Japanese Modern

「格子の建具のオーダー」

鎌倉 S様

design:Sさん
planning:daisuke imai
producer:tsuyoshi kawaguchi
painting:daisuke imai

「新築にあたり、リビングの引き戸を探しております。
細い縦格子にすりガラスを合わせたような洋室にも合うような「和モダン」なものをイメージしております。木の種類は指定はありませんが、濃い目の茶色を考えてます。
また、ドアに合わせてドア枠もお願いすることはできますでしょうか?イメージの写真を添付します。」
と言うメールを頂きました。面白そうですが、建具ってなかなか難しいんですよね。ただ板を立てるのように思えるのですが、実際は板を立てることで床の歪みや壁の立ち具合などが、ドアが傾いて見えたり、ドアを閉めた時に壁との隙間ができたりと言った症状がそのまま目に見える形でダイレクトに現れるので、逃げがないんですね。だから建具屋さんはすごいっていつも感心します。その傾きに合わせて作ってしまうのですから。
家具の場合はと言うと、事前に箱を工場で組み立ててから現地で箱同士を組み合わせて一つの大きな家具にしていくので、大変といったら大変なのですが、壁や床の歪みをひろっても家具のボリュームが大きいので影響を受けにくいのです。
さらに、今回は建具の枠も作らないといけないかもしれない・・・、うーんどうしようかな。
最近は、枠と建具がセットになったシステム建具というものが良く使われるようになってきています。このセットを使うと、その説明書通りに大工さんが枠をつけるだけで、建具屋さんは造作もなく、建具をつけることができてしまうのです。デザインもいろいろあって、生産ロットの多いプレファブリックだから、コストも抑えられているので便利な反面、これに慣れてしまうと普通の建具が作れなくなっちゃう・・。決してこのセットが悪いわけではないのだけれど、難しい細工無しでも簡単にできあがるということは、私たちにとっては手が鈍ってしまうと言うことなのであまり良いことではないのです。
Sさんのご新居にもこの建具のセットが取り入れられているようでした。
当初Sさんとの打ち合わせで、アウトセットの建具がつくようなプランでしたので、これなら壁にも関わりなく、建物ができあがってからでもゆっくりと建具をつけることができるので、私たちで建具と枠を一緒に作って納めることもできると考えていたのですが、その後良くお話を伺うと、現在はプランが変わって、通常の1枚の引き戸だと言うことでした。こうなると、壁に枠が埋め込まれるので、枠材のサイズを教えてもらえれば、その通りに枠を作ることもできるのですが、こちらでサイズを指定して壁を作ってもらうと言うのは難しいです。もちろん、枠の取り付けになると、壁から枠を何ミリ出すか、とか床材との納まりをどうするかなどは私たちだけでは判断できないので難しいわけです。
でも、工務店さんのお話だと、建具枠は大工さんが作るのではなく、建具屋さんが作って、取り付けも建具屋さんが一般的だから枠と建具を一緒に私たちに作ってもらったほうが良いのではないかとSさんにお話されたのだそうです。
うーん・・。
普通は、大工さんなり、現場監督さんなりが、現場の納まりを考慮して枠のサイズをいくつにするかを決めてから大工さんか建具屋さんが製作し、そしてその開口に合わせて大工さんが取り付けると言うのが本来の進め方なのだと思うのですが、違うのでしょうか・・。
システム建具ができたことで、建具に合わせて部屋の開口部を考慮すると言う、開口部のための建具から、建具のための開口部と言う反対の考え方になってしまっているような気がします。難しいです・・。
最終的には、枠は他の部屋の建具に使っているものと同じシステム建具の枠を使う形になりました。
でも、この建具枠は良くできています。上枠の溝には磨耗防止と滑りを良くするためにアルミの材料がつけられていて、縦枠にも建具がのみ込まれる窪みがあって、多少の壁の歪みなどは隠せるように工夫されているのです。なるほど・・。
今回の建具のデザインは、Sさんの希望で、格子よりも隙間の幅を広くして、向こうからの光りが感じられるようにしています。また建具にはカスミガラスを入れて玄関からの明かりを明るく拡散させてさらに玄関先からリビングが素通しにならないようにしたのです。
ナラ無垢材で製作し、ワトコオイルの「チェリー」色と「ダークウォールナット」色をブレンドして建具枠に近い色で仕上げています。
「鎌倉は、以前に親戚が住んでいた頃によく遊びに行っていたこともあり、馴染みのある場所ですが、自分が住むとは夢にも思ってなくまったく知らない土地ではないので、少し不思議な感覚です。
浄明寺は海から少し遠いのが残念ですが、とても閑静で気に入っています。
今週末にいよいよ家も完成となりますが、初めての家作り、期待通りにできあがった部分と、ちょっと失敗だったかな~という部分もあり贅沢を言ってはいけませんが、すべてがうまくいく訳ではないですね。
そんな中で、これから取り付けられる格子引き戸にとても期待しております!
それでは完成のご連絡をお待ちしております。」
納品当日は、ある程度、建具を削って設置することを覚悟しておりましたが、枠がうまくできているおかげで調整する必要もなくとてもすんなりと完了。
ひと安心です。
1枚の建具が入るだけで、リビングがこんなにも引き締まることにSさんも私たちも驚き、そしてうれしく思った納品でした。

細格子の上吊引き戸

リビングから見た印象。ほんのり映る玄関。


細格子の上吊引き戸

キッチンから見た印象。


細格子の上吊引き戸

玄関から間もなく手洗いがあるのですが、そこから映るお兄ちゃん。

格子上吊り引き戸

価格:230,000円(制作費・塗装費、金物・枠材は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は18,000円から、取付施工費は25,000円から)

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