ぼくもあの子もくらす町
「ナラ節アリ材の食器棚とナラのダイニングテーブルのオーダー」
大倉山 S様
design:Sさん
planning:Sさん/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
「お母さん、僕、このまま友達のところに遊びに行ってもいい?」
「いいわよ、どのいくの?」
「・・・のところ!」
ああ、あったね、こういう感じ。
Sさんを待つ間に吹いていた風はむかしに嗅いだ匂いがして、ちびっ子のこういう話声を聞くと、昔懐かしく自分の子供の頃が思い出されます。
「イマイさん、お待たせしました。エレベーターが各階に止まらないから、お待たせしちゃってすみません。」
にぎやかに駆け降りるちびっ子のあとから、Sさんが階段から降りてきました。
ああ、さっき私を自転車で追い越したのはSさんだったのだ。
それにしても、懐かしいくらい古い集合住宅なのに、Sさんのように若い方が多く住んでるのですね。
「こんにちは、Sさん。納品の時にはお伺いできませんでしたので、今日は家具を見せて頂けるのが楽しみですよ。」
私が子供のころ住んでいた団地も、駆けって2分で友達の家だったから、みんなで住んでいるって感じがいつもしていて。
好きな子もいれば、楽しい子もいたり、もちろん嫌いな子もいたり、みんな一緒だったね。
自分は鍵っ子だったから家に戻ると、フタバさん(だったかな。)の食材が発泡スチロールの箱の中に届いていて、それを自分が家の中にしまうのが、帰宅後の最初の仕事だったかな。
そんな大事な仕事があるのに、時々鍵を忘れてしまって、3階だからベランダからすんなり入ることもできないわけで、そういう時には隣の階段のオリモさん(階段が違うから、こういう時しか会わない人なのですが)に「すみません・・、鍵を忘れてしまいまして・・。」とお願いして、「あら、いいのよ。どうぞ、どうぞ。」とおばさんにお願いして、ベランダに通してもらうのです。
ベランダには、隣の家につながる非常用のパネルがあって、その下が子供だったら通れるくらいの空間があるのです。そこを先にランドセルを放り投げて、はいずりながら自分のベランダへととおっていくわけです。
「おばさん、ありがとうございます。」
ベランダのカギはそういう時のためにいつも開いていて、そこから帰宅するのです。何食わぬ顔でね。
そういう風が吹いている集合住宅だったのです。
「お邪魔します。」
リノベーションした室内はそういった昔の面影はどこかに行ってしまって、名残といえば低い天井を取り払って出ている大きな梁くらいでした。
「この場所が気に入ってしまって。それに私の事務所の代表もここに住んでいるから仕事もしやすくて。」
Sさん、設計士さんなのです。代表も女性設計士さんで、お母さん目線で作る保育園や幼稚園を作るお仕事を主にされているのだそうです。
おもしろいなあ。
入ってすぐは、広い土間と前室のようなスペース。そこに少し小さめのテレビがぽつんと置かれています。
「今はこの場所は、子供たちが帰ってきたら友達と一緒にここで賑やかに遊べるようにしているんです。」
へぇ、たまり場だ、良いです。
「どうぞ!」と案内してくださったスペースはコンクリート造ならではの大きな空間。
「この大きな場所で過ごしたかったのです。」
入ってすぐのところがキッチン、というか台所。そこに私たちが作らせて頂いたダイニングテーブルと、小ぶりなカップボードが置かれていました。
「とても良い印象にまとまりましたよ。」とSさん。
そして、広いリビングからは向かいの棟が見えます。
フフン、この感じも懐かしいね。
「お写真撮り終わったら、良かったらどうぞ、お茶を入れますね。」と言って、さっき買い物をしてきたのは、このお茶菓子だったのですね。
近くにすてきなお店があって、玄関を出ると学校が見えて子供たちの声も届いてくる。下を見ると年配の方々がそこかしこでおしゃべりしていて、若い人たちの往来もそこそこあって。
色褪せそうに思えた記憶が鮮やかによみがえる、そんな町に住んでいるSさんはずっとニコニコしておりました。
ナラ節アリ材の食器棚
価格:310,000円(制作費・塗装費)
ナラ板目材のダイニングテーブル
価格:340,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は25,000円から)