お餅つき

「ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのペニンシュラキッチン」

藤沢 Y様

design:HITOMA design office 一級建築士事務所/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:iku nogami

バイブレーション仕上げのステンレスカウンターとブラックチェリーのペニンシュラキッチン
リビングダイニングから見た様子。ガスコンロを壁寄席にしたペニンシュラキッチンのサイズは、1000ミリ×2650ミリ。今回はオーソドックスな4枚張りにしたブラックチェリーの板目の単板を使って作っています。
バイブレーション仕上げのステンレスカウンターとブラックチェリーのペニンシュラキッチン
キッチンの天井の抜ける様子。ちょうど奥の集合住宅からの視線が合わさってしまいそうということで、かなり上のほうに設けられた窓がとても清々しい空気を生み出しているのでした。ちなみにキッチンの高さは870ミリで、バックカウンターとキッチンの間は900ミリのスペースを採っています。

「お世話になります。
横浜の設計事務所HITOMA design officeでコーディネーターをしております太田と申します。
現在江ノ島で建替えを計画しておられますお施主様(Y様と申します)とお打合せを進めているのですが、メーカーのものの雰囲気がどうも合わないように思い、こちらで作られているキッチンが素敵だったので、オーダーでの検討を進めたく、ご連絡をさせていただきました。
平面図があるのですが、当初キッチンの計画はコの字でしており、図面的にはまだそのままです。(参考に添付します) コーナーの使い方がどうしても難しくなってしまう為、現在はペニンシュラ+背面収納の形で変更をしようという流れになっております。
サイズはW2600×H870×D1000(ダイニング側収納込み)、背面収納はW2600×H870×D600で、キッチン側の手元が見えないよう、ダイニング側の収納を150ミリくらい高くしたい、ということと、天板はステンレスバイブレーション(20ミリくらいの厚さのもの)を希望されています。
シンクは洗剤ポケット付きで水栓部分はカウンターに水が流れないよう一段(10ミリくらい)付け根の部分を下げた仕様にしたいです。
加熱機器は仮に日立「HT-M8AKTWFK」くらいのもので想定しています。
水栓も仮にハンスグローエ「31815004」あたりを、レンジフードはアリアフィーナ「サイドフェデリカSFEDL-952」あたりを、食洗機はミーレもしくはボッシュなどのW600の大容量タイプを想定しています。
一度お伺いをしてお打合せをさせていただけるとありがたいです。
お手数をおかけしますが、お打合せ日程のご検討をよろしくお願いいたします。」

リクシルのタッチレス水栓
水栓はリクシルのナビッシュ。
シンクの洗剤ポケット
シンクには洗剤ポケットを設けています。シンクのコーナーは標準の20アール。このアールには皆さんいろいろな好みがあるようです。私自身はそれほど気にならず、掃除しやすければよいかと思っているのですが、先日キッチンが特集されている番組を見ていた時に、シンクのコーナーが40アールから50アールくらいのシンプルなステンレスキッチンが映ったのです。それがとても美しくてね。今度はそういう形を作ってみたいなあ、って思ったのです。
シンク下の給排水管の様子
シンク下の配管の様子。この部分って、私たちが口出しする部分ではなくて、配管同士が干渉しないようなレイアウトは図示するのですが、実際の施工はその設備屋さんのセンスになります。何か故障があっても一目でわかるように、また止水・吐水などの調節を実際そこに住む人が使いやすいようにできている様子は本当に美しい。今回はナビッシュというタッチレス水栓を使っているので、電気配線も関わってきているので、かなりごちゃごちゃとなりがちなのですが、こうしてとてもきれいに納めてくださっています。
シンク前のコンセント
シンクの手前には家電用のコンセント。ペニンシュラキッチンの場合は、シンクとコンロの間のスペースで調理器具を使うことが多いので、だいたいこの場所にコンセントを設置しています。
シンク前のタオル掛け
タオル掛け。ハンドルと同じ真鍮黒染めだと、そのうちにタオルに色がついたりするのかな、なんて思って、ここは同じシロクマのステンレス製のハンドルを採用しています。

設計事務所さんからのご相談です。
最近は、設計事務所さんから直接お声掛け頂けることが多くなってきていましてとてもうれしく思っております。
今までは、実際にキッチンを使ってくださる皆さんからのご相談が圧倒的に多くて、設計事務所さんや工務店さんから直接お声掛け頂けるというのは少ない方でした。
時々そのようなことがあっても、先方から「業者間のお取引もできるのでしょうか。」とかしこまっておっしゃってくださることも多くて、もちろんどのような方々からでもご相談頂けるのは大変うれしく思っているのです。

ASKO食洗機
食洗機は、ASKOの「DFI645」を導入しています。
ASKO食洗機
食洗機内部の様子。

ただ、工務店さんからのご相談だと時々言われてしまうのが、「業者価格を提示してもらえますでしょうか。」ということです。
販売店とは違って、私たちは家具やキッチンを制作している工房なので、どのくらいの金額で制作することが可能なのかを皆さんにお伝えしております。
キッチンのほかに家具もという場合に複数台作るとなると、作業工程をまとめられるので少しはコストを抑えることはできたり、普段からよくお仕事の相談を頂ける方とはあうんの呼吸ができあがっていることもあったりして、打ち合わせや形の設計、作り方の簡略化などでコストを抑えることもできると思うのですが、初めてお付き合いさせて頂く方々において、あちらではこのくらいの金額で、こちらではこのくらいの金額で、なんて変えてしまうというのはなかなか難しい。
ですので、そういう時は「すみませんが、私たちとしては皆様からのご要望を頂いて、その内容に基づいてひとつずつ金額をお伝えしているだけですので、お施主様からのご相談でも業者様からのご相談でもお伝えできる内容は一緒になります。」とお知らせしています。
そうするとだいたい断られてしまうことが多いのですが・・。

設計事務所さんからのご相談だとそういうことはあまりなくて、オーダーキッチンのことも良くお分かりの皆様が多いので、スムーズにお話を進めてくださることが多くてうれしいお声掛けだったりします。
それで、さっそく一度私たちのキッチンを見に来てくださることになりました。

キッチンの引き出しの様子
食洗機左隣の4段の引き出しの1段目。
キッチンの引き出しの様子
食洗機左隣の4段の引き出しの2段目。
キッチンの引き出しの様子
食洗機左隣の4段の引き出しの3段目。
キッチンの引き出しの様子
食洗機左隣の4段の引き出しの4段目。

「はじめまして、こんにちは。」
いらしてくださったのは代表の甘利さんとコーディネーターの太田さん。お二人ともマスク越し(コロナ禍だったのです)でも柔和な印象がよく分かりまして、打ち合わせの時間もキッチンや家具のことを話し合っている、というよりは何というかお芝居でも見ているかのようなユーモラスなお二人だったのです。
でももちろんきちんとお話はまとまりましたので、まずはどのくらいの費用で実現できるかを後日にお伝えして、キッチンの制作依頼を頂けることになりました。
ありがとうございます。

IHヒーターはパナソニックの[KZ-AN77K]
コンロはIHで、パナソニックの「KZ-AN77K」。
コンロの下はスライドワイヤーシェルフ
コンロの下はスライドワイヤーシェルフ。その1段目。
コンロの下はスライドワイヤーシェルフ
2段目。
コンロの下はスライドワイヤーシェルフ
3段目。

そうして、ある程度形がまとまった段階でYさんもいっしょにこちらにいらしてくださいました。
Yさんご夫婦もとてもユニークなお二人でして、奥様はお店を開いていて、ご主人もご自身でお仕事をされていらっしゃるので、何というかお話がとても簡潔で要領を得ていて滞りなくものごとが決まっていく様子がとても心地よいのでした。
その合間に甘利さんと太田さんのさらにユニークなコメントが挟まれて何だか小気味好い餅つきのように話が進んでいったのでした。

調味料用の引き出しはハーフェレのノヴァプロスカラを採用
壁とコンロの間はある程度距離を取らないといけないので、このように小さな引き出しを作ることが多く、今回はいつもよりも幅が狭くなるスペースでしたので、は――フェレのノヴァプロスカラという引き出しを採用。
調味料用の引き出しはハーフェレのフレームバスケットを採用
その下は高さ調整が可能なハーフェレのフレームバスケットを採用。

ところで、今までいろいろなキッチンを作らせて頂きましたが、いまだに「コの字型のキッチン」の良さが自分でうまく伝えられないのが何とも情けないところだなあと思うのです。
実際に「コの字」のレイアウトを使っていないからよい部分を実感できていないことがいけないのでしょうけれど、一般的な「コの字」と言われる形は長い2列のキッチンとそれをつなぐ短い1列がつながったものを想像します。
2か所のコーナーができるので、収納量は増えるように思えても使いづらい収納になってしまいがちです。機能的な収納を優先するのならコの字よりも2列(セパレート)型のほうが収納の容量も変わらずに使いやすくできるのではないかと思っております。
そうなるとコの字のメリットは何かというと「動線の短さ」なのかなと思うのです。水仕事をしていてもすぐに加熱調理スペースに移ることができる。またカウンターが広いので材料を広げて同時にいくつかの作業を行なうことができる。この2つが動線の短さイコールストレスがないことにつながるのかなと思っています。
そうなるとコの字を使う人はやはり一人でキッチンに立つ人なのかなと勝手に思い込んでしまうのです。
もし、複数の人でそのキッチンに立つならば2人がストレスなく行き来できる距離が必要で、そうなると動線の短さが無くなってしまうし、広く採ったならばダイニングやリビングがその分狭くなってしまう。また、コーナーで収納が直交してしまうとそれぞれ同時に開け閉めすることができない。やはり一人向けなのではないだろうか、という思いがあるのです。
ですので、当初Yさんのキッチンがコの字と聞いていたのですが、こうしてセパレートというかペニンシュラキッチンとバックカウンターというオーソドックスだけれども使い勝手を考えやすい形に納まったので、プランのあれこれが考えやすくなってちょっと安心したのでした。
本当は、偏ることのないようにもっといろいろなことを知っておかないといけないのですが、なかなかきっかけを待っているばかりで前に進まないといけないなあ・・。

ハンドルはシロクマの真鍮黒染めハンドル
こちらがシロクマから出ている真鍮のハンドル。黒染め仕上げで、表面も細かいエンボスが入っている独特の仕上がり。
ハンドルはシロクマの真鍮黒染めハンドル
長いものを食洗機のハンドルに使用しています。

こうして、お餅つきのようなやり取りを数回繰り返して、Yさんの形が決まりまして、新居の現場もいよいよ着工しました。
海の香りが間近に感じられるゆったりした空気の流れるYさんのご新居。
印象としては少し無骨な要素を取り入れた、今で言うところの「インダストリアルスタイル」というのでしょうか。
黒いアイアン製品をきれいに取り込んだり、Yさんがとても気に入って導入されたダイニングのペンダントライトのデザインなど、そこかしこに無骨にならないような印象の工業製品的な素材が取り入れられていたのでした。
ただ、あまりそのスタイルに寄りすぎてしまうとかえって派手に見えてしまうので、そのあたりはHITOMAさんがYさんと相談しながら控えめな印象でまとめていらっしゃるようです。
今回キッチンに使用したブラックチェリーという材はそのような室内空間でもよい印象にまとまると思います。チェリーのような散孔材は木目の栓が細くて繊細に見えるのですが、日が経つとかなり濃い色に焼けてくるのでそのダイナミックな印象が大胆にも見えます。
今回はステンレスバイブレーションの天板にSHIROKUMAの真鍮黒染めハンドルを採用することで、その室内空間に馴染んだキッチンとなりました。

バイブレーション仕上げのステンレスカウンターとブラックチェリーのペニンシュラキッチン
ペニンシュラキッチンのダイニング側は6枚の開き扉の収納になっています。
バイブレーション仕上げのステンレスカウンターはキャビネットから浮かせたフロートタイプ
ステンレスはフロートタイプで仕上げています。1.2ミリのステンレス板を使って11ミリの厚みに見せるようにして、その下に10ミリの目地を取る形にしています。
ペニンシュラキッチンのダイニング側収納内部
ダイニング側の収納内部。こちらは汚れることも少ないことと、印象が柔らかく見えるので、シナ合板無塗装で仕上げています。
ペニンシュラキッチンのダイニング側収納内部
こちらも収納内部の様子。足元にちらっと見える黒いものはダイニングテーブルで家電を使うときに便利なようにとコンセントを設けているのです。ちなみに扉はプッシュ式。押すと約45度くらいまで自然に開きます。

うれしいことに追加でリビングのテレビボードもご依頼くださることになりまして、これでキッチンのチェリーの存在とリビングのさりげないチェリーの存在という、お部屋の両端に設置される家具の印象をまとめることができそうです。
最近はキッチンやキッチンまわりの家具(食器棚など)を作らせて頂く機会が多かったので、こうしてリビングに置かれる家具を作らせて頂けるのは久しぶりでとてもうれしかったのでした。

バイブレーション仕上げのステンレスカウンターとブラックチェリーのペニンシュラキッチン
続いてバックカウンターの様子。キッチンは黒染めハンドルで、バックカウンターの引き出しは汚れた手で触ることが少ないと思いますので、手を掛けて開ける形にしています。

その部屋ごとに使われる家具の性格ってやっぱりあるのです。
それをきちんと理解して作らないと使いにくい形になっちゃうので、久しぶりにテレビボードのノウハウを自分の引き出しから引っ張り出してみたのでした。
シンプルな形でも当然守るべき事柄はいろいろあって、昔と違って収納して使う機器は少なくなってきたり、小型化してきましたが、配線の取り回しや通信機器との関りなど今は今で納め方を検討することがたくさんあります。
そういう新鮮さが思い出しながら作らせて頂きました。

ブラックチェリーのバックカウンター(食器棚)
天板をフロートにするといつも悩ましいのが、天板下の目地と壁の仕上げ材との納まり。今回はタイルを先に施工してもらっているので、目地の奥にもきちんとタイルが見えるのですが、木工事完了直後の石膏ボードの状態で設置すると、この目地の隙間から石膏ボードが見えてしまってこの小さい隙間をどのように見せるかが毎回悩ましかったりします。また、バックカウンターの天板は、トップのみステンレスを張って、小口部分はチェリーを見せる仕上げにしています。
バックカウンターの扉内部
皆さんにはよく、「バックカウンターは引き出しだけではなくて、一部扉を設けたり、オープンにしてはいかがでしょうか。」とお話することがあります。引き出しのほうが奥のものは取り出しやすいのですが、大きなものをわざわざ引き出しに入れるのはかえって不便に感じることもあるので、その場合は、棚の高さを変えられるようにして扉で隠す方が使いやすいのではないかと思うのです。

そういえば、私たちのウェブサイト内でエッセイという読みものを気が向いた時に書いているのですが、そこに今回のように思い当たることを書いていたような気がします。
もし、興味がありましたらお読みいただけたらうれしいです。

収納計画は柔軟に

オーダー家具の形は選択肢を広げて

ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
扉の左隣の4段の引き出しの1段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
扉の左隣の4段の引き出しの2段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
扉の左隣の4段の引き出しの3段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
扉の左隣の4段の引き出しの4段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
さらにその左隣の4段の引き出しの1段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
さらにその左隣の4段の引き出しの2段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
さらにその左隣の4段の引き出しの3段目。
ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
さらにその左隣の4段の引き出しの4段目。

キッチン設置工事後、給排水や電気の工事も工務店さんのほうで終わらせて頂いて無事にすべてのキッチン工事が完了しました。そしてまもなくお引き渡しとなりまして、テレビボードの納品はどうにかお引き渡し日にお持ちすることができましてこれですべて完了。無事に納まってよかったです。

ブラックチェリーのバックカウンターの引き出し内供
キッチン出入口寄りの一番左端のスペースの最上段はカトラリー用の引き出し。
ブラックチェリーのオープン棚内部
その下はオープンスペースです。私の自宅の食器棚のレイアウトを見て頂いてこのような形にしたのでした。

お引き渡し後にHITOMAさんからお礼のメールを頂きました。

「お世話になっております。
本日はありがとうございました。
バタバタしてお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
無事!?にお引き渡しができて本当に良かったです。
イマイさんとのキッチンづくりをはじめ、様々な方々のおかげで1つの幸福の舞台を作ることができました。
本当にありがとうございました。」

こちらこそ楽しんでお仕事させて頂けてとてもうれしい時間でした。
ありがとうございました。

ブラックチェリーのテレビボード
キッチンとは反対の壁面になるリビングの壁に置かれたテレビボード。開き扉と格子扉のシンプルな構成。
ブラックチェリーのテレビボード
天板と側板の厚みをキッチンの天板と揃えて、見える部分は11ミリの厚みに見えるように仕上げています。また、今回のテレビボードはすべて突板で制作しているのですが、天板と側板の角の部分は突板を斜めにカットして接着する形だとぶつけるとへこみやすいので、角の部分だけ3ミリ角の無垢材(通称ヒモ材)を回しています。
ブラックチェリーの格子扉の手掛け
格子扉の取っ手は、格子の一部が出っ張った私の自宅のテレビボードの印象を取り入れています。
ブラックチェリーのテレビボード
ほかの扉はプッシュ式。
天板 ステンレスバイブレーション
前板・扉 ブラックチェリー板目突板
本体外側 ブラックチェリー板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板/シナ合板無塗装
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのペニンシュラキッチン

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

ちょっと関わりのありそうな家具たち