ゆらり
「アメリカンチェリーの食器棚のオーダー」
つきみ野 N様
design:Nさん
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:hiroyuki kai
「初めまして。大和市のNと申します。
入居してちょうど10年になる我が家ですが、この度キッチンの収納棚を作りたいと考えていまして、以前よりホームページを拝見していたイマイさんにお願いしたいと思い連絡させて頂きました。「彩られていく」「すきになる」「身近なものから良い色を」「新しいおようふくでとてもうれしい」等がイメージに近く、ごちゃごちゃしていますが図も描いてみました。
ダイニングテーブルに合わせて、チェリー材を考えています。
また、オーブンレンジ等のすぐ上の棚は、アンティーク調の波のガラスを入れたいです。この懐かしい感じのガラスがとても好きなので、こだわりたいところなんです。
根菜バスケットや、お皿を置ける可動式トレーなども検討したいです。
よろしくお願い致します。」
Nさんからメールを頂きました。
いろいろと書き込んでくださっていて思いが伝わってきますね。
家具のご相談を頂ける時に、「スケッチは苦手で・・。」と言われてしまうことがあるのですが、もし可能でしたら、どんな形でも良いのでNさんのようにいろいろと希望を描いて頂けるととても助かります。
例えば数字を足していくと寸法が合わなかったり、とても大きな引き出しを描いちゃっていたり、シンクが大きすぎてキッチンに納まらなかったり、と細かい部分が合っていなくても全然良いのです。
どんな形を思っているのかが文章よりも絵で書いてもらった方がとてもよく伝わります。
その上で私のほうからいろいろと質問させて頂きながら形や費用を考えていきますので、まずはその取っ掛かりとして、このようなスケッチが頂けるととてもありがたいのです。
さっそくスケッチを拝見させて頂いて、確認したい部分をメールで質問させて頂き、おおよそ内容が把握できたところでまずは制作するために掛かる費用を概算でお伝えします。
余談ですが・・・。
よく「どこまでを無料で行なって頂けるのでしょうか。」というご質問を頂くのですが、この概算の金額をお知らせするところまでを無料で行なっております。
このあとにその金額をご覧頂いて、何回かメールをやり取りするところももちろん無料ですが、具体的に図面を描いて形を考えていくところからは、家具制作のご依頼をきちんと頂いてから進めることにしております。
と言いますのも、以前にも書いたことがあるのですが、一生懸命考えた図面をそのままほかの家具屋さんで制作されていたことがありまして・・、たまたま知っている家具屋さんでそのウェブサイトを見ていたら、あの時に書いた図面の通りの形の家具の写真が出ていて、ちょっと淋しくなったのです。
もちろんその家具屋さんは私たちが考えた形というのは知らないまま制作をされたのだと思うのですが、そういうことってやっぱり淋しいのです。
反対に私たちのところにも他の家具屋さんが描いてくださった図面を持って相談に来られる方もいらっしゃいます。
こういう建築の世界は分かりにくい部分も多くありますので、もちろんその人自身も他の家具屋さんが描いてくださった図面を持ち込むこと自体が良いことなのか良くないことなのかの判断は難しいと思います。
ただ言えることはその家具屋さんがその人のことを思って描いた図面でしょうから、それをそのまま使わせて頂くのは、あまり良くないことだと思いますので、そのような場合は「その形を参考に」ということで図面を拝見させて頂いてその人自身の形を考えていくためのきっかけとして参考にさせて頂いております。
そこから私たちで実現できる形に変えていくことでその人自身、また私たち自分のオリジナルの形を作るようにしております。
今回、Nさんはそのようなことなく、今まで胸に秘めていた思いをすべてスケッチで知らせてくださいました。
お話を戻しまして、Nさんに概算の費用を見て頂いて、そこから何度かメールでやり取りして、おおよその予算の感じをNさんにご理解頂きまして、制作のご依頼を頂けることになりました。
そのタイミングでNさんが工房までいらしてくださいました。
以前から私たちのウェブサイトをご覧くださっていたということで、いろいろな形ができることをあらためてご説明しますが、イメージにぶれがありません。
すばらしい。
こういうお話合いって、お話しながら思い描いていた形が実は自分の暮らしかたと合っていないと気づくことも多くあったりするのですが、さすがNさん。
ただ、ひとつ迷っていたのは、ガラスを入れる戸を開き扉にするか、引き戸にするか・。
最初は使い勝手を考えて開けっぱなしにできる引き戸にしようと考えていたのです。ただ、ガラスもユラユラとした昔よく見たようなガラスをイメージしていたので、和の印象に近づきすぎてしまうのではないかという思いもあり・・。
イメージとしてはフレンチカントリー(というのでしょうか。)のイメージがあって、細い枠の印象とガラスがそのイメージを大きく担うことになりそうです。
ひとまずその場は引き戸でお話を進めることになりまして、続いて頂いた細かなご要望に合わせて図面を作成してきます。
寸法が分かるとしまいたいものがしまえるかどうかも分かってくるので、よりイメージが具体化されてきますね。
そうして図面を見て頂きまして、さらに詳細な部分について打ち合わせするために今度はNさんのお宅にお伺いします。
Nさんのお住まいはつきみ野。まだアキコと結婚する前はここから少し行ったところが彼女の実家でしたので、このあたりはよく通りました。美味しいケーキ屋さんがあったり、焼肉屋さんがあったりしてね、懐かしいのですよ。そんなことを考えながら、Nさんのところに到着。
キッチンは1階ということで搬入は特に問題なく行なえそうなことが分かりまして、さっそくそれから設置場所を拝見させて頂き、さらにNさんの暮らしかたにこの形が良いかどうかをいろいろと打ち合わせしていきます。冷蔵庫のスペースの割付(コンセントの位置がちょっとネックでした)やタイルを張る部分の印象、システムキッチンとこれから作る食器棚との距離など、思いつく限りの細かい部分について打ち合わせしていきます。
この「家具設置場所が1階」という状況が意外に私たちにとっての作業のしやすさを分ける要因でもあったります。
一般的に2階建て以上が多くなっている戸建住宅ですが、明るい場所で過ごしたい、ということで2階にリビングダイニングキッチンを持ってくるご家庭は比較的多かったりします。また、2階に上がる階段はぐるりと回っている階段のお宅も多かったりします。
そうなると、階段を使って2階に大きな家具を運び入れるのはなかなか難しいのです。
そこで、その場合はバルコニーから荷揚げするのですが、そうなるといつもよりも1人以上人員を増やす費用があったり、お天気が悪いと荷揚げができなかったり、お天気が良くて人手も十分あるのに重すぎて上がらない、なんていう場合もあったりします。
先日はちょっと大きめの食器棚を荷揚げしようと思ったら、最近のソフトクローズするスライドレールって結構重くて、それが引き出し10杯分くらいについていると、ロープで引き揚げることが想定以上に大変だったのでした。それで、急きょその場でレールをすべて外して無事に揚げたりしたことがありました。
それから、キッチンで時々あるのが、クォーツストーンなどの重い石の天板やステンレスでも5ミリくらいの分厚い天板。作ることはできてもその場所に届けられない状況も時々あるのです。
でも、2階のほうが温かくて気持ち良いですからね、そういう間取りになるのはとても自然なことなのですが。
そういうわけで今回はすんなり進めることができそうでう。
すんなり、と思っているなかでも、ちょっと手間取りそうに思えたのは、すでにNさんご家族がここにお住まいなので、冷蔵庫の上の戸棚をつける時に冷蔵庫を大きく動かしづらいとくらいかな。
今回のような形の場合、右も左も壁にまできっちり作り込むわけですから、その間口ピッタリで家具を作るというわけにはいきません。
むかし壁~壁ピッタリで作ったら(と言っても3ミリほどは小さくしておきますが)、壁の奥のほうが狭くなっていて、途中でつっかえてしまって、寸法を詰めないといけないこともあったりしましたので。
ですので、最近はだいたい間口の10ミリ~15ミリくらいは小さく家具を作っておきます。
(時には、ピタピタに近い寸法で作ることもありますが、それは自分自身できちんと採寸して、問題ないと思えた場合だけにしています。)
そして、家具設置後にその隙間が空いた部分を同じ仕上げ材で埋めていくのです。
今回の場合は、左にその隙間を作ってしまうとダイニングから丸見えだし、食器棚の天板が壁と大きく離れてしまうとみっともなくなっちゃいます。
そうなると、必然的に冷蔵庫の上の戸棚のあたりに隙間を持ってきて埋めることになるのですが、今回のNさんの形はまだよかったのですが、「冷蔵庫の上だと奥行きが深い戸棚にしないと使いにくい」という考え方もあったりするので、そういう場合に奥行き600ミリくらいの戸棚を作ることもあります。(吊戸棚は奥行がありすぎるとよけいに手が届かなくなるので、かえって使いにくくなるということもあり、最近はあまり奥行を深くしないことが多くなりました。)
で、奥行きが深い戸棚の隙間を埋める場合、冷蔵庫があると奥の方が手が届かないのです。
そこで冷蔵庫を手前に出したりしながら作業していくのですが、すでに食器棚が設置された後でこの作業をしていくので、冷蔵庫の奥に入っていくスペース的な余裕がなかったりしてなかなか大変なのです。
でも、今回は冷蔵庫上の戸棚の奥行は狭く作るので、それほど苦労せずに作業できそうです。
それから、忘れてはいけないのがタイルです。
今回吊戸棚とカウンターの間の壁にタイルを張りたい、というものNさんの強いご要望。
少しグレーでツヤのあまりないもの、もしくは揺らいで光っている様子が分散してキラキラしすぎないものなどといろいろと考えていて、さらに貼り方も最初はヘリンボーン柄に張っていこうと考えておりました。
ただ、お話を進めていくうちにタイルのカットする面とそのまま使用する面の木口の見え方が気になってしまうことや、普通の貼りかたよりも手間が増えることなどを考えて、今回は馬貼りで仕上げることにしました。
色もとても良い色が見つかりましたので、シンプルな貼りかたでとても良く映えると思うのです。
そして、格子扉の部分。
引き戸のプランから、今度は素材をチェリー材ではなく、アイアンで作る引き戸にする方向に話が広がっていって、最終的に見た目をシンプルにしてガラスが引き立つようにすることと、コストを抑えることを考えて、上に開く形になったのでした。
そういう諸々のことなども確認しまして、いよいよ制作ですね。
今回は作りはそれほど複雑なものではないのですが、(と、言いましても格子扉のような複雑な作りはあるのですが、)最近あまりやらなかった加工を取り入れることにしました。
それは、冷蔵庫のコンセントを戸棚で内包するという形です。
こういうイレギュラーな形にすると、何かあったら対応しづらくなるといけないと思って、最近はなるべくシンプルな構造を心がけているのですが、今回ばかりは家具全体の印象を優先させてこの方法を採ることに。
というものコンセントを隠さないようにすると吊戸棚全体を上にずらさないといけなくなるので、せっかく吊戸棚の上と天井の間を開けて軽い印象を出したのが薄れてしまうのです。
また、吊戸棚を上にあげることに伴って、格子扉も上にあげる、もしくは高さを延ばすと野暮ったくなっちゃう。
コンセント自体は半ば隠れても、何かあったら器具が交換できるようにしておけば大丈夫なので、内包するようなデザインにすることにしたのです。
こうして、すべてうまく作ることができ、設置工事も無事に終わりました。
さて、ここからはいつも内装工事でお世話になっているkotiの伊藤さんと交代してタイルを施工してもらいまして、無事に施工完了。
そのあと、うっかり工事の時に床に敷いていた毛布を置き忘れてしまいまして、それを引き取りにお伺いするタイミングでキッチンの使っている様子を拝見させて頂きました。
チェリーの木目の印象も、ガラスとタイルのゆらりとした具合も全てがとても心地よく整っていました。
また、1年も経つと色の淡いチェリーが少しずつ色濃く、ツヤも出てきます。
その時からがまた楽しみですね。
「イマイ様
すてきな食器棚を作って頂き、本当にありがとうございました。
想像していた以上に綺麗な仕上がりで、家族全員とても喜んでいます。
格子のガラス戸も大大大満足です!
写真、掲載してくださるんですね〜
食器も揃ってなくて恥ずかしいですが楽しみにしております(笑)
では今後ともよろしくお願いします。」
ステンドグラスを使ったアメリカンチェリーの食器棚
価格:830,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は13,000円から、取付施工費は50,000円から)