メープルのある部屋

「ハードメープルの食器棚」

所沢 K様

design:Kさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose

ハードメープルの食器棚
ダイニングから見た印象。吊戸棚の高さが気持ち良いのでした。

食器棚を作りたいというメールと一緒にとても洗練された図が送られてきたのでした。
まるで設計士さんが描いたような要点が簡潔にきちんとまとまった図で、もうこのまま食器棚が作れるのではないかというくらい完成された形でした。
まずは、どのくらいの金額で制作できるかをお伝えしましてから、詳しいお話を聞かせて頂けるということでこちらにいらしてくださったのでした。

Kさんから頂いた図。Kさんの印象をそのまま表したような整然とした図なのでした。

どのようなお人柄なのかしら、と思っておりましたところに現れたのは、そのお話する姿勢や立ち振る舞いがとても抑制されたどこかストイックな印象の方で、お医者さんのようなカウンセラーさんのような相手の話を汲み取ることが上手な印象を受けたのです。
私はどちらかと言うと話をすることが下手なので、なるべく相手の話を聞きたいと思うほうでして、そのお話のなかでその人が望む形だったり暮らしだったりを少しずつ見つけていくという方法で今まで家具の形を考えてきたのですが、Kさんのほうが聞き上手なように思えたのでした。

「いやあ、私は独り住まいなのであまり手の込んだ料理はしないのですが、しっかりしたキッチンの背面収納を作りたいと思いまして、イマイさんへの注文を考えているのです。」

Kさんの気持ちにどこまで踏み込んで(で合ってるかな、寄り添ってかな)ゆけるだろうか。
とてもきれいにまとまった形でしたのでそのまま実現すればそれで美しい食器棚になると思えるのですが、なにかKさんの暮らしにしっくりくる形にしたいな、そう思いながら話は進んでいったのでした。

ハードメープルの食器棚
最初に頂いた図だともう少ししっかりと作り込む印象だったのですが、吊戸棚をシンプルにしたことで軽快な食器棚になったと思います。何しろ、リズム感のある素材の組み合わせが良いです。淡い色したハードメープルにガラス♪真鍮♪ステンレス♪

ひとまず大まかな形が決まりましたので、採寸するためにKさんの自宅にお邪魔させて頂きました。
玄関を入るとロードレーサー。なるほど、ストイックな印象はこの自転車にもあるのかな。
2階に上がらせて頂くと、男の人の一人暮らしには見えないくらいとてもきれいにまとめられた室内。
その中でも興味深かったのは、メープルの家具がそこかしこに置かれていたこと。
そして、その中のひとつがどこか見覚えがあったのでした。

「この家具は・・。」
「サーブさんの家具なのです。」
「あぁ、なるほど。そうでしたか。」
サーブさんの形はウェブサイトでよく見ていたものですので(同じ家具屋さんとなるとなかなかお店に入ることをためらってしまうのです)どこか見覚えがあるなあと思ったのでした。
「サーブさんの家具が好きで少しずつこうして揃えてきたのです。ただ食器棚だけは造り付けにしたかったので、良いところを探すうちにイマイさんにたどり着いたのです。」
なるほど、だからメープル材を希望されているのですね。
デスクは使い込まれて、ハードメープルの表情も少し飴色になり始めていました。

ガラス引き戸の吊戸棚
ガラスだけの引き戸は久しぶりに作った気がします。個人的にはガラスを使う場合は額縁の形状に木枠を回した形が好みなのでそのように提案することが多いのですが、Kさんの淡い空間にはガラスだけのソリッドな印象が良く合いました。
ガラス引き戸の引手
ガラスの掘り込み引手の様子。

食器棚の設置場所の採寸を終えてお茶を頂いておりました時に、やはりほかの家具屋さんの作りが気になってしまいまして、ぜひこの機会にと思いKさんに頼み込んで、この机の作りをいろいろと見させて頂いたのでした。
ほぅ、ここはこういうふうに納まっているのだな、天板とのつなぎ方はこのような感じなのだな、なんて子細に眺めているとKさんも楽しそうに見て聞いてくださって、ここでようやくKさんの人となりが分かったように思えたのでした。
そこからはKさんがどういうふうに暮らしていきたいかというお話まで広がって、やっと食器棚の形が本来あるべき形になっていったように思えたのでした。

ガラス引き戸の吊戸棚
吊戸棚、その下の壁付けの棚のバランス。壁付けの棚はこのあたりにつけることを想定して、下地が入っているということで必然的にこの位置に。下地位置のバランスを見て真鍮の棚受けの位置を少し中央寄りにして取付。
メープルの棚板と真鍮の棚受け
当初の予定ではここを可動棚に形だったのですが、可動棚にするには、棚柱(ダボ柱、ガチャ柱とも言います)を壁に付けないといけないのですが、その柱は個人的にけっこう目立つと思っていましてあまり使わないのです。(収納の内部にもよく使われることが多いのですが、内部でも結構目立つ、というか家具っぽく見えない気がしてあまり使わないのです。棚の高さを細かく変えられるので便利なのですけれど。)おそらく白っぽいものを使っても、その印象が強くなりすぎちゃうだろうなあ、ということをKさんにお伝えして、それほど高さを変える必要もないだろうということで、真鍮の棚受けで固定することにしたのです。

さて、形がまとまったので、制作に取り掛かります。
今回の制作はヒロセ君。
前回の渋谷のWさんの作りと同じ納まりがあるので、ヒロセ君には作りやすい形となったのではないかと思うのですが、それでもステンレス天板の納まりやガラスのみの引き戸の納まりや吊戸棚の取付方法などは、また今までと違った作りかたで彼なりに楽しんで作ってくれたように思えます。

その取付の時の様子
2023年8月12日「ハードメープルの食器棚の納品」(https://www.freehandimai.com/?p=57096)

ステンレス天板の納まり
食器棚の天板のトップにはステンレスを張ったのですが、小口をどう見せるかをKさんといろいろ相談しました。そして、今回はメープルで縁取りするように小口材をステンレスよりも勝たせて(小口材が上から見えるようにして)います。これがとても優しい印象に見せる大きな役割となっています。
ステンレス天板の納まり
下の収納はとてもシンプル。引き出しが2杯と3台のゴミ箱を置くスペースと両開き扉という構成です。

その後Kさんからもうれしいお便りをいただきました。

「この度は大変お世話になり誠にありがとうございます。
作業も丁寧に進めていただきましたし、仕上がりや納まりもきれいで非常に満足しています。
スタッフの方々にもよろしくお伝えください。
それでは今後ともよろしくお願い致します。」

Kさんありがとうございました。

ハードメープルの食器棚
左の引き出しの様子。
ハードメープルの食器棚
右の引き出しの様子。
ハードメープルの端バメの扉
扉の様子。
ハードメープルの端バメの扉
扉は幅接ぎした上下端部に方向を変えた材をはめ込むことで反り止めとした端バメの作りにしています。
ハードメープルの食器棚
収納内部はシナ合板無塗装のままで仕上げています。
 

ハードメープルの食器棚

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