作り出す人
「ナラ板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン」
三鷹 N様
design:Nさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kakai
painting:yasukazu kanai
「僕はね、物を作ることが好きなんですよ。特に服ばかりが好き、ということでもないのです。」井の頭線の車内でNさんはそうおっしゃってくださいました。
お仕事のつながりからとても面白いご縁を頂いたのです。
私はもっと若い頃はいろいろな洋服が好きでしたね。古着って言葉がよく聞かれるようになった頃でしょうか。(違うかな。)友人と下北沢のほうまで気に入る上着が見つかるまで一日町をぐるぐる歩いたりと、とても有意義(笑)に時間を使って過ごしていたこともありました。
昔母が来ていたコートを着ていたりしたこともありましたねえ。友人たちには大変ほめられましたが・・(笑)
でも、この仕事を始めると作業着を着る毎日で、だんだんと着るものへの興味が薄らいでしまって、結婚するとなおさらです。
アキコとは19歳の時からの付き合いでありますので、結婚する頃には何だかもう恋人というよりは家族のような感じでして、結婚してからは彼女の良いと思うものを着る、という感じになっておりました。
だって、隣でその服のバランスはどうかなあ。って言われちゃうと一緒に居づらいじゃないですか。
なので、時折、街に買い物に出かけて着るものを見つける時はいつもアキコが居る時でしたので、だんだんと無頓着になってしまうのですね。ははは。
父の跡を継いで、こうしていろいろな皆さんとお会いする機会が増えてきたことで、あらためてきれいな格好を気にするようになってきましたが、いけませんね、人ってその時に見たいものしか見ないわけで、あれこれ気持ちが移ろいでしまっては。
そういう気持ちでいる自分にとっては、Nさんの言葉はやはり強く響いたのでした。
このリノベーションの施工を担当される設計士さん伝いに「有名なデザイナーさんなのですよ。」とお話を聞いていて、私たちの工房にいらして頂いた時も奥様とお話する時間が多かったもので、Nさんとはちょこっとしかお話ができていなかったもので、どんな人なのだろうってよく分からなかったのです。
奥様の思い描くキッチンは私のよく知る少し懐かしい印象でキッチンを思い浮かべやすかったのですが、どういうインテリアになってくるのかが、世界で活躍されている方のおうちとなると、はたしてこれで良いのだろうかって不安がずっとどこかにあったのでした。
そうそう、このホームでばったり出会う1週間前にもうれしい時間を持てていました。
その時は、実際にキッチンにしまいたいものなどを見させて頂こうということでNさんのお宅にお邪魔させて頂いたのでした。
「仮住まいで物だらけですみません。」
と案内してくださったリビングは、たしかにいろいろなものがありましたが、Nさんご家族の雰囲気が良く伝わるものたちがそこかしこに在ったのです。
打ち合わせの途中に「ただいま!」と元気よくお兄ちゃんが帰ってきました。
そうか、お父さん、お母さんなんだった。
そこで、私が当時娘の中学校で役員をしているというお話になったのでしたが、「主人はそういうの苦手なんですよ。どちらかというと人見知りで。」と。
この町で暮らすならNさんみたいなクリエイティブな方ならきっとすてきなコミュニティを作れるのじゃないかなあなんて勝手に思い込んでいたので、そういう控えめな印象がかえって新鮮に思えたのでした。
工房にいらしてくださった時も服装はご自身のブランドの物なので、主張がある印象に見えたのですが、意見を伝えてくださる回数がとても少なかったから、かえって何だか試されているようでちょっとおっかなびっくりに思っていたのです。でも、それは純粋にNさんが控えめだったからなんだって、あらためてこの打ち合わせで思えたのでした。
勝手に思い込んで、勝手に親近感を持ってしまって、人って自分が見たいように見てしまう、いけないなあ、あらためてそう思ったのでした。
そして、後日現場確認の後にこの井の頭線の中で、あらためてNさんの穏やかで強い思いを聞かせて頂くことができて、その時間が私の気持ちをほぐしてくれて、というかNさんの人柄がそうさせてくれるのでしょうね。
本当にうれしかったのです。
Nさん、洋服を作ることが好きで好きでそれを見せる場所を作りたいって思っていたらいつの間にか自分で店も作ってしまって、自分で切り盛りして次第にまわりの皆さんが評価してくれて立ち上げたブランドがヨーロッパでも評価されるほど大きくなっていって、と経歴を見ているとなんだかすごい人だと思うのですが、とても静かな物腰で、こうして井の頭線に一緒に乗っている。
「電車で移動されることがあるのですね。」
「いや、今日はたまたま現場から事務所に行こうと思っていたから車よりはこちらの方が楽ですし。」
なんて普通の人なのだろう。
でも、物を作ることが好きという気持ちがお話を聞くたびにとても一途に伝わってきて、穏やかな車内で私は圧倒されていたのでした。
たった5駅の15分くらいでしたが、私はNさんがあらためて好きになってしまったのでした。
あの時、井の頭公園で帰り道を少し迷わなかったら、この時間はなかったのだなあ。
「ありがとうございました。」と先に電車を降りた自分は何だか初恋の人が去っていってしまったような淋しさを感じながら、帰路に就いたのでした。
リノベーションを行なうNさんのご新居となる場所は、庭木に囲まれて懐かしい香りがしそうな古い戸建てで、井の頭公園が写り込むような緑の多い場所なのでした。
元々あったキッチンの場所からレイアウトを変えることもあって、フードのダクトの取り回しや吊戸棚の納まりなどイレギュラーなところがあって、多少施工が難しい部分もありましたが、職人さん皆さんがとても良くしてくださって、特に大工さんが私たちのためにいろいろと手を尽くしてくださり(大工さんの段取りが良い現場はとても仕事がスムーズです)、こうして複雑な納まりでもきれいに納めることができたのでした。
物を作ることが好きということもあって、キッチンと背面の食器棚の塗装はNさんご夫婦で行なうことに。
その説明にあらためて現場にお伺うした時にはすでにNさん手作りのレコードラックも入っていて、再びその思いを見せて頂くことができたのでした。
こうして無事に塗装が完了して、そのあとは無事にお引渡、お引越しも住んで、そうしてしばらくしてからご挨拶にお伺いしたのです。
この時はNさんお仕事で忙しくされていてお会いすることができなかったのですが、奥様からキッチンの様子をいろいろと聞かせて頂いて、皆さんの暮らしの心地良い様子が分かってとても温かい気持ちで帰ってきたのでした。
天板 | ステンレスヘアライン |
---|---|
扉・前板 | ナラ板目無垢材 |
本体外側 | ナラ板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板/シナ合板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
ナラ板目材とステンレスヘアラインのオーダーキッチン
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