閑雅
「お仏壇を置くための台のオーダー」
横須賀 A様
design:Aさん
planning:daisuke imai
producer:tsuyoshi kawaguchi
painting:tsuyoshi kawaguchi
「はじめまして、横須賀市に住むAと申します。
半年ほど前、注文家具について調べていた時に、イマイさんのホームページを拝見し、以来すっかりファンになりました。
いつもPCを夜半に立ち上げるので、見始めると止まらなくなり、あっという間に1時間以上。
翌日、会社に行くのが億劫になるほど熱中してしまうのが常です。
イマイさんと、また家具を注文される方々の思い入れがひしひしと伝わり、完成した家具を拝見するにつけ、私もいつかはこんな風なのを・・・と、色々想像するのが毎回楽しいのです。
実はこの度、具体的な事でお尋ねしたく、メールをさせて頂きました。それは、そもそも注文家具を調べようとしたきっかけのものでして、仏壇の”台” なんです・・・・。昨年秋に病で父を亡くし、小さな仏壇を購入しました。いわゆる、現代仏壇という範疇のもので、とてもコンパクトなものです。
それに合わせた”台”は、用意されていたのですが、四足のタイプで高さが70cmありまして、その高さを母が気に入らず購入に至りませんでした。居間に置くのに、ひとまず適当なものがみつかるまでと、ポータブルのテーブルをあてがいましたが、大きさが結構、丁度なんです。既製品の台を探しましたが、求める大きさの台がなかなか思うように見かりません。大掛かりな収納家具だったり、何十万もするテーブルなどを手がけていらっしゃるのに、こんな小さなものをオーダーできるのかをお聞きするのは、とてもとても気が引けるのですが相談に乗っていただけたらとても嬉しいです。」
読んでいて、とても楽しくうれしく、少し淋しいお便りを戴きました。
後日頂いたFAXにもとても優しく分かりやすいスケッチが。雰囲気がある絵です。
今まで作ったことの形というのは、何となく取っ掛かりがつかめなくて戸惑うことがあるのですが、このスケッチを見て「ああ、私たちがいつも作っているシンプルな形で良いんだな。」と思えました。だって、仏壇が上に載るなんてどういうふうに取り込んでゆけばよいかが難しくて・・・。ひとまず、そのスケッチを基に製図をして費用を計算して・・。でも今回のようにシンプルで小さな家具って図面を見ただけじゃ雰囲気がほとんど分かりにくいんです。図面を描く私がそう思いますから、家具を頼もうと考えているAさんには、図面を見てもなおさら分かりにくい部分があるんじゃないかと不安になります。図面を尾送ったらしばらく連絡が途絶えてしまったので、(うーん、やっぱり魅力が伝わりにくいかなあ。)なんてちょっと肩を落としていましたら、ある日連絡が入っておりました。「ぜひお願いします。」と。
良かった。
それじゃあ、さっそく私がどんな形を考えているか、Aさんがどんな形をイメージしているかを聞きにいきましょう。
Aさんとの打ち合わせはとても楽しい時間でした。相変わらず、自転車で行ったのですが、それを喜んでくれて、そしてそれを見越していたかのように冷たいタオルまで用意していてくれて。そして、家具についてどう考えているのか、どういう暮らしをしているのか、そういういろいろなお話が聞けることって本当にうれしく楽しいことです。おかげで細かい部分まで分かっていただけたので、これからの家具作りが楽しみです。
後日うれしいメールまで戴きました。
「今日はお目にかかれて本当に良かったです。
うまく表現できないんですけれど、イマイさんは思った通りの印象の方でした!
HPの文面や家具たちの写真には、イマイさんの仕事に対するひたむきさや誠実さや愛情があふれていますから、お人柄は疑う由もありませんでしたが(笑)
出来上がるのが、今からものすごく楽しみです。どうぞ宜しくお願い致します。」
できあがった小卓はこのような感じです。
2種類のコントラストの違う木を使うことにしました。一つは仏壇と同じ素材のウォールナット、もう一つはウォールナットと同じように木目の優しく、色の明るいチェリーです。卓が2台あるのは、仏壇を載せるための卓と、供物を載せるための卓なのです。入れ子の作りにして、上の卓は仏壇と同じような見えかたになるように天板をカットし、なかの卓には引き出しをつけています。引き出しの手掛けは、当初収納家具でよく用いている手掛けにしようと考えていましたが、何となくイメージに合わない気がしてきたのです・・。
「ひとつ気になっているのが、引き出しの手掛けです。
現在引き出しの下面の横一面にどこにでも手が掛けられるように手掛けをつける形にしていますが、何となく雰囲気が違うような気がしてきまして引き出しの真ん中に小さくあるほうが良い合うような気がしてきたのです。
そこでスケッチを描いてみました。引き出しの真ん中に22mm角の四角い穴があってその縁をウォールナットの幅7mmの縁がつくような感じです。
この7mmの縁は飾りではなく、穴に手を入れた時に、この縁の出っ張りに手を掛けて開けるような形で考えています。
ちょっと文章だと説明しにくいですが、この形だときれいになるのではないかと思っております。」
とAさんに相談してみました。Aさんはこのデザインをとても気に入ってくれてさっそく取り入れることに。
こうしてできあがった卓はとてもきれいです。まだツルツルピカピカ。もう2,3年するともっともっと良い感じになりますよ。Aさんのお母さんがおっしゃっていた米ぬかでツヤを出すように手入れをしていると。
と、そうそう米ぬかと言えば打合せから納品までにこんなことがありましたよ。
打ち合わせの日に、「もし良かったら家具のことで分からないことがあれば何かお手伝いしますよ。」ってAさんに聞いた時に、長年使っていた引き出しの前板が裂けてしまったと相談されました。パッと見ると、接着すればすぐにでも元に戻りそうな感じです。
「これなら簡単に直ると思います。仏壇の納品の時に道具を持ってきますから直しますよ。」と気軽に引き受けてしまったのです。
ところが納品の日、その裂け目を接着しようと良く調べてみたら、無理な力が加わって裂けたのではなくて、木と木が貼り合わされている部分の接着不良で木が反り返ってはがれてしまっているのでした。「あら、これは困りましたね。手持ちの道具で直るかなあ。」ちょっと不安になりながら接着、圧締。
接着剤が乾くまで小卓のセットして写真を撮りましょう。
それでも、時間が余ってしまうなあ。
反ってはがれたのでなければ、もう少し短時間で接着できるのでしょうけれど、今回のような裂け方ではしっかり締め付けておかないとすぐはがれる可能性があります。
そこで、「接着剤が乾くまでにまだ時間が掛かりそうなので、ちょっと外に出て朝ごはんを食べてきますよ。」とAさんに声を掛けます。そう、横須賀に来るには海岸線を通り越してこなければならないので、渋滞を避けるために朝早く会社を出たのです。だからちょっとおなかが減ってしまって・・。
すると、Aさん。
「ちょうど私たちも、もう少ししたらご飯の支度をしようと思っていたのです。もう十分ほどでご飯が炊けるから食べていってください。遠慮はいりませんよ。」と。何だかかえって気を使わせてしまったみたいで恐縮です・・。その時にAさんのお母さんが「昔は木の床を、毎日毎日米ぬかを布に包んだものでこするように磨いたのよ。とてもよいツヤが出るから。」ってむかしのについて住まいでの暮らしをいろいろお話をしてくれたんです。
しばらくしてAさんが握ってくださったおにぎりやいろんなおかずやお汁を出してくださいました。とても優しい味です。静かな朝、美味しいご飯、何だか朝からうれしくなります。
さあ、よくご飯も食べたし、もう引き出しはくっついたかなって軽い足取りで見に行きます。そして、締めていたクランプを外すと・・、ジワーッと木がまた開いちゃいます。「あら、ついていません・・・。」
うーん、せっかく引き受けたことです、このままではいけませんから会社に持ち帰ってしっかりと圧着することにしました。
さあ次こそはしっかりと直しますよ。
ウォールナットとチェリーで作るお仏壇の台
価格:220,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は15,000円から)
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