信じて頼ってくださる
「ガラストップの円卓とラウンジチェアのオーダー」
台場 A様
design:Aさん/daisuke imai
planning:Aさん/daisuke imai
producer:yasukazu kanai
painting:yasukazu kanai
スチールなのにとても繊細な表情は鉄工のオヌマ工業のタカハシさんのセンスですし、それをナラと組み合わせた形はとてもバランスよくて、Mさんのところにはもう少し明るい印象で天板にはセンを使って、脚部はダークブラウンで仕上げたこのテーブルはMさんに納品させて頂いた後も数台ご依頼を頂けた美しいかたちです。その初代であるナラの試作は私たちの工房でいつでも見られるようにしてあるのですが、ちょうどそのような時期にとてもお久しぶりにAさんからご連絡を頂いていたのでした。
Aさんは、「color」のAさんです。この家具を作らせて頂きましてから、もう12年が経つのですね。あの時、家具の取付の終わり絵手紙を書いてくれたお嬢さんは、もう高校3年生だそうで、子供の成長を目の当たりにすると、あらためて時間の経過がどれほどだったのか目を細めて考えてしまうのでした。
そのAさんには、以前から年賀はがきを頂いていて、「イマイさんはキッチンのお仕事を手掛けておられるようですので、次は我が家のキッチンをうまく使いやすいようにしたいと考えております。」と数年前のはがきに書かれていたのでした。
そうして、あのお話はどのようになったのかなと思っていたところに、メールをいただいたのです。
「キッチンを使いやすくしていく前提で、まずはリビングの使い方を変えていきたいのです。リビングのいろいろなものたちをうまく整理してからキッチンに取り掛かれたらよいなと考えております。」
それでは、お久しぶりにごあいさつを兼ねて、ということで、Aさんのところにお伺いすることに。
Aさんは住まいはお台場にある背の高いマンションです。あの当時は、とても格式高そうなエントランスなのに、集会所でお勉強食べさせてもらったり、車ものんびり留めさせて頂いたり、という思い出がありましたが、どうやら今は違うようです。
「数年前に管理組合が一新されましてね。昨今の社会事情を踏まえてセキュリティが厳しくなったのです。」
なるほど、搬入に少々時間が掛かりそうですね。
そうして、案内されたリビングは懐かしいあの時のままで、あの時作らせて頂いたそれぞれのお部屋の家具たちは、色こそ日焼けしたり、手の跡がついたりしていますが、12年が経ってもきれいなまま。
「とても気分よく使わせてもらっていますよ。」
あの頃、ブナを使って作る機会が少なかったので、特にブナをホワイトオイルで仕上げるなんてなかったものですから、仕上がりのとても良い色合いだったのが思い出されました。
あの当時のままですが、家族は大きくなるので物はだんだんと増えていってキッチンもリビングもちょっと窮屈な感じです。
ぐるっと見回した感じでは、リビングだけでどうにかするには物が多すぎるようにも思えます。
できれば今ここで家具を作りつけるのではなく、もう少しすると一人暮らしを始めるだろうというお兄ちゃんの独立を待って子供部屋をリノベーションするのもリビングを広くするためには良いかもしれない・・。
そういったいろんな案をあれこれとAさんと話しながら、それでもまずはリビングだけでも快適に過ごせる方向で整え、将来的にキッチンを隔てる壁や子供部屋を隔てる壁を取り払った場合でも使いづらくない収納を設けたい、というお話になったのでした。
そのお話の中で、ダイニングとリビングが一体になったこの場所で、ダイニングチェアとソファを置くことが難しいから、というお話になり、そこで両方の用途を兼用できる椅子と、回遊できるような円卓を置くことでこのスペースを広く使いたい、というお話になったのでした。
円卓は、藤沢のMさんと同じデザインで提案して、椅子は当初は軸が開店するようなデザインのものを考えていたのですが、打ち合わせの中で背もたれが可動する形へと変わっていったのでした。
そして、テーブルのデザインもここで変わっていったのです。
Aさんのご自宅にお伺いしてしばらくしましてから、今度はAさんが工房を訪ねてくださいました。
そこに置かれていたあのテーブルを見て、「いやあ、美しい形ですね。」とおほめ頂いたのですが、その後で、「イマイさん、我が家の場合は天板をガラスにしたいので、ガラス越し見見える脚部はアイアンではなくて、ぜひ木で作ってもらいたいのです。」と、信じられない提案が飛び出しました・・。
「木で脚を作るのですか‥。」
実はAさんからこういうお話を頂く以前にも、このテーブルをご覧になった方から、ここが木でできたら、また魅力的な形になりそうですよね、なんてお話のためになったこともありましたが、あくまでもお話の中でって思っていたのです。
このテーブルはくの字の部材とパイプ状の細い棒で構成されていて、5枚のくの字
はそれぞれ接していなくて、パイプがくの字と固定されて、成り立っているという、自分で言うのもなんですが、絶妙な形なのです。
タカハシさんにはそういった部分で大変苦労してもらったわけですが、この形を木で作るには強度が持たなそうですし、どうしたらこの3次元の組み合わせを実現できるのか自分でもイメージできなかったですので。
でも、長いお付き合いのAさんからそう言われたときは、ああこれはもういよいよ気を引き締める時が来たのだなってそう思ったのです。
Aさん、一度決めたら気持ちが変わらない部分がありますので。(笑)
「・・では、まずは試作してみますので、少しお時間を頂けますでしょうか・・。」
ここからは、試行錯誤の繰り返しです。
テーブルとイスはカナイ君の担当で、ノガミ君はリビングボードの担当で、ノガミ君のほうは順調に進めることができそうなので、まずはこちらの家具を先に進めて先に納品できるようにして、カナイ君とあれこれ悩みながら試作、そして本政策へと進めていったのでした。
椅子の角度を変えて固定する機構、座面がずれないようにする部材、張地の選定やベルトの製作。そのあたりはうまく進んでいきます。
問題はテーブル。
くの字の構造はうまくいきそうで、そこに天板が載るとどう荷重が掛かるのか。それがいまいち分からなくて。
でも、天板の重さはすべてくの字が支えてくれるはずなので、あとはくの字同士をつなげるパイプの部材をどのように木で作るか・・。
最初は、ただ、くの字同士をクロスした部材でくっつける形で考えていたのです。でもね、その形って何というか格好良くなかったのです。
どうにかあのアイアンのかたちを表現したい、1本の棒が連続してつながるイメージを表現したいなあ・・。
それにはクロスする部分の接合をどのようにしたらよいのかなあ・・。
暗くなった工房で一人もやもやしながらあれこれ思っていたのですが、あれっ、こういう方法はどうかなってちょっと思いついたのです。
そういえば、アイアンのテーブルを考えた時も一人の夜だったなあ。
こういう静かな時間はやはりクリエイティブになれるのもねえ。
さっそく思いついた形をサクサクと芯材を削ってみまして、うんよし、何となく良い印象になってきた。
翌朝、カナイ君に相談。この形で接合部の強度を出せれば完成できるかも。
ワクワクしながら作業を進めまして、ハイ、完成!秋ごろにできたその試作のテーブルはちょうど冬に開かれる工房のイベントでみんなに座ってもらって、それで強度の試験をしてみよう。
そうして、リビングの家具の納品は無事に終わった後でも試作と試験が続きます。
工房にいらしてくださったお客様にこのテーブルでお茶を飲んでもらうこと2か月ほど。
ガラスが載ると均等にテーブルに負荷が掛かって安定していたし、どうやらくの字
だけが荷重を受けているだけのように見えるし。
よし、大丈夫だね、ということでさっそくブナを使って本製作に入ります。
2回目の製作とあって、カナイ君の作業はスムーズです。
ハイ、完成。
さっそくAさんのところに納品させて頂いて、同時に椅子も完成させていましたので、これですべてが揃いました。
ちょうど乾燥のきつい時期で、リビングボードの天板が大きく縮んだ部分がありましたが、それを手直しさせて頂いて無事に納品終了。
Aさん、楽しんで使ってくださいね。
と、ひと安心して帰ってきたのでした。
と、ここでお話が終わるはずなのですが、工房で使っていた試作の上でお茶を飲むのではなく、ちょっとした作業をしていた時です。
ガラスにフィルムを張る作業をその上で行なっていたのです。
引き続きの強度試験を兼ねて。
フィルムの空気を抜くのにスクレーパーを当てていたら、ピキッという音とともにクロス部分が1本折れてしまったのでした。
「お、お、おやっ・・。」
クロス部分には負荷が掛からないものと思っていたのですが、1か所に荷重が掛かるとくの字だけでは支えられなかったのでした。
幸い、1本折れただけでテーブルが瓦解することはかなったので、ガラスが落ちてくることはなかったのですが、もうぐらついています。
Aさんのところは大丈夫なのだろうか・・。
と、案の定ほどなくしてAさんから電話が。普通に使っていたのに、折れてはいないそうですが、クロス部分に亀裂が入っていてもうすぐで破断してしまいそう、と。
おお、危ない。
さっそく工房に置いてあるアイアンの脚を代わりにお持ちして、グラつく脚としばらく交換。
うーん、どうしたものかなあ。
Aさんも、実現が難しい場合はくの字同士の頂点を接してしまっても良いですよ、と提案してくださるのですが、やはりアイアンはイメージとは違くて、木で実現させたい部分は譲れない。(笑)
アイアンならば、完成形なので問題なく納品できるのですが、なかなか難関です。
さて、どうしようか、とカナイ君と再び悩みます。
今まではクロスの部分は3本の棒で構成して、2本が交差しているように見せていました。クロス部分のホゾもそれなりにしっかりと作ったつもりでしたが、それで壊れてしまったのですから、クロス部分を1つの部材にしてみよう。
四角い板を十字型に切り出して再びチャレンジ。
うん、うん、よい感じです。
そうして、ハイ、完成。
できたね、しっかりした形、とみんなで喜びます。作ったカナイ君が一番うれしそう。じゃあさっそく塗装だね、と思ったら、再びパキッて音とともにクロス部分が割れました。
えっ、なぜ・・。
いろいろ探るうちにどうやらクロス部分の木取りに原因があるようでした。
最善だと思っていた木取りの仕方が、逆に負荷に対して割れやすかったようで。
こうして何度か繰り返すうちにAさんも気長に待ってくださって、応援してくださいまして、私たちも作業の中で最善な形がようやく見えてきていたのでした。
具体的な構造は、説明しちゃうともったいないので書かないわけですが、ここからさらに2回試作を繰り返して、さらに3か月ほど使用してみて、ようやく安心できる形が完成。
そうして、満を持してAさんの本製作に取り掛かり、試作開始から丸2年が経ってようやく納品できたのでした。
ありがとうございました。
試作は今でも工房に置かれています。できあがりの美しさのなかにある時間や手仕事の苦労も見て頂けるとうれしいです。
ガラスとブナのラウンドテーブル
価格:720,000円(制作費・塗装費)
ブナのラウンジチェア
価格:300,000円(制作費・塗装費)
ブナのL型リビングボード一式
価格:1,150,000円(制作費・塗装費)
ブナのベッドフレーム
価格:340,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は25,000円から)
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