届けます、とどきます
「ナラの食器棚とチェストのオーダー」
水戸 K様
design:Kさん
planning:Kさん/daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi
少し前にキッチンのカタログをお送り頂きました。
とても素敵なお写真を毎日眺めています。
ホームページも少しづつじっくり拝見しております。
私もいつか食器棚をお願いしたいと思っておりますが、まだまだ具体的になっていませんん。
遠方ではありますが、その時が来たら是非ご相談させてください。
これからも美しい家具を作り続けてください。
このたびはありがとうございました。」
Kさんからカタログを希望されるメールを頂いたのでした。
Kさんには重い病気に罹っているお嬢さんがいらっしゃってそのお嬢さんと過ごす部屋を快適にしたいのです、ということも書かれていました。
いつかお会いする時が来たら、どういう顔すれば良いかなって少し思っていました。
以前にもやはりお子さんが重いご病気に罹っていらっしゃるお客様から家具のご依頼を頂いたことがありました。
高校生のお嬢さんだったかな、やはり寝たきりで、しゃべることも難しい症状でした。
そのお嬢さんは私を見てどう思ってくれたか分かりませんし、私もどうして良いのか分からず、打ち合わせの時は軽くご挨拶をするだけでした。
「娘とね、過ごしやすい家にしたくて、イマイさんにお願いしたいって思ったのよ。」
と、お客様はとても気持ちの良く通った声でそうおっしゃってくださいました。
始めてお邪魔した時にも何となく戸惑う私に普通に打ち合わせを始めてくださって、時折お嬢さんに飲み物を飲ませてはまだ打ち合わせを続けて。
強い心の人だ。
しっかりはっきりと家具の思いを告げながら、お嬢さんに寄り添う姿に、ああ、普通のことなのだな、私のほうが失礼な気持ちになっていたかもしれない、と思ったのでした。
たしかに障害は辛いかもしれませんが、それは私には分からないのです。ただ、その人は一生懸命毎日を過ごしていて、お母さんはいつもと変わらず、みんなと変わらず子供に接している。
それが当たり前のことなのに、何か特別に気づかわなくてはいけないと思ってしまった私自身が恥ずかしかったのです。
だから、Kさんからお嬢さんが亡くなってしまったって聞いた時は、何だか心がぽっかりしてしまったのでした。
「一緒に素敵な部屋で暮らそうって思っていたのでしょうに・・。」
それからしばらく時間が空いて、Kさんがいらして下さったのです。
水戸からここまでは遠かったことでしょう。
「はじめまして。」
お顔を拝見させて頂くと、とてもしっかりとした表情ではっきりとしたお声。
あの時のお客様をふと思い出しました。
お話を伺ううちにますますその気持ちがよみがえりました。
Kさんもとても強い人だ。
「イマイさん、食器棚はもちろんお願いしたいのですけれど、その他に別の家具もお願いしたいのです。」
「はい、何でもおっしゃってくださいね。」
「実は、娘の仏壇を置くための台を作って頂きたいなって思っていて。」
とてもうれしいお申し出でありましたが、私たちで良いのだろうか。
以前にも、お客様の仏壇を作らせて頂いたことがありました。あの時、お仏壇に入る方は私も知っているお客様で、その方も作った手料理までご馳走になった方でした。あの時はとても悲しかったのですが、今日この時私はどう思えばよいのだろう。
私たちを信頼して依頼してくださることの喜びはもちろんありますが、良いのだろうか、という戸惑いのほうが大きかったのです。
「いいのですよ。イマイさんにそういう場所を作ってもらいたいってずっと思っていましたから。」
奥様のお顔を見ると、とてもはっきりとしっかりと強い気持ちが表れておりました。
強い人だ。
とてもうれしい言葉だったのです。
それからしばらくののち、いくつかのご要望をまとめて決まりつつあるプランを抱えて私は、茨城県の東海村に向かったのです。
「いらっしゃいませ。」
そうKさんご夫婦が迎えてくださいました。
とても静かな場所。でもとても気持ちが和らぐ場所。Kさんの家はそのような印象でした。
「でも、この濃い色の床に、キッチンの壁もアクセントで濃い色になっているから、ちょっと重い感じなのです。これは、この家を建ててくださった工務店の社長さんのテイストでできあがっているからなんですけれどね。ちょっとリゾート風でしょう。
でもこの食器棚が入るところは明るい白い壁に食器棚が来るまでに替えますので、印象がもっと変わると思います。」
キッチンからふと目を移すと、ご主人と奥様のベッドの間にお仏壇が安置されておりました。
「あの、お嬢さんにもご挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか。」
「もちろんですよ、娘の家具を作って頂くのですもの。」
聞くと、お嬢さんは私の娘と同じ年だったようで・・、それを聞くとね、そしてお嬢さんの写真を見るとね、なんかね、泣けてきてしまうのです。
精一杯作らせて頂こうとか、向こうで心穏やかに過ごしてほしいな、とかそんなことが浮かぶよりもただただ悲しいなって思ってしまうのでした。だって、生まれて10年、11年でここを去ってしまうなんて。淋しいな。
「ありがとうございました。」とボソッとつぶやくと、
「さあ、イマイさん。お茶を召し上がっていってください。」と、温かくはっきりとした声が後ろから響きました。
お母さんって強いんだな。
気持ちを落ち着けて、家具の採寸も打ち合わせも終えて、再び電車で戻り、いよいよ製作に取り掛かるのでした。
もちろん、食器棚がメインのはずなのですが、今回はお嬢さんのための家具のほうが気持ちが強く入ります。
むこうからこの形を見てくれているかどうか分かりませんが、置いていて、使っていて気持ちの良い家具になるように作ったのでした。
さっそくできあがった家具を持って、再びKさんのところへ。
茨城県には以前に何度かお仕事の関係で、通っていた時期がありましたが、やはり少し遠い。
何かあった時にはすぐには駆けつけられないし、駆けつけるにも交通費が高くなっちゃうし、そういうお話をKさんにも最初にさせて頂いたのですが、「それでもいいのです。」そう言ってくださったのですから、私たちもこの家具たちをきれいにきちんとお届けしなくては。取付には、製作を担当したコバヤシ君と新人ナカガワ君の3人で、ギュウギュウと少し窮屈そうにトラックに乗り込んで、朝早くから出発。
どうにか渋滞に会うことなく無事到着し、さっそく取付の段取りです。
今回は、食器棚、そしてお嬢さんのための家具のほかに食器棚に隣り合う物入れのスペースに扉をつける作業(写真撮り忘れました。)も依頼されておりました。
お嬢さんの家具は置くだけでしたのでスムーズに作業を終えられて、食器棚も事前に測っておいたスペースに合わせて段取りにしてから、こちらのスムーズに終えることができました。
どちらかと言うと一番時間がかかったのは、その扉をつけるだけの作業のほうでした。
どこの作業でもそうですが、工房であらかじめ段取りをしておくと、現場での行動はかなり順調に進むのですが、現場に合わせて、現場で作業をしなければいけない場合は、その場で採寸、段取り、加工となるので、簡単な作業でも時間がかかってしまうのです。
で、コバヤシ君とナカガワ君に食器棚の取付をしてもらっている間に、一人で扉の取付作業。
大工さんがつけたダボレールの厚みを見込んで、扉を小さく作ってきたのですが、その蝶番をつけるためにダボレールの厚みをかわせるようにしたスペーサーがなかなか調整が大変。食器棚が取り付け終わるころに、ようやく扉2枚のつり込みが完了。
でも、これでひと通り無事に終わってひと安心。(と、思ったら、ガラスを止める釘がちょっと出っ張っていて、日をあらためて釘締めに伺ったのはここでは内緒。)
Kさんにも喜んで頂いて、お嬢さんにも喜んでもらえたでしょうか。
お父さん、お母さんの気持ちや私たちの気持ちが、少しでも届いたらうれしいなあ。
「茨城県東海村のKです。
昨日は遠いところお越し下さいましてありがとうございました。
とても綺麗な家具を製作いただき、心よりお礼申し上げます。
室内の空気まで清々しくなった気がします。
寡黙に手際よく仕上げて下さいましたコバヤシ様、これからが楽しみなナカガワ様にもよろしくお伝えください。
このたびは大変お世話になりました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。」
Kさん、ありがとうございました。
ステンドグラスのあるオークの食器棚
価格:640,000円(制作費・塗装費)
オークのお仏壇を置くための家具
価格:360,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は50,000円から)