toward the good one
「ナラ柾目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
大和 K様
design:takamasa kikuta
planning: takamasa kikuta/daisuke imai
producer: daisuke imai
painting:takamasa kikuta
2006年の8月に頂いた最初のお問い合わせからもうすぐ10ヶ月です。早いですね。この間にいろいろありました・・・。
菊田さんは建築設計をされている方です。今回ご自宅を新築されるにあたってプランを考え、そのインテリアのメインの一つがこのオーダーキッチンだったのです。最初のメールで頂いたプレゼンシートが冒頭のスケッチです。こういうスケッチ見ているとわくわくしますね。でも、このスケッチよく見てみると・・・、L型のキッチンですね。しかもカウンタートップの素材が木や人口大理石ではなく、ステンレスですね。しかも「仕上げはPHL」って何でしょう。
とりあえずKさんに聞いてみるとともに、建材屋さんにステンレスの天板の概算見積を出してもらいます。ちなみに「PHL」とは「パーマネントヘアライン」の略で、別名「バイブレーション仕上げ」とも言います。どんなものかと言うと「パーマ=クルクル」、「ヘアライン=髪の毛の線」、すなわちクルクル円を描くようにステンレスの表面に傷をつけた仕上げなのです。普通のヘアラインは1方向(右から左)だけにまっすぐ傷が入って仕上がっているものですが、今回はL型なので普通のヘアラインだと交差するところでヘアラインがぶつかって変な感じになります。このPHLなら全ての面をクルクル傷つけていけば良いのでL型のどこから見てもきれいにヘアラインになるのです。なるほどねー、勉強になりますね。実際に天板に光が当たると光が当たったところだけどこから見ても円に見えるんです。面白いですね。
それから、この天板大きいんですよ。長さが約3000mm×2400mmあるんです。「大きいなー。」なんて思いながらも届いた見積では特に問題なく製作できるとのこと。なるほどと思いながら、うちで作る下部の収納部の製作費用を見込んで全体の概算見積をKさんに送ります。それから、4ヶ月ほど連絡が途絶えてしまって、「きっと他の業者さんか、メーカーのシステムキッチンになったのだろう。」と思って図面を既に処分してしまった頃に菊田さんより連絡がありました。「ぜひお願いしたい。」とのことでした。
これは困ったということで、菊田さんに以前送っていた私からKさんに宛てたメールや見積を再送してもらいます。どうにか内容を思い出し、それでは、お話を進めましょうということになりました。
お正月を過ぎた頃に現地で初めて顔合わせをしました。
246号線のすぐそばなのに、一本通りを入ったこのあたりは静かです。
そこに大きな大きな開口部があります。冒頭のスケッチにあるウッドデッキのテラスになる部分です。戸を開放すると間口3000mmをこえる大きな開口部になるのです。外とつながっているって実感できる気持ちの良い場所です。「ここを全開すれば搬入も問題なし。」一つ一つ確認していきます。ご自身で監理されているから細かい部分は私が確認するまでもなく問題なくできあがっています。取付予定時期は4月後半の引渡しのちょっと前のあたり、まだ時間がありますね。まだ、壁が張られていない柱だけの空間でしたが、ひと安心してその日は帰りました。
それから、1ヶ月を過ぎてそろそろ段取りに入ろうとした時に問題は起きました。予定していたステンレスの天板ができないって建材屋さんから連絡があったのです。「なんで。」ってびっくりしてしまいます。詳しく聞くと、まったくできないわけではなく、L型1枚ではできないとのこと。作るならまっすぐなものを2枚作って現場でつないでください、と言われてしまいました。「そんな、いまさら・・・。」と思いましたが、「すみません。」と言うばかりでお話になりませんでした。仕方なく菊田さんにその旨伝えます。
そうしたら、菊田さんに怒られてしまいました。怒られたというよりはお説教をして頂いたといったら良いでしょうか。
「そうですか・・・、すごく残念ですが仕方ありませんね。
分割したほうが製作、運搬、搬入、取り付け等やりやすいでしょうし、極力目立たないようきれいにお願いします。
ただ、今までの経緯など一切関係ない一方的な設計者の立場になってのちょっと本音です。聞き流してください。
イマイさんとしてどうですか?家具職人としてどうですか?OKですか?
一枚ものだから意味があるのでなんとか一枚ものでやってください。注文家具の意味がないです。」と・・・。
菊田さんをとても悲しい気持ちにさせてしまい、私も悲しい気持ちになってしまいました。
その後、「もともと、1枚でできる大きさではないと思っていたので、できると聞いてとても喜びましたが、もう、振り出しに戻ったと思うことにしました。きれいに仕上げてくださいね。」とやさしいお返事が。
そして、その後に
「イマイさんが先日おっしゃっていた「ステンレス加工屋さんの最初と今で返事が違う曖昧さがいけませんでした。」は、ものづくりの中で施主に対してこの文章はいけません。じゃあイマイさんは何?ということになり信用無くします。
施主はイマイさんに注文したのだから、ステンレス加工屋さんがどうこうは関係ありません。
ちょっと指摘でした。(多かれ少なかれ自分もこのような経験あるので)」
はい、その通りです。いけませんね。お客さんにまで甘えようとしている自分が情けなくなります。
(結局、2枚で作るのだろうか・・・)と自分で考えます。
気に掛かっている大きなことが2つありました。「現場でつなげる精度について」と「絶対にできないものなのか」ということです。
もともと今まで頼んでいた建材屋さんから頼んでもらっているステンレス屋さんは普段は家具向きのステンレス加工をしていないところのようなのです。キッチンの厨房の什器や小物をメインについっていて、もの自体は悪くないのですが、仕上げがいまいちと言うところがありました。いままで4件の方のステンレス天板のシステムキッチンを作ってきましたが、どの時も1度ではきれいに仕上がらず、作り直しをさせてやっときれいなものを持ってくると言う感じでした。だから今回、「現場でつないでほしい。」と言われた時も現場でピタッときれいにつくくらいの精度で作ってくれるのかが心配でした。普通のまっすぐのカウンターほどすんなりとは行かないはずです。
もう一つの気掛かりな「できないものなのか」というのは、今までいろいろな雑誌を見てきましたが、確か作っている実例はあったように思ったのです。できないはずはないと・・。
そこで今回は加工をしてくれるところを新たに探すことにしたのです。パッと思いついたのは雑誌「室内」でよく名前を聞いた「辰巳工業」さんでした。でも、雑誌に載っているくらいだからステンレスでも敷居が高いのだろうと思っていました。問い合わせのメールを送っても、すぐには返事が来なかったので「やはりいきなりでは相手にしてもらえないかなあ。」なんて思いながらとりあえず電話もしてみました。そしたら、見積が届きましたよ。でも、今までのステンレス屋さんとは比較にならないくらい高価なものです。でも、私が最初に思ったのは「できるんだ」と言う安心感でした。でも、菊田さんの予算は既に決まって仕事は動いています。私はその天板をとても見たくて、どうにか父を説得しました。この金額で天板を作るということは、仕事として請け負うには既に厳しい金額になってしまっていたので。
「まあ、しょうがないな。その代わり良いものにしなさい。」と父。
了解を得て、辰巳工業さんに頼むことにしたのです。
でも、新規の付き合いで、いきなり電話だけで約束して品物をもらうのはあまり良くないので、まずは挨拶に行きました。
そこは本当に町工場と言う感じでした。うちよりも大きめの工場でたくさんの職人さんが忙しそうに動いています。そんななかを社長の斉藤さんにいろいろな機械や工程と見学させてもらって、さらにショールームのキッチンも拝見させてもらいました。すごいきれいです。
「うちはね、決して安くはないけれど、どんなものでも作りますよ。」そうおっしゃってくださって、うれしくなってその日は帰りました。「望んだものができるぞ。」って。
菊田さんにもさっそく報告。
「実は1枚でできることになりました。お願いするのは・・・。」と言うような感じで。Kさんもとても喜んでくださって、一時は悲しくなった気持ちがだんだんと良い方向に向かっています。うれしいです。
ところがまたまた問題発生。
今度は現場で起きました。
大きな開口部から搬入する予定だったのですが、天候不良のためペンキ屋さんの工程が進まず、外壁に掛かった足場が外せない状態が続いたのです。足場が外れるのは予定している引渡し前の見学会の2、3日前とのこと。これでは、キッチン工事は間に合いません。そこで、今回菊田さんの工事を請け負った井沢工務店の井沢さんにコンタクトをとります。
井沢さんに電話をすると、「足場を部分解体するから、そこからどうにか搬入しましょう。私も手伝います。」
そんなわけで、キッチン工事のために他の職人さんが入らない日を作ってくれてたのですが、取付当日はかなり大掛かりでした。私とみんなの4人、さらに井沢さん。
井沢さんに足場を解体してもらっている間に荷解きをします。解体した足場の有効寸法を測ると、天板を斜めにしてもギリギリ入らないんじゃないかっていうくらいしか余裕がないです。
「良し。」どうにか入りました。みんな大きく息を吐きます。
後は順調。その日は夕方まで作業して、残りは後日、扉や引き出しをセットしてようやく完了。あとは、菊田さんが塗装をするだけ。
その時にまた合いましょうね。わがキッチン君。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | ナラ板目突板練り付け |
本体外側 | ナラ板目突板練り付け/ナラ板目無垢材 |
本体内側 | ポリエステル化粧板ホワイト |
塗装 | ワトコオイル塗装「ナチュラル」(Kさんが施工) |
ナラ柾目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン
価格:980,000円(制作費、塗装はお客様施工、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は120,000円から)