重なる表情

「ナラ節アリ板目無垢材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」

板橋 T様

design:Tさん
planning:daisuke imai
producer:masakane murakami
painting:Tさん

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

水切りカゴは、有元葉子さんのラバーゼシリーズ。それなりに大きいサイズなのですが、天板が延びているのでシンクの奥に置くことができます。

「マンションのリフォームで、独立型のキッチンの壁を取り払い、アイランドの作業台の多い(奥行き広め)キッチンを希望しています。収納は最低限で、オープンなキッチンを。
リフォームが12月からなので急なのですが・・・。
それから、私は器に携わる仕事をしているので、器が若干多めです。
器は天板下をオープン棚にして収納するか、後ろの壁面の食器棚を置くスペースに棚を作り付けてしまうか検討中です。
かわりにキッチン家電や鍋などはあまり持っていませんし、食材の買い置きなどもあまりしません。普通の主婦よりはかなり持ち物は少ないと思います。
システムキッチンのような、なんでも放り込めるような収納は要りません・・。」
どんな人だろう。メールだけでその人となりが何となく分かるようような気持ちでおりますが、まだキッチンの依頼を頂いたわけでもないのに、Tさんにお会いできるのが楽しみだったのでした。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

リビングダイニングから見た時のバックパネルの表情。

まずは、最小限のプランということで、ステンレスのカウンターに棚板があって、扉もないとてもとてもシンプルな形を提案させて頂きました。私たちではなくても作れるのではないかと思えるくらいシンプルな形です。でも、Tさんは、木の表情やステンレスの質感など、使い勝手も大切ですが、その素材が重なってできる表情を好んでくださったのでした。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

天板がキッチン本体から飛び出ている印象。

実際にお会いすることになって、いろいろとお話を聞かせて頂くと、優しい服や雑貨を扱うことで有名なお店のスタッフさんということが分かりました。それから、お話しの糸を紡いでいくと、私の友人で建築設計の仕事をされている福原正芳さんの奥様(マキテキスタイルのスタッフさん)と展示会などでつながりがあって、いろいろなところで人はめぐり合うのですね、とほほ笑んだのでした。
なるほど、だからこういう暮らし方が好きな人なのか、と思ったのです。
そして、このショールームでお話をしている進めるうちに、素材についていろいろと考えておりました。そこでひとつお話しさせて頂いたのが、節や割れがあるナラ材でした。少し前までは、使われることのない素材でしたが、今ではその一つ一つの表情が好まれる素材になりつつあります。元はそこから腕を伸ばしていた節や、育つ過程で生じた割れは、その木だけの表情です。
その表情を見て、「良いですね。」と言ってくださったのです。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

キッチン側の全体の様子。シンプルな形なのが一目で分かります。

はい、こうして形が決まりました。
形はとてもシンプルだったので、とてもきれいにできあがるとそう思えていたのですが、とても心配なことが一つありました。
Tさんのご新居となるのは、マンションです。2700mmのカウンターや収納がはたしてきちんと搬入できるかどうかが一番の心配だったのでした。
そこで、さっそく下見に行って、工務店さんとも打ち合わせ。やはり玄関から入らないことが分かったのですが、5階なので、下からどうにか吊りあげることはできるのではないかと判断。釣り上げた先の部屋からリビングまでは、一部の壁が邪魔をしているので、施工当日までに大工さんが採光を兼ねた開口を設けてくれることに。その隙間から搬入しちゃおうという方法だったのです。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

シンクとコンロの間に挟まれたスペースの最上段だけ大きな引き出しにしています。コンロの高さラインに合わせて、この引き出しとシンクの幕板の高さも調整しています。

そして、いよいよ設置当日。道中ドキドキしながらここに辿り着いたわけです。そして、もしかしたらどうにか玄関から入るといいんだけどな、と思いながらもう一度玄関を確認しに行きます。採寸に来た時は一人で測っていたから、こうして二人できちんと計測すれば、入るかもね、なんてドキドキしながら測るのですが、もちろん入りません。
じゃあ、予定通り階下から上げて、この部屋を抜けて搬入しようかなって、壁を見ると穴の向きが90度違っていました。カウンターを壁に通過させるには、縦長の穴を開けていてほしかったのですが、よくある横長の窓のような穴が開いていたのでした。
昔ながらの大工さん、打ち合わせの時に「いいよ、大丈夫だから。できあがったら流しを持ってきてくれれば大丈夫。」なんて言っていたので、安心していたのですが・・。
どうしようかな・・。
リビング側のバルコニーからいけるかな・・。
下を見ると低木がぎっしりで、しかも1階の型の専用庭になっています。その向こうは隣のマンションの敷地だし・・。
進退窮まった・・。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

コンロは、プラスドゥ。

と、ふとみんなで空を見上げると、「ダイスケさん、上から降ろすというのはどうでしょうか。」と村上君。
さっそく4人で階段を駆け上がって、屋上の様子を確認。
・・・どうにか行けるかな・・。
そう、幸いTさんのお部屋の上は誰の住戸もなく屋上だったのです。ここまでエレベーターで上げて、屋根の下にそっと下ろすだけさ。
何とかなりそうでしたので、さっそく管理人さんに許可を頂いて、よしじゃあ、エレベーターに載せよう、と入れてみたら、あと10cmくらいがどうにも入らない・・・。おかしいなあ、前は2800mmの板がエレベーターで運べたのに・・。と思ったら、シンクの出っ張りがあって入らないことに気が付き、4人で交代しながら(と言っても、この時私はまたあばらを痛めていたので、ほぼ3人で)ようやく屋上へ。
荷揚げも怖いですが、荷物を下ろすのってなんだかもっと怖い。しっかり縛っているけれど、このまま下に荷物が落っこちちゃったらどうしよう、ましては自分が落ちたら・・。
それでも、おっかなびっくりの搬入は終了。設置のほうは、事前に工場で仮組みしていたので、スムーズに終了。大変勉強になる搬入だったのでした。
その夜、Tさんからメールを頂きました。
「昨晩、夫が仕事から帰って来てキッチンを見たときの反応がすごかったです!
「格好いいねー!」と絶叫、その後30分眺めて、いろんな角度から写真を撮っていました。
その反応もとても嬉しかったです。
また落ち着きましたら連絡させていただきますね。
年明けまでには部屋とキッチン、きれいに片付けておきます。撮影楽しみにしていますね。
それでは取り急ぎ、用件のみにて失礼いたします。よいお年をお過ごしくださいませ。」

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

天板が出っ張っている分、今までのシステムキッチン合わせだった壁からは天板が飛び出ます。 壁を細工するのではなく、内装工事も最小限に。Tさんご自身が生まれて初めて現場を監督しながらできあがった形ですから。

その日は設置を終えて帰ったのですが、日をあらためてお邪魔させて頂くと、もうすっかりと馴染んだキッチンになっていました。Tさんご自身で行ったオイル塗装もきれいに仕上がっていて、少しずつスカイ込まれた表情になっていたのでした。
白い塗り壁の手触りやタイルの質感、さまざまな表情が良く現われた節の入った床材、そして、キッチン。いろんな要素やいろんな気持ちが重なりあって、ここができているのでした。

節有りナラ材を使ったペニンシュラタイプのキッチン

扉出た天板を支える腕たち。

キッチン仕上
天板 ステンレスヘアライン
扉・前板 ナラ板目突板練り付け
本体外側 ナラ板目突板練り付け/ナラ節アリ無垢材
本体内側 ナラ板目突板練り付け
塗装 ワトコオイル塗装「ナチュラル」(Tさんが施工)

ナラ節アリ板目無垢材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン

価格:590,000円(制作費、塗装は施主様施工、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は90,000円から)

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