藤沢三建築めぐり
2024.09.07
文化住宅と言ってよいのか分かりませんが、和洋折衷でも日本の風土になじんで見えるような住宅が好きなのだなあと自分でもよく思うのです。
「文化住宅」という言葉は実は最近知ったのです。家具の打ち合わせに出かける時に電車の中で何か読み物はないかと探していて推理ものが読みたいなんて思っていたら帆村壮六という人物が活躍する爽快なお話にのめり込んでしまって、その中で聞いたのでした。
今日めぐった建物にはほんとうはきっともっとしっかりとした呼び名があるのでしょうけれど、分けへだたりなく優しく招き入れてくれる空気にこの言葉がしっくり来ていました。
なんだかね、予定していた制作や取付が少し後ろにずれたことで少し気持ちに余裕ができたからか、和洋折衷の建物を見に行きたいって気持ちが沸き上がってきたのです。
一番行きたいのは江戸東京たてもの園の前川國男邸だけれど、ちょっと今日出かけるには距離があるからなあ。でも、家具がきちんと使われている空間が見られたらいいなあ、なんて思って調べていたら、これほど近いところにすてきな建物があることを知ったのでした。
もともと遠藤新設計の旧近藤邸はしょっちゅう横を通り過ぎていたので、いつか中を見たいなあと思っていたところです。
そこから2駅北上した善行駅が最寄りに素敵な建物があることを知って、アキコと出かけたのでした。
まずは、佐藤秀三設計の俣野別邸。
開園まもなく到着して他に誰も来訪者がいなかったからか、受付の方にとても丁寧に建物の入り口を案内してくださり、心躍る場所だったのでした。
そして、一番家具が家具らしく使われている様子がよく分かって楽しい空間でした。カーテンボックスの感じとは、扉に張られた布の感じとか、イングルヌックのコーナーの籠り具合とか、ハンドルの太さとか。
そうか、ハンドルは太くても良いのだ!
続いては善行駅のそばのアントニン・レーモンド設計の「旧藤澤カントリー倶楽部」のクラブハウスであるグリーンハウス。現在は体育センターの受付の建物になっているということで、扉を開けて「建物の見学に伺ったのですが。」と伝えると、「どうぞどうぞ2階もご自由に。」とおっしゃってくださって、ホールの様子を大変興味深く見させてもらいました。家具があるわけではないので、建物のキュートな印象をアキコと二人でキャーキャー言いながら見させてもらいました。
そして、藤沢駅から歩いて目指すは旧近藤邸。市民会館の方にお声掛けすると、「今鍵を開けますからちょっと待っててくださいね。」と笑顔で答えてくださいました。
何というか、どの皆さんも私たちのような急な来訪にもとても柔和な表情で迎えてくださる。古い建築を見てくれることを楽しんでいるように思える。(違うかもしれませんが。)その垣根のない様子がより楽しく過ごせる時間になって、とても素晴らしい日でした。
この旧近藤邸も家具というか、大工さんが箱を作って、建具屋さんが扉を作って仕上げたのだと思われる、直線的でダイナミックな形はライトの直線的な印象が想起されるなあ、なんて勝手に思って楽しんでおりました。暮らしの動線までを垣間見ることは難しかったのですが、この建物を囲う藤棚が生む陰影の心落ち着く様子(入り込んでくる日差しが葡萄のようにまん丸い!)や、その建具の意匠の隙間から覗く外壁の様子や「ほらっ、ダイちゃん、この下きてごらん涼しいよ!」とアキコのそばの藤棚の下に行くと本当に木陰が生み出す風がミストのように体を冷やしてくれる様子など、そこかしこが美しい場所でした。
汗でシャツの色が濃くなることがなかったなら、もっとゆっくり見ていたかったのですが、うーん、暑さにやられる。9月なのに。
でも、すてきな3つの建物を堪能できてとても良い一日だったのです。