お餅つき
「ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのペニンシュラキッチン」
藤沢 Y様
design:HITOMA design office 一級建築士事務所/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:iku nogami
「お世話になります。
横浜の設計事務所HITOMA design officeでコーディネーターをしております太田と申します。
現在江ノ島で建替えを計画しておられますお施主様(Y様と申します)とお打合せを進めているのですが、メーカーのものの雰囲気がどうも合わないように思い、こちらで作られているキッチンが素敵だったので、オーダーでの検討を進めたく、ご連絡をさせていただきました。
平面図があるのですが、当初キッチンの計画はコの字でしており、図面的にはまだそのままです。(参考に添付します)
コーナーの使い方がどうしても難しくなってしまう為、現在はペニンシュラ+背面収納の形で変更をしようという流れになっております。
サイズはW2600×H870×D1000(ダイニング側収納込み)、背面収納はW2600×H870×D600で、キッチン側の手元が見えないよう、ダイニング側の収納を150ミリくらい高くしたい、ということと、天板はステンレスバイブレーション(20ミリくらいの厚さのもの)を希望されています。
シンクは洗剤ポケット付きで水栓部分はカウンターに水が流れないよう一段(10ミリくらい)付け根の部分を下げた仕様にしたいです。
加熱機器は仮に日立「HT-M8AKTWFK」くらいのもので想定しています。
水栓も仮にハンスグローエ「31815004」あたりを、レンジフードはアリアフィーナ「サイドフェデリカSFEDL-952」あたりを、食洗機はミーレもしくはボッシュなどのW600の大容量タイプを想定しています。
一度お伺いをしてお打合せをさせていただけるとありがたいです。
お手数をおかけしますが、お打合せ日程のご検討をよろしくお願いいたします。」
設計事務所さんからのご相談です。
最近は、設計事務所さんから直接お声掛け頂けることが多くなってきていましてとてもうれしく思っております。
今までは、実際にキッチンを使ってくださる皆さんからのご相談が圧倒的に多くて、設計事務所さんや工務店さんから直接お声掛け頂けるというのは少ない方でした。
時々そのようなことがあっても、先方から「業者間のお取引もできるのでしょうか。」とかしこまっておっしゃってくださることも多くて、もちろんどのような方々からでもご相談頂けるのは大変うれしく思っているのです。
ただ、工務店さんからのご相談だと時々言われてしまうのが、「業者価格を提示してもらえますでしょうか。」ということです。
販売店とは違って、私たちは家具やキッチンを制作している工房なので、どのくらいの金額で制作することが可能なのかを皆さんにお伝えしております。
キッチンのほかに家具もという場合に複数台作るとなると、作業工程をまとめられるので少しはコストを抑えることはできたり、普段からよくお仕事の相談を頂ける方とはあうんの呼吸ができあがっていることもあったりして、打ち合わせや形の設計、作り方の簡略化などでコストを抑えることもできると思うのですが、初めてお付き合いさせて頂く方々において、あちらではこのくらいの金額で、こちらではこのくらいの金額で、なんて変えてしまうというのはなかなか難しい。
ですので、そういう時は「すみませんが、私たちとしては皆様からのご要望を頂いて、その内容に基づいてひとつずつ金額をお伝えしているだけですので、お施主様からのご相談でも業者様からのご相談でもお伝えできる内容は一緒になります。」とお知らせしています。
そうするとだいたい断られてしまうことが多いのですが・・。
設計事務所さんからのご相談だとそういうことはあまりなくて、オーダーキッチンのことも良くお分かりの皆様が多いので、スムーズにお話を進めてくださることが多くてうれしいお声掛けだったりします。
それで、さっそく一度私たちのキッチンを見に来てくださることになりました。
「はじめまして、こんにちは。」
いらしてくださったのは代表の甘利さんとコーディネーターの太田さん。お二人ともマスク越し(コロナ禍だったのです)でも柔和な印象がよく分かりまして、打ち合わせの時間もキッチンや家具のことを話し合っている、というよりは何というかお芝居でも見ているかのようなユーモラスなお二人だったのです。
でももちろんきちんとお話はまとまりましたので、まずはどのくらいの費用で実現できるかを後日にお伝えして、キッチンの制作依頼を頂けることになりました。
ありがとうございます。
そうして、ある程度形がまとまった段階でYさんもいっしょにこちらにいらしてくださいました。
Yさんご夫婦もとてもユニークなお二人でして、奥様はお店を開いていて、ご主人もご自身でお仕事をされていらっしゃるので、何というかお話がとても簡潔で要領を得ていて滞りなくものごとが決まっていく様子がとても心地よいのでした。
その合間に甘利さんと太田さんのさらにユニークなコメントが挟まれて何だか小気味好い餅つきのように話が進んでいったのでした。
ところで、今までいろいろなキッチンを作らせて頂きましたが、いまだに「コの字型のキッチン」の良さが自分でうまく伝えられないのが何とも情けないところだなあと思うのです。
実際に「コの字」のレイアウトを使っていないからよい部分を実感できていないことがいけないのでしょうけれど、一般的な「コの字」と言われる形は長い2列のキッチンとそれをつなぐ短い1列がつながったものを想像します。
2か所のコーナーができるので、収納量は増えるように思えても使いづらい収納になってしまいがちです。機能的な収納を優先するのならコの字よりも2列(セパレート)型のほうが収納の容量も変わらずに使いやすくできるのではないかと思っております。
そうなるとコの字のメリットは何かというと「動線の短さ」なのかなと思うのです。水仕事をしていてもすぐに加熱調理スペースに移ることができる。またカウンターが広いので材料を広げて同時にいくつかの作業を行なうことができる。この2つが動線の短さイコールストレスがないことにつながるのかなと思っています。
そうなるとコの字を使う人はやはり一人でキッチンに立つ人なのかなと勝手に思い込んでしまうのです。
もし、複数の人でそのキッチンに立つならば2人がストレスなく行き来できる距離が必要で、そうなると動線の短さが無くなってしまうし、広く採ったならばダイニングやリビングがその分狭くなってしまう。また、コーナーで収納が直交してしまうとそれぞれ同時に開け閉めすることができない。やはり一人向けなのではないだろうか、という思いがあるのです。
ですので、当初Yさんのキッチンがコの字と聞いていたのですが、こうしてセパレートというかペニンシュラキッチンとバックカウンターというオーソドックスだけれども使い勝手を考えやすい形に納まったので、プランのあれこれが考えやすくなってちょっと安心したのでした。
本当は、偏ることのないようにもっといろいろなことを知っておかないといけないのですが、なかなかきっかけを待っているばかりで前に進まないといけないなあ・・。
こうして、お餅つきのようなやり取りを数回繰り返して、Yさんの形が決まりまして、新居の現場もいよいよ着工しました。
海の香りが間近に感じられるゆったりした空気の流れるYさんのご新居。
印象としては少し無骨な要素を取り入れた、今で言うところの「インダストリアルスタイル」というのでしょうか。
黒いアイアン製品をきれいに取り込んだり、Yさんがとても気に入って導入されたダイニングのペンダントライトのデザインなど、そこかしこに無骨にならないような印象の工業製品的な素材が取り入れられていたのでした。
ただ、あまりそのスタイルに寄りすぎてしまうとかえって派手に見えてしまうので、そのあたりはHITOMAさんがYさんと相談しながら控えめな印象でまとめていらっしゃるようです。
今回キッチンに使用したブラックチェリーという材はそのような室内空間でもよい印象にまとまると思います。チェリーのような散孔材は木目の栓が細くて繊細に見えるのですが、日が経つとかなり濃い色に焼けてくるのでそのダイナミックな印象が大胆にも見えます。
今回はステンレスバイブレーションの天板にSHIROKUMAの真鍮黒染めハンドルを採用することで、その室内空間に馴染んだキッチンとなりました。
うれしいことに追加でリビングのテレビボードもご依頼くださることになりまして、これでキッチンのチェリーの存在とリビングのさりげないチェリーの存在という、お部屋の両端に設置される家具の印象をまとめることができそうです。
最近はキッチンやキッチンまわりの家具(食器棚など)を作らせて頂く機会が多かったので、こうしてリビングに置かれる家具を作らせて頂けるのは久しぶりでとてもうれしかったのでした。
その部屋ごとに使われる家具の性格ってやっぱりあるのです。
それをきちんと理解して作らないと使いにくい形になっちゃうので、久しぶりにテレビボードのノウハウを自分の引き出しから引っ張り出してみたのでした。
シンプルな形でも当然守るべき事柄はいろいろあって、昔と違って収納して使う機器は少なくなってきたり、小型化してきましたが、配線の取り回しや通信機器との関りなど今は今で納め方を検討することがたくさんあります。
そういう新鮮さが思い出しながら作らせて頂きました。
そういえば、私たちのウェブサイト内でエッセイという読みものを気が向いた時に書いているのですが、そこに今回のように思い当たることを書いていたような気がします。
もし、興味がありましたらお読みいただけたらうれしいです。
【収納計画は柔軟に】
キッチン設置工事後、給排水や電気の工事も工務店さんのほうで終わらせて頂いて無事にすべてのキッチン工事が完了しました。そしてまもなくお引き渡しとなりまして、テレビボードの納品はどうにかお引き渡し日にお持ちすることができましてこれですべて完了。無事に納まってよかったです。
お引き渡し後にHITOMAさんからお礼のメールを頂きました。
「お世話になっております。
本日はありがとうございました。
バタバタしてお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
無事!?にお引き渡しができて本当に良かったです。
イマイさんとのキッチンづくりをはじめ、様々な方々のおかげで1つの幸福の舞台を作ることができました。
本当にありがとうございました。」
こちらこそ楽しんでお仕事させて頂けてとてもうれしい時間でした。
ありがとうございました。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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前板・扉 | ブラックチェリー板目突板 |
本体外側 | ブラックチェリー板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板/シナ合板無塗装 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ステンレスバイブレーションとブラックチェリーのペニンシュラキッチン
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