マイリズム
「タモ柾目とセラミックカウンターの壁付けキッチン」
秦野 M様
design:Mさん
planning:daisuke imai
producer:hiroyuki kai
painting:hiroyuki kai
中古の戸建住宅を10年前に手に入れて好みの形にリノベーションして暮らしてきたというMさん。
シンプルな作りのキッチンは大工さんが作って塗装屋さんがペンキを塗って仕上げてできあがったのだそうですが、塗膜が劣化してきてペンキがはがれておいた器の裏にまでついてきてしまうことがあったりして、傷んだところは自分たちで何となく間に合わせの修繕をしながら使ってきたのですが、いよいよ他の部分も手を加えたいところが出てきたということで、私たちにご相談をくださいました。
「先日はお忙しい中、オーダーキッチンのカタログ手配のご連絡をありがとうございました。
その先の順序もお知らせくださり、うれしく思いました。
はやる気持ちがハイペースになっておりますが、決して大急ぎの気持ちではありませんので、イマイさんのご都合で見積りの返答いただけたらと思います。
イマイさんのblogの中で、真木テキスタイルさんのタッサーシルクラグをお使いなこと(私も偶然欲しく、次回の納期がいつかわからないのでチャンスですがサイズで迷っています)、イマイさんのご自宅がラボラトリオさんを設計された方だと知り、自然とフリーハンドイマイさんに問い合わせ致しました。
何より、施工された皆さんの日常の雰囲気あるお写真が素敵です!
日用品が見えるので、周りの家具の大きさが想像しやすいです。
予算からどう形になるのか全く見えていないまま、好きなように話してしまいました。
どうぞよろしくお願いいたします。」
と、Mさん。
頂いた写真は、とても雰囲気のあるキッチンの様子。なんとなく涼しい風が吹き抜ける牧場を思い起こさせてくれました。
十分心地良く使えているように見えるのですが、いろいろとお話を聞いてもっとグイッと近寄ってみてみると、そこかしこに傷んでいる様子が分かるのでした。
テーブルコンロの周りに張られたステンレス板はプカプカと浮いていて、大きな陶器のシンクが大工さんがベイマツ(かな?)で造作した棚に載っているのですが、そのペンキが少しべたついていたり、板が動いているからだと思うのですが、天板の水平が取れていなかったり、タイルと棚の納まりが大雑把でコーキングが荒れていたり、給排水の仕上げが雑に見えたりと、一見の雰囲気は良いのですが、細かな部分の荒々しさが目立っていて、ラフな仕上がりをMさんの細やかな使い方でカバーしてよい雰囲気になっているのかな、という印象でした。
その様子を確認した上で、キッチンの入れ替えとなると私たちだけでは難しい部分がありますので、さっそくkotiの伊藤さんに連絡。Mさんのお宅が秦野ということでそれほど遠い場所でもなかったので、さっそく伊藤さんにも現状を見てもらうことに。
その上で、どのようにこのキッチンを使いやすくしていくかをMさんと検討していくことになりました。
今回お話を進めていく中で興味深かったのは、こういう言い方をすると何だか頼りないのですが、Mさんのイメージと私のイメージが合っていたのかどうか分かりづらかったことでした。
Mさんの希望としては、天板のペンキのべたつきが一番気になる部分で、あとは使い心地はむしろ大きく変えたくはないということで、形はシンプルにオープン棚になるようなデザインで。
最小限の引き出しだけを設けて、換気扇はレンジフードに付け替えて、という方向でお話は進んでいったのでした。
私の考え方としては、特にキッチンはこうあるべきっていう形は無いのですが、今までのキッチンを作らせて頂いた皆様から聞いたお話を自分の中でまとめていくと、使いやすい形は引き出しだったり、ゴミ箱、まな板、調理道具などをしまうべき場所はこのあたりが良いだろうという、イメージがあったりしたのですが、このMさんの前ではそういう今までの経験が生かせなくて、Mさんが思いがどんな形になるのだろうか、自分でも見えないままワクワクというよりドキドキしていたのでした。
オープン棚で使いやすいのだろうか・・
もう少しホコリなどが入らないように引き出しがあったほうが良いのではないだろうか・・
などなど。
加えて、当初はこのキッチンを全て入れ替えるかも、というお話も出ていたのですが、シンクから右のキャビネットはべたつきもそれほど出ていないこともあって、このままの形を生かす方法になったのですが、ちぐはぐにならないのだろうか・・調理道具はこのままで取り出しやすいのだろうか・・、なんていろいろ心配な部分が合ってできあがりが見通せなかったのでした。
でも、Mさんはいつも「イマイさんはいつも細かく考えてくださいますので、とても感謝しています。」とおっとりした安心した様子でお話しされていて、私は実はいつもなかなか不安でドキドキしていたのです。
そのような思いを抱えておりましたが、Mさんにとっては引き出しなんてやっぱりいらなくて、自分の思い通りに見やすい形にすることがとても大切でしたので、やっぱりシンプルな形のまま。
でもその棚のバランスや唯一ある引き出しのデザイン、天板はステンレスからデクトンへと変わった印象など、Mさんの持つイメージはかたくなにそこにあったのでしょうけれど、私にはそのすべてがイメージできないままお話は進んでいきます。
その後も、竹を使った吊棚のアイデアが出てきたり、今使っている作業台にコの字型のカバーを被せたいというリクエストが出てきたり、なかなか実現が難しいお話がいくつか出てきて、さらにイメージが私の頭でまとまりなく渦巻くなかお話が進んでいったのでした。
最終的にはコストのこともあってシンプルな形にまとまっていったのですが、それでもどんな形になるのかな。
そしていよいよ工事が始まったのでした。
まずは解体ですが、普通のキッチンと違って大工さんが作っていたので、建物とくっついちゃっている部分があって、(どういうことかというと、板で箱を組んでから壁が仕上がっている部分があったので、箱を外すには壁も壊さないと取れない部分があったりしたのでした。普通のシステムキッチンなら、キッチンだけを解体することが比較的楽にできるのですが。)その解体がなかなかやっかいそうで、伊藤さんと大工さんで苦労しながら作業してくれました。
どうにかきれいに左側のみ解体できたところで、現地で打ち合わせをさせて頂いて、どのように新しいキャビネットを作れば傷んだ壁やタイルなどもうまく隠せるか、給排水をきれいに切り回せるか、デクトンのカウンターを右の既存のキャビネットと左の新しいキャビネットにうまく乗せるにはどうすればよいかを解体後の状況を見ながら確認して、制作開始です。
私たちが作るキャビネットは今回はシンプルな形でしたので、制作のほうは順調に進んでいきました。
さて、それをうまく設置できるかのほうが少し心配だったのです。
床材は時間が経って浮いてしまっている部分が合って水平が出しにくく、壁のほうもだいぶ立ちが良くない部分があって、伊藤さんがある程度調整してくれたのですが、それでもなかなか手こずります。
特にシンクの右にあるキャビネットはこのまま活用して、その上に右壁から左壁までデクトンのカウンターを載せるので、高さの歪みが出ちゃうと納まらないのです。
パッキンを挟みながらうまく調整して、キャビネットを据えたあとには、天板を載せて無事に設置完了。
あとは伊藤さんに給排水管とガス管をつないでもらえばすべて終わりです。
と、できあがってみてもこの先のイメージが見えない部分があったりして、Mさん、どのように使ってくださるのかな・・。
Mさんが暮らし始めてひと段落しました頃にお邪魔させて頂いて、よく分かりました。
ああ、よく馴染んでいる。
タモの柾目の印象と右のベイマツの棚の印象をデクトンがつないでいる様子。
使い込まれて良く日焼けした床材やダイニングテーブルと古びた家具たち。
素材の印象はすべて違っているのに、みんなおとなしく優しくそこに調和している感じ。
その真ん中でまるでタクトを手にしてリズムを取っているように見えるMさん。
ひとつずつの動作が丁寧なMさんの様子とキッチンに棚の中に置かれたそれぞれのものが心地よい緊張感を持って並んでいる姿が本当にしっくりくる、という感じです。
そうか、キッチンをこういうふうに見せながら暮らしていく形があるのだなと、また一つ勉強させて頂いたのでした。
「イマイ様
遅くに失礼いたします。
引出しのご説明ありがとうございました。
外せる仕組みにしてくださり、使い方が広がるのは模様替え好きにはたまりません!
素敵な仕上がりに目を奪われそのままに一人時間でした。
お礼がすっかり遅くなりました。
素敵なキッチンをどうもありがとうございました。
スペースに入るよう丁寧に作業されているお二人の姿やいろいろな確認事項や所作までもきれいで、私も娘に教えなければ!とはっとさせられました。
これはきっと今井さんのお父様から受け継いだ自然なお姿があってこそですね!
ウェブサイトでのお客様皆さんのお言葉から伝わるものがあります。
そのような雰囲気で自宅に新しい風が吹くと、あれこれ叶えられそうな家具はないかとつい考えてしまいます。
実は写真に映るポジャギのカーテンを使用した旨、お礼を京都のPINTさんというお店にメールしましたところ、偶然にも以前イマイさんのスタッフの方が「みんなのどうぐ」という企画に参加されてたそうですね!
PINTさんより、『ずっと気になっていた家具屋さんで、制作されるのも、取り組みも発信も素敵ですよね』と文章から頷いておりました!
ふと思い立ったメールで、いとも簡単に繋がるものですね
それでは、今後ともよろしくお願い致します。」
天板 | セラミック「デクトン」 |
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扉・前板 | タモ柾目突板 |
本体外側 | タモ柾目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板/タモ柾目突板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
タモ柾目とセラミックカウンターの壁付けキッチン
価格:780,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は80,000円から)