文末カラー

「タモ板目とデスク付きサイドボード」

磯子 T様

design:Tさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:hideaki kawakami
painting:daisuke hirose

タモの少しアンティークな印象のデスク付きベッドサイドボード
全体の印象。もともとは古いこげ茶色の整理タンスとシンプルな白いデスクが置かれている場所でした。ここをきれいに整理してまとめたいというのが今回のTさんのご要望でした。
タモの少しアンティークな印象のデスク付きベッドサイドボード
ほど良く日焼けして飴色になりつつあるメープルのフローリングとシナ合板の建具という明るい寝室。もともと持っていた整理ダンスはこげ茶色のつやのあるウレタン塗装の懐かしい印象でした。そこで今回制作するならば明るい色にしたいという思いがTさんにありました。ただ素地の色のままでは若々しすぎるので、もう少し工夫した色にしたいというところでありました。お話変わりますが、今回オーディオを置くためのボードでもありまして、そのためのマルチメディアコンセントがちょうどこの家具の奥の右下にありまして、そこから電源を確保したのですが、なるべくケーブルが這う様子を隠したい、ということで、背板を手前に付加して配線経路を確保して、普段はレコードを置くスペースになっているのです。

「フリーハンドイマイさま。
初めまして、横浜市磯子区に住むTと申します。
寝室の家具(洋服タンス+テーブル+オーディオラック)をフルオーダーで作成願いたくメールいたしました。
どのような手順で進めるのがよろしいかしら?
家具のおおよそのイメージというか具体的なオーダーはできていますが、あまりにも限定してしまうのも、、、と思い。
ご相談させてくださいませ。」

とTさんからメールを頂きました。

ベッドサイドボードのスケッチ
Tさんから頂いたファーストプラン。折り畳みデスクというデザインはこの時からありました。これをうまく使いやすく、使い続けやすくするためにはどうするかが一つのテーマでもありました。

「あまりに限定してしまうのも」というところがちょっと難しそうな感じだなあと思いながらも、「よろしいかしら」と文末に書かれているのを耳に聞いたときに、面白くなるかもしれないなあとも思ったものでした。
ただ、私の家具作りの方法としては、あまり自分の形を押し付けたくない(なんていうとつたない提案ばかりが偉そうにと思ってしまいます)わけでして、というか形を作るための手がかりになるようなきっかけが欲しいものですので、まずは皆さまからなるべく具体的なイメージを教えて頂くことにしております。

サイドボード端部の納まりの様子
今回の形のポイントの一つである側板の小口の印象。半円に面取りして、角を留で納めることで、優しい印象だけれどもきちんとエッジが出た形にすることができました。この丸みのあるデザインは最初はロの字型にして、地板の小口もあらわそうか悩んだのですが、Tさんの希望で今回は門型のデザインにしています。

余談ですが、先日もテレビで東京都庁を設計した丹下健三さんの特集を見ていたのですが、あの2本の巨大な塔の意匠は、ゴシック建築の代表であるノートルダムの鐘塔を引用しつつ、ガラスの配置は古来の格子の形を引用したというお話をされていて、あの建築ができた当時の私は、「おお、ボルテスVの足のようだ・・。」なんて子供じみて思っていたのですが、そのような引用がいかに深い思いを持ってなされていたのかを、ナレーターの方がお話しされているのを見て、やはり形には理由があるのだよね、と「白岳 しろ」を片手にうんうんうなずいておりました・・。

引き出し内部の様子
引き出しの中は主にご主人と奥様の衣類収納です。
掘り込み手掛けのディテール
久しぶりに手掛けのアップ。これはツバのない手掛け。下面はツバのある手掛けのデザインになっています。

そのようにTさんにはお伝えしまして数日、とても丁寧な図をお送りいただいたのでした。
とても分かりやすい、けれどもちょっと難しそう、というのが正直な感想でした。
作り自体はそれほど複雑なものではないので問題はないのですが、その機能的な形を作ることで、果たしてずっとその形のまま使っていくことができるだろうか、という思いがあったのです。

タモの少しアンティークな印象のデスク付きベッドサイドボード
今回の形の要であるデスク部分。

私はもともと父が始めたこの工房を継いできたのですが、入社当時は、変わった形のお店の家具ばかりを作っていたのでした。
それからだんだんと住宅の家具を手掛ける機会が増えてきたのですが、シンプルな形というよりはちょっと個性的な形の家具も多かったのです。
特に男性が考える家具は、なかなか機構に凝っていて、「ここをこうするとこういう風にも使える」「これを外せるようにしておいて、こちらまで持ってきて使うこともできる」「将来的にこういう風にしておくことで分けて使える」というように形が複雑になっていくこともありました。
反対に、「ここはこれしかしまわないから、あのサイズプラス5ミリで大丈夫」などギリギリのかたち(というのでしょうか)を求めるかたもいらっしゃいました。
それでその家具はどうなるかというと、もちろんそのまま機能的に使ってくださっている形も多いのですが、半分近くは当初の使い方から変わってしまっていたり、可動式にしていた部分は動かすことなく使われていることが多かったりします。
やっぱりね、動いたり、合体したりって楽しいんですよ。
ボルテスVの合体シーンなんで子供心に毎回見るたびにワクワクしていましたからね。
そうか、ここが首の付け根になるのか、胴体はくるっと回って後部から腕と合体するのかー、なんて。

だから、形を考えているときってすごくワクワクするのですが、実際にそれを使い続けるかどうかはまた別なのだなあと、この仕事で30年近く経てきた自分にはそう思えるのです。
Tさんのイメージにも折り畳み式のデスクがありました。
この部分がどうかなあ、と思っていたのでありました・・。
そのうえで、まずはその形のまま制作するとどのくらいの金額になるのかをお伝えしたのでした。

タモの少しアンティークな印象のデスク付きベッドサイドボード
結局、当初の案で椅子をしまえるようにと考えていた部分は、レコードを置くスペースに変わったのでこのような小ぶりな椅子を部屋の隅に置いて、この場所だけではなく多目的に使える椅子として置いておくことになったのでした。

「イマイさま
おはようございます。ご回答ありがとうございます。
そうですね、家全体が明るいので(建具関係もフラッシュ仕上げ)濃い目といってもお値段と相まって抑え目にしたいな、と考えています。
ちなみに、お送りした私のオーダー画はあくまでもこちらの『希望』ですので、今井さまのアイデアや家族(妻)の意見も聞きながらと思っています。
また、申し訳ないことですが(まだ詳しくは決めてはいないんですが)他社家具制作屋さんでもご提案頂ければ、、、と思っています。
まずはメールでのやり取りで進めさせて頂きご依頼が決まったところで上記の今井さまのアイデアなど本格的な対面式でのお話し合いが良いかしら?」

折り畳みデスクに使用した真鍮丁番
折り畳みデスクの丁番は、真鍮製で開けた時と閉じている時のどちらもフラットなおさまりになる丁番にしています。
折り畳みデスクに使用した真鍮丁番
開けたときはこのような感じ。この丁番はとても美しく使いやすいのですが、構造上軸が2本あるので、開け閉めに多少クセがあります。慣れてしまえば問題ないので今回は美しさ優先。

「T様
フリーハンドイマイの今井大輔です。
お世話になります。
さっそくのご連絡ありがとうございます。
制作に掛かる費用や減額の内容については昨日までにお伝えした範囲で、それ以上の大きな増減はあまり出ないと思われますので、あとは細かい具体的なご要望をお伺いしながら、T様の希望する形に近づけられるように努めたいと考えております。
いつもは私のほうからアイデアを出したり、デザインを考えたりするということはなくて、皆さんのご要望をお伺いしましてから、その内容が整うようにまとめていく、という方法で形を作って言っております。
そこで、T様のおっしゃいますようにまずはメールで細かいご要望(*)を頂けたら、その内容をまとめながらどのような形でどのくらいの金額になるかをあらためてお伝えしたいと思います。

*たとえば、
・先日の写真のように縁を見せるデザインにしたい、その縁は丸めたい、もしくは斜め内側に傾斜しているようにしたい ・取っ手は木製ではなく、金属が良い
・脚はやはりデザイン的につけたくて、角ばった形よりも丸い脚が良い、脚の高さはロボット掃除機が入るくらいの○○センチが良い
・タンスの大きさと搬入経路を考えると分割して作ってほしい

などなど、具体的なご要望を頂ければと思います。
そのご要望をまとめ直して形でご依頼頂けます場合は、直接お会いしてお話をお伺いしながら形を決めてゆく進め方が良いかと考えております。
もしくは、昨日までにお伝えした金額の範囲でご依頼頂けます場合で、メールのやり取りだと時間が掛かってしまうので、直接お話しながら決めてゆきたいということでしたら、この私たちのショールーム、もしくはT様のご自宅にお伺いして打ち合わせすることも可能ですので、お申し付けください。
また、他の家具屋さんと比較して頂くことは、その形を作るうえでの適正な金額を知るとても良い機会だと思いますので、遠慮なくお話を進めて頂ければと思います。
それでは、ご検討くださいますようよろしくお願い致します。」

ということで、時間をとって考えてくださることになりました。

折り畳みデスクを全開した様子
開いた天板は下の引き出しが受けてくれる構造。
折り畳みデスク下の引き出し
その下の引き出しの様子。ここはデスクとして使うときのものが収納されます。

それから3か月後、Tさんがこちらにいらして頂けることになりました。
いらしてくださったときのことはもう事細かには覚えていないのですが、Tさんを一目見た印象はとても包容力のある方のように思えて(私の思う包容力のある人というのは兄や姉のような印象を抱かせてくださる人のことを言うのです。兄も姉もいませんが)、なんというか思いをそのまま伝えてしまってよいという気がして、先ほど書いたような思いはひと通りお伝えしたような気がします。
Tさんもかえってその素朴な印象に好感を持ってくださったのか、そのままご依頼頂けることになったのでした。
でき上った形は、ほぼこの時にお話ししたないようそのままでしたが、色の見せ方、引き出しの深さなどは、その後細かく打ち合わせをさせて頂いて、ご自宅にお伺いするときに最終決定しましょう、ということになったのでした。

折り畳みデスクを全開した様子
横から見た感じ。ちなみに今回は引き出しの底につけるソフトクローズタイプのレールではなく、昔からある側板につける一般的なベアリングレールを採用しています。コストダウンということもあるのですが、底付けすると底上げしないといけないため、収納量が減ってしまうということもあり、「食器棚のような繊細さはいらないので、ゆっくり閉まらなくて大丈夫です。」というTさんのご要望でこのレールを採用しています。

さて、Tさんの住む磯子の土地、私にはどこかなじみ深く、この近くの馬の博物館には昔のお仕事でしょっちゅう出入りしていましたので、この丘陵地帯がなつかしかったのでした。
駅に降りて、Tさんに「ちょっと分かりづらいところに建っております。」と言われていた通りに、たしかに通り過ぎそうになりながら、急な坂道を登っていくとふと開けたところに少しモダンな戸建て住宅が建っていてそこがTさんのご自宅でした。
なるほど。
しかし、ここに来るまでには人しか通れないほどの道ばかりだったぞ、どうしようか・・。

そんな不安な思いを抱えて、さっそく現地確認。
おや、どこか懐かしい仕上がりの室内です。
採寸を終えて、お茶を頂きながらお話を伺うと、この家は中村弘文さんのお弟子さんが建てられた家だそうで、建具のおさまりやキッチンのおさまりなどがすべて見たことのある優しい質感でできていたのでした。
(むかし、建築設計の仕事をしている友人の福原さんの住まいが好文さんの建てた戸建て住宅の一角でしたので、このおさまりは懐かしかったのでした。)
なるほど、この家に家具を置かせて頂けるのは光栄だなあ。
そんなうれしい気持ちで帰ってきたのですが、相変わらず搬入のことが頭に引っかかっておりました。
帰り際にTさんが「こちらからはある程度車で近づけますので。」と案内していただいたルートも少しは距離がありそうですが、頑張りましょう。

折り畳みデスクを全開した様子
実際に使用している様子をTさんが送ってくださいました。

形がまとまりましていよいよ制作に取り掛かるのですが、今回は形の複雑さは軽減されましたが、机のちょっとだけ複雑な機構や追加でご相談いただいたアンプケースなど変わった内容もありましたので、段取りよく進めていきます。
それとは別に難しい部分がもう一つありまして、それが塗装の色です。
最近は着色することが少なくなり、その樹種本来の色のままで仕上げるクリア色での仕上げが多くなってきましたが、やはりお部屋の印象が好きな家具の印象に合わせた色にされたい、という声も少なからずあります。
Tさんもブラックウォールナットの色が抜けてチークの色に近づいたような明るめの色を希望されていました。
ただ、ここでブラックウォールナットを使うと、使い始めてしばらくは重厚感のある色のままになってしまいますし、チークを使うとかなりの高額になってしまう。
そこで木目重視というよりも色味重視ということで、比較的コストを抑えられるタモ材を使って色を入れましょう、ということになったのでした。
ただ、オイルでチークのような(しかもヨーロピアンチークのような)赤みのあるチークの色になるオイル塗料は少ないのです。
そのまま塗ると派手になっちゃうことが多かったりして。
そこで、今回は、下塗り、中塗り、上塗りで色を変えながら、また拭き取りの具合も調子を見ながら、この色に仕上げていったのでした。
その色もTさんに気に入ってもらえましたので、ほっとしたのです。

折り畳みデスクがたたまれているときの内部の様子
こちらは折り畳み天板の様子。収納されているときはこのような感じ。端っこの角材が天板をフラットにして、且つ天板を受ける引き出しが引っ込まないようなストッパーになっています。
デスク天板が開いているときの内部の様子
天板を引き出しているときはこのような感じ。ここも背板を付加していて奥の配線穴から電源が取れるようにしていて、さらにはコンセントも増やしています。天板委も同じく配線穴とコンセントを設置しています。

さて、心配だった納品ですが、その日は私は予定が入ってしまっていて立ち会えなかったのですが、みんなには「歩くよ、けっこう歩くよ。場合によっては荷揚げもするよ。」と事前に強く伝えていたおかげが、戻ってきたノガミ君からは「時間はかかっちゃいましたけれど、Tさんが搬入の先導をしてくれたり、お昼ご飯をご用意くださったりといろいろご準備してくださいましたおかげで順調に納まりました。」ということでさらに胸をなでおろすることができたのでした。

Tさん、今回は魅力的な形を作らせて頂くことできました。ありがとうございました。

オリジナルアンプケース
このアンプに被さっている黒いケースも今回作らせて頂いたもの。もともと組み込むタイプのアンプのようで上や側面のメカ部分がむき出しになるのでそれをきれいにカバーしたいということでした。
オリジナルアンプケース
鋼板で作って黒くメラミン焼付塗装で仕上げているのですが、もしも経年変化で足元の素地が出てしまって、木と触れて鉄焼けになるとよくないということで、タモの角材を加工した脚をつけています。

タモ板目とデスク付きサイドボード

価格:710,000円(制作費・塗装費)

 

*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は20,000円から、取付施工費は30,000円から)

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