両手ですくった水を見ているような

「タモのセパレートタイプの食器棚のオーダー」

荻窪 Y様

design:Yさん
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:masakane murakami

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

「この食器棚の中で唯一僕の場所なんです。」とご主人が指差した場所がここ。お気に入りのコーヒーとコーヒーを入れる道具たちを置いておくためのスペース。 となりで微笑む奥さん。

新築のマンションに引っ越すというYさんのマンションは「コーポラティブマンション」と言う、内装が全く決まっていない状態から、自分たちと設計士さんとでお話しながら自分の暮らしにあった空間を作っていく戸建てのような感覚の集合住宅なのです。そのような魅力的な空間に置きたいということで、食器棚のご相談を頂いたのでした。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

写真を見ると分かるように、吊戸棚の幅よりも下のカウンターの幅のほうが広いのです。何ででしょう。それは、このダイニングに立つと分かります。

設計士さんがいらっしゃる中なのに、食器棚だけをあえて私たちにご依頼くださったことをとてもうれしく思いました。設計士さんはきっとYさんの暮らしをトータルに考えていらっしゃると思うのですが、家具は家具、と言う考え方で信頼をもって私たちに相談してくださったことがとてもうれしかったでした。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

最初にお会いした時に、Yさんのお話をまとめてスケッチにした時のもの。この絵を見ても静かな印象になりそうな感じが伝わってきます。きません?

いろいろとお話を聞くと、Yさんの奥様は照明メーカーのデザイナーさん。どおりでお会いしてお話を聞いていると理路整然としているはずです。Yさんのいろいろな思いや、思い出の品を使うというご提案、それから奥様の使い勝手を聞きながら、ひとつずつ形がまとまってゆきます。こういう感覚良いですね。
そうして、できあがった形が上のイラストの形だったのでした。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

ステンレスにするかそれとも、タモの無垢材にするか最後まで迷っていたカウンター。最終的には、ステンレスになりました。いつものキッチンの時のようなステンレスの仕上げ方とは変えて、1.2mmのステンレス板を合板に接着して、板の正面(厚みの部分)はタモの表情が見えるようにしています。また、Yさんの希望で、ステンレスをカウンターと手前まで伸ばす(スケッチのような納まり)のではなく、正面に練り付けたタモの無垢材の厚み(5mm)がカウンターの上に見えるような仕上げにしています。

タモの板目を使って、導管が生き生きとした表情で、迫力があるといっても良いくらいの印象になりそうなのですが、この整然とした印象は、Yさんが考えたこの家具のバランスなのでしょうね。まるで小川からすくいあげた清水を見つめている時のような静かな気持ちになるのです。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

吊戸棚の引き戸は、大きな引き戸です。通常なら4枚くらいの引き戸にするのですが、2枚のほうが木目の印象が良く見えて美しい。そこで大きな引き戸にして、上から戸を吊り下げる金物を使って、大きくても開け閉めしやすいようにしています。また、この引手は、真鍮の引手で、実はYさんのおじいさまの手作りのもの。形見の品物なのです。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

そして、吊戸棚の下には、うすいLEDのダウンライトを入れています。 「夜はここの明かりだけつけて置く形でも良い目印になるのですよ。」

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

そのダウンライトのスイッチは、トグルスイッチ。Yさん、このスイッチが好きで、私も好きで、ぜひ使いましょう、使いましょうということで採用。でも、組み込むのが実はちょっと大変。普通のスイッチよりも埋め込まれている部分が厚いので、うすい板厚の中に仕込むにはいろいろと工夫しないといけないのです。製作を担当したムラカミ君ら苦労していた部分の一つであります。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

引き出しのスライドレールはblumのソフトクローズするスライドレール。使い勝手も良いですし、レールが見えないので美しい。ちょっと高いのですけれどね。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

以前に、お客様から教わったことがあります。そのかたは、食器の高さをきちんと測って収納を考えていたのですが、お椀を4つ重ねるとどのくらいの高さになるか、お茶碗だとどうか、どんぶりだと、お皿は6枚重ねてもこの厚みだって、いろいろ教わったことがあるのです。意外とわたしたちが思っている引き出しの高さと食器の高さって違ったりするのです。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

「ふだんゴミを捨てる分には不便はないですよ。」 「流しに立っている時は、キャスター付きのごみ箱だからここまで転がしてきて私の隣に置いちゃうし。」 ゴミ箱はkcud(クード)です。

タモとステンレスの引き戸のある食器棚

家電収納の下は、使い勝手を考えると深い引き出しにすることが多いです。今回もそのようにしています。そうなるとそれなりに重いものをしまいたくなるのですが、耐荷重が30kgまで大丈夫なので、動きはスムーズです。

食器棚のお話を進めていくうちに、「実はもう1台考えている家具があるのです。」と言われて形になったのがこちらの和室の戸棚。食器棚は奥様が使う家具と言うことで、こちらはご主人が使う家具。ご主人が揃えたたくさんの本をしまう場所にしたいというリクエストだったのです。

和室に作るシナのローボード

シナ合板がまるで素地のままのようにこれほど白く見えるのは、オイルのホワイトを使っているためです。だんだんと日焼けをするとアイボリー色に変化していきますので、それもまた楽しみなところです。

素材にシナを選んだのは、白っぽくで木目が細くて主張しない表情だから、ということもあったのですが、一番の理由はコストでした。シナ合板は、食器棚に使ったタモ材やそのほかの突板に比べて、コストが安いのです。基本的に仕上げ材として考えられていないからなのでしょうけれど、実際使ってみると、とても繊細な表情で十分家具の良さを引き出してくれる木です。特にシナの無垢材などは、ほどよい白さで、加工も容易で柔軟性があるので、使いやすい。むしろ家具には適しているくらい。

和室に作るシナのローボード

中はどこも本がぎっしり。新刊サイズの本なんて、棚板との隙間が数ミリあるくらいピッタリな納まり。もっと多目的に使って頂くと思っていましたので、この本をずらっと見せて頂いた時はちょっとビックリ。きれいに納まって良かったです。

だから、こうして、ひとつの形になるとその良さがとてもよく分かります。

和室に作るシナのローボード

これは、天板と扉との間の隙間の印象。写真じゃ分かりにくいかもしれませんね。

和室に作るシナのローボード

これがその天板の印象。とてもうすく見えますね。これは、上から立って見た時に天板がうすく見えるように、天板の手前を斜めにカットしているのです。

「大変お世話になっております。荻窪のYです。
引越しから4ヶ月。時々、作っていただいた食器棚と本棚の風景にうっとりしています。
食器棚は一日に何度も出し入れするのですが、使い勝手抜群です。その上、丁寧なディテールに感心することしばしばです。迷ったカウンターは、大雑把な私にとってはステンレスにして正解でした。冷蔵庫からの材料を置いたり、お茶を入れたり、子供に手伝いをさせる台にしたりと大活躍です。
本棚はコスト重視だったのですが、非常に美しいです。上品で和室の雰囲気にぴったりです。上に間接照明を設置しましたが、相性がよいようです。
と…ゆったりとした生活を送っているように書きましたが、現実は納入いただいた家具以外は、遅々として進まず。恥ずかしながら、いまだダンボールが置いてある状況です。
写真を、とおっしゃっていたので、見栄えがするようになるまでと思っていましたが、メドが立ちそうにないので、遅いお願いのメールを差し上げることにしました。
以前、お話ししていたようにTV台をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?
といっても、今回、方向性が決まらず、まずは形のご相談をさせていただきたいです。」

Yさん、ありがとうございます。楽しみにしております。

タモ板目の引き戸のある食器棚

価格:510,000円(制作費・塗装費)

シナの和室収納

価格:245,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は27,000円から、取付施工費は50,000円から)

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