矛盾した心地良さ

プッシュオープンソフトクローズレールを使ったナラの食器棚

藤沢 H様

design:Hさん/ecomo Kさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:kenta watanabe
painting:kenta watanabe

プッシュオープンソフトクローズレールを採用したナラの食器棚
食器棚全体の様子。食器棚が1200ミリとコンパクトなスペース。個人的には廊下側から使用する物入はキッチン側から使用する形ならパントリーとしても使いやすかったのではないかなあと思えるマンションの間取り。

久しぶりにecomoさんから、「ちょっとしたリフォームを行なう中で食器棚を新しくしたいというお客様がいらっしゃるのです。」とお声掛け頂いたのです。

ecomoさんは藤沢にショールームがあるのですが、実は私はまだ一度もお伺いしたことがなく(すみません・・)いつも私たちのショールームまでいらしてくださって打ち合わせを行なうことが多いです。
「イマイさんのところで家具の感じを見てもらったほうがイメージをつかみやすいと思いますので。」と担当のKさんはいつもそうおっしゃってくださるのでありがたいのですが、実は今回の形は、私たちもショールームにあるものではなく初めて作る形だったのです。
そこでお二人にはこちらまで足をお運び頂いてマンションのキッチンという限られたスペースの中でどのような食器棚が使いやすいのか、いろいろと悩みながら形を考えていったのでした。

食器吊戸棚の内部
吊戸棚内部の様子。吊戸棚の下で床から1370ミリと、Hさんの身長に合わせて中が見通せるようにかなり低めに位置まで戸棚を下げています。

限られたスペースと言えば、余談ですが、こういうことを言うと怒られてしまうかもしれませんが、最近のマンションはキッチンのスペースが狭いように感じることがあります。
マンションの間取りの見栄えとして部屋数の多さを表現したいためなのか、狭くなりがちなリビングを広く見せるためなのか、キッチンが機能的にはなりにくい広さになってしまっている間取りを時々見かけることがあるのです。
食器棚を置くスペースが狭い間取りだったり、食器棚を置いてしまうとキッチンと食器棚の間の通路幅が800ミリ以下になってしまう間取りだったりと最近そのようなケースを見かけるようになりました。
料理をする時間よりもくつろぐ時間を重視したいというお話をどこかで聞いたこともありますが、このようなレイアウトではみんなで料理するには少し窮屈ではないかなあ、と思えたのです。
Hさんの間取りもそのように感じられて、食器棚のスペースが幅1200ミリほどというコンパクトなスペース。
マンションは四角い躯体の中に間仕切りを立てて、余すところなく収納や居室として考えられて結果このスペースになったのだと思うのですが、1200ミリだとちょっと狭いように思えまして・・。
さらには、個人的には食器棚の右壁の物入は元からなくてもマンションの魅力は十分に生まれたのではないだろうかなんて思ったりして。 でも、今回のリフォームでそこまで大掛かりに行なうことはできなかったので、この1200ミリのスペースを上手に活用する方法を3人でいろいろと悩んでいったのでした。

食器吊戸棚の木目の様子
家電を置くスペース。最近のオーブンレンジはコンパクトでも容量の大きなものが出ているので、もう少し吊戸棚を下げても良いのかもしれませんが、取扱説明書の通りの放熱寸法だと多少は戸棚の下面が熱を持ったりするので、もう少し余裕を見た空間を確保しています。

その中でHさんの一番の課題となっていたのはゴミ箱スペース。
最近のシステムキッチンでは、シンクの下にゴミ箱を置くようなものも出てきているのだそうですが、主流はシンクの下は大きな引き出しになっているタイプです。
Hさんのキッチンもそのようなタイプでしたのでゴミ箱を置くスペースがない。
ゴミ箱は食器棚側に置く、ということをはHさんの念頭にあったのですが、やはりリビングダイニングから見えてしまうのがちょっと残念に思えていたのだそうです。
そこで、今まで制作したオーダーキッチンや食器棚の中からゴミ箱を隠すタイプのものをいろいろと見ながらお話を進めていったのです。 その中でちょっと変わった方向にお話が進んでいったのでした。

食器棚の天板の様子
扉や引き出しの前板はナラの突板を使っておりますが、カウンターはナラの無垢材で幅接ぎして制作しています。

先ほど、「私たちも初めて作る」と言ったのは、このゴミ箱スペースのことでした。
こうして全体の写真を見るとシンプルな食器棚に見えるのですが、右下の大きな引き出しにゴミ箱が潜んでおります。
引き出しですからもちろん、引き出して使うわけですが、ゴミ箱の台数が増えると大きな引き出しになり、大きな引き出しになると引き出す時にある程度の力が必要になってきます。

食器棚の引き出し
上段左側の引き出しの様子。この引き出しは通常のソフトクローズレールを使っています。
食器棚の引き出し
上段左側の引き出しも同じく通常のソフトクローズレール。ちなみに私たちが引き出しを作る時は、底付けのレール(外側から見えにくいレール)を使っています。側板につけるタイプのレールもありますが、そのタイプのソフトクローズレールは最初の引きがかなり重いことと、レールがむき出しになるので、ホコリやゴミ場付着しやすくて底付けのレールよりも故障する機会があるように思えまして。以前にも、キッチンを作ったお客様から引き出しにしまってあるお塩を直接手づかみでお鍋に振っていたら、いつの間にかレールが錆びてしまったという貴重なご意見を頂いたこともありました。

また、余談ですが、以前どこかにも書いたかもしれませんが、最近主流になっているソフトクローズタイプのスライドレールで個人的に一番引く時の力が軽くて済むのはヘティヒのクアドロだと思っています。(最近は触る機会がなくなってしまいましたが。)
以前はしばらくの間そのレールを使っていたことがあるのですが、使いたい時にすぐに手に入らないことが多かったことと、レールサイズがほかのどのメーカーとも互換性がなかったことで、それほど使用することなく切り替えてしまいました。
ちなみにショールームとわが家の一部にクアドロを使用しています。機会がありましたら見にいらしてください。
そして、現在はハーフェレのダイナムーブを採用しています。この話をハーフェレの担当のカトウさんに話した時に、「やはりそうですね、私もそう思うところはあります。」と言っていました。結果、その軽さに近づけるように今のダイナムーブは改良されていて、このレールなら手の力が入れにくい場合でも比較的楽に引き出すことができるのです。

プッシュオープンソフトクローズレールを使ったごみ箱用引き出し
こちらがそのプッシュオープンソフトクローズレールを使った引き出し。写真だと分からないのですが、「膝で押して開けて、閉める時も膝で押すとスムーズに閉まりますよ。」とおっしゃってくださいました。引き出しのレールは特に中身に物が入った状態だと安定した動きになります。工房では空っぽの状態だったのでより重さを感じたのですが、このくらいならHさんのように小柄な女性でも不便なく開け閉めできます。また、念のため、他の引き出しと同じようにプッシュオープンが不要となった場合のために手を掛けるスリットも入れてあります。

ただ、それでも大きな引き出しで、さらにハンドルをつけないで手を掛けて開けるような形にすると開けるのに指が疲れちゃう。また、ゴミを捨てる時って手が汚れていることが多かったりします。そうなる時の板を汚れた手で長年触っていると、汚れが落ちにくくなってしまうことも考えられます。
それならプッシュ式の引き出しはどうだろうか・・、と思うのですが、閉める時はきちんと押して閉めないとまた引き出しが開いてしまうからちょっと慣れが必要かもしれません・・、と思いながらいろいろと探していたら、今はプッシュして開けて閉まる時にゆっくり閉まるというプッシュオープンソフトクローズというレールがきちんと出ているのですね。
以前、「glamorous」の王禅寺のMさんのキッチンを作らせて頂いた時に、Mさんが自身で調べて取り寄せたブルムのプッシュオープンソフトクローズを採用した時は電動で動くもので、そのギミックに驚かされたものでしたが、今は電動ではなく金物の機構だけでそれを実現できてしまう時代になったのです。すごい時代です。

炊飯器収納用スライドテーブル
左側の上部は炊飯器をしまっておくスライドテーブルになっています。

この矛盾した動きをするスライドレールってどんな感じなのだろう・・ってカタログではちらっと見ていた程度で使う機会はないだろうと思っていたのですが、ここでそのお話が持ち上がってきたのでした。
そして、最終的に採用したのはスガツネのプッシュオープンソフトクローズ。
スガツネの担当のアキヤマさんは、この倉見まではるばるいらしてくださることが多く、いろいろな金物の説明をしてくださるのですが、今回のレールはまさにアキヤマさんの説明がなければその良さが分からないものでした。
「現在、各金物メーカーでプッシュオープンソフトクローズレールは出ているのですが、スガツネはプッシュオープンとソフトクローズの切り替わるタイミングがほかのメーカーとは異なるのですよ。」とアキヤマさん。
ふむ、それが何を表すのだろうか・・。と考え込む私。

食器棚の引き出し
スライドテーブル下の引き出し上段。

詳しく聞くと、他のメーカーは閉まる途中でソフトクローズのバネが作動し始めるのだそうで、言い換えると、そのバネが効き始めるポイントまで勢い良く引き出しを閉めない限りはソフトクローズしてくれなくて、弱い力で引き出しを閉めると、またポンと引き出しがプッシュされて戻って開いてしまうのだそうで、代わりにスガツネは引き出しが全開したタイミングですでにソフトクローズのバネに引っ張られていて閉める瞬間だけ少し強く押せば、そのバネを固定しているトリガーが解除されてあとは勝手にしまっていくというもの。
自分で書いていてなんだかよく分からない・・。
簡単に言うと、スガツネ以外のレールは、開ける時は押せば簡単に開く。閉める時はある程度勢いよく引き出しを押せばソフトクローズしてくれる。
スガツネのレールは、開ける時は押せば簡単に開く。閉める時は閉めようとする最初の動作がちょっと重いけれどあとはずっと滑らかに閉まっていく。

食器棚の引き出し
スライドテーブル下の引き出し下段。

実際の生活に置き換えると、勢い良く閉めて途中でソフトクローズのブレーキがかかると中のグラスなどが倒れちゃうんじゃないか・・と思えたのです。
スガツネのは閉める最初がちょっと重いというだけなので、ちょっと行儀は悪いですが、腰や膝で押すとあとは途中で急にブレーキがかかることなくスムーズに閉まっていく。
ということで、今回は初めてこのスガツネのプッシュオープンソフトクローズレールを使ったのでした。
実際に使ってみたらその印象がよく分かり、思っていたよりも重さを感じにくく使いやすいと感じたこのレール。
ただ問題は金額が普通のプッシュオープンレールやソフトクローズレールの何倍もすること。引き出しが多いキッチンや食器棚の場合は、なかなか大変な金額になってしまうので、こういうゴミ箱用の引き出しに使うというのはとても有効な使い方だと思うのでした。

設置後にKさんと一緒にHさんのお宅にお邪魔させて頂くと、やはりとても使いやすいそうで、コンパクトながらもとても機能的な食器棚が実現できました、と嬉しそうにおっしゃってくださって私もひと安心したのでした。

 

プッシュオープンソフトクローズレールを使ったナラの食器棚

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