無骨だけれど、暮らしは愛らしく

「クルミとステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」

藤沢 F様

design:Fさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hiroyuki kai
painting:Fさん

pinterestというものを私自身あまりよく知らず、アキコが折を見ては、「このオーダーキッチンはどこを特長として作ったの?」などと聞いてくるのをあれこれと答えていると、いつの間にやら、私たちが作るキッチンの特長をうまく分類したカタログのようなページが画面の前に広がっていたのでした。
「今日はこの特長をいろいろな皆さんが見てくれているの。」とあれこれ彼女が説明してくれるのですが、彼女が説明してくれる時しか見たことがないものですから、やはり相変わらず未知の世界からやってくる情報のように思えたりするわけです。

最初の頃はどうにか自分でウェブサイトを作っていろんな表現ができるように頑張っておりましたが、こうもいろいろな情報の伝え方が出てきてしまうと、もうなかなかついてゆくことができず、今の私にできることはこのウェブサイトの制作例の記事を長々と書かせて頂くことと、日々の日記を書くこと、くらいなのです。
instagramまではどうにか分かるのですが、タグというものがいまいち分からなかったりするわけでやはりアキコの手を借りて作業する日々なのです。

そのpinterestを見たのです、というFさんからメールをいただきました。
「Pinterestでいいな、と思って無作為に保存していたキッチンの写真がイマイさんのキッチンが多く、偶然にも工房も近くにあったため、ぜひ検討させていただきたいな。と思いこのたび、オーダーキッチンのカタログ請求をさせていただきました。」

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

最初の時にお伺いして書いたスケッチ。吊戸棚などは無くなりましたが、ほぼこのレイアウトでお話が進みました。

なるほど、皆さん見てくださって、とてもうれしく思います。
そして、おおよそのご要望をお知らせ頂いたのちにこちらまでいらしてくだ去り、いろいろとお話をさせて頂きました。
ご主人奥様共にやさしい印象の木の表情、というよりは少し武骨なくらいラフな感じが良いのだそうで、お話を伺っていくと、クルミに辿り着きました。
同じクルミでもブラックウォールナットのような穏やかな表情ではなく、淡色だったり褐色の仲に時々どきっとするような黒さが表れて、色が流れるような豊かな表情に皆さん魅せられるのでしょうか。
そのクルミと鈍い光沢で仕上がるステンレスバイブレーションをカウンター使ったセパレート型のキッチンを作らせて頂けることになったのでした。
キッチンのレイアウトにはもちろん正解があるわけではなく、個人的にはどんな形のキッチンも好きです。ただ、L型のキッチンやコの字型のキッチンだけはどうしてもコーナーの部分をうまく使える良い案が浮かばす最適解がないのが少し心残りだったりします。

そもそもL型のキッチンやコの字型のキッチンは、使う人がかなり限られちゃう気がするわけです。奥様が一人で使う分には、振り向けばそこかしこに作業スペースがあるのでそれは使いやすいだろうと思うのですが、ご主人と二人で立ったりすると、一人は水場で一人は火元で作業をする分にはまだよいですが、時には動線が重なっちゃったりして、「あら、ぶつかるじゃない。」なんてなったら淋しいですからね。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

リビングから見たキッチンの様子。キッチンの奥がパントリーになっていてシンクの横の壁の奥には冷蔵庫が隠れていて、ぐるりと回ることができるようなレイアウトになっているのです。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

スキップフロアになっている2階に上る階段から少し見下ろした様子。広いワンルームの中にあるキッチンなので、いろいろな角度からキッチンが見えるのです。クルミの無垢材を全面に使いたいと言っていたFさんの思いはここにあったのでしょう。

セパレートだと、壁付けとアイランドというようなレイアウトが多いので、L型、コの字型、ペニンシュラのように通り道の先が行き止まりになりがちになることが少なかったりするので、回遊性はありますし、水場と火元がお互い向こう向いていて作業がぶつかることが少ないので、ご夫婦でお料理するには使いやすいレイアウトだと思われます。

余談ですが、私の自宅はペニンシュラで、娘たちもキッチンでガチャガチャすることが好きだったりするので、いつも動線は重なっちゃうのですが、さいわい半ばアイランドのように戸を1枚開ければぐるりと対面に回り込めるようなレイアウトなので、体が大きな家族ですが、それほど不便はなかったりします。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

こちらがパントリーから見た様子。ダイニングが階段の脇にあるというレイアウトが面白い間取りでした。

そうして、Fさんのレイアウトも決まっていって、収納の内容を決まっていきました。
その中で一番迷ったところが、クルミの突板をメインに使うか、クルミの無垢材をメインに使っていくか、というところでした。
クルミは無垢材だとすこしラフな表情で色のくすんだ褐色のものが多かったりするのですが、突板になるといろいろな表情のものが入ってきます。
突板と言っても表面はうすくても無垢材ですので、その表情が本当に様々でなかなかしっくりくる板で仕上がってくることが少なかったりします。
そのように、なかなか心配なところがありますので、クルミの突板を使いたい、という皆様にはいろいろな制作例をお見せしてお伝えするのです。中には白に近いくらい淡い色のものが入る時があったり、反対に辺材をカットして心材の赤黒い部分だけで幅接ぎされた突板が来ることもあります。
個人的には、幅の広い単板をなるべくそのまま使って、辺材から心材へと色の移り変わりが分かるように杯で作ってもらえるとありがたいのですが、突板屋さんは心材の綺麗な部分だけを使うという気持が大きいからか色みののっぺりした赤みばかりが強い板や先ほどの白みばかりが強い板が入ってくることもよくあるのです。

ですので、そのあたりを説明させて頂いて、Fさんはせっかくキッチンをオーダーで作るのですから、表面はクルミの無垢材の表情で表現したい、と思いきってくださったのでした。
その代わりに減額するための塗装は自分たちで行なうことに。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

シンクには、洗剤ポケットをつけて。ミーレの60センチの食洗機を導入しているので、普段の洗いものはそれほど多くならないということで、小さなスライド式の水切りラックをシンクにかけて使っています。また、今回のこのシンク側のキッチンはカウンターを広く取っていて、これがとても良いのでした。よくシンクのは向かい側に収納を設けるということで必然的にカウンターを広く取る形が一般的ですが、今回は向かい側は収納ではなく、無垢材のパネルになっているのみです。それでもカウンターを広くしたのは、みんなでここで料理ができるようにという思いを込めて、このサイズにしたのでした。たしかにカウンターが広くなると向かい側からも使えますし、この形なら横からも使えてみんなでキッチンを囲んで作業ができるのです。お料理が好きならリビングが少し狭くなってもカウンターを広く取りたい、という気持ちはよく分かります。

そのようにして、どこに重点を置いて、どこを削減するかの検討を重ねてこの形ができあがりました。
「キッチンはイマイさんに依頼しないとこの先後悔してしまう。そんな気持ちをずっと持っていたので、是非ともお願いしたいと考えています。
本日工務店で打ち合わせがありまして、その旨を伝えてきました。
お引き受けいただける場合は、また打ち合わせ等でお伺いできたらと思います。」

もちろん、喜んで新しい暮らしが心地よくなるようにお手伝いさせて頂きますね。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

ゴミ箱は高さ60センチあれば開閉可能はケユカのアロッツ。容量が27リットルと少し小振りですが、ゴミがたまったら勝手口などに用意された大きなダストボックスに入れる、という習慣になればとても使いやすいのでした。

そうして形がまとまり、いよいよご新居の工事が始まります。
私たちはオーダーキッチンを作らせて頂く時に、ご新居を建てる工務店さんは、もちろんですがほぼ毎回違っていて、毎回いろいろな監督さんとお顔合わせするのにドキドキするわけです。
向こうさんにしてみたら、キッチンだけで急に自分たちの仕事場に入ってきて、という思いも少なからずあるのではないかと思うのです。
でも、今のところ、皆さんとても気持ちよく私たちの仕事を受け入れてくださるので、大変ありがたいのです。
今回の施工会社さんは、偶然にも以前に一度お仕事の依頼を頂いていた辻堂のエコモさんでした。
以前に、家具のツマミを制作してほしいということで、いくつか特注の引手を制作したことがあったのでした。
どのご何度かスタッフの皆さんにお会いする機会はありましたが、こうしてお仕事でご一緒できるのはうれしいことです。
そのようなわけで、比較的仕事がしやすく、スケジュールもうまく合わせて頂いて、無事に設置工事を完了することができたのでした。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

食洗機はミーレのG6620SCi。オートオープン機能の付いたタイプですので乾燥機能がない食洗機でもとても良好に使えます。表面材、巾木もともにクルミで制作しています。

さて、最後の仕事はFさんが行なう塗装の方法をお伝えすることです。
この塗装は現場の様子がきれいに片付いているお引渡の前後に行なうことが多いです。
今回Fさんはお引渡し直後に行なうことに。
オイルや刷毛やヤスリなどは事前にお伝えしておいたものをご用意頂いて、当日は周りが汚れないように養生を行なうこと、引き出しや扉を外して行なうので、その外し方と終った後の再取付の方法、そして、塗装の方法を1時間ほどの時間を頂いてお伝えしていきます。
オイル塗装の方法は、塗装屋さんでもまだうまく仕上がっていない現場も見られるので、どうすれば、つるっと仕上がるか、どうすればぎらつきのない均一なツヤに仕上がるのかをお伝えしていきます。
最初のこのタイミングで塗装方法を見知っておけば、あとあとのお手入れへのハードルも下がって気軽にできるはずですので、自分でオイル塗装をするというのは家作りの中ではとても良い作業だと思っております。
「では、作業内容はお伝えしましたので、Fさん、2日間頑張ってくださいね。」

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

今回ハンドルはKUMA鍛鉄工房さんに叩いて作ってもらった丸棒型の槌目ハンドル。主張しすぎないとても良い表情です。

それでそのあとですが、私たちのキッチンはどちらかというとお引渡の時にご説明することは少なくて、できるとしても機器類の説明書に書かれていることを読み上げる程度なので、どちらかというとキッチンを使い始めて少し経った頃のほうがお伺いする必要があったりします。
そこで、写真を撮らせて頂くことを兼ねて、いつも少し暮らし始めた頃にお邪魔させて頂いております。
今回も、塗装が終わってお引越しも終わってから、新しい暮らしが少し落ち着いただろう2か月くらい経った頃にお伺いさせて頂きました。
あらためて塗装の仕上がり感を確認して、ざらつきが残っていればお手入れさせて頂いたり、汚れが付いた時にお手入れの方法や、あらためて引き出しの取外し方や、いずれ動きが出るであろう無垢材の付き合い方などあれこれお話させて頂きます。
ふと、見るとキッチンの壁付けの棚にはてっきりキャニスターやらお茶を飲むときの道具などがひと揃えに置かれているものだと思っておりましたら、思い出の手づくりの時計やお子さんたちの作品が愛らしく飾られていて、どこか和らぐ温かさが溢れておりました。
こうして、ひと通り説明が終わりましたら、これで私たちの仕事は終わりです。
あとは、住みながら必要な時にいつでも声を掛けて頂ければと思うのです。

暮らしってそういうものなのだろうと思っているのです。
何かあれば手を貸すことができるように何となくそばに居られることが大切なのだろうと思っているのです。

クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

側面には料理器具用のコンセントを設けました。JIMBOのNKシリーズです。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

コンロ側のIHヒーターの下にはスライドワイヤーシェルフ。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

引き出しの様子。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

引き出しの様子。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

引き出しの様子。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

引き出しの様子。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

引き出しの様子。


クルミとステンレスバイブレーションのセパレートキッチン

壁付けの棚板は、いつものように材料だけを私たちのほうで用意して、取付は大工さんに行なって頂きました。

キッチン仕上
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 クルミ無垢材
本体外側 クルミ無垢材・クルミ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ

クルミとステンレスのセパレートキッチン

価格:1,300,000円(制作費、塗装は施主様施工、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は160,000円から)

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