住む人の空気

「ナラ板目ランダム張りのキッチン対面カウンター収納」

曳舟 T様

design:Tさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:honoka takeishi

ナラ板目ランダム張りのキッチン対面カウンター収納
家具の上段はガラスを入れた引戸、下段は板の引き戸の言う構成です。板の引き戸は木目の流れが楽しく見えるように突板の単板を揃えることなくばらつきを出したランダム張りで仕上げています。

「今日はこのイベントのためだけにこちらに来ました。」とご夫婦でにこやかにいらしてくださったのでした。

2023年のゴールデンウィークはどうしようかとアキコと相談していたのです。
事前にご連絡を頂ければ、年中みられるようにしているショールームですが、やはりオーダー家具屋さんのショールームにふらりと出かけるのって少しためらってしまうところだと思います。
私だったらふらりは無理だなあ。
身構えて、「よし、何があろうとお願いするのだ。」という気概を持っていないと入り口に入れないなあ。
でも、中で待っている私たち自身は肩の力なんてすっかり抜けているので、もっと気楽に来てもらえたらなあ、と常々思っているのです。
そのようなわけで、大型連休の時などは私たちの気が向いた時に「ショールーム開放日」なんて大げさに名前を掲げてブログやらで皆さんにお伝えするのです。

でも連休となると皆さんどこか遠くにお出かけされることも多いので、「ショールームを開けておくので予約なく自由にご覧になれますよ。」と、うたってもなかなか来られる人も少なかったりして、淋しい気持ちの日になったりすることもあるわけです。
ちょうどこの年はこのような感じでした。

2023年5月4日 ショールーム開放日でした。

どうやら何組かのお客様がいらしてくださったようです。うろ覚えでごめんなさい。
その中の1組がTさんでした。
冒頭のセリフが印象的で、またお二人とも私たちと同じくらい背が高いご夫婦で印象的だったのでした。

キッチン対面カウンター収納のスケッチ
打ち合わせの終わりにTさんにお渡ししたスケッチ。

「今度移り住むマンションにキッチンの対面カウンターを兼ねた収納を作りたいのです。」というご相談でした。イメージとしては、以前キッチンを作らせて頂いた鎌倉のWさん世田谷のMさんのダイニング側の戸棚のような印象。
詳しくお話をお伺いしてスケッチにまとめたところで、近日中にどのくらいの費用になるのかを見積もってみてご連絡させて頂くことに。

なるべく形はその場で示せるようにスケッチをするのですが、金額はきちんと計算しないといけないので、「ざっくりでよいので」と言われることもあるのですが、うーん、この加工はこうしないといけないからやはりあと半日くらいは掛かるかもしれない・・、とか頭をひねりながら加工日数を考えたりするので、簡単にお伝えすることが難しかったりします。
ではスケッチは簡単に描けるのかというと、これも実はなかなか難しい。
みなさんには、「ちょっとまとめますので、15分くらいショールームの中をご覧になっていてくださいね。」なんてお伝えして描き始めるのですが、15分なんてあっという間に経ってしまうし、なんだか待たせてしまっていると思うと指に力が入って、直線のはずが地震でも起きたかのような波線になっちゃったりして。
だから、スケッチも後日お渡しする形だともっときちんと描けるのでしょうけれど、それだと打ち合わせの内容がまとまらないですものね。頑張るのです。

ナラ板目ランダム張りのキッチン対面カウンター収納
この形の家具を作る時に悩むのが、キッチンの天板と高さを揃えるかどうか・・。最初は揃える想定で考えていたのですが、システムキッチンのサイドパネルが思ったよりもダイニング側に出っ張っていて、天板の高さを揃えると、サイドパネルの納まりがかえって変に見えてしまうということになりそうでした。サイドパネルは交換しないでこのままのものを使用するということでしたので、あえて高さは揃えないでそのスペースにぴったりはまるような納まりで制作しました。

そのようなわけで見積をまとめて後日メールでお伝えして、しばらく待ちます・・。
1ヶ月が経ちました・・。
うーん、連絡がこないなあ、やはりTさんの思っていた予算とはかけ離れてしまったのだろうか・・。

たしかに、簡単に「はい。」とうなづけるほど気軽な金額ではないですから。その後、お話をお伺いすると、そのあともいろいろと家具屋さんを見たり相談されたりしたのだそうですが、やはり私たちの作るものが最良だったとのことで、ご依頼頂けることになりました。 とてもうれしいことばでした。ありがとうございます。

上の引き戸のガラスはハンマードグラス
ガラスはハンマードグラス。ハンマーでたたいたような表情になっていて、中のものがわずかに揺らいで見えるのが特長で、とても優しい表情になります。このハンマードグラスも以前から使用して板硝子は廃番になったりして、現在はこの表情のほかにいくつか使っているのですが、そういう良い表情のものが無くなってしまうのは淋しいところです。

それでは、今度は図面を作成します。
スケッチでは分からなかったそれぞれの寸法をTさんに使いやすさのバランスを検討して頂いて、マンションの内覧会までに図面をまとめていきます。
そうしてまとめた図面をもって内覧会に参加させて頂きました。
曳舟のある墨田区あたりの空気が私は好きなのです。
何がよいかというと、通り沿いの公衆トイレがたくさんあるところ。そのどのトイレの佇まいもきれいで個性的で街の空気がゆったり感じられるのはきっとこのトイレがあるからだと思っているくらい。
そして、曳舟から現地までスマートフォンが示すとおりに歩いていくと、昔子供の頃に通っていた祖母の家までの道を思い出す。祖母の家は文京区の家々が込み入ったあたりだったのですが、その路地や路地から漂ってくる香りがこの町でも感じられて、まるで小学生に戻ってしまったかのような不思議な町の空気が感じられたのです。
到着すると、ちょうど内覧が済んだようで、家具の採寸もできるタイミングでした。

上の引き戸の引手の様子
引手は上から下まで突き通す形にしています。

最近このようなキッチンの対面カウンター収納を作らせて頂く場合は、キッチンを囲ってしまって、木のキッチンの雰囲気でまとめることが多かったのですが、今回はダイニング側の壁にすっぽり収まるように作るシンプルな形。キッチン側面もシステムキッチンの仕上げをそのまま生かした形で納めることになりました。

その状況に合わせて採寸を行なって、いよいよ制作。
今回のこの形、1台の家具のように見えますが、幅が2200ミリを超えるので、このままだとマンションのエレベーターに入らないことと、玄関からダイニングまで廊下がクランク状に曲がっているところがあるので、運び込めないため、ガラス扉部分と下の板扉部分とで分けて作り、この場所で組み上げています。
ただ、その組み立てた感じがあからさまに分かってしまうと市販されている家具と似たような印象になってしまうので、なるべく組み合わせた様子が分からないような作り方にしています。
これでピッタリと納まってTさんにもとても喜んで頂けました。

上の引き戸を開けた様子
ガラス引き戸内部の様子。Tさんがお持ちの食器がね、とても懐かしさを誘うのです。
上の引き戸を開けた様子
こうやって開けてみると分かるのですが、搬入するために分割して作っているので、ちょっと変わったところに板が入っているのです。
キッチン対面カウンター収納の引き戸内部の様子
下段の内部の様子。
キッチン対面カウンター収納の引き戸内部の様子
下段は板の引き戸で閉めてしまうと中が見えなくなるので、表面と同じナラ材を使わずにコストを抑えたシナ合板を使用しています。

後日、Tさんのところにアキコと二人で挨拶に。
今回のショールーム開放日で最初に話をしていたのは私よりもアキコのほうが先でしたので。

リビングにお邪魔すると、何となく懐かしく子供の頃を思い出すように感じる食器やインテリアの印象。
町の空気はそこに住む人の空気でもあるわけです。
再び子供の時分に戻ったかのような懐かしい香りをかいだ時のような心地になったのでした。
すてきな使いかたをしてくださっていてうれしく思います。

「イマイ様
平素より大変お世話になっております。
遠いところご足労頂き有難うございます。
この度は素敵な棚の制作、納品を頂き有難うございます。
夫婦ともども、想像以上のものを目にして、大喜びでした。
生活を続けながら、キッチン収納のご相談をまたさせて頂きたく考えております。
こちらこそ、今後とも宜しくお願い致します。」

Tさん、ありがとうございました。

引手はかなぐやさんの六角棒真鍮とってコの字
引手は、相変わらずとても美しいと評判のかなぐやさんの「真鍮とって六角棒コの字」を使わせて頂きました。このサイズはいつもオーダーで作ってもらっているのです。ありがとうございます。

ナラ板目ランダム張りのキッチン対面カウンター収納

価格:610,000円(制作費・塗装費)

 

*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は25,000円から、取付施工費は40,000円から)

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