心地良さのモノサシ
「クルミの食器棚のオーダー」
川崎 I様
design:Iさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nobami
painting:iku nogami
新しい病が蔓延し出してまわりの様子が少し沈んでいたのが2020年の春でしたね。
私たちも所にも少なからずその影響が出始めていまして、体調を崩してしまう誰かが居ることはなかったのですが、予定していた仕事のあれこれが急に取りやめになったり、延期になったりした時期でもありました。
先行きが急に見えなくなってしまってね、アキコと二人で少し気持ちがぼーっとしてしまった時でもあったのです。
するべきことがなくなってしまった時にスタッフみんなが出社しても手持ち無沙汰になってしまうわけで、こういう手が空いた時にこそ工房内の修繕やらあれをやりたかったんだって試みを試す良い機会でもあったはずなのに、先が見えないと不安になるのですよね。そういうことには手を付ける気持ちが無くなってしまったりして。
そのような心淋しい時期でしたが、Iさんのようにハキハキと元気をくださるお客様に出会えたことは私たちにとってとても幸運というかうれしいことだったのでした。
「食器棚のページ、早速見させていただいております。
やはり木はいいですね。
皆様の想いもそれぞれ表現されていて。
我が家は、数年前に転勤が決まり、子供の入学などもありバタバタと部屋を決めざるを得なくて、食器棚も前の住まいのまま・・。
このままでも10年は使えるし、とは思いながらも、木の食器棚を諦めきれず・・。
マンションなので、キッチンも狭いですが、素敵なアイディアなどもいただけたらと思います。」
そのようなお声掛けを頂いて、Iさんのすてきな空間づくりが始まったのでした。
さっそくこちらにいらしてくださって具体的なお話を進めていきました。
(このような状況でもここにいらして頂けることに感謝しております。)
木の温かみに包まれて暮らしたい、というIさんのご要望のメインに考えていらっしゃったのは、食器棚でした。
マンションのような集合住宅だと、大がかりにリノベーションしないと空間の質が変わらないと思えがちですが、そんなことはないのですよ。
間取りを変えなくてもその空間の感じ方が変われば同じ場所も違った空間に感じられる、そういうのってすてきだと思うのです。
写真を拝見させて頂くと、とてもきれいに暮らしている様子が分かります。
それならば食器棚だけを作らせて頂く形でも良いのでしょうけれど、Iさんが思い描いているのは、木に囲まれた暮らしですから。
Iさんにお話をお伺いすると、「リビングから見えるシステムキッチンの印象を無くして、食器棚に合わせたいのです。」という強い思いがあったのでした。
例えば、「整えて」の横浜のTさんや「おとうさん」の茅ケ崎のWさんのような印象というのでしょうか。
では、リビング側にも収納を作りたいかというと、それほど物がたくさんあるわけでもないので、こじんまりしたマンションにあえて狭くしてしまうように無理に収納を作るのも思いと違うのですね。
リビングから映る景色を木の温かみに触れられるようにしたいだけなのですね。
それなら、ということで、システムキッチンに手を加えるのは最小限にして、キッチンの背中と側面になる壁に食器棚と同じクルミ材で化粧をすることにして、さらには普段開け放してある洗面室もリビングからよく見えるということで、その洗面台の前板も思い切って交換したいのです、ということになったのでした。
なるほど、面白いアイデアです。
そこでまずは食器棚のご要望をいろいろとお伺いします。
でも、食器棚のほうも形はいたってシンプル。ちょっと変わったご要望としてあったのは、ガスコンロと合わせてよく使う卓上のIHヒーターをしまえる専用のスペースを採ってほしい、今使っているちょっと大きめゴミ箱が入れられるスペースを作ってほしい、ということでした。
食器棚を設置するスペースは珍しく奥行きが深く採られていたので、大きめのゴミ箱に合わせて食器棚の奥行を深く採っても、キッチンのワークスペースが狭くなることはありませんでしたので、ゴミ箱もすんなり置けることになりましたので、食器棚のプランはシンプルですがIさんの希望通りにまとめることができたのでした。
そして、扉や引き出しの前板はご要望通りに無垢材に。
樹種はIさんがずっと気に入っていたクルミ材で。
これで、おおよその形がまとまりましたので、ご自宅まで伺わせて頂きました。
建物のすぐ裏手には大きな公園があって、小学生のちびっ子たちやご年輩の方々がマスクをしながらでものびのびと過ごしているっこちよい場所でしたが、如何せんエントランスに車寄せが無いのがちょっと心配だったのです・・。
幹線道路とまではいかなくても片側二車線の道路でしたので、歩道と車道の間にはしっかりとガードレールが立っておりまして、これだと路上駐車で手早く下ろさないとなあと。
でも、心配事よりもIさんの楽しみを実現できる形を現地を見て確認しないとね。
「こんにちは、お邪魔します。」
-先日お邪魔させて頂いた時にご覧になられたように(笑)、あの息子達が居りますのでかなり散らかっておりますが、目をつぶってお越し下さいませ。-なんて、Iさんおっしゃってましたが、賑やかな小さな男の子が二人もいる家庭とは思えないくらい、とてもすっきりと丁寧に片づけられたお部屋でした。
そして、食器棚の場所、キッチンにパネルを張る場所、洗面室の前板を交換する場所などを採寸させて頂きました。
そして分かったことが、食器棚はいつもの通り家具ですから問題なくいきそうですが、パネルと洗面室のほうが少し大変そうだ、ということでした。
いつもそうなのですが、家具は工房で組み立てて、取付工事に問題がないように確認するところまで作業してから伺うので、当日複雑な段取りはあっても比較的イメージ通りに進むのですが、現場でパネルを取り付けたり、キッチンや洗面台の化粧板を交換する作業って、その場で初めて見ないと見えない部分もあったりして、なかなか難しいのです。
キッチンのカウンターがリビング側の壁よりも出っ張っている部分をどのように納めるか、そして、リビング側のパネルと廊下側のパネルを留で納めたいというリクエストにどのように対応するか、そして、現地を見て分かったのが、もっともついで(と言ってしまうといけないのですが)のお仕事のように感じていた洗面室の化粧が一番大変そうなのでした・・。
まずはそのあたりをどのようにクリアにするかを宿題にさせて頂いて、具体的なイメージができあがったところで制作開始です。
最近はクルミを使う機会が増えてきたのですが、そのクルミ材の入手がなかなか難しくなってきているのです。
材の幅も広いものが少なくて、色柄も合わせづらいことが多くなってきています。
好みの木を使って自由に家具を作るということがなかなか難しい状況になってきているのです。
今ある素材を無駄なく使ってゆけるような心掛けがいつも以上に大切になのだとあらためて思うのです。
そして今回は、食器棚の扉と引き出しの前板、天板にそのクルミの無垢材を使います。
そして、キッチンのリビング側と廊下側に貼るパネル材を無垢材を使います。
食器棚の本体は無垢材だと動きが出た時に調整しづらい部分があるので突板を使って、洗面台の前板はコストを抑えるために突板を使う形で進めました。
クルミの無垢材と突板の使い分けでなかなか難しいのが色合わせです。
いつも悩むのですが、クルミの突板は毎回色が違うことが多いのですね。
無垢材は少しか紙のある黄褐色のものが多いのですが、突板は赤みが強くて、場合によってはブラックウォールナットに近いくらい赤黒いものもあります。
突板屋さんは幅300ミリくらいの広い材を持っているのですが、突板を作る時に白太部分を落としてしまうことが多いのです。
基本的に赤身だけで作っていくことが一般的な突板ですので、そうなると赤みが強すぎたり、黒みが強い板ができあがってくることがあったりします。
なるべくそうならないようにいつも突板を作ってもらう時は相談しながら作ってもらうのですが、このあたりはいつも悩むところだったりします。
今回も食器棚と洗面台をリビングから見比べた時に大きく色柄が変わりづ技ないようにできたらいいなと思って作りました。
そうして、無事に完成して、どうにか搬入も無事に済ませることができて(ガードレール越しに搬入する時って、ガードレールの向こうとこっちで荷渡しして、さらに歩道に疾走する自転車がないように気を付けながら運ぶのが、重い家具だとなかなか大変だったりするのです)、取付作業に入ります。
取付は最近はみんなに任せてしまうので、無事に搬入が済んで、取付の段取りの打ち合わせも終えて無事に納まりそうなことが分かったら、私は先に戻らせて頂きます。
(みんなもそのほうが作業の気が楽かな)
で、そろそろ作業が終わるかな、というところで、ノガミ君から連絡が。
「食器棚もリビングのパネルも無事に終わって、洗面台の前板も無事に交換できたのですが、その上の鏡部分の化粧が・・。」
そう、今回、Iさんのおもしろいリクエストのひとつに、洗面台の上の奥についている鏡が要らない、っていうお話があったのです。
たしかに何かを移してみるための鏡でもないし、その上についている照明をより明るくさせるくらいの効果しかないようにも思えます。
「使い道がある鏡ではないし、水が変変えるたびに汚く見えてしまうから、思い切って無くしたいくらいなのです。」とIさん。
なるほど。
これを撤去するのは困難ですので、それなら同じ素材でカバーしましょう、というお話になったのですが、水栓器具が邪魔をして、そのパネル材が入らないのでした・・。
うーん、採寸した時はどうにか入りそうに思えたのですが、ダメだったかあ・・。
ということで、あらためて水道工事用の道具を持参して、一度水栓器具を取り外して、パネルを鏡の上から接着して、あらためて水栓を取り付けて。
こうしてできあがってみるとシンプルな仕上がりなのですが、実はなかなか大変だったのです。
「イマイ様。
返信が遅くなりまして、大変申し訳ございません。
土曜日は雨の中、また狭い部屋での作業、遅くまでありがとうございました。とても素敵な作品で、色合いも夫婦共々気に入っております。
木の香りも含め、キッチンに立つのが楽しいです。
子ども達も、うちじゃないみたいっ!と喜んでおります。
取り付けや、工房にお邪魔した時に1階で作業されていたのも見たので、大事に使ってくれそうです。
長男は夏休みの宿題などで、ヤスリを使ったことがあるので、リビングのパネルを取り付けた後に仕上げのヤスリを掛けている様子にあんなに丁寧に何度もヤスリをかけている事に驚いておりました!
皆さまにもどうぞ宜しくお伝え下さいませ。
今後ともよろしくお願い致します。」
よかったです。
最初に思い描いていたとおりに木に囲まれたこの場所で、Iさんご家族が楽しく家具を使って、皆さんが心地良くこの場所で過ごしていることを知ることができて、これで私も一安心です。
クルミの食器棚
価格:690,000円(制作費・塗装費)
クルミのリビングパネル
価格:250,000円(制作費・塗装費)
クルミの吊戸棚面材交換
価格:160,000円(制作費・塗装費)
クルミの洗面台面材交換
価格:550,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は90,000円から)