カムカとシミル
2021.10.15
カムカは青く透明な玻璃でできたような空を見ていました。
「おーい、おーい。」
高くて空も凍るようなところを鳥が渡ります。
「はっはっはっ、やめろ、やめろ。お前の声なんて届くわけがないだろう。そんな奇態な真似はやめておくれ。」
シミルはそう言ってカムカの頭をポカポカと叩きながら笑います。
カムカは青く透明な瑠璃のような海の向こうを見つめていました。
「おーい、おーい。」
海の向こうの霜降りのような森のまた向こうの灯がかすかにチラチラとしています。
「はっはっはっ、やめろ、やめろ。お前の声なんて届くわけがないだろう。お前のつまらない声は私の耳をつぶしてしまうよ。」
シミルはそう言ってカムカの耳を叩きました。
シミルはその夜も帰ってこう思うのです。
「あのおかしなカムカと居ると、陽気で居られることこの上ない。毎日が愉快だ。ああ、明日は何をしてくれるだろうかな。」
カムカは、毎夜毎夜、空と海を交互に見つめて過ごします。
そして、ある日珍しくカムカの戸を叩くものが現れました。シミルは戸を叩いたりなんてしませんから。
「カムカさん、こんばんわ。あの時は通り過ぎてしまってすみませんでしたね。先に行ってしまった皆のためにもあそこで、私一人が列から外れるなどと言うことはできませんでしたので。
無事皆向こうにたどり着きました。
私は渡る鳥です。今日はあなたをお迎えにあがりました。」
「ああ、鳥さん。ずっと待っておりました。一緒に行きましょう。」
そういうと、鳥の背中にまたがったカムカは海の向こうの灯の先へと飛び立ちました。
次の日から現れないカムカのせいで、シミルは毎日しゃべる相手も見つからず、笑う相手も見つからず、口をつぐんでつまらないことばかり考えているうちに、次第に真っ暗になって、とうとう動かなくなってしまいました。