Yさんのキッチンを制作して:スタッフヒロセ君の制作日記
2023.08.19
今回は一級建築士すずきのスズキさんとヤマムラさんからのご依頼で、ご実家をリノベーションされるという事でそこにキッチンと食器棚を設置すると言うご依頼でした。
キッチン、吊り戸棚共にL字型をしていて、タモの柾目突板、天板はコーリアンという人工大理石を使用しています。吊り戸棚とキッチンパネルの境目には照明が埋め込まれています。 そしてリビング側に、はみ出す様な状態で半円状の収納があるのが特徴的なキッチンです。
社長と打ち合わせをしたところ、今回はリノベーションという事でY様のお宅も多少歪みが出てきていたそうです。通常通り製作しますと壁と家具に隙間が出来てしまい、吊り戸棚のキワに仕込む照明と壁に8mm程の隙間が出来てしまう可能性があり、うまく取り付けする事が難しい上、見た目も悪くなってしまうことから、隙間として見えてきてしまうところは10mm程大きく製作し、Y様のお宅の壁にフィットする様、現場にて削り合せる事になりました。
製作する際は10mm大きく作れば良いだけの事なので難しい事はないのですが、取り付け時の事を考えると予定通りうまく取り付けられるかがとても不安になる点となりました。 そして、今回のキッチンの特徴的な部分である半円状の収納です。
扉がRになると言うことはキャビネットは勿論の事ですが、中に入る棚板や、キャビネットと床の間にある台輪、天井との境にある隙間埋めの支輪(しりん)も同じ様に半円状になります。 形としてはただ丸いだけなのですが、真っ直ぐなラインで四角い形状の物を製作するのとは異なる点が非常に多く大変な作業になりました。
箱の天板や地板、中に入っている棚に関しましては、コンパスで円を書くのと同じ様に切ります。
コンパス状の物の先に機械を取り付け半径を計り治具のベニヤを段取り、その後切りたい物にその治具のベニヤを取り付け、機械のガイドを当てなぞるように機械で切っていくと言う作業になります。
Rの形状の物は全て同じ工程かと言うとそういう訳でもなく、台輪に関しましては同じ作りをしてしまうと重くなってしまうため、骨組みを作り、強度を増すため一度ベニヤを捨て張りし、その後突板ベニヤを接着しています。
そして今回のキッチンで1番苦戦したのはRの扉でした。私達の工房でRの扉を製作しますと大変多くの時間とコストがかかってしまう為、R加工は専門の業者さんにお願いしました。しかし、1/4円までしか製作することはできないようで、吊り戸棚の扉は半円状に接着する事になりました。
ただ接着するだけですと、開閉するたびにジョイント部に僅かですが負担がかかりますので、扉の上下に同じRの櫛型の厚ベニヤを切りボンドを塗りビスどめする事により開閉時の衝撃の負担を接着面のボンドだけで吸収するのではなく、ネジと厚ベニヤに逃す様に加工しました。
そして欲しい寸法に切り回していくのですが今回は一方通行のキャスターを使い、専用治具を作り扉を慎重に切り回していきました。
切り回しが終わると1番不安に感じていた、扉に薄い突板シートを貼る作業です。 速乾性のボンドで貼り付ける事にしたので一度貼ったら容易には剥がせません。 貼り合わせる時はみんなに手を借りシワの出ないように貼り付けていきます。不安を抱えていた割りに、すんなりとうまく貼れたな、と思っていたのですが翌朝見てみると所々にシワが。ボンドの水分で突板が伸びた状態で貼り、一晩かけて水分が飛んだからでしょうか。そのシワに熱を加えてローラーで押し付け再接着したり、シワが大きいところは重ね切りをしたりと、アクシデントは有りましたが、どうにか完成させることができたのでした。
そして取り付けになるのですが、やはり現場での削り合わせの作業も多く、大変難易度の高い取り付けになりました。時間も多くかかってしまいましたが、うまく取り付けする事ができ一安心致しました。
タモの柾目がシャープでスッキリした印象なのですが、リビング側に飛び出している収納が半円状で角のラインが出ていない為か、とても柔らかな雰囲気に感じます。 またリビング側に飛び出させる事によりRの収納がキッチンとリビングとの一体感を生んでいるようにも見えました。
今回のリノベーションでは難しい点が多々有りましたが、無事取り付けまで終わり、ようやくほっと一安心することができました。 Y様、スズキさんありがとうございました。