夢見たほんわかしたキッチン
「ナラ板目の食器棚とパントリーと対面カウンター下収納の制作」
横須賀 H様
design:Hさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:daisuke hirose
キッチンのカタログのお申し込みを頂いたのがHさんからの最初のメールでした。
ちょうどコロナウイルスのことは取り上げられ始めた時期でもありましたね。
「はじめまして、Hと申します。
今バンコクに住んでまして、出産のため実家に戻っています。
お料理やもの作りが大好きで、台所の空間が大好きです。家を購入する際はイマイさまにあたたかい木とタイルの台所をお願いしたいなぁと夢みてました。
物件をこれから探す予定ですが建て売りの物件でも、お願いできるのでしょうか?
キッチンのカタログを希望します。どうぞよろしくお願いいたします。」
とてもうれしいメールを頂きました。
ただ、建売住宅にオーダーキッチンを入れるのはなかなか難しいかもしれないので、まずはお返事を送らせて頂きました。
「建売住宅にお住まいになられる場合でキッチンを作りたいという場合は、おそらくお引渡し後にあらかじめついているキッチンを撤去して、リフォームしてキッチンを入れ替えることになってしまうと思いますので、なかなかハードルが高いかもしれません。
食器棚などのオーダー家具でしたら、特に問題なく後から制作して設置することができます。」
と、あまり前向きなお話ができなくてすみません、という思いでしたが、その後にうれしいお返事を頂けました。ありがとうございます。
「おはようございます。
先日はお忙しい中、素敵なカタログを送って頂きありがとうございます。頂いてから毎日育児の合間に眺めては素敵だなぁと癒され元気を頂きながら読ませて頂きました。
まだいつかは決まっていませんが、そのときは是非お願いしたいと思っています。」
「うれしい感想をありがとうございます。
これから、家の建てるかどうか考えていくのですね。いろいろと悩まれることもあると思いますが楽しい時間ですね。
私は昨年家を建てたのですが、それまで家を作ろうと思ったことは全くなかったのでした。
学校が近かったマンション住まいでしたので、次女が中学卒業するあと5年くらいはそこに住むつもりでずっと考えていたのです。
それが、目の前に大きな集合住宅が建ち始めたり、駅前が開発されて道路が混雑してきたりと少しずつのんびりした環境が変わり始めたりしていたのですが、自分の中ではまだ家のことなんて考えていなかったのに、ある冬に手に入れた1冊の本を読んでいて、そこに出ている庭の様子を見て、「ああもうこれは家を作りたい。」と決めてしまったのです。
妻は、もうそういうのならみんなで頑張りましょう、とみんなで気持ちが重なって一気に家作りのお話が進んでいきました。
おもしろいですね。そういうタイミングって、いろいろな巡り会わせがあるのだなあって。
何かありましたらいつでも気軽にご相談くださいね。」
このようなやり取りをさせて頂いて、いつかそのうちご相談頂けたら良いなあなんて思って、その次にご連絡くださったのが、1年半後でしたね。
あらためてメールをくださった時は、すっかりHさんの最初のメールが頭から抜けてしまっていて、うっかり「はじめまして。」なんて答えてしまいました。いけませんね・・。
「こんにちは。
以前メールさせていただいたことがありますHと申します。
今新居を探しているところです。
本当はキッチンとボードをお願いしたいとずっと思っていたのですが、期日だったり建て売りの可能性もあり可能な限りお願いしたいなと思っています。
例えばなんですが、今検討している建て売り物件(1月完成予定)だとパントリーなどの収納がほぼなく・・・キッチンも狭いと思います。大切なお鍋やお皿がいっぱいで(毎年作るお味噌や梅干しなども)どこにしまおうと。
・建て売りだと、タイミングによってはキッチンもお願いすることはできますか?
・背面の壁に収納棚?を作って頂くことはできますか?また収納案を教えていただきたいです。
ものを作るのが大好きで、みんなが笑顔で集まれるようなほんわかしたキッチンが夢です。
お力をかして頂けると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。」
というメールと一緒にイメージされていらっしゃる図を送ってくださったのでした。
それから、私たちのところに打ち合わせにいらして下さいまして、いろいろとできることの可能性について内容を深めていったのでした。
建売住宅というのは家の部材や仕様がすべて計画されてしまっている住宅なわけなので、ここにオーダーキッチンを導入できるかというと、過去の経験から考えますとかなり難しいことが多いです。
建売住宅に限らず、注文住宅でも導入は難しいと言われることもあって、そのたびになぜなのかをお客様が建築会社さんに尋ねると、その家に対する補償ができなくなってしまうのです、と言われることが多かったでした。
こういう条件で、こういう形でできあがったものに対してアフターメンテナンスの補償ができるので、その規格から外れてしまうと補償できる根拠が揺らいでしまうというわけなのです。
なるほど・・、たしかにそういう理由でしたら納得できるのですが、「それなら将来的に掛かるメンテナンスの費用については有料になっても良いので、キッチンだけオーダーのものを入れても良いでしょうか。」と聞いてくださったお客様も過去にいらっしゃったのですが、やっぱり駄目だったのでした。
なぜかと聞くと、何だか難しい理由と共に責任の所在が曖昧になってしまうという言葉が出てきました。
所在が曖昧になるってよく聞くのですが、今までキッチンを設置させて頂いた時にお世話になった工務店さんのようにきちんと区分けして行なえば問題がなさそうなのですが、なるほど難しいのですね・・。
それでもどうにかして自分の気に入ったキッチンを導入したいと切々と担当者さんにお話を重ねたお客様もいらっしゃいましたが、最後はそのような場合は、標準のキッチン撤去費用とそのオーダーキッチン導入に当たっての再プランニング費用、管理費用云々がどうやらこうやら・・とモゴモゴと話が続いてキリが無くなって諦められる方々を今まで何度も見聞きしてきました。
注文住宅でもこういうケースがありましたので、建売住宅となると最初からまず突っぱねられちゃうことばかりでしたのであまり良い印象を持っていなかったのです。
そのようなわけで、どの程度家具を作り込んでいくことができるかの判断は、ご新居がある程度できあがるまで、もしくは完成するまで待つ形にするのが良いと思っておりました。
ただ、もしかしたら少しは柔軟なお答えが建築会社さんから頂ける可能性があるかも、と思えたのが、Hさんの場合はまだ建築が始まっていなくて、古家が建っている状態で、これから取り壊して家を建てるという状況だったのです。
それなら、例えば、不要な部材は最初から取り付けないようにしたりとある程度柔軟に対応してもらえるかもしれませんね、なんてHさんとお話をしておりました。
と思っていたのですが、そこは建売住宅ですので、結果としてはやはり難しく規格通りの家ができあがるのを待つしかなかったのでした。
そこで今回はできあがった状態のものに作り込んでいくことで不自然にならないような工夫の見せどころとなった部分がたくさん出てきたのです。
工夫その1。
まずはカウンター下の収納のデザインのあり方です。
食器棚とその隣にパントリー代わりになるシンプルな戸棚とキッチン対面のカウンター下収納を作らせて頂くことになったのですが、打ち合わせをしていく中で、その対面カウンター下収納とキッチンの雰囲気をまとめることもできますよというお話をさせて頂いたのでした。
具体的には、システムキッチンの周りを囲うことで、木で作るオーダーキッチンのような印象に見せることができるのです、というお話をさせて頂いたのでした。
以前にもそのような形で整えたお客様が多くいらっしゃいましたので、その事例を見て頂いてリビングダイニングから見る時の印象が同じ樹種でまとまったら心地良いですね、というお話をさせて頂いたのでした。
例えばこちらの皆さまのような感じです。
○「あたらしい形」港北 H様
○「整えて」大倉山 T様
○「おばさま」町田 I様
○「響く声」八王子 Y様
○「おとうさん」茅ケ崎 W様
○「ロックなあなた」横浜 N様
○「学び家」浦和 S様
こうしてキッチンを囲うだけでリビングダイニングから見る印象がこれほど変わるのです。
この時のポイントは、特にキッチンの色とは合わせていないことです。
食器棚の表面をキッチンに合わせるほうがキッチンに立った時にまとまると思えたりするのですが、私は以前にもどこかに書いたと思いますが、キッチンで見る印象よりリビングダイニングから見る印象に合わせることのほうがメリットが多いように思うのです。
続いての工夫その2は対面カウンターの納め方でした。
カウンター下収納を食器棚に合わせて作ることで印象はまとまるのですが、対面カウンターが別の素材のままよりは素材が合わせられたら良いなというお話が出ていたのです。
そのカウンターですが、Hさんのお宅では標準で白い対面カウンターがつくのですが、この打ち合わせをしている時点ではキッチン周りの腰壁を立てるのはもう少し先のことだったので、今のうちに建築会社さんに相談しておけば白いカウンターを無駄にせずに取り付けないまま引渡してもらえるのではと思っていたのです。
が、残念ながらダメだでした。標準仕様のものがついていないと、完了検査が受けられないということで。
世の中の仕組みは難しいのでした・・。
そういうわけで、この部分をナラでできたカウンターに見せるために、白いカウンターの上からナラのカウンターを被せる形にしたのです。
こうするとけっこう厚いカウンターになってしまいそうだったので、厚みを調整しやすくするために、また、白いカウンターが無ければ無垢材を使うこともできたかもしれないのですが、今回のようなL型のカウンターで無垢を使うとなかなか動きが読めない、ということで、突板を使って作ることにしたのでした。
そして、工夫その3がシステムキッチンのお化粧直しでした。
Hさんとはカウンター下収納の印象を食器棚と揃えることのメリットなどをお話ししている時にそれに合わせてシステムキッチンの表面材も食器棚やカウンター下の収納に合わせた素材に交換すると、全体的に印象がまとまって見えるというお話をさせて頂きましたら、最初はオーダーキッチンを入れたいって熱望していたこともあって、Hさん、ぜひそれも一緒にお願いしたいです!とうれしそうにおっしゃってくださったのでした。
新築なのに使ってもいないものを変えてしまうのはもったいないという思いもあるのですが、この場所で長く時間を過ごすご本人にとって何か心地良いのかを考えると、交換することが当たり前のように思えていったのです。
Hさん、いずれはここをお菓子を作るアトリエを兼ねたような使い方にしたい、とおっしゃっていたので、ここにいる時間はなおさら大切なものになっていきますから。
そして工夫その4として、なかなか大変だったパントリー部分の造作があります。
この場所は、元々はただの可動棚がついているだけのスペースだったのですが、壁に直についているダボレールも目立つことと、食器棚やカウンター下収納を作り込んでいくと、かえってこの場所が目立ってしまうことが予想されました。
白い棚板をナラの棚板に交換するだけでもだいぶ印象は変わりますが、なるべく物が隠して置けるようなパントリーが必要というお話も出ていましたので扉をつけてきちんと作り込みましょうということになったのでした。
そこで、ただ、扉をつけるだけでも良かったのですが、他の家具と同じように扉のデザインがよりまとまった印象に見せられたら良いな、ということと、このパントリーがキッチンへの通り道になる場所で開き扉にすると開け閉めの時に邪魔になる可能性も考えて実現したのがこの引き戸の形でした。
なおかつ、ただ収納として作るのではなく、白くて目立ってしまう袖壁も隠してしまおうという試みになったのです。
ですので、袖壁部分がネックになるので工房で四角く箱状にして作って持って行くことができなくて、パーツごとに仕上げて搬入して現場で組み立てるというなかなか工夫が必要な納まりだったのです。
それでもこうして、きれいに納まりまして、納まってしまうと工夫に苦労した部分も分かりづらくなってしまうのがうれしいようでちょっと淋しい。
2日間かけて大がかりに工事をさせて頂きまして、こうしてすべてがきちんとその場所に、すべてそうなることが予定されていたようにしっくり納まりました。
そして、Hさんにも大変喜んで頂けました。
「イマイ様
お世話になってます。
先日は遅くまで作業していただいて本当にありがとうございました。
魔法がかかったみたいにキッチンが素敵な家具に囲まれ幸せです。
角の優しい丸みや隅々まで木の木目が流れていたり感動だらけです。今井さんの家具はやさしい空気が流れていて私まであたたかな気持ちでキッチンにたっています。10年越しの夢が叶って本当に嬉しいです。
毎日幸せな気持ちで使わせて頂いてます。大切に使わせて頂きます。
心から感謝致します。
丁寧に作業していただいたノガミさんヒロセさんコバヤシさん(お名前違っていたら申し訳ありません)にもよろしくお伝え下さい。
次回お会いできるときを楽しみにしています。長文になり申し訳ありません。」
と、とても温かなうれしいお便りを頂いたのでした。
後日、Hさんのお宅にお伺いしていろいろとお話をお聞きしますと、私たちのことは、以前私たちでキッチンを作らせて頂いた「その日まで」の辻堂のSさんが当時開催していたお料理教室で私たちのキッチンを知ってくださったのだそうです。
そのSさん、今では辻堂でカフェ「キッサコ」を開いていらっしゃって、久しぶりにSさんのことを聞いて、皆さんとはいろいろなところでつながっているのですね、とその言葉を聞いて、静かにうれしくなったのでした。
コーリアンとナラ板目の食器棚
価格:740,000円(制作費・塗装費)
ナラ板目のパントリー改装
価格:190,000円(制作費・塗装費)
ナラ板目の対面カウンターとカウンター下収納
価格:690,000円(制作費・塗装費)
システムキッチンの面材交換
価格:190,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は70,000円から、取付施工費は180,000円から)