生まれるものたちであふれている
「ナラ板目とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
横浜 K様
design:Kさん/daisuke imai
planning:Kさん/daisuke imai
producer:iku nobami
painting:iku nogami
オープンハウスを行なったのでした。
日付を見返すと、2019年11月24日。
ちょうどその年の5月の連休明けに移り住み始めた私たちの新しい場所を皆さんにも見てもらえたらと思って開いたのでした。
懐かしいですね。
その時に、いろいろな方々にいらして頂いた中でも雰囲気のあるお二人がいらしてくださったのでした。
その印象を今でも覚えておりますよ。
画家さんか、デザイナーさんか・・、って思えるようなお二人の佇まいで、私はちょうどその時に別の方々と話をしていたので、Kさんご夫婦とはほとんどお話ができなかったのですが、アキコがいろいろとお話をしてくれていたっけ。
なので、私としてはKさんご夫婦の印象が少なくて(Kさん、すみません・・)どちらかというと私の自宅のような和風の印象が合うのかな(と言いうくらい雰囲気のあるお二人でしたので)と思っていて、キッチンのお話につながるとは思っていなかったのでした・・・。
ところが、後日、「先日はオープンハウスにいらしてくださいましてありがとうございました。」とお礼のメールをお送りしましたところ、さっそくお返事を下さったので、思いがけずうれしくなったのです。
それにどこにはきちんと計画されたスケッチまで添えられていて。
私たちでキッチンを作ることをしっかり考えていたくださったのだなあ、とあらためて反省。
さっそく頂いた内容で制作するとどのくらいの費用になるかをお伝えいたしまして、その後にいくつかやり取りをさせて頂いて、ご依頼頂けることになったのでした。
ありがとうございます。
そのあとは、まずは一度私たちのショールームで打ち合わせをしましょうということで、まだ自宅しか見て頂いたことがなかったので、今度は素材を見て頂いたり、工房の様子も居て頂くことに。
一度お会いしているのにメールでしかお話できていないこともあってか、いつもよりも緊張しますね。
特にお二人の佇まいが凛としていたからか、余計にね。
「いらっしゃいませ。」
そうしてKさんとの打ち合わせが始まりました。
どちらかというと使い勝手は奥様がいろいろとイメージされているところがあって、いろんな使い道のお話をしてくださって、ご主人はというと隣でじっと話を聞いているだけだと思っていたら、時々ズバリ的確な意見を述べられる。そして、そのキッチンの印象というかバランスを考えていくのはご主人のほうで、なるほどこれはきっとご主人は私たちに近いお仕事をされているだろう、と思っていたら、やはりデザインのお仕事をされている方だったのでした。
横浜のデザインに携わるお仕事で、私も何度か見ている形があったりして、そのようなお二人にご依頼頂けるというのはとてもうれしいことだったのです。
そうして、ご主人のお人柄も知ることができたことで緊張感のない素直な意見が行き交う打ち合わせが始まったのでした。
そうして、いくつかの変更を重ねながら最初に頂いていたイメージを大切にしながら形がまとまっていきました。
今回のキッチンのオーダーを頂いた中で、なかなか大変なことがいくつかありました。
まず一つは、「ガスコンロ前の壁を無くして、天板とレンジフードで ガラス窓を固定するようにしたいのです。」というご要望でした。
良くオーダーキッチンの制作例で見かけるのですが、私たちの制作においてはまだこの形は施工したことがありませんでした。
だって、「ガラスに油が跳ねたら掃除しづらいのではないか」とか、「跳ねたら拭けばよいのではないか」とか、据え置きタイプのオイルガードで十分じゃないか」という独りよがりな意見があったので、そういうふうな衝立を立てましょう、というふうにお話が進むことはなかったのです。
でも、今回Kさんの奥様はこの部分にとても強いイメージを持っていたので、むむっ、いよいよやらないといけないなあ、という感じになっていったのでした。
でも、なぜ自分が嫌がっていたのかを顧みても、特にこれといった理由はありませんでした。単に今まで行なったことがないから、ということだったのでしょう、きっと。
では、何となく気持ちが嫌がっている部分をクリアにして、それを解決できれば具合よく施工できるだろうと思い直しまして、Kさんのイメージを実現させるためにいろいろ考えます。
今回、ただガラス板を立てるだけでは印象がまとまらないので、Kさんとしては黒いフレームをつけたい、というのが理想でした。そうなると、KUMAさんに頼むかなあ、とぼんやり考えます。
でも、地震が来たらどうなるのかなあ、レンジフードを交換する時はどうするのだろう、とか見えない将来に悩んだりしましたが、まずはKUMAさんに相談です。
KUMAさんは、いつもロートアイアンのハンドルを作ってもらったり、特注の鉄工品を作ってもらっていて、いつも細かい相談に丁寧に載ってくださるのでとても心強いのでした。
今回も、まずは原案を作ってみますのでちょっと待っててくださいね、と快く相談に載ってくださいました。
相変わらずまわりの手助けがあって今があるのだなあと実感します。
そのような感じで、KUMAさんがデザインしてくださったオイルガードは順調に進めることができたのでした。
続いて大変だったのが、搬入だったのです。
どこの現場でも大変だったのですが、今回のKさんのご新居はキッチンが2階にあるのですが、2階には小さな窓しかない・・。横浜の古い住宅密集地だったこともあって、2階だとお隣さんが近すぎて窓を設けても使わないということで、3階にバルコニーがあったのです。
さいわい2階に小さな物干し場を設けていたので、そこからかろうじて入れられるだろう、と工務店さんから頂いた最新のCADデータをにらみながら合点したのです。
それで、実際に形も決まって、初めて現場での打ち合わせがあった時には天板のサイズが分かるようにベニヤで作った型板も持参してチェック。
うんうん、どうにかなりそう。と胸を撫で下ろしたのでした。
あとは当日、道を塞ぐ形で搬入することになりそうだから、全員で手早く済ませないといけないな、とある程度の段取りを頭の中で整理して当日を迎えたのでした。
先ほど書いたように古い住宅が立ち並ぶ住宅街で、ところどころ代変わりで新しい住宅が建っているような場所でしたので、あまり車通りは多くないのですが、なぜかこのタイミングで隣の敷地も造成していて、大きなトラックの出入りが時たまあったりして、思うように捗りません・・。
とりあえず、階段から上げられるものを先に運び入れて、屋内からでは無理なものだけ路肩に寄せて車外に下してまずは車を逃がします。
この時期はちょうど8月の終わりで残暑が厳しい時期でもありました。
工務店さんの足場がまだかかった状態でしたので、足場を使って2階に手早く上げてしまおうということで、干渉する足場のパイプを解体して、天板をロープで結ってと、さっそく段取り通りに作業を進めます。地上では2名が待機して、2階あたりで2名が待 機する形ですんなりいくだろうと始めたのですが、なぜか物干し場からあれほど確認したのにあと数センチ高さが厳しくて入らない・・。
えっ・・と陽射しが出り付けるのとは違う汗がたらたら流れます。
こうなったら、3階にあげてそこから入れるしかない。
2階から3階へは吹き抜けがあったので、そこからなら階下へ落とせることも分かっていたのですが、その吹き抜けに辿り着くまでに壁があって、あの大きさの天板は振れなかったはず。とCADを見ながら思っていたのですが、もうそれしか方法がないですから試してみることに。
2階で天板を待機させて、1階の2名が3階に上がり、残りの1名は室内から補助して。
私の汗がワタナベ君にポタポタ。
みんな、すまないけれど頑張って。
どうにか3階まで上げることができてそこからがまた大変。3階のバルコニー付近に3名が残って、2名は2階の室内に向かって荷受けすることに。
いつもはもの静かに話すノガミ君がひときわ声が大きくなって、じわじわと天板が壁を回避しながら旋回していきます。
私とカイ君は2階で見守りながら、旋回しながら今度は2階にずり下がってくる天板を見つめます。「シャチョ―、下ろしていきますよー。」とノガミ君の掛け声にワタナベ君とヒロセ君がサポートして、私たちが2階でその天板の先端にどうにか触れることができた時に、ちょっとみんなの安心が伝わってきたように思えました。
そうして、無事に2階に下すことができたのでした。
フゥ、良かったよかった。
こうして、2つの大きな問題をクリアできて、Kさんのキッチンは無事に設置工事が完了したのでした。
そうそう、この大きなイベントのほかにももう2つ大きなイベントがありました。
それは、当時定期的に開いていた木工教室で、Kさんご夫婦でキッチンのパーツを作りたい、と言って参加してくださったことでした。
で、どの部分がお二人の作品になっているのかというと、背面収納の左のパントリー代わりになっている部分の一番上の格子扉です。
格子扉を私たちがお仕事として作るとそれなりに費用が高くなってしまうので、それを家作りの記念にもなるようにと二人で作りに来たのでした。
ただ、すべてお二人で、というのはなかなか大変なことでしたので、私と3人で見事にこの扉を作ったのです。
「日曜日はどうもありがとうございました。
ほぼ今井さんに作って頂く形になってしまい、お手数をおかけいたしました・・・。
なかなか夫婦で一緒に家具を作るという機会は無いので、楽しい良い思い出になりました。」
よい記念になりましたね。
それから、もう一つがオイル塗装です。
塗装費の削減ということと、オイル塗装はこの先もお手入れをしながら使っていることを考えて、最初から自分たちで経験しておこうということで、ご自身でオイル塗装されるお客様も増えていて、Kさんもぜひそうしたい、ということでオイル塗装をご自身で行なって頂くことに。
なかなか大変な作業だったと思いますがきれいに仕上げてくださいました。
これで完成。
自分たちで作ることが楽しいっていうお二人は、やはり奥様も職人さんでした。
「お世話になっております。
先日はオイル塗装ご指導、ありがとうございました。
あの後、少し塗装作業をしながら、あらためてゆっくりキッチンを見ていましたが、すごく美しい仕事と丁寧に作られたキッチンだと、とても感動しました。
素敵なキッチンをありがとうございました。」
そのしばらくしたのちにKさんからすてきな贈り物が届いたのです。
それは奥様が務めるパン屋さんからのパンの詰め合わせ。
そう、ご主人は絵筆で物を作る職人さん、奥様はパンを作る職人さんだったのです。
物作りが好きなお二人の暮らしは、そこかしこが生まれることの楽しさにあふれているように見えました。
天板 | ステンレスバイブレーション |
---|---|
扉・前板 | ナラ板目突板 |
本体外側 | ナラ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目とステンレスのペニンシュラキッチン
価格:1,050,000円(制作費・塗装別、設備機器費用は別)
ナラ板目の背面収納
価格:1,150,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は150,000円から)