そのひとの色
「ホワイトウレタン塗装とクルミの食器棚のオーダー」
高井戸 Y様
design:Yさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:harak tosou/yasukazu kanai
「はじめまして。Yと申します。
壁面収納の設置を考えています。数年前まで兄弟で住んでいたマンションなのですが、現在は一人暮らしで、これから少しずつ家具も自分の好みに変更していこうと思っているところです。
食器、台所回りのものを集めるのが趣味なのですが、食器が収まらなくなってきましたので、これを機にオーダーをと考えています。
チェリー材やクルミ材などは好きなのですが、壁面なのでホワイトにはしたいと思いますが、悩んではいます。
併せてダイニングテーブルもお願いできればと思っています。
製作例の中で気になるのが、大井のH邸の壁面収納です。テーブルは鉄脚の大和T邸のものが気になっています。
自分のイメージしているものが、自分の家に合うかどうかも含めまして一度ご相談に伺えたらと思っています。
平日は仕事もありますので、土日の相談が希望です。
宜しくお願いいたします。」
とYさんからメールを頂きました。
一度いらして頂けるということでまずは土日の私の空いている日をお知らせして日程を決めさせて頂きました。
ここ寒川は、神奈川の真ん中あたりなのにJR相模線と言う1時間の数えるほどしか入っていない単線の通る静かな町。Yさんのお住まいは高井戸ですので、スムーズに乗り継いでもそれなりに時間が掛かっちゃうのです。表通りに看板も出していない一本入ったこの通りでも少しの人気があるのはこうして皆さんが訪ねてくださるおかげなのです。とてもうれしくありがたいことです。
私たちのショールームは2階にあります。ショールームと言うよりは、私たちのキッチンやテーブルやテレビボードが置かれた展示室のような感じなのですが、工房が1階にあって外階段を上がって2階に辿り着くとこじんまりとしたショールームがあるのです。コツコツと階段を上がる音がしてしばらくして顔を見せてくださったのはYさん。こちらを除く姿を見てハッとするくらいおきれいな方で最初は女優さんかと思ってしまいました。(笑)
そのYさんをお通しした先は、出入り猫たちの取りきれない毛がカーペットに残っていたり、ところどころ片付いていない部分もあったりして、何だか照れくさくなりながら打ち合わせが始まったのでした。
最初に頂いていたスケッチを元にお話を進めます。
大井のHさんの家具をイメージされているということで、メールの文面にはホワイトにしたいと書かれていたのを見落として、すべて木で作るものだとばかり思っていたのですが、お話をしてみると、やはり白い印象を大きく持ってきたい、ということで白い色の中に木の色が差し込んでくる形で考えることになったのでした。
白い色と言うと思いつくのは、最も少しを抑えて考えると化粧板を使う形です。その次は白いペンキで塗って仕上げる形。ローラーで塗った時に出る特有の凹凸感はとても優しい感じに仕上がります。
そして、上品に仕上がる白く塗りつぶして、さらにウレタンクリアで仕上げる方法。
おおよそ、この3つの方法があります。
それぞれのメリットデメリット、コストのバランスなどをお伝えして、だんだんと形がまとまっていきます。
そうして、いろいろと悩んだ結果、白い部分はウレタン塗装で仕上げることにして、でもなるべくコストを抑えるために、扉や引き出しの前板と言った正面部分の意ウレタン塗装で仕上げて、キャビネットの周りは化粧板のままで進めることになりました。
それでは、木部にはどの樹種を使用しようかと言うところで、またいろいろと悩みます。
私たちのショールームには、大きなダイニングテーブルが2台ありまして、1台は1800mmの長さがあるナラ柾のテーブルで、もう1台は長さ1500mmの長さの標準的なサイズのクルミ板目のテーブルがあります。
最近はクルミのテーブルで打ち合わせることが多く、その場でお話ししていると、そのクルミの表情が好きだ、と言うお客様が多いのです。
そのクルミのテーブルですが、実は水が染みて傷むとこうなるよっていうことが分かりやすいように無垢を桟積みしている時にできてしまった製品にできない材を材木屋さんから取り寄せてわざわざ天板に使ってみたのです。
でも、そのシミを含めてもクルミの表情が好きと言う方が多く、Yさんもクルミの色柄に魅かれた一人でした。
そのようなわけで、ウレタン塗装とクルミを生かした家具の形が大まかに決まったのです。
「先日はお忙しい中、お打ち合わせをの時間を作っていただきまして、ありがとうございました。
お話していく中で、イメージが少し形になっていくのがわくわくしてとても楽しかったです。思い切ってご相談に伺ってよかったと思っています。
図案楽しみにしています。
これからもよろしくお願いいたします。」
そして、その後細かい部分について変更を重ねてようやく形が決まったところで一度お伺いすることに。
今回はご依頼頂いていたのは、メインがこの壁面収納。そして、じゅすを合わせてダイニングテーブルもご依頼頂いていたので、そのバランスがお部屋にうまく合うか、ということと設置場所の採寸や搬入経路(特にマンションということでしたので)をきちんと見ておかないといけません。
そして、到着したマンションはどこか懐かしい少し時間が経ったマンション。高井戸にこのような建物があったのだなあ。
さっそくお邪魔させて頂くと、備え付けられている玄関の下駄箱や電話台(むかしのマンションにはよく電話台が備え付けられていましたね。)があります。
玄関はリビングから離れるので、今回は気にならなかったのですが、パッと思ったのがこの電話台でした。壁面収納をつける予定の壁は今は何もないすっきりとした壁なので、この空間にはよく合う家具になりそうでした。間取り上リビングもこじんまりしていましたがYさんのテイストでとても温かみのある印象にまとまっておりました。
キッチンは、独立したレイアウトでしたので、リビングからは目に入らず、実際その日にキッチンを見せて頂いたのですが、「ちょうど明日お花見があって、その準備をしていたのです。」というYさんのキッチンは、古い部分はありましたが、とても良く整理されて使い込まれていてさながら料理の先生のアトリエのよう。
「そうなんです。いつかここでそういう教室が開けたらすてきなだって夢見ているのです。」と楽しそうにお話しするYさん。
その日がいつ来るかな、とても楽しみです。
ということでキッチンも魅力があるのに、電話台が気になる・・。どうしよう言おうかな・・。
設置場所の確認などが終わって、大方打ち合わせることも終わりつつある頃、やはりお伝えしました。
「ここに壁面収納が来るとそれはそれで良い印象になると思うのですが、この電話台が目に入るとちぐはぐな感じになってしまいそうで・・。」と。
その電話台は、かつて白かっただろう化粧板でできていて、多少扉もガタついておりました。天板はメラミンを曲げて作るポストフォームカウンターで、昔によく見た作りです。
「私もこれは気にはなっていたのですがどうしたら良いか分からなくて・・。」
気になる部分が何点かありました。
電話台自体が傷んでいる様子と、その上についているインターホン。今よく見かけるようなタイプの液晶モニターがあるタイプではなく、壁掛けの電話のような感じで、こちらも時間が立って樹脂が黄ばんできていたのです。
どうにか壁面収納と合わせて整えられるようにしたいなあ。
デザインすることの面白さは、何でも自分の好き勝手に作るのではなく、いくつかの条件(使い勝手や、色柄の好みや、予算など)という制約があるか中で、その人にとって一番良い方法を見付けてあげられるかどうかです。
誰かが言っていました。「デザインすることは整えることだって。」私もそう思います。
電話代はそのまま白く新しくすることもできますが、それだけだと中途半端なまま終わってしまいそうです。
そこで、インターホンの音が聞こえて、さらに電話も中に隠せるように格子の扉をつけた形で天井までの収納にするのはいかがでしょう。そのようにお話をさせて頂いたのでした。
「大変お世話になっております。
図面と見積書拝見いたしました。電話台の収納も、もう今更取り付けないなんてそんなイメージは湧きません(笑)
素敵に仕上がりそうな感じですので、もうこのままのデザインでいいと思っております。
よろしくお願い致します。」
その他に細かい部分をあれこれ迷いながらもようやくYさんの形に辿り着くことができました。
ひと安心です。
そして、夏の納品に向けて製作を進めます。白い部分とクルミの組み合わせ、さらには電話台には白い格子扉が来るという、複雑な形ですが、カナイ君が黙々を進めてくれて、無事予定日までには完成。
取付も予想以上に時間がかかってしまいましたが、無事にきれいに設置も完了。
「先日は大変お世話になりました。
日曜日は大変暑い中の作業で大変だったと思うのですが、とても綺麗に設置していただきまして本当にありがとうございました。
自分の想像以上に素敵な空間になって、リビングに入るたびにテンションが上がってしまいます。日曜日は嬉しすぎて、近所の友人を早速招いて、夜まで呑みながらゆったり過ごしました。これからますます人を呼びたくなりそうです。
金額もそんなに安いものではなかったと思いますが、それ以上の満足感だったので改めて今井さんのところにお願いしてよかったです。製作、設置していただいたカナイさんにもよろしくお伝えください。
本当にありがとうございました。」
そしてその後、別のご相談も頂いておりましたのであらためてご挨拶に伺わせて頂くと、Yさんらしい色でしつらえられたリビングになっていて、その部屋の様子が見られてとてもうれしかったのです。
「設置していただいたリビングボードは元々そこにあったかのように馴染んでくれて、毎日座って眺めながらご飯を食べているのですよ。
あのあともたくさん友人や家族が遊びに来てくれるのですが、家具を作ってもらっただけなのにリフォームしたみたいってとても評判が良くて、ありがとうございます。
続いてのローテーブルの加工も楽しみにしていますね。」
と、うれしい感想と、おいしいイチジクのケーキ(だったかな。)まで頂いてしまいまして。
先日の取付の時も素敵なお昼ご飯をご馳走になって、このくらいすてきなお料理ができるのですから、教室を開かれる日も近いのでしょうか。
楽しみにしております、Yさん。
クルミとホワイト塗装のダイニングボード
価格:500,000円(制作費・塗装費)
格子扉の収納
価格:270,000円(制作費・塗装費)
クルミのダイニングテーブル
価格:240,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は70,000円から)