温い白い花
「グレイジュに塗装したキャビネットとステンレスバイブレーションのアイランドキッチン」
世田谷 A様
design:Aさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:haraki tosou
「はじめまして。Aと申します。
12月にリフォームを予定しておりまして、実はすでにキッチンを決めてしまったこのタイミングで御社のキッチンに出会ってしまいました。
オーダーは諦めておりましたが、あまりに素敵なので時間的にも予算的にも厳しいかもしれませんが、お話を一度伺いたいです。
文章も写真もすてきでした。サイトの表現からていねいなお仕事ぶりとセンスが伝わってきて、お願いしたいという気持ちになりました。
現在注文しようと思っているキッチンはオーダーではなく、ごみ箱の置く位置やタオル掛けがなく、なんとなく使い勝手がしっくりこないような気がしております。ご相談の余地があるとうれしいのですが。どうぞよろしくお願いします。
キッチンの希望のイメージを勝手ながら記させていただきます。
○アイランド型
○天板:ステンレスヘアバイブレーション仕上げ
○本体:白マット(部屋が狭く木目だと圧迫感が出そうなため、キッチン本体は白にしたいです)
○コンロ:ハーマンプラスドゥ
○水栓:浄水器付き混合水栓
○シンクは右側
○前面収納はなし
○シンク下にゴミ箱を置くスペースが欲しいです
○換気扇:ステンレスであればなんでも大丈夫です
○奥行について。75から85センチで悩んでいます。横につけるテーブルの奥行が85センチなのですが、部屋が狭いのでもう少し小さくしたほうがいいか、検討したいです。
○タオル掛け:タオルをかけられるところが欲しいです
○予算:機器、取り付け、機器も含めて100万円以内におさめたく考えています。
○納入日目安:12月17日
図面がいま手元にないため、明日追ってお送りします。
よろしくお願い致します。」
このメールが届いたのが11月の初め頃でした。
納品時期を考えると、これからプランを考えなくてはいけないのにあと1ヶ月半しかないとなると、このお話は取り止めになってしまうのではないだろうか、とメールを読みながら思っておりました。(Aさん、すみません・・。)
まずは頂いたご要望の形で作るとどのくらいの金額になるのかをお知らせしました。
コストを考えるとキッチンの側面や対面に収納を設けたりすると、大きく費用が掛かってしまいそうでしたので、そのあたりを踏まえてコスト感と合わせていろいろと説明をさせて頂きました。
「イマイさま。
このたびはお世話になります。
さっそくのご返信と細やかなご対応誠にありがとうございます。
引き出しやワイヤーシェルフ、ゴミ箱スペースのことなど、的確なアドバイスも含めて素早くご提案いただけて大変助かります。
機器を別に購入するとなると、予算がオーバーしてしまうので、どこを諦めれば良いかなど、調整を相談させていただくと思いますが、お願いしたいと思います。
急なことですみませんが、お打ち合わせ、明日の15時以降でしたら、大丈夫ですがいかがでしょうか。
どうぞよろしくお願いします。」
と、さっそくお返事が届きました。
予算越えちゃってるけれど、お話進めさせて頂けるのかしら・・。
ということで、より具体的なことをお聞きしたいと思いまして、こちらにいらして頂けることになったのです。
最初にメールを頂いたのが、この日の夜中、日付が変わるかどうかという頃で、その日の9時に図面とスケッチがメールで送られてきて、取り急ぎお昼頃にお返事しまして、こちらにいらして頂ける時舞ったのがこの日の夕方。
そして、いらして下さったのが翌日の夕方、という何というスピード感あふれるお話なのでしょう。
Aさんいろいろと見ていってくださいました。
引き出しの印象や白い化粧板の表情や色、どこかにキッチンの特長となる形を取り込みたいということでその形をこの工房でいろいろと見付けたりと、予算を抑えることも打ち合わせの中で大事なお話のひとつだったのですが、何よりも楽しんでいってくれたことがうれしかったのです。
そして、現実的に予算の中に納めることが難しいのでしたが、それでもその形がきちんと自分の形になるようでしたらぜひ依頼したいというAさんの気持ちがさらにうれしかったのです。
そうして、最初の問い合わせから5日後にご依頼頂けることが決まったのでした。早い。今までで一番早いかも。
いつもなら、皆さん2ヵ月~1年くらいかけてキッチンの形を考える方が多いですから。
Aさんのほうから、工務店さんにシステムキッチンではなくオーダーキッチンを入れることを連絡して頂いて、さっそくご自宅まで伺わせて頂くことになりました。
ご主人にはまだお会いできていなかったので、ご予算越えちゃった形でもご理解いただけるとうれしいなあ。
それで、自由が丘駅からしばらく歩いて見えてきた黄色い家に辿り着きました。(今は外壁もリフォームして色がすっかりシックな色合いに変わりました。)
「お邪魔します。」
とキッチンのある2階に上がらせて頂くと、なるほど‥、けっこうコンパクトな間取りです。
食器棚が置かれる想定の壁から向かいの階段までが2570ミリ。そこに700ミリほどのキッチンを置く予定です。今まではその食器棚が置かれる壁に無あって調理作業をしていたのですが、視界が限定されてしまうからアイランドにしたい、と考えているのですが、階段があるところは通路として重要なのであまり狭くできないし、食器棚を置くのなら壁とキッチンの間もそれほど狭くできないし・・。
なかなか思い切った形になりそうだと、楽しみでもあり、Aさんの期待に応えられるか多少の不安もありました。
そのような中、奥様と打ち合わせをしている途中で階上でリモートでお仕事をされていたご主人も登場。
「私、お茶を用意するからその間はあなたがイマイさんとお話ししていて。」
と急に話を振られたご主人。
キッチンは奥様メインのお話だったので、今初めて会ったばかりのご主人も何を話そうやらと何だか可笑しくなってしまって、「いやあ、遠くからありがとうございました。」なんて急に仰々しく芝居掛かったようになってしまって、私も「いえいえそんなことはございませぬ。」なんてあやうく言いそうになってしまって、ご主人の朗らかなお人柄がそれですぐにわかったのでした。
短い時間ではありましたが、その後もお二人の掛け合いのようなお話しぶりがとても楽しそうで、見ていてうらやましくなるくらいすてきな印象だったのでした。
ご主人も全面的に奥様の要望を受け入れてくださることになり形はこれでまとまったのでした。
というタイミングで今度は細い濃紺のスーツに角がとんがった眼鏡をかけた私と同じ年くらいの男性が登場。
これまた芝居掛かったようなきりっとした表情で、「はじめまして。」と挨拶をしてくださいました。
おおよそ工務をされるように見えないモダンなお人柄のMさんが今回の工事をまとめてくださいます。。
お話を伺うとAさんとは古くから家族ぐるみのお付き合いをされていて、以前のリフォームの際も施工を担当してくれたのだそうです。そうなのですね、よろしくお願いします。
さて、形がまとまったので、さっそく制作に取り掛かります。
今回は何しろ納期が短いので、段取りよく進めなくてはいけません。
当初はサイズが2300ミリくらいで考えていたので、すべてシンプルに化粧板を使った形で作ろうと思っていたのですが、先日の打ち合わせで間取りを見ながら検討していくうちに、このサイズだと自分が思っているほど作業スペースが広く取れないことに気づいて、ダイニングスペースを少し狭くしてでもキッチン優先にしたいということで、2550ミリの長さに延ばすことにしたのです。
ですので、すべて化粧板で作る予定だったところが2400ミリを超えてしまうと化粧板の長さが足りなくなるので、つなぎ目が入ってしまう。せっかく2階に上がってきた時に一番先に目に入る部分につなぎ目があるともったいない、ということでこの部分は塗装で仕上げることにしたのです。
ですので、塗装の日数も考えるとけっこうタイトになりましたが、どうにかリフォーム工事の工程に間に合わせることができました。
で、予定していたタイミングで設置工事に入らせて頂くと、うーん、工事がなかなか時間が掛かっているようで、まだキッチンを入れるには早すぎたのでは・・、と思うくらいの内装の進み具合。さらには結構な雨が降る朝。
制作を担当したヒロセ君もフォローで参加してくれたコバヤシ君も合羽を用意してきましたが、これは大変だぞと覚悟を決めて作業開始。
なかなかコンパクトな住宅でしたので、もし階段から搬入できたらありがたいなあ、とぼんやり考えていたのはやっぱりNGで、ほとんどのものは濡れないように養生しながら足場を使って屋外から荷揚げして腰窓を経由して室内に搬入する、という一番大変な流れになって行ったのでした。
それでも、どうにか荷揚げを終えて、ぎゅうぎゅうになってしまった室内をうまく整えながら作業を始めます。
というタイミングでMさん登場。先日とは違った印象で作業着で現れててきぱき段取りを進めていきます。
なるほど、ありがたい。ありがたいけど足の踏み場がない。
それでも形はシンプルでしたので、どうにか組み上げることはできました。
「イマイさま、こんにちは。
昨日はどうもありがとうございました。搬入のタイミングで雨も降り、寒い中でしたのにお構いもできず失礼しました。
とても丁寧に作業していただいて、家の中でひときわ輝くスペースとなりました。
木の取っ手と白の優しい色合い、ついてみるまでどうなるだろうかと期待と不安が入り混じっていましたが、優しさとシャープさのバランスがとても良く、和にも洋にも合う雰囲気になったと思います。塗装して頂いた面もとてもきれいで、イマイさんの言っていたお豆腐というのにうんうんと頷いてにんまりしています。家族みんなもたいへん気に入ってくれました。
ありがとうございました。」
と、Aさんからうれしいご連絡を頂きましたが、まだ大工さんの作業がしばらく残っているでしょうから、お引渡まではまだしばらく掛かりそうです。
と、ここでAさんからあらためてお便りをいただきました。
「イマイさま。
もったいなくて使えないと思いつつ恐る恐る使い始めてみています。早速油が跳ねたり、ストウブ鍋を洗った後に傷がついたりしていますが、馴染んでいくとのこと。ほっとしつつも、大らかに使っていこうと思います。おすすめのお手入れも試してみますね。
また、養生の緩衝材をお送りいただけるとのこと、お手数をお掛けしてすみません。うちの構造の問題があちこちに生じて工事が延びてしまっています。が、キッチンは使い始めていますので、養生で守れるのが助かります。明日受け取らせていただきますね。
最終的なリフォームの完成は1月半ばになると思います。今井さんがお見えになるころにはキッチンにも慣れて、使いこなしているようになっていたいなと思います。
あらためてこのたびはありがとうございました。」
なるほど、いろいろ工事が大変な部分があるのですね。でもあの状況でキッチンだけは使われ始めているというのはなんだか不思議な感覚。この空間がどんな印象で仕上がるかな・・。
と思っていたら、あっという間に1,2か月が過ぎてお引渡も無事に終えられて、それからさらに半年くらいが経った頃に、当初は大工さんにシンプルな棚を造作して頂くか、市販のものを使うと考えていたキッチン背面の食器棚をやはり私たちに相談したい、と連絡をくださったのです。
たしかにキッチン後ろのあの場所は結構狭いから市販のサイズだとなかなか合わせづらいし、大工さんのシンプルな形も家具のように細かく作りづらい部分があるから難しいのかもしれませんね。
ということで、できあがったキッチンとその空間もぜひ見て見たかったので、お邪魔させて頂きました。
おお。白い空間にグレイジュのキッチンが白い花のように佇む姿がとても美しいです。
と、うれしくなったところでまずはご主人がうっかり洗濯物干しをぶつけてしまった・・というところを何となくパテで凹みを埋めて。
そしてさっそく打ち合わせです。
間取り上、キッチンの背面も手前もあまりスペースが取れないところをどうしようかと。
手前は階段を行き来したり、奥の洗面室に行ったりと生活動線で一番大事なところでしたので、こちら側に作ってこれ以上通路が狭くなるのは現実的に難しそうです。
そうなると、背面かなあ。
奥様はキッチンの背面に小さな収納がある空間を憧れていて、またお鍋やフライパンなどを仮置きできる場所を希望していたのでした。
ただ、キッチン背面のスペースがキッチンから壁まで1070ミリくらいしかないのです。
ここに仮に奥行350ミリくらいの収納を作っちゃうと、キッチンスペースがちょっと狭くなっちゃう。
「イマイさん、でもいいの。ここは私一人で使えればよいのですから。」と奥様はおっしゃいます。
と、そのタイミングで、「ちょっと洗濯物片づけちゃおうかと・・。」と、上の階からこの2階にいらしてくださったご主人。
「ちょっと、あなたの意見が大事なんだから一緒に考えて。(笑)」と奥様の言葉で、照れ笑いで頭を欠きながらご主人もいらして下さって一緒に打ち合わせに参加して下さることに。
で、この時間がとても楽しかったのでした。
奥様の収納を作りたい気持ちと、「ほら、ここに作るとみんなが冷蔵庫に行く時にわざわざ遠回りしなくちゃいけなくなっちゃうじゃない。場所を変えたほうが良いんじゃないのかなあ。」と優しく促すご主人とのやり取りの様子がとても優しくて、意見がまったく分かれているのに終始楽しそうにしていらっしゃる様子を見て、すてきなご家族なのだろうなあと、うらやましくなったのでした。
結局お話はまとまらなかったのですが、いろいろな形に気づくことができたのは、とても良い打ち合わせだったと思います。
私自身はキッチンの様子が見られてそれだけで満足。
汗をかきながらやって来た甲斐がありました。
私自身実用的な方向に形を考えてしまうことが多いのですが、奥様の空間が少し不便になるような狭さになっても全体的なバランスの心地良さを大事にする気持ちもとても勉強になりました。
ご家族皆さんが何を大事にして暮らしてゆきたいか。それが一番のポイントですね。
またご意見がまとまりましたらお声掛け頂けるのを楽しみにしています。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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キッチン側扉・前板 | カラーフィットポリ「RK-6006」 |
側面・リビング側バックパネル | ウレタン塗りつぶし塗装 |
本体外側 | カラーフィットポリ「RK-6006」 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
グレイジュに塗装したキャビネットとステンレスバイブレーションのアイランドキッチン
価格:900,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は140,000円から)