大磯、かなり静かなり

「ブラックチェリー突板とステンレスバイブレーションのペニンシュラキッチンと背面食器棚」

大磯 T様

design:テントラインさん/daisuke imai
planning:テントラインさん/daisuke imai
producer:iku nogami/honoka takeishi
painting:iku nogami/honoka takeishi

ブラックチェリーのペニンシュラキッチンと背面食器棚
リビングに入ると目に入ってくるキッチンの様子。シンク下をオープンにする形が私たちのキッチン作りでは多いのですが、今回はこのように視界にゴミ箱が映り込んでしまうということもあり、収納にしています。当初は引き出しにする予定でしたが、使い勝手を工夫することでコストダウンを図るために開き扉にしています。おもしろいのはテントラインさんの提案で、デザインを優先してハンドルをつけなかったこと。右の扉はタオル掛けとして使う長いハンドルがついているので、こちらから開ければ左の扉を開けるのも不便がないだろうということになったのでした。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンと背面食器棚
ダイニング側は4枚の開き扉になっています。この部分はTさんが「とても気に入りました。」と言う堀商店さんの真鍮磨き仕上げのハンドルをアクセントに取り付けています。

葉山で活動されているテントラインさんからオーダーキッチンのご相談のメールを頂きました。
これから大磯に住まわれるTさんに私たちのキッチンのことをお話しくださったそうで、Tさんにとても気に入ってくださったということでご連絡をくださったのでした。
ただ、12月にメールを頂いたのですが、3月末の完成を目指しているということで、そうなるとキッチンの納品は2月末くらいだろうか・・、そうなると年明け早々には現場を見て制作に取り掛からないと・・と、なかなかスケジュールが厳しそうなのでした。

ステンレス天板はキッチンキャビネットから浮かせて見せるフロートタイプ
ステンレスカウンターとキッチンキャビネットの関係は、軽い印象、シャープな印象に見せたいということもあって、フロート感を出して、10ミリの目透かしを取っています。
ステンレスの段付きシンクと水切りプレートと洗剤ポケット
シンクは、洗剤ポケット付きでさらに水切りプレートが置けるような段付きシンクにしています。
クリンスイ「F924EHU」
水栓器具は、三菱ケミカルクリンスイの「F924EHU」を採用。水栓の先端でシャワーと通常吐水の切り替えができるシャワーヘッドタイプです。浄水器一体型でも胴体が細くすっきりしているのが特長。

通常、オーダーキッチンのお話を進めていく場合は、制作する期間よりもいろいろと検討する時間が長くなることが多かったりします。
どこまで細かく考えていくかは、そのキッチンを使いたいと望むみなさんの具合にもよるのですが、私としては、せっかく考えるのですからいろいろとできることできないこと、良いと思うこと、良くないと思うことをお伝えして、そこからご自身にとって良い形を選んでいってもらえたらと思うのです。
そういうふうになると、通常みなさんは3ヶ月から半年くらい検討されることが多かったりするのです。
いろいろとアドバイスをするうちに間取りが変わってしまう方もいらっしゃるくらいです。
ですので、おせっかいかもしれませんがいろいろとお伝えするのです。

ここはもう一段引き出しがあったほうがこのように使えます・・
ここはこうするとゴミが溜まりやすいかもしれません・・
ここをこうすると、リビングから見た時にはこのように見えます・・
ご家族皆さんご一緒でお料理するならこういう動線があると良いかもしれません・・
などなど。

すると、今まで気が付かなかったことが見えてきて、新しい暮らしがより鮮明に見えてくるのです。図面と素材を見るだけの印象からぐっと踏み込んだ形が見えてくるわけです。
そうすると、正味1ヶ月の間にキッチンの内容をまとめるのは難しそうだなあ、という印象があったのです。

ブラックチェリーのペニンシュラキッチンのレイアウト
ステンレスの仕上げはバイブレーション仕上げ。天板の厚みは少し薄く20ミリでシャープに見せています。キッチンの奥行は既存の壁を以下つ形にしたので、1050ミリ(650ミリと400ミリ)とかなり奥行きが深いキッチンになっています。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの扉を開けた様子
シンク下を開けると、このように可動棚が入ったシンプルな収納になっています。収納内部はいつものように白い化粧板で仕上げています。内部を濃い色にすることもありますが、濃い色にする場合と白い色の場合、どちらが傷や汚れが目立ちにくいかというと、白い色だったりします。そのあたりも踏まえると、白い化粧板で作られるかたが多いのです。
ミーレの食洗機「G5214CSCi」
食洗機は、ミーレ「G5214CSCi」。ご主人が気に入ったこのミーレの機器たちをキッチンの形を決める前に張り切って購入されていたのだそうです。
ミーレの食洗機「G5214CSCi」
天板をフロートするデザインにする場合は、食洗機の上にこのように板を1枚入れて納める形が多いです。

そこでさっそくテントラインさんから頂いた図面をもとに概算の金額をお伝えして、お話を進めてゆけることになりましたので、まずはこちらにいらして頂いてキッチンを見て頂くことになりました。
うん、実際に見てもらったほうが伝えやすいしまとめやすいので助かります。

そして、さっそくテントラインの水口さんご夫婦と、Tさんご夫婦でいらしてくださいました。
あとから教えて頂いたのですが、水口さんの奥様とTさんの奥様がご友人ということで、そして湘南地域で細かくオーダーキッチンの相談に載ってもらえるメーカーさんがほとんどいなかったということで、今回このようなすてきなご縁を頂くことができたのでした。
ありがたいことです。

そして、いろいろと見て頂きました。
私たちのショールームにはホワイトオーク板目の無垢を表面に使用したアイランドキッチンと、ブラックチェリー柾目の突板を使用したL型のキッチンの2台を見て頂くことができます。
無垢だとどのような感じになるのか、突板だとどのような感じになるのか、それぞれの良い部分や良くない部分をお伝えするとともに、実際のキッチンとして使用する時の使い勝手も見てもらえるようなレイアウトで展示してあるので、何かと実生活に近い印象を感じてもらえるのではないかと思っています。
そのあたりをいろいろと見てもらいながら、水口さんから頂いた図面を基にTさんのご要望を重ねて一つの形にまとまっていったのでした。

ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの引き出しを開けた様子
食洗機右隣の引き出し最上段の様子。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの引き出しを開けた様子
食洗機右隣の引き出し2段目の様子。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの引き出しを開けた様子
食洗機右隣の引き出し3段目の様子。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの引き出しを開けた様子
食洗機右隣の引き出し最下段の様子。キッチンの引き出しは汚れやすい部分でもあるので、いつもみなさんに確認するのですが、今回はテントラインさんとTさんが相談されて、ハンドルをつけないで手を掛けて開ける形になりました。

今回のTさんのご新居は新築ではなくリノベーションする予定です。
主要なお部屋を解体して間取りからあらたに作っていくということなのですが、工事期間としては2ヶ月はないくらいの予定とのこと。なかなかタイトな期間です。
プランはどうにか短期間でまとまりそうでしたが、今度は制作のほうが果たして間に合うかどうか・・。現地解体直後からすぐに取り掛かれればどうにかなるかな、このあたりが次なる心配だったのでした。

形もほぼまとまったし、工事が始まる時期にはほかのお客様の仕事も重なるからちょっと調整しようかな、と思っていたところに水口さんからメールが。

「突然なのですが、昨日T様より連絡がありまして、急に御主人が4月より地方に転勤する可能性が出てきたそうなのです(転勤の可能性は五分五分という感じだそうです)。
2月中旬にその結論が出るそうでその結果によっては今回の大磯のリフォーム工事を延期せざるをえなくなるそうです。」

おぉ、なるほど。そのようなこともあるのですね。
たしかに転勤って急に決まるってよく耳にしますものね。
ひとまず、どのような形になるかのお返事を待つことになりまして、工事の予定は一度白紙に。私としてはちょうど年度末にむかってとても慌ただしくなってくる感じでしたので、少し安心したところでもありました。

ミーレのIHヒーター「KM6311」
IHヒーターはミーレ「KM6311」。
ミーレの電気オーブン「H7440BM」
そして、オーブンはミーレ「H7440BM」が導入されています。IHヒーターとオーブンの間はヒーターの基部が埋まっているため、木製のパネルで化粧をしています。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンのオーブン下の引き出し
そして、残った最下段は引き出しに。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチンの調味料引き出し
調味料入れはハーフェレのフレームバスケットを採用。
ブラックチェリーのペニンシュラキッチン対面収納の扉を開けた様子
ダイニング側の収納の様子。奥行を深めにとってあるので、食器棚として使う以外に雑誌などもしっかりとしまえるサイズ感になっています。

そして、数か月が過ぎた春になって、あらためて水口さんからご連絡がありまして、転勤のお話は無くなったとのことで、再びリノベーションのお話を進めることになったのでした。
ただ、この転勤の話が出ている間はTさんは身動きが取れなかったため、当初の引っ越しの予定がずれてしまったので、仮住まいを探し直したり、とても慌ただしくなってしまったことからそれが落ち着く初夏に差し掛かる頃から工事を始めることになったのでした。
そして、いよいよ工事開始。
開始時期はこの時期になったのですが、工事自体の内容は大きく変わっていないので、工事期間はなかなかタイトです。
解体が終わったこのタイミングで現地確認出来たらすぐに取り掛からないとね。
ということで、東海道線に揺られて大磯まで。

ブラックチェリーの食器棚
食器棚の様子。食器棚の上は大工さんがツガ(だったかな)造作して中に照明が組み込まれていて、知チェリーに近い色で塗装されているので、一体感のあってコンパクトにまとめられた空間がきれいなのでした。私たちのほうでは、冷蔵庫との仕切り板と吊戸棚と下の食器棚部分を作らせて頂きました。この数日前に納品されたというリープヘルの冷蔵庫。こちらもご主人が気に入って決めたということで納品まで数カ月待ってようやく届いたのだそう。かなりピッタリに納まっていますが、電圧を変える電源装置はうまく確保して施工してくれたそうで、こうしてきれいに納まっています。

大磯だったら車で向かうほうが少し早かったりすることが多いのですが、近隣にパーキングが少ないということで電車に乗ってきちんと時間が読めるほうが良いし、電車のほうが気持ちが落ち着きますので。
また、車で来る大磯よりも電車で来る大磯が好きなのです。
駅から出ると静かなロータリーの横でスーッと立っている美しい洋館の旧木下家別邸。
そこを後ろに見て海のほうに下って物静かな町役場を過ぎ、幹線道路から1本入っただけなのにざわめきが消えて涼やかな風が吹く小道を行くとふいに現れるやはり物静かな草庵。鴫立庵というとても趣のある俳諧道場なのだそうです。
このあたりを過ぎるころにはまるで別の世界に迷い込んだかのように静けさと竹がこすれあう音しか聞こえなくなります。
すてきなファンタスティックロード。
しばらく歩き続けて初夏の大気が私の汗を呼ぶ頃にようやく到着。
そして、空気がとどまってしまった現場で汗を流しながら打ち合わせ。
コンロ前の変形した壁のあたりを確認して、あとは問題なく納められそうなことを確認したら、スケジュールを確認して、よし、これで制作に取り掛かれます。

ブラックチェリーの吊戸棚の扉を開けた様子
吊戸棚内部はシンプルな可動棚がある形。引き出しに入れると引き出しの動きで閉めると倒れてしまいそうなもの(背の高いグラスや重ねたカップなど)はこのように扉の中にしまうと安心です。

さて今回は、ブラックチェリーを使ったペニンシュラキッチンと背面の食器棚を作らせて頂きます。
テントラインさんの作品を見ると、優しい表情を持つ空間ばかり。
その空間に合うような優しいけれどピシッとエッジの効いた形に仕上がるように頑張ります。
今回はノガミ君がキッチンを、タケイシさんが背面の食器棚の制作を担当します。
キッチンを受け持つのはもう少し先になるかもしれませんが、食器棚でしたら十分制作できる力がついてきたと思えるところ。みんなからするとまだまだひよっこなのかもしれませんが、家具作りは経験を積んで少しずつ見えてくるものがありますから長い目で見てあげたいところです。
キッチンのほうは複雑な形ではなく、いつもの私たちのキッチンの作りでしたので、順調に進めることができました。いつもと違う部分というと、Tさんが私たちのことを知る前にすでに手に入れていたミーレの食洗機とIHヒーターとオーブンを使いやすいレイアウト通りに組み込むことくらいでした。
ただ、現場が解体直後だったということもあって、コンロ前の壁の寸法がはっきりしません。特にリノベーションとなるともう少し工事が進まないとはっきりとした寸法が出ない場所もあったりします。
そこで、何かあっても逃げを見て置けるようにキッチン自体の寸法は10ミリ弱ほど小さめに作っておいて、天板でその逃げ部分を隠せるような作りにしておくことにしました。
できあがってしまうと分からない部分でありますが、こういう工夫がきれいに納まるための一歩だったりするのです。
こうして制作は無事に完了して間もなく設置工事に入らせて頂きます。
やはり壁の寸法は当初の予定よりも多少動きがあったのですが、工務店さんのほうで調整してくれて、キッチンのほうでも吸収することができてきれいに納めることができました。
そして、無事にお引渡が終わり、Tさんに引き渡されたのでした。

ブラックチェリーの食器棚の引き出しを開けた様子
ゴミ箱スペースの上の引き出しの様子。
ブラックチェリーの食器棚のゴミ箱スペース
ゴミ箱はケユカのアロッツ。

「いつもお世話になっております。
このたびはすてきなキッチンを完成して頂き、ありがうございました。
リビングにいますと、キッチンの木目が見事に綺麗に並んでいて、惚れ惚れ致します。
本当にお願いして良かったと思ってます!
また、ご相談事が出てまいりましたらご連絡させて頂きます。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。」

といううれしいご連絡を頂いてしばらくした頃、ちょうど納品町となっていた冷蔵庫が届いたということでそのタイミングでご挨拶に伺わせて頂きました。

ブラックチェリーの食器棚の扉を開けた様子
ゴミ箱スペースの隣は両開きの扉になっています。細かいものよりも大きなものをしまう場合は、引き出しにしなくても取り出しやすいので扉でも十分ということで扉にすることも多いのですが、Tさんの場合はけっこう細かいものも入っております。

前回と同じように大磯の小道を抜ける道程でまた空気がふっと静かになります。

「ほらねっ。」

「ほんとうだ。」

そして、Tさんに招いて頂いたリビングで海を見ながらお話をしていると、気が付くと、私たちの会話しか耳に届かないような静けさが。
「ここは静かなのですね。」
「はい、目の前が自動車道なのに、気にならないくらいなのですよ。」

小道を抜けたらまるで別の場所にたどり着いてしまったかのような。大磯、かなり静かなり。

ブラックチェリーの食器棚の引き出しを開けた様子
右端の引き出し最上段の様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出しを開けた様子
右端の引き出し2段目の様子。
ブラックチェリーの食器棚の引き出しを開けた様子
右端の引き出し最下段の様子。
天板 ステンレスバイブレーション
前板・扉 ブラックチェリー板目突板
本体外側 ナラ板目ランダム張り突板
本体内側 ポリエステル化粧板
塗装 オイル塗装仕上げ
キッチン仕上げ

ブラックチェリー突板とステンレスバイブレーションのペニンシュラキッチンと背面食器棚

費用につきましては、お問い合わせくださいませ。

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