Sさんご家族と猫の暮らす壁面収納を制作して:スタッフノガミ君の制作日記
2023.08.03
少し前に『建築知識』という雑誌に自分が担当した家具が掲載されました。
その家具は壁一面に納める猫ちゃんの為の大きな家具でした。
僕らが造らせて頂く家具はすべてオーダーですので、それぞれの家具にひとつ以上は見せ場といえるポイントがあります。
ポイントといってもそれはデザインであったり、お客様のこだわりであったり様々です。
例えば、分かれている扉でも木目が全て繋がっていて俯瞰でみると美しい家具であったり、量販店では見られない特殊な収納や加工であったりします。
頂いた図面を読み解いていくと、S様の家具はどこを切り取ってもその家具の主役になれるほどのポイントばかりでした。
写真を見て頂けたらわかると思いますが、色々な仕掛けが詰まっているとても大きな家具でした。
僕たちの会社では図面をもらったらまずある程度目を通してから社長と打合わせをします。(社長が全ての図面を書いています)
打合せでは家具の詳細や設置する場所の様子、細かい収まりを聞いて造り方などを相談します。
打合せが終わると自分の作業台に戻り「木取表」というものを書きます。
僕らの会社でいう「木取表」とは家具図面とは別の分解図のようなものです。
具体的にはパネルや扉、引出しなどをどういう構造や材料で作るかを書いたり、突板ベニヤの切り分け方などを書きます。
製作担当者が家具のパーツを必要な材料・作り方・組立て方法・運搬、搬入方法・設置の仕方などを考えながら書いていきます。
家具をパズルに例えると、そのパズルのピースを考えていく作業です。
ちなみに木取表を書いている他の家具屋さんはあまり多くないようです。
僕らはの会社はオーダーメイドですので基本的には同じ物は造りません。
ですが数年後に家具のメンテナンスで伺う事もありますし、ありがたいことに過去の製作事例を参考に注文して下さる方もいます。
ですので僕らは製作前の準備として、材料のロスを無くすため、製作の詳細をデータとして残しておく為に木取表を書いています。
まず考え方としてこの家具を5ブロックに分けました。
「階段型収納」「小屋ベンチ」「スロープ」「下の段の収納部分」そして「登り棒」という感じです。
色々な要素が詰まっていて大きな家具ですから全部を一気に考えてしまうと難しく思えますが、ジョイント部分だけ決めておいてそれぞれを造るというふうにすると簡単に考えられます。
シンプルに考えられると作業スピードもあがりますしミスをするリスクも減らせます。
難しく思える時こそ視点を変えてシンプルにすることが大切です。
ところで家具の造り方というのは正解がなく、セオリーのやり方や昔ながらの加工方法はもちろんありますが場合によってはそのやり方は不便であったりします。
ましてや僕らが作っている家具は既製品にないオーダー家具ですので、初めて生まれる形もあります。
従来のやり方が合わないこともしばしばあります。
そういった時は今までやってきた方法をバージョンアップさせることもあればやった事のない、見た事のないその時に思いついた加工方法をやる事もよくあります。
ですので「ひらめき」や「アイデア」が家具造りで必要な事のひとつだったりします。
作り手のアイデア次第では難しい加工も簡単に、時間のかかる作業も短く出来たりします。
今回の家具でいうとスロープの坂道と踊り場のジョイント部分がまさにそのパターンでした。
壁から水平に出ている踊り場の板に角度のついた登り坂と下り坂の板がジョイントされています。
もちろん猫ちゃんが通るのでジョイント部分は頑丈でなければなりません。
接着剤を入れて圧着したいところです。
圧着するには固定しながら締めつけるクランプをいう道具を使いますが、直線的にしか締め付けられません。
角度がついているものを締め付けようとするとずれていってしまいます。
そこで当初はクランプを使わずに接着する方法としてジョイント部分を蟻溝加工にしようかと考えていました。
蟻溝加工とはジョイント部分の凹凸を△と▽にする昔からある加工方法で入れてしまえば抜けにくい特徴があります。
ですが加工が難しく時間がかかる為、他に良い方法がないか悩んでいました。
もちろん蟻溝加工がダメな訳ではありませんが、限られた時間の中で他にも特殊な加工が多い家具でしたから少しでも時短を狙いたいところです。
そこでちょうど工場の手伝いに来てもらっていた同期の小林くんに相談してみました。
すると蟻溝加工でなく通し溝にして凹凸の中に材料同士を引っ張る金具を入れたらどうか、という良いアイデアをだしてくれました。
これにすれば蟻溝加工より早く加工出来て、クランプと同じように圧着する力を加えながら接着剤で固定することが出来ます。
先程、家具造りにアイデアは必要とか偉そうに書いてしまいましたが今回のアイデアは人の知恵を借りました(笑)
いいんです。人脈も家具造りに大切なことです!
とにかく他にも色々な仕掛けがありますから、それぞれに工夫を凝らして造った家具です。
あとは猫ちゃんが気に入って遊んでくれるかが心配でしたが、後日にちゃんと遊んでくれていると聞いてとても安心しました。
猫と建築社さんのInstagramで動画がアップされています。
よかったら覗いてみてください。