家具を壁や床に固定するほうが良いか、置くだけで良いか
2023.02.08
「よし、家具を買おう。」と思うのは皆さんどのようなタイミングになりますでしょうか。
自分や家族の暮らしが大きく変わるタイミングで手に入れることもあるでしょうし、デザインが気に入ってそのまま一目ぼれして手に入れることもあると思います。
そういう中で、「家具を購入する」だけではなく、「家具を作る」という選択肢も最近は増えてきました。
オーダーして作ってもらうという方法です。
そのオーダーで作ってもらう時に、その家具を壁ピッタリに作り付けることが良いか、もしくは置くだけの形が良いか、それぞれメリットとデメリットがあると思いますので、私が思うことをすこしお伝えしたいと思います。
例えば、リビングの壁面収納。
少し前まではリビングの壁一面を埋めるように大きな収納を作る機会も多くなったのですが、最近はすっきり見せたいとお考えの方が増えてきたのか、リビングに作るとしても背の低めの収納、多くてもそこに小さめの吊戸棚、という形が増えてきました。
その場合に「壁や床に穴を開けたりしたくないので家具は固定しないで置くだけの形にして頂けますか。」とか「もし、将来的にこの家から別の家に引っ越すことになってもせっかく作った家具だから持っていきたいので置くだけにしてもらえますか。」と言われることがあります。
また、「背が低めのリビングに置く収納を作りたいけれどその場所でずっと使うかどうか迷っているのですが、子供が小さい当面は、私の目の届くところで玩具を出したり片づけたりしてほしいと思っています。ただ、大きくなったら、そういう使い方ではなくなってくるので、子供たちの各々の部屋にそれぞれの戸棚を持っていけるように分けておきたいのです。」
ディテールはいろいろ違ったりしますが、こういうふうにある時点での使い方とその後の使い方を分けたい、というお話は良く頂きます。
こういう場合は、もちろんそのまま作っても良いのですが、まずはいくつかお尋ねすることがあります。
分割してそれぞれの部屋に持っていこうとすると、どうしても小分けにした家具を並べる形になってしまいます。木目や色を揃えても、そこに置かれている感じは出てしまいます。
また依頼主ご自身で動かせるようにある程度動かせるスペースを取っておくことが多いです。(例えば左右に5~10ミリの隙間を設けたり・・。)そうするとその隙間からホコリが入ったり、物が落ちたりすることもあります。それでも場所を移動して使えるメリットは大きいですし、部屋に家具を移動して使うようになった時に、その家具を傍に置いておけることで使う人の愛着もより深くなると思います。
でも、リビングに置くのなら、天板の上に飾るものが映えるように天板は長く一枚の板で作るほうが美しかったり、隙間なくピッタリ作ることで、ホコリが入らないことは大きなメリットですが、よけいな隙間が見えない、というのはその場所が引き締まって美しく見えるものです。
まだお子さんが小さかったりすると、子供部屋で使う時間よりもリビングで使う時間が長かったりするので、10年近く先のことよりも現在きれいに使える方法を採りたい、と考える方が多かったりします。
また、壁に穴を開けることについては、もちろん壁にしっかり固定するにはネジで壁に固定するので穴が開きます。いざ家具を動かしたいとなると木には壁に穴が残ってしまいます。
アイランドカウンターなどの場合は、奥行きの深いどっしりしたサイズなら、置いてあるだけでも転倒することはないですし、足元にフェルトなどを貼っておけばちょっとダイニングを広く使いたい時にはキッチン側にずらすこともできたりして、この家具の場合は、床や壁に固定しないで、置くだけで使いたいと考える方も多いです。
ただ、下をオープンにして、ゴミ箱を置いたり、ダイニング側をカウンターテーブルのように座って使いたい、となる場合は、しっかりした箱型(下にも板がついている形)になっていないと、形状によっては不安定になったりするので、しっかり床や壁に固定するほうが良いと思えます。
また、別の視点からなのですが、固定したくても固定できない壁というのもあります。
例えば集合住宅の共有部分の壁だったりすると、住んでいる方の一存では決められない部分もあります。
(そういう場合は、壁には固定せずに床や天井など固定可能な場所で固定したり、まったく難しい場合(集合住宅の床壁天井すべてが躯体構造の場合など)は固定せずに突っ張って押さえたりするなどで固定できる方法を考えるようにしています。)
そうなると、例えば壁につけて宙に浮いているように見せたい吊戸棚などは浮いていなくても軽快でスッキリした印象が出せるような工夫をしたりする必要があります。
このように考えていくと、(またいつものような答えにまとまってしまうのですが)一概にこういう場合は置き家具が良い、こういう場合は造り付けがベスト、と言った明快な答えはなく、そこに暮らす人が自分の暮らしの過ごす時間を今からこの先どのようにしていきたいかを考えることで、形はおのずと見えてくると思います。
その人にとってその形が見えるようなお手伝いをずっとできたらよいなあと思っているのです。