ふだん作りの手の跡を残して
「ナラ節アリ材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」
浦和 O様
design:Oさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:yasukazu kanai
「跡をのこす」という独特の表情のキッチンを作らせて頂いたことがありました。あの時はKさんのご要望で、木部はあえて鋸のナイフマークを残して、平面も出さず、アイアンにはビートを残して、とイレギュラーな納め方をしたキッチンだったのですが、そのキッチンの様子を見て自宅にもあの形を取り入れたい、というのがOさんの希望。
Kさんと同じ仕上げ方法で作ると普通に作るよりもかえって手間が掛かる部分があったりしてかなりコストが掛かってしまうと思われましたので、印象を大きく変えることなく実現できるように考えたのがこの形になります。
Oさんのイメージの、「節のある力強い木々を支える鉄の武骨な感じ。」を大切にして、どのように表現できるかを考えていくのです。
私たちからしてみると、節がある材は反りが出やすかったり、刃が通りにくくて仕上げづらかったりと使いづらい材なわけでして、たしかに言われてみると、表情の豊かさは普通の板目材にはないほど豊かな部分もあったりして、物の見方はこうも時代によって変わるのだなあと感心させられます。
しかしそれを凹凸があるままで仕上げるのは私たちはやはり仕上げとは思えず、そういう手の跡が必然的に残ってしまった家具たちが作られてきた、使われてきた文化が評価されているからであって、それを真似て意図的に手の跡を残しすぎるのは、なかなか受け入れづらかったりするわけです。
そこで、今回も素材はナラの節がある部分を使うのですが、平面はきちんと平滑に仕上げていきます。本来、家具の板は4面(木口もいれると6面)がきちんと平らかで直角になっていることでしっかりとした形が作りやすくなります。どの部分の凹凸を残して、どの部分を平滑にしてと考えていくのは、やはり家具屋の仕事としてはかなり手探りな部分が出てきてコストが高くなってしまったりするので。
収納部の前板は無垢材ではなく突板を用いています。板をつく技術もすごいなあと思うのは、節がある突板を作れる、ということ。
突板というと人工的と思われがちですが、板のバランスを整えて作るという無垢材にはない魅力があります。
きれいに並べたり、左右反転させたり、そういう表情の遊びというかゆとりができるのは突板ならではで、コストを抑えていろいろな樹種を活用できるのも魅力です。
節アリの突板なんて今までは聞いたこともなかったのに、当然節の部分は抜けてしまうのですが、それでも板は割れずにきれいにスライスされている。決して表情が人工的にはならないで、色バランスよく整って張られている。
無垢材、突板、それぞれが持つ役割と魅力があって、そう言ういろんな選択肢からよいと思われる使い方をしていくことが私たちの仕事だと思っております。
それでも、最近は雨が少ないせいか乾燥がひどくて、突板でも修復しようがないほどの大きな反りが出てしまうことがあって、やっぱり気は難しいな、と頭を悩ませながら作る日々です。
キャビネット内部はいつものように掃除がしやすいように化粧板を用いています。
本来でしたら、内外とも同じ材を使うと美しいのでしょうけれど、コストやお手入れの簡便さを考えていくとやはりしっかりと塗膜が形成されている化粧板を使うことが多いのです。
特にキッチンですと、お水が使われます。
内部を突板やシナ合板で仕上げたこともありますが、その方の住まう環境のせいなのか、しばらくしてご挨拶にお伺いすると、「イマイさん、実は引き出しに黒い点々が・・。」とか言われてしまうこともありました。
それほど湿気を感じていなくても、毎日きちんと開け閉めしている場所でも、いつの間にか小さなカビがついてしまうことがあるようです。
そうなった時には化粧板のほうが掃除がしやすいのではないかな、というお話をさせて頂き、皆さんはおおよそ化粧板を使われる方が多いのです。
天板はステンレスバイブレーション仕上げ。
余談ですが、先日自分でバイブレーション仕上げを施してみたいと思いまして、オービタルサンダー(グルグル円を描いて研磨する電動工具)に100番のやすりをくっつけて、手元にあった端材を磨いてみたら、速度と力の入れ具合で良い印象に仕上がるのでした。番手を少し上げて120番くらいでもどこか繊細なバイブレーションに仕上げになります。
これはなかなか面白い。
餅は餅屋だっていう思いはずっとあって、自分も家具屋だから木のことならという気持ちでいたのですが、こうしてだんだんと家具からキッチンなども手掛けるようになってくるといろいろな素材や器具にさわる機会も増えてきます。その分責任も大きくなってくるのですが、純粋に何かを作ったり、何かに施す作業って楽しいのです。
物を作る楽しさって、純粋にこういうことだよね、なんて思いながら、では次はみんなで使って傷が増えてきたショールームのキッチンの天板をやってみよう、と思い立ち、こちらはヘアラインでしたので、ひたすら包丁研ぐように手を行っては返しを繰り返すと、ホホォ、やっぱりきれいになります。
物ごとが新しく生まれたり整ったりする喜びはやはり楽しい。
いつか金属の表面仕上げのワークショップとかやりたいなあ。
そして、脚部はスチール。お馴染みのオヌマさんに作って頂いて、今回は溶接痕もきれいに除去して、塗装もメラミン焼付塗装で上品な印象に仕上げています。
オヌマ工業の高橋さんとはまだ4、5年のお付き合いですが、子供たちの学校を通じて知り合ったということもあって、仕事だけのお付き合いにはない細やかな提案や仕上がりをしてくれて大変頼もしい方なのです。
こうして、それぞれの素材が集まりまして、一つの形ができあがりました。
「イマイさん、キッチン素敵です!
ありがとうございます!
とてもうれしくてメールでお伝えできないくらい感激しています。
キッチンが一番最初に我が家に入った家具ですが、少しづつ他の家具がそろっていき、わたしたちもだんだん今の家に馴染んできました。
気づけば床もキッチンもテーブルもほとんどの家具が無垢材のものになりました。
キッチンもやっぱり無垢材で、気に入ったデザインのものを製作してもらってよかったな、とあらためて感じております。
涼しい季節になったら、ぜひ家に見に来ていただければと思っております。」
Oさんにもその普段使いの仕上がりの良さが分かって頂けましたようで、とてもうれしく思っております。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | ナラ節アリ無垢材/ナラ節アリ突板 |
本体外側 | ナラ節アリ無垢材/ナラ節アリ突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板「ホワイト」 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ節有り材とステンレスバイブレーションとアイアンを使ったアイランドキッチン
価格:1,250,000円(制作費・塗装費、設備機器は別途)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は90,000円から)