しずかにふくふくした様子

「ナラ板目材とステンレスバイブレーションのオーダーキッチン」

ちはら台 S様

design:Sさん/daisuke imai
planning:Sさん/daisuke imai
producer:kouhei kobayashi
painting:kouhei kobayashi

ナラ板目のペニンシュラキッチンとバックカウンター

リビングダイニングから見たキッチン全体の様子。右手前の柱が大きくかかわってくるこのキッチン。柱と変に接しないようにリビング側の収納の割付寸法を考えております。

ナラ板目のペニンシュラキッチンとバックカウンター

印象的な板張り天井のキッチン。高さを抑えて、包まるような印象がありました。壁付けの背面カウンターとペニンシュラという組み合わせはやはり使いやすいです。背面のカウンターはステンレスとナラ板目無垢材で切り替えているのも注視する点。

ナラ板目のペニンシュラキッチンとバックカウンター

リビングから天井を見上げると、キッチンがこういう様子で写り込んできます。よい穴蔵感だなあ。

私はこの京成電鉄千原線が好きなのです。
千葉県の市原のほうにお住いの方々から時々家具のご依頼を頂くことがあります。
そういう時はもっぱら電車で打ち合わせに出かけるのですが、東京湾岸をぐるりと回る道のりはやはり車よりも電車のほうが風情があって好きです。
新宿から総武線に乗って、西に向かうにしたがって、町工場が立ち並ぶどこか懐かしい街並みを通り過ぎるのです。

洗剤ポケット付きの段付きシンク

シンクは段付き、洗剤ポケット付きシンク。段の部分には水切りプレートが掛けられます。

場所は違うのですが、子供の頃、祖父母の家が文京区の小石川植物園のそばにありまして、すぐ2軒隣が家族で何やら作っている工場だったのです。
今でいう鉄工所だと思うのですが、夏に遊びに行くとお盆の季節ですから工場はしんと静まり返っていて、それなのに正面のシャッターはすこし開いていたりするのです。
祖父母の家での遊びが飽きると、玄関にある小さな草むらに置かれた赤さびだらけの動かなくなったトロッコに乗って遊んだりしていたものです。
すると、「これは乗っちゃだめよ。」と母に言われていたのに乗ったりしていると、どこからともなく「よっちゃんイカ」(酢漬けのイカのお菓子)の匂いがしてくるのです。

シンクの下はケユカのゴミ箱

シンクの下はケユカのゴミ箱。と一部はオープン棚になっています。

ステンレスを張った棚板

オープン棚部分は背板を設けずに配管が目視できるようにしておいて、棚上面にはステンレスを張ることで、調理器具などが多少湿っていても躊躇なく置けるようにしました。

当時祖父が玄関先で駄菓子屋を営んでいた(とても素敵な環境でした。)こともあって、きっとそこから漂ってくる匂いだろうって思っていたのですが、よく嗅いでみるとちょっと違う。なんだろう、と弟と一緒に匂いのする方へ行くと、そのシャッターが少し開いたただ静かなくらい倉庫のあたりから漂ってきたのです。
今にもその暗闇から大きな目玉の人間が飛び出してくるのではないかとびくびくしたものです。
今でいうところの酢酸なのではないかなあと思うのですが、そのお宅は路地の突きあたりということもあって、私たち子どもにとっては用事のないので通ることもないし、いったい何が行なわれているのだろう、と子供の頃はその場所を見るたびに恐れを抱いていたものでした。
そういう煙突やら赤さびやら鉄骨で組まれたやぐらやら、屋上に干されている洗濯物などを見ると、どこからか「よっちゃんイカ」の香りがしてくるようでした。

ソフトクローズレール付きのキッチン引き出し

引き出しの様子。スライドレールは引き出しの底面につけるソフトクローズレールですので、レールが全く見えないのが美しい。その代わりにそこに付けているので、底上げしないといけないので、深さをちょっと犠牲にするのですが。

ソフトクローズレール付きのキッチン引き出し

引き出しの様子。

ソフトクローズレール付きのキッチン引き出し

引き出しの様子。

ソフトクローズレール付きのキッチン引き出し

引き出しの様子。

西に向かうにつれて人もまばらになってきて(幕張あたりは大変な賑わいですが)、そこから南下していくともうどこか知らない町並みで乗り降りする人も少なくなって、本当に静かな気持ちになるのですね。
そういうプロローグが好きで、電車で出かける心地良さはよいものです。
ちはら台はその路線のターミナル駅で停車すると、その先にもう線路はありません。
皆静かに下車して、私もそれに続いて降りると、先ほどの人たちはどこへ行ったのかもう人影もなくなっていたのでした。
スマートフォン片手にそこから40分ほど歩きます。(バスはなかなか不安で乗らないことが多いのです。)
今日はSさんの家を建てる設計事務所さんのアトリエで打ち合わせなのです。

ガスコンロはデリシアグリレ

ガスコンロはリンナイのデリシアグリレ。

コンロ下はスライドワイヤーシェルフ

その下はスライドワイヤーシェルフ。

古い農家に混ざって新しく土地もちらほら見えます。大きな公園(うるいど自然公園いうのですね。すてきな場所でした。)新しい家がたくさん建っています。
すてきな街並みです。
と思ったら、Sさんの建築場所は駅を挟んで真向いの方向で、またそちらも目の前に田畑が広く広がる魅力的な土地でした。

コンロ横のスパイス・ボトル収納

調味料用の細長い引き出しもソフトクローズレールをつけているのですが、この細長い(幅の狭い)引き出し用のレールがちょっと硬い。なかなか使う人の好みが分かれる部分でもあります。

調味料用の引き出し

上は高さの大小バラバラに調味料を入れられる引き出し。

ボトル用の引き出し

下段はボトル用の引き出し。

やはり、Sさんらしい土地ですね。
最初にご相談頂いた時Sさんが希望されていたキッチンは畳に座りながら食事ができるような、もしくは耳付きの大きなテーブルがあるダイニングがあるキッチンをイメージされていて、こういう和風の形を実現させるのは、暮らす人それぞれの好みで大きくイメージが分かれそうだから難しそうだなと当初は考えていたのでした。
しかし、手元に届いたキッチンのカタログをSさんご夫婦でご覧頂くうちに、いつもの私たちの形のほうがスッキリしてよいかもという思いに定まったようで、その思いを携えて、この寒川まで足を運んでくださったのでした。
そこで大まかなイメージは固まりまして、いよいよ建築も始まるというタイミングでちはら台にお伺いしたのです。

ステンレスバイブレーションとナラ板目材のキッチンバックカウンター

背面カウンターの様子。一番左端はナラ板目無垢材の天板にしています。ここはちょっとしたデスクとして使えるようにと考えたのです。デスクにした時にステンレスだとヒャッとしますものね。

ステンレスバイブレーションとナラ板目材のキッチンバックカウンター

このオープン部分はトレイやランチョンマット、レンジの天板などが置けるようなオープンスペース。

ステンレスバイブレーションとナラ板目材のキッチンバックカウンター

今回、Sさんご主人にとても気に入ってもらえたのがこの手掛け。サイズや割付、アールの具合など今回は今までの形状から見直すことで少しすっきりした印象になりました。

ところでSさん。ご主人はとても物静かな方。奥様も同じようにご主人と同じく丁寧にお話される感じ。そして、設計士さんのYさんもどちらかというと穏やかな方。ここまで歩いてきた風景という導入部の物静かさもあってか、Sさんのキッチンを思い描く時は、とても静かな初夏の午後を思い出すのです。

バックカウンターの収納内部

扉を開けると。

キッチンソフトクローズレールの引き出し

引き出しの様子。

キッチンソフトクローズレールの引き出し

引き出しの様子。

キッチンソフトクローズレールの引き出し

引き出しの様子。

ステンレスバイブレーションとナラ板目材のキッチンバックカウンター

引き出しの様子。

キッチンソフトクローズレールの引き出し

引き出しの様子。

メールでほぼ内容をまとめてきたこともあって、打ち合わせ自体は1時間もかからずに終わることができて、設置工事の段取りもうまく進められそうです。
私たちのキッチンというと、施主支給という形で新居に導入させて頂くことが多いので、設計事務所さんや工務店さんは初めて顔を合わせる会社さんが多いのです。
それで、基本的にその会社さんのご協力がないときれいに納まらないので、このご挨拶のタイミングはいつも緊張するわけです。
でも幸い、私たちにキッチンを依頼してくださる皆さんが選ぶ工務店さんだからか、気持ちの良い設計士さんや監督さんと出会うことが多くで、今では緊張するとともに楽しみであったりするのです。
形もおおよそまとまっていたこともあって、打ち合わせはそよ吹く風のようにゆったりとし短い時間で終了し、重要なポイントになりそうな、柱とキッチンの接する部分だけはしっかり進み具合を見て判断しましょう、ということで、あとは工事が始まるのを待つばかりです。

ナラ板目無垢材の引き戸

リビング側収納部。大きな引き戸は無垢材の中に合板を入れた構造で、反りが出にくいようにしています。

それから、数か月後。
いよいよ大工工事も始まって壁から柱までの距離が計測できる時期になりましたので、あらためて電車に揺られて伺います。
ご新居の建設地は、今度は駅から北に向かって15分ほど歩いた田園地帯でお寺さんの隣というとても静かで魅力的な場所です。
その住まいはというと、キッチンは高さを引き締めてリビングに入ると天井の高さがグッと上がるという気持ちの良い空間になりそうな印象。(まだ骨組みですので。)キッチンからは庭が見渡せるレイアウトで、これならこの柱も全く気になりません。
この柱は構造上必要な柱なのですが、視線、動線上の繋がりが切れてしまうような印象がありまして、それなら自然に見えるように柱とキッチンのラインを揃えたい、ということで、壁から柱までの位置が計測できるこのタイミングで現地を確認する必要があったのです。
打ち合わせの時よりも短時間で確認は終了。

ペニンシュラキッチン対面のディスプレイスペース

ステンレスのワークトップとリビング側の飾り棚の天板の間は目地を取って、天板が少し浮いたような印象を持たせています。

これで制作に取り掛かれます。
今回はこのタイミングまで制作に取り掛からずにおりましたので、ちょっと手際よく進めなければいけません。
あらかじめ無垢材の段取りだけは済ませておいたので、(反っちゃうといけないので)あとは工房の中で一番手際のよいコバヤシ君が製作を担当します。
みんなが言うには、コバヤシ君は迷いがない、とのこと。
私も工房で作業に専念していた時代は手が早いと言われていましたが、コバヤシ君の動きを見ているとなるほど、早いです。
今な独立して一人で頑張っている元スタッフのムラカミ君が当時言っていたのは「自分だったら、ちょっと立ち止まる部分もあいつは進めるんですよね。でも、それが間違っていないからすごいなあって僕も思っちゃう。」って。ミスを繰り返して人は成長するってよく言うものですので、じゃあ彼の場合はいきなり大きなミスしちゃうと怖いなあなんて話も時々出たのですが、それも事前に回避できる推察力というのかとても勘も良いのです。
そのような彼のおかげで作業は順調に進んで、設置工事に入りました。

ダイニング側の引き戸収納

引き戸を開けた様子。こちらは内部は白い化粧板ではなく、シナ合板にしています。

どうにか心配していた雨も上がっていて、まだぬかるみは残っていましたが、当日現地は私たちのためにほかの職人さんが入らない日を設けてくださったこともあって順調に搬入は終了。
搬入っていっつも心配なのです。
結構ばたばたとした現場も過去にあったりしまして、通してもらうのもひと苦労、設置場所には大工さんや設備屋さんの材料だらけで作業場がないくらい足の踏み場がないキッチン。そういう現場もありました。
皆さん持ちつ持たれつで作業しているので、そういう状況ももちろんあるものですので仕方ないのですが、やはり監督さんがうまく段取りしてくださる現場はきれいで、業者さんも順番にきちんと作業ができて気持ちが良い。
搬入が問題なければ、あとは工房で仮組したように組み上げていくだけ。思っていたようにみんなの段取りの良さでスムーズに終わらせることができて、無事に取付は完了。
お疲れさまでした。

あとは工務店さんが水道やガスの配管工事をして頂ければすべて完了。

ナラ無垢材の埋め込み船底引手

掘り込み手掛けの様子。これも私たちの場合は規格品を用いず、毎回サイズを検討して作っています。規格品も良いのですが、サイズが微妙だったり、樹種が限定されていたり、塗装がすでに施されていたりと、使い勝手が合わないことが多いのです。でもこうして作ると、例えば、縁取りはいつも2mm残すのですが、そういった細かいラインの見せ方を実現できます。ここが厚いとかなり野暮ったく見えてしまうのです。とても小さなことですが、これが全体の印象を大きく変えてしまうので。

ナラ無垢材の引き戸の敷居

引き戸のレールも最近は使っていません。耐久性を考えるとアルミや真鍮のレールを埋め込むと良いのでしょうけれど、引き戸自体はそれほど重くないし、最近の戸車は滑りが良くて摩擦が少ない。木部への負担も少ないので、仕上げに使う樹種の無垢材にそのまま溝を突いて敷居としています。ちょっとしたことかもしれませんが、これがとても美しいんです。これは友人で設計士の福原さんにあらためて教えられたことです。美しさってそういう小さなことの積み重ねなのだなあとあらためて気づかされて点でもあります。

こうして冬を迎える前に無事に作業は完了して、続いてお邪魔させて頂いたのは寒さが厳しくなってくる1月の半ばでした。
室内はふっくらと温かく、家具としてはこの時期一番心配な感想による板の収縮等の動きですが、そういった挙動はまだ見られずきれいに使ってくださっていたのでした。
実際にキッチンをメインに使われている奥様とはお仕事の関係でお会いできなかったのは残念ですが、ご主人のいつものような穏やかなふくふくした様子をキッチンを拝見させて頂いて、私も同じくらい気持ちが温まりまして、道中寒さを感じることなく家の帰ることができたのでした。

キッチン仕上
天板 ステンレスバイブレーション
扉・前板 ナラ板目無垢材/ナラ板目突板
本体外側 ナラ板目無垢材/ナラ板目突板
本体内側 ポリエステル化粧板「ホワイト」
塗装 オイル塗装仕上げ

ナラ板目のペニンシュラキッチン

価格:1,300,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)

ナラ板目のバックカウンター

価格:600,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は60,000円から、取付施工費は150,000円から)

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