不思議な順番
「ナラ板目ランダム張り突板とクォーツストーンのペニンシュラキッチンと背面食器棚」
横浜 J様
design:Jさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:daisuke hirose
painting:daisuke hirose
なにしろ私たちの工房は、小さいし制作するスタッフも4人に限られています。
以前、みんなと「忙しくなると手が回らなくなってしまうことがあるからもう一人入ってもらうのはどうだろうか。」と、相談したことがありました。
相談する以前にも、かつて5人の制作スタッフで取り組んでいる時期が2度ほどありました。
最初は私もまだ制作に関わっていた20年くらい前かな。その時にはあまり感じなかったのですが、今はね、元スタッフのカナイ君やただいま主任のノガミ君が主導となって、作業場と機械場をきちんと分けたこともあって、作業場がちょっと狭く感じるのです。
私が制作に関わっていた時は、現在の機械場で作業していてもうちょっと雑然としていたかもしれません。
正方形の立地というのはなかなか使い勝手が中途半端になることがあるのですが、私たちの工房も多分に漏れず、ちょっと使いづらかったりするのです。
そういう中でもみんなは工夫して作業のメリハリができるようなレイアウトで臨んでくれているのですが、やはりこの状態で5人となると・・。
機械の待ち時間も出てしまうし、肩を寄せ合って作業することになっちゃう。木工でそれだと危ないですからね。
「それなら、工房を広くしようか。」という話も出たりするのですが、そうするにはやはりそれなりにお金が必要になってくる。ということはもっとせわしなく働かないといけなくなってくる・・。
それが良いことなのか良くないことなのかはそこに携わるみんなの心の持ちようなのですが、やはり言葉のとおりに心がなくなっちゃう気分になるのって、あまりよろしくない。気持ちが疲れちゃうのってあまりよろしくない。
ということで、時々こういうことがみんなの間で話題にあがるのですが、相変わらず4人でこの規模でコツコツとやっているのです。
そうなると困ることのひとつが、できるボリュームが限られてきてしまうのです。
時々、新築1件分の家具の相談を頂くことがあったりするのですが、それって頼られていることなのでしょうからとてもうれしいことのはずなのに、私はドキッとして、そのボリュームだと私たちだけでは対応できないぞ‥、と焦ってしまうのです。
まだ、見積をもらっただけなのに焦ってしまうのですよ。
Jさんからのメールもちょっとドキッとしましたっけ。
「オーダーのカップボードを検討してるのですが、インスタグラムで拝見させて頂いた添付のイメージですと大体費用はどのくらいでしょうか。今のキッチンも添付します。」
というとてもシンプルなメールと一緒に「懐かしい丘」の横浜のKさんのインスタグラムの写真ご自宅のキッチンの様子を写した写真が送られてきました。
そこで、Kさんの時に金額をお伝えしますと、幅を少し広げてスライドテーブルをつけたいというメールが届いて、その9分後には今度は「きもちの距離」の志木のIさんがかなりイメージに近いです、というメールが届きました。
情熱的ですね。
さっそく私も情熱的に横浜Kさんのイメージに追加の内容と志木のIさんのイメージと重ねてあらためて金額をお知らせしました。
すると間もなく、
「誠に有難うございます。
確認し、またご連絡させていただきます。」
と、すぐに返事が届きましたので、また間もなくお返事が届くのかと思っておりましたら、その後パタッと1ヶ月ほど連絡が来なくなってしまいました・・。
おや・・、このあいだまでの情熱的な問い合わせの感じは急に冷めてしまったのかしら・・。
そこで、もうすぐで1か月が経とうとする頃に、どういうふうにお考えかな、と思いましてメールをお送りしました。
すると、Jさんいろいろと考えてくださっていたようで、また溢れるイメージがどんどん送られてきました。
これは一度まとめておかないと私もうろ覚えになってしまいそうだと思いまして、まずはスケッチにしてお送りしました。
スケッチにすると溢れる要望は意外とオーソドックスな形に納まったのですが、そのスケッチを見たJさんから再びご返信があり、それをまとめたところで一度こちらまで家具の様子を見にいらして頂けることになりました。
ここでひと段落です。
食器棚の様子を見て頂いて、気に入って頂けるようなら今度は図面を描いてお話を進めようかな、なんて思っていたら、
「カップボードのご依頼予定だったのですが、・・」
あれ?お話がなくなっちゃうのかな・・。
「・・ですが、妻といろいろと話し合いまして、キッチンもこのタイミングでリフォームしたく考えておりまして、あらためて追加ご相談させてさせていただけますでしょうか。
添付のドア横の半畳の納戸も解体して、カップボードの延長も含めてご相談させていただければと思っております。」
と、大きくお話が広下たいというご連絡だったのでした。
この10日間の間に何かあったのでしょうか。なんだか不思議な順番。
とてもうれしい反面、食器棚だけで考えていたものですから、急に規模が大きくなるとみんなで対応できるだろうか・・、とちょっと心配になったりしたのでした。
それから、急きょ予定が変更になってJさんとお顔合わせできる時期が1ヶ月ほど後ろにずれることになりまして、その間にkotiの伊藤さんに連絡を取ってキッチンをどのように改装できるかを相談しましたら、JさんのLDKはちょっと柱が複雑に立っているので、現地を見てみないと判断しづらい部分があります、ということで、私よりも先に伊藤さんがJさんとお会いすることになったのでした。
私は残念ながら打ち合わせの先約があって同席できなかったので、なんだか不思議な順番。
そして、その伊藤さんの現調の時にいろいろと検討した結果、結局柱を取り払うことは止めて、キッチンの吊戸棚と吊戸棚がつく下がり壁、そして対面カウンターとその腰壁を取り払って、リビングダイニングとのつながりを作る、という形にまとまったのだそうです。
そして、食器棚はもう少しプランを広げて・・、とJさんの構想が少しずつまとまっていくのでした。
ただ、柱が取れなくなったキッチンが今のキッチンとどのくらい印象が変わるのか、Jさんが思い描いているイメージ通りになるのかちょっと心配はありました。
それまではきっとどれか柱を撤去できるに違いないだろうから、ペニンシュラタイプのキッチンになればきっともっとリビングと一体に見えて明るくなるだろうな、なんて私も思い描いていましたから。
そして、いよいよ顔合わせの日。ここに来るまでになんだかもうずいぶんと長いこと話し込んだような気がしていて、初めてお会いするという感じがしなくて、Jさんもインスタグラムでどちらかというとご主人がスマートフォンに穴が開くほど見てくれていたようで(笑)、私もアキコもそしてスタッフみんなのことも熟知していたのでした。
「ほら、ここはやっぱりこれだよ、いいなあ。」とご主人が奥様に一つずつご説明。それを隣で聞く私。
そのような感じで打ち合わせは進み、ひとつの形がまとまっていったのでした。
そして、私たちが担当させて頂く部分はキッチンと食器棚部分ということで、このボリュームなら大丈夫、と少し胸をなでおろしたのでした。(ここに玄関収納や洗面台が入ってきたりするとドキドキしてしまうのですね)
お話は徐々にまとまりつつある中で、Jさんに一つの思いがわいてきたそうです。
やはりキッチンや食器棚を含めたリノベーションとなりますと、かなり覚悟のいる費用が掛かるものです。
そうなる時にはたしてこのまま1社だけの費用感を知り得ただけで話を進めてよいものだろうか・・と。
キッチンや家具に関しては、今回に限りましてはJさんが私たちの形を希望してくださったので迷うところはなかったのですが、リフォームとなると、大きな決め手がご自身でもつかめないところがあったのだと思われます。
そのような質問を私たちに投げかけてくださったので、私としてできるアドバイスは過去にいろいろなリノベーションの現場を見てきてこういうことがあったということくらいです。もちろん、kotiさんの仕事は信頼しておりましたので、その現場以外であったことなのですがこのようなことがありました。
○現場監督さんとの私との打ち合わせは電話のみで一度も現場で会ったことがなく、(おそらく現場を何件も抱えていて、簡単な内装工事だったからか現場のとりまとめは大工さん任せのようでした)壁やタイルの取り合い、キッチンの納める位置でお互い認識のずれが出て是正工事が発生したことがあったこと
○工務店の営業担当者さんと設計担当者さんと現場監督さんの連携が取れていなくて、聞いた、聞いていないのやり取りばかりで、施主様のイメージが反映されていなかったこと
○設計の方がほとんど現場に来ないで、定例会議などがなく、監理ができていなくて監督任せになっていて、監督さんとが設計担当を兼務しているならまだ良いかもしれませんが、施主様と設計の方で決めたことが現場に反映されていないことが過去にあったこと
コストだけで考えると表に出てこないようなことはたくさんあります。
そういう部分をどう判断するかは工事を依頼するお客様の考えそれぞれによるのですが、打ち合わせのやり取りが遅かったり、修正内容がきちんと反映されていなかったり、モデルハウスの細かい納まりがちぐはぐだったり、何かしら糸のほつれは見えると思うのですが、その判断はやはり難しい。
そのバランスをJさんも悩んでいらしたのですが、やはり素直に向き合った通りの答えをくれる伊藤さんの在り方に共感してくださって、無事にリノベーションが進むことになったのでした。
こうして、お話がまとまりましてお子さんの学校の終業式に合わせて工事をスタートすることに。工事期間は約2週間で、この春休みの間は奥様とお子さんはご実家に映られて、ご主人だけはお仕事もあるので2階で過ごす、という形になりました。
現場は、私にとっては子供時分の懐かしい思い出がある戸塚の町のそば。
戸塚というと、まだバスターミナルが駅から離れたところにあって、夏になると文京区に祖父母の実家のある母に手を引っ張られて、おもちゃ屋さんやケーキ屋さんが並ぶ商店街を通り抜けて緑とオレンジの東海道線に載せられたのをよく覚えております。
あまりに私やユウ(弟です)がぐずるとマクドナルドに立ち寄ってくれたような思い出もあります。
私たちの時代ではマクドナルドは1ヶ月に1階でも行けたらよいくらいのご馳走だったのです(我が家だけかな)
その頃とはずいぶん変わってしまったよ。40年ほど経つからそれは当然ですね。
その戸塚の町が見渡せるような丘の上の住宅街でいよいよ工事が始まりました。
工事開始の翌日に解体が終わったタイミングで今回の制作を担当したヒロセ君もリノベーションだと床の不陸なども出ていると思われるので見ておきたい、ということで、一緒に現場に。
伊藤さんにも立ち会ってもらって、それほど歪みなく設置できそうなことを確認。
そして、その週の後半にすべて仕上げたキッチンと家具を持って再び現地入り。
取付自体はボリュームがそれなりの大きかったにもかかわらず、事前にヒロセ君も見ておいたおかげでスムーズに取付は完了。
なんて書いてしまうと簡単に思えてしまうのですが、実際に制作にあたったヒロセ君はいろいろと悩みながらこうしてきれいに作ってくれたのです。
ありがたいことです。
「Jさんのキッチンとカップボードを制作して:スタッフヒロセ君の制作日記」
「設置工事完了の時の様子」(同じようなことを書いておりましたね)
伊藤さんの内装工事もすべてが完了した後にアキコと二人でお邪魔させて頂き、とてもとてもうれしそうに使っている様子を聞かせて頂いて、私たち二人も聞いていてとてもうれしくなったのでした。
ありがとうございました。
天板 | クォーツストーン「シーザーストーン」 |
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前板・扉 | ナラ板目ランダム張り突板 |
本体外側 | ナラ板目ランダム張り突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目ランダム張り突板とクォーツストーンのペニンシュラキッチンと背面食器棚
費用につきましては、お問い合わせくださいませ。