝いしている様子は、ほっこり致しました(^-^)
先日、お見積もり頂いた、カップボードですが、お支払いの用意ができましたので、話を進めたいと願っております。
スタジオへ伺うことも、我が家へお越し頂く事も可能ですので、是非、ご連絡下さい。〔特に急ぎではありませんので、お手隙の時で構いません〕」
おお、うれしいご連絡です。
さっそく連絡を取らせて頂き、今度はご家族皆さんでいらしてくださいました。とても行儀のよいお嬢さんお二人と、筋が通ったお話をされるKさんご夫妻。お話しているだけで気分が良くなるご家族でした。
「KaさんとFさんの食器棚を見せてもらってから、いつか絶対イマイさんに頼むんだって思って、自分のお小遣いを貯めてきたのです。それがようやくかなうので、やっぱりとてもうれしいです。」
そう言ってくださって、私も思わず笑顔が大きくなります。
こういうふうに思ってくださる人がいる限りは、私たちはもっともっと精進しなくてはいけません。
こうしてプランはまとまって、できあがった形はタモ柾を使ったとても静かな印象のかたちになりました。
「無事、食器達も収まりました。
まだ、こっちかな?あっちかな?と試行錯誤しながらですが、おいおい居場所を決めてあげます。
子供達も、木の匂いや新品の匂いを味わい、先程から何度も「きれいだね、きれいだね。」と話しています。
触り心地が良いようで(きれいな手なのか気になりますが・・)さすってすべすべを満喫しています。
そして、スペースを無駄なく使用できる幸せを堪能しています。
ストレスが無いって大事ですね!
主人は「我が家に来たどの業者さんより丁寧な職人さんだった。」と感心しておりました。
トイレの棚を見ては、ちゃっちく見える、と、ボヤいています。
立派な棚がきたものだから、家中の棚がちゃっちく見えるそうです〔笑〕」
打ち合わせやご挨拶の帰りの都度にお嬢さんたちも玄関まで出てきてくれて、ご家族皆さんでご挨拶してくれたのがとても印象的でうれしかったのです。
そして、今度はその皆さんで夏の木工教室に参加してくださることになりました。
いろいろなご縁で、こうして気持ちがつながっていって、いつかお嬢さんたちが大きくなった時に背がでかくて声が低いおじさんたちが家具を作ってくれたっていうことをどこかで思い出してくれたらうれしいなあ。
物や道具を作ることができるのが、私たちに与えられた恩恵ですから。
タモ柾目の食器棚
価格:590,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は10,000円から、取付施工費は30,000円から)