五角形で馴染んだかたち
「タモ板目の変形したセパレートの食器棚」
茅ケ崎 K様
design:Kさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nobami
painting:iku nogami
加賀妻工務店さんとは、私の自宅を建てて頂いた経緯もありましてとても親しくさせて頂いております。
いつもは戸建て住宅で食器棚やリビング収納のオーダーを頂くことが多いのですが、今回珍しくビルの中のリノベーションのお話が進んでいるということでした。
「いつもは戸建てのほうでイマイさんにはお世話になっているのですが、今回は私がリフォームを担当をさせて頂くことになりまして。」
と、いつもの物腰柔らかな設計の高宮さんからのご相談。
「私たちのところで、ずいぶん前に施工をさせて頂いたお客様で、今回は1階のお店はそのままにして2世帯で暮らしてゆけるような間取りに変えてゆくのです。そのなかでちょっと変形した間取りなので、キッチンはメーカーさんのものを導入するのですが、食器棚をイマイさんにお願いしたいと思って、お客様にイマイさんのことをお伝えしたのです。そこで、ご相談にお伺いしてもよろしいでしょうか。」
と、穏やかですが、いつものようにシンプルに的確にお話してくださいました。
そして、さっそくこちらにいらしてくださいました。
現地は茅ケ崎の駅のそばということで近いので仕事がしやすそうです。
でも、そこに作りたいと考えている形がなかなか特殊でした。
ビルということで、コンクリートの柱が壁に対して斜めに立っていて、というか壁が斜めなので、柱を囲う壁と、食器棚を設置する壁とが鈍角になっているのでした。
たしかにこの壁が出ているままだと部屋の印象がバラバラに見えてしまうかもしれません。
高宮さんが考えていたのは、この柱を囲う壁を家具で隠すようにして、すっきりした壁面に見せようということでした。
イメージとしては、私の自宅の食器棚のような印象です。
「私のアトリエ、まずはキッチン」
当初は、この食器棚のパントリーと食器棚の間にちょうど柱が来るようなイメージで考えていました。
ただ、パントリー自体を作ることやその変形した壁に合わせたりすることを考えると、トータルで考えるとかなり費用が掛かってしまいそうで、「本当はそこまで実現したかったのですが・・。」とお客様のKさんにもそういわれたのですが、今回はパントリー部分は断念。
でも、壁の出っ張りの1面は食器棚で隠せるからこれだけでも大分すっきりとした印象になるでしょうね。
その後、工事が始まったとことで、解体してまもなくのタイミングで初めて現場にお邪魔させて頂きます。
1階がお店になっているということで現地住居がどこか分からなくて、おろおろしていて店内のご年輩の店員さんに尋ねてみると、「ああ、ちょっと待っててね。」と笑顔でお答えくださって、奥に引っ込んで、「ああ、Kちゃん、家具屋さんが見えているよ。ふりーはんどいまいさんって。」と。
どうやらお母さんらしいのでした。
「ちょっとそこに掛けてお待ちくださいね。」と促されて、しばらく待っているとKさんがどこからともなくやってきました。
「ああ、イマイさん、ごめんなさい!分かりにくくて。」と案内して頂くとお店の隣に鉄扉があって、そこが住所の入り口のようで、表札もKさんご結婚されて名前が変わっていたので、旧姓の表札(ご実家の表札)だったので、「そうか、そうか、ご実家を2世帯にするんだったよね。」なんてうっかり気が付かないで、Kさん失礼いたしました。
「搬入はこの階段か、もしくはそこの小さいホームエレベーターがあるので、それを使ってもらう形になると思います。」とKさん。
「分かりました。」
今回はそれがちょっと心配だったのです。ビルということで掃き出し窓がないというお話を聞いていたので、細かく分けないと運び入れるのが難しいだろうなあと。
そのビルによくある回って上がる階段から細い階段から2階に上がります。
うーん、吊戸棚が大きいけれど上がるかなあ。
なんて思いながら設置場所に向かいます。
まだ、解体直後なので、床も壁もスケルトンの状態。ここからどうなっていくのかは高宮さんとKさんの頭に中にあるのですが、お話を聞くうちにだんだんとイメージができあがっていきます。
今回、気になっていたのはその変形した角度と、搬入のことと、壁の状態。
搬入は今の様子で何となくわかりまして、壁の状態もこのスケルトンの様子を見て確認できました。鉄筋コンクリート造の建物の外壁沿いの壁に食器棚を設置するので、食器棚はコンクリートの壁(躯体壁)に固定することになります。
木下地の壁でしたら木ネジがしっかりと効くので吊戸棚は問題なく取付できるのですが、躯体壁の場合はコンクリート用のビスで固定することになります。
ただ、それだけだとちょっと不安があったので、今回は吊戸棚を固定する位置に家具取付時に木下地を入れて、コンクリメントとコンクリートビスで下地を作った後で、そこに家具をつける形で対応することに。
ちなみに今回はリノベーションと言うことで、設計士さんや工務店さんが入ってくださっているので、躯体壁に家具を固定できていますが、集合住宅の躯体壁に家具をつけたい、という場合になると躯体壁は住んでいる人の共有部分になるので、私たちのところではビス止めなどは行なわないので、ボードアンカーを使いながら、天井や床など木ビスが固定できるところに止める方法を採っています。
(最近の集合住宅は躯体壁の手前に間柱を入れてくれるところが多くなったので、家具の取り付けもしやすくなりました。)
搬入と、壁の状態も確認できたので、あとは変形した壁の様子を見ないといけません。
ただ、これは壁がきちんとできあがってからじゃないと計測できないので、まずは変形に関わってこない部分だけ制作を進めて大工さんが壁を作ってくれたところであらためて採寸に伺うことにしました。
これでおおよそがまとまりましたので、現場の工事の進捗に合わせて制作を始めます。
そして、大工さんが壁を立てたあたりで、今度は幅の広いベニヤ(A4サイズくらい)と定規になるような細長いベニヤの2枚を持って再度現場へ。2枚の板を立てて示された角度を鉛筆で記して。
工房に戻ってこの角度に合わせて天板を加工します。
下の収納部は多少の角度の違いにも柔軟に対応できるように板の厚みを調整して逃げを作っておいて。
そうして、家具が完成です。
現場のほうはすでにリフォーム工事も完了して、お引越しも済んで少しした頃のタイミングで家具の取り付けにお伺いすることになりました。
今回吊戸棚は大きな引き違い戸の形でしたので、これ以上小さく分割することができなかったので、搬入が少し心配でしたが、ビルの階段は少し広めだったこともあって問題なく運び込めて、壁の下地作りも順調に進みまして無事に設置が完了。角度もちょうど良く納まりましたね。
こうして、食器棚が設置されたことでイメージ通りに壁のデコボコ感の印象は薄れてとてもすっきりした空間になりました。
「お世話になっております。
食器棚はとても使いやすく、お部屋に馴染んでおり、毎日愛でております。
ありがとうございました。」
愛でてくださっているというのはうれしいです。
こうして、Kさんにも楽しんで使ってもらえているようで、うれしい空間になっていましたね。
タモ板目の変形したセパレートの食器棚
価格:600,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は10,000円から、取付施工費は35,000円から)