海の近く、ソラの近く
「ナラ板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」
茅ヶ崎 K様
design: Kさん
planning: daisuke imai
producer: tatsuya suzuki/hidenori terai/daisuke imai
painting: Kさん
私が休みの時に、今度新しく茅ヶ崎のパシフィックホテルがあったところのそばの菱沼海岸に家を建てる予定のKさんがいらしたようでした。
「無垢材を使ったシステムキッチンをオーダーで作りたいのだそうだ。」と翌日父から話を聞いたのです。イメージしている写真も見せてもらったら、私の好きな家具屋さんの写真でした。
「あー、こういうキッチンを作れたら楽しいだろうな。」なんてぼんやりと考えていたら、(その頃はいろいろな仕事でバタバタしていて、朝はけっこうボーっとしてしまうことが多かったのです・・。)「実はこのキッチンは都内の家具屋さんに以前から頼んでいたのに、今の時期になって急にできませんって言われてしまったのだそうだよ。それってひどいよな、だからぜひ作ってあげたいと思ってる。」そう父は言いました。
今、Kさんは新居を建築中で、このキッチンは予定では4月の下旬に納品される予定だったのでした。(これは2月下旬か、3月頃の出来事です。)「それはひどいな。」って思ったのですが、私たちも忙しくて皆さんの家具を待たせている状態だったから簡単に引き受けてしまうわけにはいきませんでした。
「うちも今忙しいから、簡単に引き受けてはほかの方に迷惑が掛かってしまう、だからキッチンの納期を延ばせないかな。」と言うことで、Kさんから工務店さんにうちの事情を説明してもらって、キッチンの据付は引渡しの間近にすると言うことで納期を延ばしてもらうことになりました。
よし、これでじっくりとできるなって思っていたら、よく聞くとキッチン以外に玄関ドアも作ってほしいと言うことに!?間に合うかな・・。
それから、形を詰めていく為にKさんにこちらに来て頂いて打合せをして当初のプランから結構変わってかなりボリュームのあるキッチンのプランが出来上がりました。
そして、木部の家具工事だけを私たちが行ない、ビルトインする設備機器は現場の設備屋さんに行なってもらうということを取り決めて、キッチンと玄関ドアを製作することになりました。本当は、私たちが設備なども含めてキッチンの全てを行なえればKさんにとっても、工務店さんにとっても、一番良い方法なのでしょうが、水道管をいじったり、ガスをつないだり、大型の電気製品を接続したりと言う資格は当然私たちにはないですので、やっぱりそれぞれ専門の方たちにやってもらうことになります。そこで現地でKさんを交えて、工務店さんと簡単な打合せをすることにしました。
それから、ようやく4月の下旬に取り掛かっていた仕事が一段落したので、さっそくキッチンと玄関ドアの製作に取り掛かることにしました。キッチンを担当した鈴木君も玄関ドアを担当した寺井君もこういう珍しい家具を作るのは初めてなので何だか楽しそう。キッチンはパーツごとにうまく分かれているので作り始めてみると、思っていたよりも早く形が見えてきて、コストを抑える為に塗装はKさんが自分で塗ると言うことなっていたので、予定よりも余裕を持って取付に望むことができたのでした。
板のはぎ合わせた感じはKさんの希望でなるべくバラバラな幅がつながって一枚のドアに成っていくような感じにしてほしいと言う希望で、意匠的にいろいろな幅で色も少し違う材料を使っています。
ハンドルは、Kさんがずっと迷っていた部分で、当初は縦に長いバ-ハンドルで延ばした鉄の板がついているだけのようなシンプルなものが良いと言う希望だったのですが、いろいろと考えると通常のレバーハンドルの方が良いということになりまして、シンプルなステンレスのヘアラインの丸い棒状のハンドルにしています。
ドアの木口部分は木のままだと湿気や水分が染み込みやすいので上下とも金属でふたをしてしまいました。友人で設計をされている福原氏に聞いたところ、「地面から跳ね返る水がドアの木口に染み込むことが多いのだよ。」と言うことを教えてもらったのです。なるほど、頭で考えるだけじゃ分からない、作って使ってみないと分からない部分ってたくさんあります。
玄関ドアなんて滅多に作らないから「普通は玄関ドアはこういうものなんだ。」って言うのが、私自身何だか明確じゃなくてKさんといろいろと模索しながら作りました。
「ドアクローザーは必要ですか?」と言うことに何度も悩んで、「いや、なければいけないものではないから当面はつけないでよいのでは。」と言うことで当初はつけないで納めたのです。でも、実際に扉を吊ってみると、ドアはブラブラと自由に風に吹かれています。これでは・・、不便だ。と思い、Kさんに連絡すると、Kさんもドアを釣ったその晩に現地に行っていたそうで、「そうですね、つけましょう。」と言うことになりクローザーも新たに追加したのです。建具屋さんに言わせれば、「いるに決まっているじゃないか。」って思うかもしれませんけれど、私はこうやって一つずつ覚えていくのです。実はこのあとも、クローザーの特性を理解するまでいろいろとKさんと悩みながら進めたのです。
「アイランド型のキッチンで、リビングから見えるバックパネルに力を入れたいんです。キッチン側の仕様は普通にしても、リビング側だけは木だ!って言う存在感を出したいんです。」とKさん。
そこでバックパネルも玄関ドアと同様に無垢板を3mmほどの厚みに挽いて横に目地張りにしています。木目もバラバラならば、節も残したままのラフな感じのバックパネルができたのです。サイドパネルは木目を縦にして、こちらは目地張りしないではぎ合わせたような感じにしています。これで何となく無骨だけど、スマートなキッチンができました。
上に記したビルトイン機器はKさんがインターネットで直接購入して、こちらに納品しています。ここで難しいのが、私たちは木部工事はできるけれど設備機器の組み込みはできないと言うことです。私たちがキッチンを据え付けたあとに、設備屋さんと電気屋さんが入って機器の組み込みを行ないます。(今回はコンロがないので、ガス屋さんはいないのです。)でも、設備屋さんや電気屋さんはキッチン据え付け前の状態から仕事があって、床から水道管やら電気配線やらを引っ張り出しておかないといけないのです。その位置は多少遊び寸法があるけれど、うまくシンクや水栓の位置に合わせないといけません。でも、穴あけ工事が終わってしまったあとでちょっとしたデザインの変更があったりして。そうなるとちょっとばかり配管位置とキッチンの据え付け位置に違いが出てきたりして。全て工務店さんが一括で仕事を請け負っていれば、監督さんが目を光らせておのおのの職人さんがうまくやっているかどうかをチェックするのだけれど、今回のように家具はこちらで、設備や電気は現地の職人さん、デザインの基本はKさんとなるとコミュニケーションの違いが出たりする時があるのです。今回はキッチンの巾木の蹴込みの入り具合と食器洗浄機の配管の出し位置にちょっと誤差があって、取付間際に設備屋さんと打ち合わせて、Kさんとも連絡を取った結果、巾木の蹴込みの入り具合を当初50mmで予定していた部分を40mmにすることになりました。こうやってなかなか難しいことがあったりするのです。(本当は事前に気付かなくてはいけないのですが・・。)
カウンタートップはステンレスヘアラインでトップからそのまますとんと穴を開けただけのようなシンクがきれいです。
隣についた食器洗浄機は正面のパネルに扉などと同じなら板目の突き板を張って、巾木の部分も通常は黒いプラスチックの巾木になってしまうことが多いのだそうですが、メンテナンス用に取り外せる巾木をナラの無垢材を使って作りました。
Kさんには、「ここまで揃えられるなんて思っていなかったです。」ととても喜んでもらいました。
本当にKさんとお話していると「自分たちのキッチン」を夢見ている様子がとても伝わってきて話を聞いている私もワクワクしてくるくらいでした。そして、実際に出来上がったキッチンは2Fの空に届きそうなくらい天井の高い居間で、私たちにそっと微笑みかけているようでした。
表面 | ナラ板目挽板厚み5mm練り付け |
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塗装 | ワトコオイル塗装「ナチュラル」(Kさんが施工) |
天板 | ステンレスヘアライン |
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扉・前板 | ナラ板目突板練り付け |
本体外側 | ナラ板目突板練り付け/ナラ板目無垢材 |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | ワトコオイル塗装「ナチュラル」(Kさんが施工) |
ナラ板目材とステンレスヘアラインのキッチン
価格:830,000円(制作費、塗装は施主様、設備機器は別途)
ナラ板目材の玄関ドア
価格:290,000円(制作費、塗装は施主様施工)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は100,000円から)