
乾杯
「ブラックチェリーとステンレスバイブレーションのアイランドキッチンと背面収納」
中野 H様
design:Hさん
planning:Hさん/daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta wataknabe

平成建設さんのOさんのキッチンを作らせて頂いた時に、「はじめまして、Hです。このたびはよろしくお願いします。」と、私やOさんよりもずいぶんとお若い青年が出てきて挨拶してくれまして、それが今回のHさんでした。
Hさんは現場監督さんで、「僕は形を考えるのも好きですが現場に出てる方が好きなんですよね。」とおっしゃっていて、いろいろなところでお会いする機会がありました。
平成さんの式典に出席させて頂いた時もOさんのご配慮だったのかもしれませんが、Hさんと隣の席を設けてくださって、お酒を飲みながらいろいろなお話をさせて頂きましてとても楽しかったのを覚えております。
その時に「いつか自分も家を持つときはイマイさんにキッチンをお願いしようと思いますので、その時はよろしくお願いします。」と言っていたっけなあ。
それが実現するのはいつだろうなあ、なんてぼんやりと考えていたらその二年後、いよいよ家を持つことになったのでキッチンの相談を‥、とHさんからの連絡。それはうれしかったですね。
私はてっきり三島や沼津のほうに住まわれるのかと思っていたのですが、実は「中野のほうですてきなマンションがありましてね、古いのですが作りはしっかりしているし、会社に向かうにも良い土地でしたのでそこに決めたいのです。」と教えてくれました。
そうか、都内で暮らすのですね、たしかに最近はこのあたりでお会いすることが多くなっていましたものね。
というお話をお聞きして、少しした頃にキッチンの打ち合わせに私たちのところにご夫婦でいらしてくださいました。
Hさんとは知り合ってからそれなりの時間が経っていましたが、こうしてあらためて私たちのところに来て下さったのは初めてでしたので、何だか試されているようで緊張するのでした。
だって、平成さんというと大工さんの腕の良さのほかにも自社で家具制作までされますので、私たちと同業でもあるわけですので。
しかし、うれしそうに「やっぱりこういうところが良いんだよねー。」と引き出しを開けながら奥様に説明してくださるHさん。聞いていてうれしく安心できたのでした。
そして打ち合わせの話の中で、奥様からもいろいろな提案やアイデアを頂きました。
そのおもしろかったアイデアを二つばかり。

扉にはすべてローラーキャッチをつけたいということ。
なるほど。
お聞きすると、扉を閉めた時にあの、カチッと閉めた感じが分かるあの感覚が好きなのだそうです。
最近の蝶番というとスライド蝶番と言って、閉まる側にバネが入っていて、締める途中で扉から手を離しても自然と閉まっていく蝶番が主流でしたが、最近はダンパー付きのものが主流になっています。
これは閉まる側のバネで扉がバタンッと勢いよく閉まるのを防いで、ゆっくり閉まるようにするダンパーがバネのそばに内蔵されているものです。
手を離してもきちんと静かにゆっくり閉まるので、この蝶番を取り入れることが多いのです。
それに逆らって、Hさんのところでは昔ながらのキャッチをつけたいというのが希望でした。
「地震の時にも開きにくくなりますものね。」と奥様。おっしゃる通りです。
続いては、「キッチンの背面収納の天板をガラスにしたいのです。」ということ。
なるほど。
「ぜひ一度やってみたかったのです。」と奥様。
「ガラスのほうが汚れは掃除しやすいし、印象がとてもきれいだから憧れていたのです。」ということで、この面はガラスに決まりました。
ただ、ガラスだけだと怖いので、ガラスの下にチェリーの板を下地にして、ガラスの周りもチェリー材で縁取るという強度が得られて、さらに印象がすてきな形にしたのです。
ただ、これがなかなか難しくて・・。
搬入に関しては、古いマンションによくあるような広くて大きな階段室があったので、比較的長い材も階段から運び込める状況だったので、このガラスの天板も1枚で作りたかったのですが、この背面収納を設置する壁面に柱型が表れる関係で途中から奥行が変わる変形した背面収納になっています。
そこで天板もこの部分は1枚で作って、てっきりガラスの加工でこの変形する入隅部分は直角にカットできるものだとばかり思いこんでしまっていまして、ガラス屋さんに難しい注文を付けてしまっておりました。アールを小さく見せるために何度か加工してもらっても、切断面が欠けてしまって、上から見ると映り込んでしまったりときれいにならず、最終的にはこの部分で一度分けて制作することに。
いろいろな納まりがあるのだなあと勉強になったのでした。
その他については、私たちの形を見慣れているHさんでしたので比較的作りやすい形で考えてくださいましたので、プランのほうもきれいにまとまりまして、あとは現場が進むのを待つばかりとなりました。
というタイミングで、制作に着手する前にひとつだけ懸念材料が出てきました。
リノベーションだと必ず出てくる配管位置の問題です。
今回のHさんのキッチンの位置は元の間取りのキッチンの位置から大きく変えてアイランドキッチンにしています。
そうなると問題が出てくるのが排水管の水勾配です。キッチンの排水口からマンションの外に向かって少しでも傾斜して下げないといつまでも排水できなくなってしまいますので、その距離が延びれば伸びるほど排水管の位置が高くなります。
今回は床下で勾配が取れるかどうか床を開けてみないと分からないということで、あらかじめ床上で排水管が横たわっても大丈夫なようにキッチンの収納内部で排水管を内包できるようにと考えていたのでした。
そうして、いよいよ工事が始まりました。
まずはその排水の件やそのほか配管のことを確認するために初めて現地に伺わせて頂いたのでした。
ちょうど8月の暑い時期で最寄り駅で降車して午後の日差しの暑さで静まった細い道を幾度かくねくねと行きます。
私は暑いのが最近苦手になってきたのですが、この時期が昔から好きでして。
暑すぎて虫も鳥も鳴くのを止めてしまってどこかでじっとしていて、路地の塀の向こう側からは涼んでいる様子の子供たちの楽しそうな声が聞こえてきたり、風鈴やピアノの音がわずかに聞こえていたり。お盆が近いからかいろいろなところでお線香に香りが漂ってきて、みんなが生き生きしている感じが伝わってくるのに通りはとても静かな感じが。
そんなことを考えながら、細い路地のような通りを幾度か曲がったところに古めかしいえんじ色の集合住宅が見えてきました。建物のまわりには階上まで届きそうな大きな木もそこかしこに生えていて、居心地がよさそうな古い佇まい。
オートロックもないエントランスは広い大きなガラスの開き扉で夏の暑さで開放しておりましたが、中に入るとどこかひんやりと懐かしい団地のような空気。
ふと横を見ると広めの階段。
今回はキッチンの天板が920ミリ×2700ミリという大きさ。集合住宅だとキッチンまで運べるかどうかが大きな問題ですので、ここはどうにかクリアできそう。
そのまま階段を上がって、4階の突きあたりの部屋に。
「こんにちは、お邪魔します。」
と上がらせてもらいました。現場はまだスケルトンの状態。ようやく大工さん(も顔なじみのAさん)が下地を組み始めた頃で、AさんとHさんが迎えてくださいました。


「イマイさん、こんにちは。遠くまでありがとうございます。」とみんなで汗をかきながら打ち合わせを始めます。
平成さんのすごいところは図面通りに部屋ができあがっていくこと。
当たり前に聞こえるかもしれないのですが、一般的に壁や床の寸法は図面の仕上がり寸法から数ミリは前後することが多かったりします。
後付けの家具なら多少壁や床の傾斜が出ていても部屋が完成してから採寸すればよいので問題は起きにくいのですが、新築や特に工期の短いリノベーションなどの場合は、図面の寸法で判断して家具作りを始めなければ間に合わなかったりします。
でも、実際の現場は、壁や床を作っていく過程で傾斜がついたりとその通りに仕上がらないことが多かったりします。
(右と左、上と下で10ミリも違うという現場もあったりしました。)
そうなると家具がピタッと納まらなくなるので、あらかじめ逃げを見ておいたり、現場で削れるように調整代を作っておいたりするのです。
そうなるとその分の加工の手間も増えるし、施工の手間も増えて複雑になって行きます。
それを、図面通りに仕上がる安心感を抱きながらも、念のためこの解体直後の段階でどのようにしていくかを相談させて頂きました。
また、今回は前述のように大きな天板になるのですが、玄関からキッチンまでの道がクランク状になっています。そうなると階段でここまで持ってこれても搬入ができないので、一部だけ壁を仕上げないで、キッチンの天板を通してから壁を仕上げる、という施工順序を確認させて頂いたり、水勾配の問題もおそらくキッチンの影響ないように排水管を施工できそうだということでひと安心。いろいろと明確にできたりときちんと打ち合わせができましたので、いよいよ制作に取り掛かります。
今回の制作はワタナベ君。
大きなキッチンと背面収納ですが、特殊な形ではないので、順調に制作は進みます。
というところで、「シャチョウ、このゴミ箱専用の金物が取り付けられないのですが見て頂けますか・・。」と仕込みの途中でワタナベ君から声が掛かりました。
今回は、シンクの下にゴミ箱を置くのではなく、背面収納のほうにゴミ箱を置きたいということで、かつ、背面収納側だとリビングダイニングから丸見えになるので、そのゴミ箱は普段隠しておきたい、ということで、ハーフェレのゴミ箱専用の金物を使おうと思ったのですが、奥行サイズを私が10ミリほど見誤ってしまって・・。
かといってこの450ミリの奥行で収まるゴミ箱用の金物がほかには見当たらなくて、それでいつも通りに白いポリエステル化粧板で引き出しを作って、市販のゴミ箱を入れて頂く、という形で制作を進めさせてもらったのでした。
あとは、ガラスの天板の細工も無事にできあがって、いよいよ設置工事。
当日はあいにくの雨でしたが、日程を変更する余裕はないので、皆でレインウェアを着こんでの搬入となりました。 幸いそれほどの土砂降りではないかったので、家具に布団をかぶせて運ぶことで濡らさずに運び込むことができて、大きな天板は前日の時点で濡れても良いようにブルーシートや布団で養生しておいたのでこちらもうまくエントランスに運び入れられたのですが、どうにか運べるだろうという私の目算が甘かったようで、階段からの搬入は一応できたのですが、わずかに回転させるスペースが取れなくて、その都度エレベーターを呼んで、エレベーターの中に天板を差し込んでは切り返すの繰り返しで4階まで上げることができたのでした。 その後は、工房で仮り組みした通りに組み上げていく形でスムーズに設置は完了。
続いては塗装です。
今回はHさんご自身で壁を塗ったりするセルフビルドが数多くある中で、キッチンの塗装も自分たちで行なう、ということで、Hさんファミリーで行なって頂きました。
その様子はこちら。
「自由な手たち」>>「西から東へ」
そして、その塗装も完了して、無事に引き渡しと引っ越しが済んで、約半年後にあらためてお邪魔させて頂きました。
「どうぞ、どうぞ見ていってください。」と案内して頂いたキッチンの様子は半年ですでに大分色が濃くなっていてとても良い印象です。奥様も揃えているストウブの鍋たちがきちんと納まってとても快適に使ってくださっているそうで。
「イマイさんもいかがですか。このあとはお仕事ではなくご自宅まで戻られるようでしたら。」とおもむろに缶ビールを持ってきてくださって。その日はまだ仕事が残っておりましたので、残念ながらお付き合いできませんでしたが、また、以前同席させて頂いた時のように、楽しくお酒を頂ける機会があったらうれしいなあ。
こうして楽しんでキッチンを使ってくださって、楽しんで作ってくれる人とのお酒は楽しそうですから。
また機会があればぜひお伺いしますのでぜひ呼んでくださいね、その時を楽しみにしております。
天板 | ステンレスバイブレーション |
---|---|
扉・前板 | ブラックチェリー板目突板 |
本体外側 | ブラックチェリー板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ブラックチェリーとステンレスバイブレーションのアイランドキッチンと背面収納
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。
ご注文・お問い合わせをご検討中のかた
ちょっと関わりのありそうな家具たち
-
2023.04.08オーダーキッチン
無骨というよりは小鳥のようなキッチン
「ステンレスバイブレーションとクルミのペ…
-
2025.03.14オーダーキッチン
シフォンの丘
「ナラ板目突板とステンレスバイブレーショ…
-
2022.02.11オーダーキッチン
すずやかな風が吹いている
「ナラ板目とコーリアンのオーダーセパレー…