紫陽花咲く場所へ
2020.06.15
先日、納品したOさんのお宅へ。
紫陽花とOさんご夫妻がにこやかに迎えてくださいました。
扉の加工を一つだけ忘れていたので、その細工を施して取り付けて完了。
これですべてがきちんと納まりました。
とても美しい形になりました。
私たちが作る木部のほかに、タカハシさんのPHL(パーマネントヘアライン)仕上げのカウンタートップ、KUMAさんの鍛鉄ハンドル、オヌマさんの角パイプ脚。
いろいろな皆さんの協力があって、こうしてひとつの家具ができあがりました。
みんながみんなの腕前を発揮できるから、どんなものでも魅力的な形にできちゃう、それって素晴らしいことです。
そういうニュアンスをOさんも感じて頂けたのだと思います。
「だって、イマイさんに辿り着くのにけっこう時間かかったのです。」って。
そこにたどり着くまでに他にもきっと家具屋さんがあったでしょうけれど、私たちを選んでくださったのですから。
そして、家具がこうしてここに置かれたことで、生まれたすてきなお話を聞かせてくださいました。
本が好きなお二人。
今までの集合住宅(こちらもお邪魔させて頂きましたがすてきな空間でした。)で暮らしていた時には本の置き場に困って、増えていく蔵書はだんだんと平積みされていったのだそうです。
もともと片付けが好きなお嬢さんはその様子があまり好きではなく、どちらかというとお二人の本にはほとんど関心を示さないで、片付かないことばかりが気がかりだったそうで。
こちらの家に移るにあたって、蔵書もいくらか選書して持ってこられたそうで、平積みすることなく、きちんと納まるべきところに納めることができたのだそうです。
よかった。
(タモの本棚はOさんと一緒に考えてとても良いデザインで納まったものですので、活用して頂くことができて大変うれしいのでした。)
そして、その本がきちんと並んだ様子を見て、今までその本たちに興味を示さなかったお嬢さんが、「へぇ、これ読んでみたいな。」と本を手に取るそうになってくれたのだそうです。
家具がそのひとの暮らしに入ってくることで、そのひとの暮らし方が変わるってことは自分でも分かっていたつもりでした。
収納がしやすくなったり、動線がスムーズになったり、気がつくと心地良く木の表面をなでていたり。
そういうことが変わるのだろうなっていうことは分かっていたつもりでした。
でも、このお話を聞いて、本当にハッとしたのです。
だって、私が思っていたことのずっと先のことが実現しているのですから。(要するに思いもよらなかったことが起きているわけです。)
私がこの本棚を考えるにあたって思っていたのは、「ここにすっきりとした形の本棚を作ろう、ということ。その形はカウンターや壁から大きく出っ張って通路を圧迫することがないようにしよう。」そう思っていただけでした。
しかも、(家具を区別してはいけませんが)どちらかと言いうとダイニングの家具がメインで、本棚はあとから出てきたお話だったので、気持ちの思い入れもダイニングのほうが強かったように思えていました。
(結果として、ここにしかできない形ただ一つの形に成ったのは思い入れが強かったからできたのですが。)
お子さんたちが本を好きになるような本棚にしよう、なんてまったく思っていなかったわけで、それが、そういうふうに家での時間の過ごしかたがというか、そのお嬢さんの心持ちが家具ひとつでそれほど大きく変わったことにハッとしたのです。
暮らしを整えていくことがどういうことなのか、Oさんのお話を伺っていて、とても勉強になったのでした。
いやあ、物づくりって本当にいいものですね。