さらさら光る
「ナラ板目材とステンレスバイブレーション5.0mmのオーダーキッチン」
横浜 M様
design:Mさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:kenta watanabe
「実はイマイさんを教えてくれたのは、Nさんなんですよ。」
少しずつキッチンの形が固まってきた時に、Mさんがそうお話してくださいました。
「えっ、そうなんですか。」
Nさんにはいろいろなお知り合いがいるのだなあ。
Nさんというのは、「アフタヌーンソング」のNさんです。
じつはNさん、ご自宅の広い土間を開けて小さな雑貨店をひっそり開いていたり、不定期で開く多彩なワークショップにはいろいろな皆さんが集うというなかなか素敵なかたなのでした。
そのNさんのつながりでキッチンを作らせて頂いた「家を作り続ける」のOさん、山の上の小屋を改装したとても魅力的な家で、半分くらいがセルフビルドでできた空間とそこから眺める相模湾が心地よかったことやちょっとオイルを厚塗りして完成した刷毛跡の味わい深いキッチンや、「姉妹で作る家」のKさん、白とこげ茶色をうまく組み合わせた懐かしい印象をシンプルな空間にうまく組み合わせて作った使い心地の良いKさんらしさがそこかしこに現れている台所のようなキッチン、どちらも魅力的なキッチンを作らせて頂いたことを思い出しました。
「はい。直接みなさんとはお付き合いがないのですが、お店を訪ねた時にNさんとはすっかりお友達になりまして。」
今思うと、NさんもOさんもKさんも、そしてMさんも「キッチン」というよりは「お台所」という響きが合うようなどこか懐かしい空気でした。
みなさん気持ちが似てくるのですね。
Mさんのキッチンもそういう空気感を大事にしながらお話が進んでいったのでした。
Mさんが新居にされるという場所は、築37年経つ少し懐かしい集合住宅。私が子供のころに住んでいた団地を思い出します。
エレベーターがなくて、階段の踊り場から外が見られて、各棟の間にはもりもりとした木々が囲っている感じ。手を離すとバタンと周りに大きな音を立ててしまっちゃうような古い鉄扉にステンレスの集合ポスト。
Mさんが言っていたな。
工事が始まる前に現状を確認させて頂くためにお伺いしたのです。
きれいにリフォームされていて、キッチンもシステムキッチンがしっかり納まっていて、もちろんこれで十分綺麗に済める印象の室内でした。
「今はちょっと日が落ちちゃったから見えづらいのですが、、このキッチンの勝手口から見えるところに大きな木があってその緑が目に入るのです。そしてリビングからもまた別の緑が見えるのです。
それを生かしたキッチンにしたくて、今ここについているような壁付けのI型のキッチンではなくて、セパレートのオーダーキッチンにしたいのです。」
なるほど、こうしてできあがって室内をぐるりと見まわすと、Mさんの思いがこの空気になって表れています。
「今日はイマイさんが来るって、娘に伝えたら一生懸命クッキーを焼いてたんです。良かったら召し上がっていってください。」
ちょうど私の次女のチアキと同じ年だったかな。双子のかわいらしいお嬢さんたちが香ばしく焼いてくれました。
今日は登校していてお礼が言えなくて残念でしたが、とてもとても美味しかったのです。
「ここにたどり着くまでにいろいろありましたね。」とMさんと私でお茶を頂きながらしんみりしてしまったのでした・・・。
そう、冒頭で書いたようにMさんはNさんを通じてご相談をくださって、私の描いたスケッチを見て頂いて、そのイメージとMさんの気持ちを大切にしながらプラン作りは進んでいくはずでした。
Mさんのリノベーションを行なうにあたって、室内空間の設計をわけあってお知り合いの方に依頼されたのだそうですが、その方の事務所が何と和歌山県という遠方だったそうで、そのためメールでやり取りを進めていたのだそうですが、如何せん距離が遠いわけです。
たしかきちんとお会いして打ち合わせできたのは、2、3回くらいだったそうで。
Mさんの空気感はやはり伝わることなく、また、古い集合住宅ということで、配管を床下に転がすことが難しかったり、コンクリートの壁や床の歪みが大きかったりと現場を見て施主さんと話をしながら進めるべき部分もメールだけだと解決できなかったりで、途中から設計士さん抜きでお話が進むようになったのでした。
そこで、設計士さんがご紹介してくれた工務店さんと直接打合せしながら進めていったのですが、その方もMさんにとってはなかなか一緒に仕事がしづらい方だったようで、いろいろと相談しても議事録を取ってくれなくて(うーん)、仕上がりの段階でイメージが異なっていたり(うーん)と、なかなか工事は難航したのでした。
私もキッチン以外でも分かる範囲で内装のアドバイスさせてもらいながら納め方を提案したりして、何とかキッチンを中心にMさんの色が表現できるような空間を目指していったのでした。
設計士さんや施工会社さんと「あうん」の呼吸が取れなくなると、やっぱりなかなか大変だなあということをあらためて知ることができた工事でした。
さいわい途中から工務店の担当者さんが変わって、その方がスムーズに段取りしてくださったおかげで工事は無事にきれいに終了しましたが、その担当者さんもMさんの現場を機に工務店を離れてしまい、工務店さんとは少し距離を置く感じになってしまったそうで、何かあれば私たちのほうに声を掛けて頂く、ということで安心して頂きましたが、物作りには物を作る以外にお互いの信頼がとても大切だと思うのです。
注文住宅やリノベーションやオーダーキッチンやオーダー家具って見えない部分が大きくて、そうなると作り手への信頼に大きく依ってきます。
その人が何を思ってその形を思い描いているのか、お話ししながら意図が汲み取りながら形に反映させることが設計するということで、その人の暮らしにちょうど良く合わせることがデザインすることだと思うのです。
その使う人と作る人をつなげる言葉を話すことができるのが設計士さんだと思うのですが、その方が不在だとやっぱり実現が難しい部分が出てきたりして。
こう思い返してみると、なかなか難しいことがあったなあと、Mさんと思い出すように笑ったのでした。
ところで、こうしてMさんのお宅にあらためてお伺いして思うのがその心地良さでした。
古い集合住宅ということで、コンクリートの構造壁が部屋を横切っていたりして、とても広い空間というわけではないのですが、風がそこかしこに通り、日差しが足元にあちこちに差し込んでいて、ああ、温かいなあと思える家です。
Mさんは緑の取り込みかたもすてきですが、光の取り込みかたがとても美しい、それがこの心地良さを生み出しているのだな。
Mさんは2人のお嬢さんのお母さんというだけではなく、ヒンメリを作る作家さんでもあるのです。
風や光の感じかたをそっと知っている、そういう人が暮らしている場所ということが玄関を入ってすぐに感じられる、とてもすてきに心地良い空間なのでした。
天板 | ステンレスバイブレーション厚み5.0mm |
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扉・前板 | ナラ板目突板 |
本体外側 | ナラ板目突板 |
本体内側 | シナ合板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目材とステンレスバイブレーション5.0mmのセパレートキッチン
価格:1,450,000円(制作費、塗装費は施主様施工、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は150,000円から)