音楽室

「レコードラックのオーダー」

品川 H様

design:Hさん
planning:Hさん/daisuke imai
producer:daisuke imai
painting:daisuke imai

2002年の暮れに1通のメール届きました。中にはPDFファイルが一緒に入っていて拝見すると希望する家具の詳細がぎっしりと描かれていました。
「デザイナーさんなのかな?」と思ってしまうほどよくできている図面と内容の濃さに「すばらしいなぁ。」と感心しつつも「このHさんの思い描いている通りのものを形にすることが出来るかな。」と少し不安になったりもしました。なぜならそのかたちはとてもミニマルなものだったからです。
必要最小限の構造で構成されている家具、はたしてどのように出来上がったのでしょうか?

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

Hさんから頂いた提案書類

■レコードラック■

収納物はアナログLPが1400枚ほど、他は雑誌/書籍、CD等(収納容積は計算済み)
引き出し部はCDの背を上にして収納できる内寸で
雰囲気としては、シンプルかつモダン(机と雰囲気を統一)
各棚には収納物落下防止のための仕組みがほしいです(安価で、適度に頑丈かつ安全で、収納物の視認および取出しがしやすい仕組、ガラス戸は不可)
将来の引越し等を考慮し、棚から取り外すことが比較的容易であるように
引き出し部は取っ手をつけず、かつ取り出しやすい構造を希望
棚の側板の内側には、ネジ頭等、収納物を傷つける出っ張りを作らないようにお願いします。

■ワークデスク■

2名が並んで使用する事務机
引き出し:A2用紙が横に入る引き出し×2+その余剰スペース×2=計4つ
雰囲気としては、シンプルかつモダン(棚と雰囲気を統一)
脚の構造については特にアイデアはありませんので、構造的に安定する最小限の構造を希望します。ただし机の背の部分および右側面は、面として塞がない構造を希望します。

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

書斎全体の様子。

この仕様案に基づいて図面を起こしましたが、最終的な図面になった段階でもこのHさんの設計とほとんど変わらない形で作ることが出来そうでした。これだけの精度で考えられる人は絶対に設計事務所かデザイン事務所に勤めている人だろうと私はずっと思い続けていました。それから詳細な打ち合わせをメールで15回ほど行いようやく年末には最終的な形状が決定しました。
それから、一度当社まで来ていただけることになりどんな人かと楽しみにしておりました。
会ってみると、私より少し年上くらいの方思わずびっくりしてしまいました。
さて、どんな形に仕上がったかと言いますと、レコード棚は全部で5台製作し、うち4台をこの書斎に設置し一台はダイニングに設置しています。この築15年になるマンションの床は多少歪んでいて4台並んでもそれぞれがピタッと垂直に納まらなかったりしたのですが、このマンションは借りているものということもあり、「なるべく壁に傷つけないように設置しよう」といろいろとHさんと相談をして最終的に壁、床などには一切固定せずにこの置いた状態のまま使ってもらうことにしました。
将来的にぐらぐらしたりと不安な様子だったら固定するということで。
この時に良く考えられている形だなあと思ったことが、この家具は側板と一番下の地板は幅が200m/mになっていて、各固定棚は幅が350m/mとなるように作られています。これにより重心が少し後ろ側へ傾き(そのまま自立させても倒れることはありません。)物をしまっていくと荷重が壁に伝わるような形になっていることでした。
Hさん、すごい!

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

レコードが手前に落ちてこないような工夫。ステンレスパイプを引っ掛けているのです。もちろんHさんのアイデア。

レコード等の落下防止策はHさんの提案どおりです。
側板の両側に溝を掘り込み底に斜めにステンレスの無垢パイプを落とし込むと言う原始的な方法ですが一番簡単な構造なのでメンテナンスも取り外しも楽に出来ます。
ステンレスの6m/mのパイプを入れる形にしたのですが、6m/mだといくら金属でもそんなに強度はありません。手で持ってぐっと力を入れれば曲がってしまうほどの細さなのですが収納物の落下を止めるという展では十分な効果を発揮すると思います。
Hさん、すごい!

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

レコードラック全体の様子。ホワイトメラミンとチークのバランスがとてもモダンな印象ですが、どこか懐かしい。

また、これまたHさんのアイデアなのですが、側板の幅(奥行)が固定棚よりも狭くなっている分、側板の奥のほうに板の厚み分の隙間ができるのです。この隙間にも意味があって、棚に照明などを置く場合はその配線が手前に出てくると見た目がうるさくなってしまうのでこの隙間に配線を通してすっきりと見せる、そのための隙間なのだそうです。
Hさん、すごい!

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

一番下は引き出し。

引き出しはフルスライドレールを使って引き出し自体が家具本体の前面まで出てくるようにしてCDが取り出しやすい形にしています。引き出しの開閉は引き出しの前板の下面に掘り込みを入れることで底に手を掛けて使うようにしました。

チークとホワイトメラミンを使ったレコードラックとデスク

こちらがチーク突板とステンレスを使たワークデスク

机のデザインは脚については特に決まっていなかったので、メラミン化粧板で一般的に良くみられる形状で考えたのですが、打ち合わせをしていくうちに平凡すぎるのでもっと異素材を組み合わせてモダンな感じにすると言う事になり、ここではステンレスの25mm角の脚にすることに決まりました
チークの油っぽいギラッとした表情と、ステンレスヘアラインの抑えた光沢がとてもよい印象に仕上がっています。
何年か使い込んでいくうちにさらに天板の表情の深みはまし、落ち着き、この空間が温かいものになっていくのでしょう。

実は、一番大変だったのは、搬入でした。
このマンションは先ほどの述べましたように築15年ほど経つ昔の作りをしたマンションでしたので、エレベーターがないこの建物の中で(Hさんのお宅は幸いにも2階でしたが、)間口が70cmくらいしかない階段と、小さな踊り場、低めの天井には最初見たときに大きな不安を抱いてしまいました。最初は絶対に入らないのではないかと思ったりもしたのですが、布団をあてがって右に回して左に回して、横に倒してと汗をかきながらぐるぐると振り回しながらどうにか納まった時は思わず声を上げて笑ってしまいました。
自分の中で忙しいことを理由に、またHさんが「搬入はどうにか大丈夫だと思います。」という連絡に甘えて一度も設置場所や搬入経路を確認しに伺わなかった自分の甘さが出たのですね。でもきっと一度見ていたら「この形状での製作を進めることはしなかったかも。」などとも思ってしまいました。
ここに1400枚近いレコードが並ぶとここはまさに音楽室です。
ちなみにHさんのご職業をうかがったらグラフィックデザイナーで現在はWEBデザインを仕事としているそうです。プロの方にこのホームページを認めてもらえたことがとても嬉しかったです。

ホワイトメラミンとチークのレコードラック

価格:630,000円(制作費・塗装費)

チークとステンレスのワークデスク

価格:250,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は22,000円から、取付施工費は35,000円から)

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