ポーカーフェイス
「ステンレスバイブレーションとナラ節アリ材のアイランドキッチン」
目黒 M様
design:プラスチックアーキテクツ一級建築士事務所/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe
私たちが今の家で暮らし始めてから、自分たちで作ったキッチンや家具がどのように使い込まれていくかを伝えられたら良いなという思いがあって、定期的にオープンハウスを開いておりました。
ここ最近はしなくなっちゃったけれど、見たいという皆さんにはご案内しておりますのでお気軽にどうぞ。
今年(2024年)の5月で丸5年が経とうとしているので、また機会を見て開こうかしら。
その何回目かのオープンハウスの時にMさんがいらしてくださったのですが、今こうして思い返してみると思いだすのはMさんがとてもポーカーフェイスだったことですかね。(笑)
私がその時はもう一組のご夫婦とお話していたのだったと思うので、Mさんご夫婦とはほとんどお話しできず、アキコにお任せとなっていたのですが、帰り際に時間が少しできた時には細部をじっと見つめる眼差しは強かったのですが、質問などはそれほど頂かなかったように覚えております。
ご自身が建築設計のお仕事をされているということで、いろいろなお話が出るかなと思っていたので、これは気に入ってもらえなかったのではなかろうか・・、なんて思っていたのです。
オープンハウスに来られた方々全員がキッチンや家具のご依頼をくださるわけではないので、今後の暮らしの参考までに見たい、という考えだけでももちろん私たちを見てくれているのでうれしいのですが、できれば気に入ってもらえたらもっとうれしいわけですので。
えーとそのあとはそれからどのようになったかというと、すみません・・当時のメールをすでに破棄しておりまして細かい経緯は忘れてしまったのですが、お話の流れとしては、それからしばらく時間が開いたのでしたが再びご連絡を頂いたのでした。
「キッチンの制作は、予定通りイマイさんにお願いしたいと考えております。」
そういううれしいご連絡を頂きましてからは、足早に形が決まっていったのでした。
すでにキッチンの形のイメージはMさんの中で決まっていて、メールと一緒にキッチンの概要がよく分かる図を一緒に送って頂けたので、その図のとおりに実現するにはどのように作っていくかを設計していくだけで話はまとまっていったのです。
そこで、今回はMさんの形にどのような特徴があったのかをお伝えしたいと思います。
キッチンはアイランドで、壁付けの食器をしまうバックカウンターがある、という構成。
建築設計のアトリエとご両親のお住まいとがまとまったビルの中のMさんの大きな空間をアイランドキッチンが具合よく仕切ってくれています。
ステンレスバイブレーションのワークトップはフロートさせる見せ方で、台輪部分は、つま先を入れる部分だけ入り込ませて、側板は床まで下げる私も好きなデザインです。
ワークトップの厚みは15ミリで見せる作りで、その下に10ミリの目地を入れてフロートするように仕上げています。
今回のステンレスはMさんの指定で、いつもの高橋製作所さんではなく、トヨウラさんでカウンターを作ってもらっています。
おもしろいのがバイブレーションの表情の違いです。
どちらも同じように円を描くようなラインが出ているのですが、研磨の粒度が違うのでしょうね。高橋製作所さんのシルキーな表情のバイブレーション仕上げなのですが、トヨウラさんの表情はもうすこし光沢の残したダイナミックな表情。
いつもとは違うその新鮮な表情は、特に今回はナラの節のある突板を使用しているので良くあっていたのでした。
それからキッチン側の収納のレイアウトもおもしろい。
設計士さんが良く取り合う納まりとして、何かにラインを揃える、という納まりがあります。
よくあるのがガスコンロの魚焼きグリルの高さに揃えて、一番上の引き出しの深さを決めたり、シンクの深さを決めたりすることがあります。
ガスコンロのグリルの高さはメーカーに関わらず統一されていて220ミリほどなのですが、それだと1段目の引き出しが深すぎるのではないかといつも思うのです。
今回はグリルがないIHヒーターでしたので、Mさんは食洗機の操作パネルの高さに合わせてキッチンの左右端までラインを揃えたい、と希望されたのでした。
食洗機の操作パネルはメーカーによって微妙に変わってきますが、だいたい110ミリ~120ミリくらい。その高さの引き出しを作ると深さは60ミリ~70ミリ。
カトラリー類をしまうなら使いやすいですが、包丁を立ててしまったり、調理道具の形状によっては入らないものも出てきますので、このあたりは見せ方優先で使い勝手が悪くなってしまう場合もありますので、キッチンを使う人を選ぶところです。
さらには、シンクはそれほど浅くは作らないので、本来なら板で隠したいシンクの裏側が見えてきてしまいます。
そのあたりをMさんにご説明させて頂いて、それでもこのラインは通したい、という強い思いを頂きまして、今回のこの形になっています。
あとは、今回とても勉強になったのは、リビング側の引き戸の見せかた。
いつも、皆さんからのご要望が特になくて私が設計する場合は、必ず偶数枚で設計してしまうのです。その方が私たちも作りやすいし、閉まりきった姿がきれいだと思っておりましたので。
でも、こうして奇数枚の納まりを見ていると、その美しさがよく分かりまして、こういう納まりでもよいのだなとあらためて勉強になったのでした。
また、引き戸の手掛けも私の好きな形でしたが、バックカウンターの引き出しの手掛けは、Mさんが考えたとても美しい形。美しい半面、シンプルなだけに作るのはなかなか難しかったりしたのです。
そして、レンジフード。
今回、機種の選定はMさんにお任せしておりまして、レンジフードの設置も工務店さんが行なってくださったので、こうしてあらためて拝見させて頂くまでどのような機種にされたのか知らなかったのですが、今回採用した機種はIHヒーター専用の室内循環用のレンジフード。
よく欧米の映画などでキッチンが映ると見かけたことがあって不思議だなあって思っていたのですが、空気清浄機のような感じなのですね。
私自身採用したことはなかったのですが、排気ルートを確保する必要がないというのはとてもメリットが大きいような気がします。
ちょっと変わったレンジフードというと、以前に設計事務所さんからのご相談で、テーブルベンチレーションという、キッチンの下に格納されるタイプのレンジフードを設置したことがありました。
設置後にダクトの接続などを工務店さんにお願いしていたら、動作確認の際に隙間に紙が入り込んでしまって取るのに大変苦労されていたことや、フードが格納される部分はシロッコファンを収納しておかないといけないので、調理道具などがしまえなかったりして、見た目は美しくても、長く使っているには良いものなのか疑問に思ったことがありましたが、こういう循環型ならば汎用性がありそうに思えます。
こういうひとつずつの要素が混じりあって美しい形となりました。
さていよいよ取付です。
現場は目黒通りから一本入った通り沿いで、このあたりは懐かしい。
●猫との暮らしを夢見て家具を作らせて頂いた翻訳家のKさんの家があったり「猫との暮らしはこれから」
●お嬢さんの結婚記念のタンスを作らせて頂いたのをきっかけにそのお嬢さんご家族の新居に食器棚を作らせて頂いたというEさんの家があったり「お待ちしておりました。」
●あやうく、トラックが立ち往生してしまいそうな小道にはまり込んでしまって冷や汗をかきながら本棚を設置したHさんの家があったり「gridding」
●今から約10年前の当時は強烈な個性を放っていたキッチンを作らせて頂いたKさんの家があったり「跡をのこす」
●こちらも冷や冷やしながら搬入したへの字型のクルミのキッチンを作らせて頂いたKさんの家があったり「への字のバイブレーションカウンター<とクルミの変形オーダーキッチン」
●(今は場所を移ってしまいましたが)以前ここで意欲的に創作活動をされていた蔦谷さんのスタジオがあったり「音がうまれる部屋」
●奥様にはチェリーの食器棚を、ご主人にはブラックウォールナットの飾り棚を作らせて頂いたHさんの家があったり「わたしのものとあなたのもの」
と目黒あたりにはとても思い出深い皆さんが住まわれているのです。
今回のMさんの立地もちょっとだけ通りが狭くて、搬入が心配なのでした。
当日はなかなか現場が賑やかになっていて、「キッチン取付できるのだろうか・・。」という様相でしたが、搬入も思ったとおりに階段からの搬入は困難で時間を要したこともありまして、荷揚げに苦労している1時間ほどで大工さんが場所を作ってくれまして、どうにか順調に作業に取り掛かることができたのでした。
設置工事自体は、アイランドということもあってシンプルでしたので、私たちの作業する部分は順調に終わりまして、あとは工務店さんが残りの接続工事を行なって頂いて完了です。
そうして、2か月後に無事にお引き渡しが終わったそうなのですが、私はタイミングが合わなくてお伺いすることができないまま、どうされたかなと思っていたのでした。
そうして、半年ほど過ぎた頃にあらためてご連絡を取らせて頂くと、Mさんのご自宅が【第5回「住宅部会賞2022 |10宅選」】を受賞されたということで、これはぜひともお伺いしたいと思いまして、あらためてお手入れの道具を持参してアキコと二人であいさつにお伺いしたのでした。
お伺いすると、あの当時のオープンハウスのお礼ということで、ご自宅の様子だけではなくアトリエまで拝見させて頂いて、その空間や細部の様子を全然ポーカーフェイスじゃないじゃん、っていうくらいとても楽しそうにお話してくださって、私もアキコも楽しさと共にとても勉強になった時間を頂いたのでした。
ありがとうございました、Mさん。
株式会社プラスチックアーキテクツ一級建築士事務所
https://plstc.org/
天板 | ステンレスバイブレーション |
---|---|
前板・扉 | ナラ板目節アリ突板 |
本体外側 | ナラ板目節アリ突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板/シナ合板無塗装 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとナラ節アリ材のアイランドキッチン
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。
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