バックヤード

「オーダーシューズ用作業台、皮切り台のオーダー」

横浜 ハドソンズ様

design:プラスマイズミアーキテクトさん/Mさん/daisuke imai
planning:プラスマイズミアーキテクトさん/daisuke imai
producer:yasukazu kanai/iku nogami
painting:yasukazu kanai/iku nogami

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

作業スペースの全景。写真で見ると広く見えますが、人が2人はいるともうギュウギュウな感じで、うーん、すてきな作業場って感じです。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

突きあたりの本棚側から見るとこのような感じ。作らせて頂いたのは、右側にあるデスクが革をカットするためのデスクで、その奥が革をストックしておく棚。そして、左側にあるカットした革を加工するためのデスク。そして、写真には写っていないのですが、背面にある本棚と作業前の革を別の場所にストックして置くシナ材で作った棚とオークのオーディオラックと様々な形を作らせて頂きました。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

作業スペースの入り口から見たところ、長い革が左手の棚に収納されています。

横浜に「ハドソン靴店」さんという路面から眺めるその店の様子がとてもすてきな靴屋さんがあります。
ガラス越しに見える靴の材料や道具に圧倒されそうなくらい魅力的なお店ですが、そのお店以上に不思議な魅力の店主であるMさん。
ご縁があって、以前大磯のKさんの「姉妹で作る家」のキッチンを任せて頂いた時、そのKさんの妹さんがKさんの家を設計して、その妹さんの一緒に設計事務所を営んでいるご主人であるマイズミさんとそこで知り合うことができまして、そのKさんのキッチンの印象をとても良く思ってくださっていたマイズミさんがハドソンさんのサロンを作られまして、そこに置く家具たちのプロデュースも行なうことになったのだそうです。
その時に、私たちのことを思い出してくださって声を掛けて頂いたのでした。
「イマイさんが作られたあのキッチンの表情がね、とても素敵だなってずっと思っていたのです。」

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そのデスクを作るのに素材のありのままの印象を見せたい、というご要望で採用したのが鋼材にまだ黒皮がついたままの状態でそのまま使う、という仕上げです。塗装もせず、切断面は鈍いシルバーのまま、点付けした溶接ビードもそのまま見せたい、ということでした。そこでいつも鋼材の加工をお願いしているオヌマさんにサンプルを作って頂いて、曲げの角度や補強材が溶接されている様子を確認してもらいました。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

お二人にはこの仕上がりはとても好評で、荒々しいけれど表情豊かな様子を気に入ってくれました。けれどもオヌマさんには、(時々黒皮でっていう相談を受けるたびに)いつも「黒皮そのままは錆がでてくるから止めたほうが良いですよ。」と言われていたのです。それほど気になるのかなあと思っておりましたら、このサンプル、2年くらい経過した今は表面が赤みを増してきました。なるほど、やはりワックスくらいは塗り込んでおかないといけないようですね。ちなみにこの写真はデスク下の引き出しがつく部分のフレーム。引き出しは吊桟で作ることにしたのですが、桟もスチールだと絶対に動きが悪くなるから、ということでこの部分はステンレスで作っています。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

その引き出し部分のフレームと引き出しが入った様子はこのような感じ。チェリーがもっと赤みを増してくるともっと鉄の印象と馴染んでくると思います。それが楽しみです。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

これが革カット用のデスクとストック棚の全体です。デスクの後ろにも板が立っているのですが、革をカットする際に革をグルグル回したり、材が長いので床まで垂れさがったりするわけですが、その時に窓に掛かるブラインドに当たって傷にならないようにガードするための板で、ストック棚の印象とデザインを揃えてマイズミさんが考えてくれています。ストック棚も全て閉じた形ではなく、素通しの状態にして通気ができることと、サイズが小さくなった革も取り出しやすいように、ということでこのようなデザインになっています。

「イマイさん、ちょっと変わったお仕事なのですが、ぜひイマイさんにお手伝い頂きたくて。実は靴屋さんのワークデスクを考えているんですよ。」
靴屋さん?
聞くとオーダーでシューズを作っていらっしゃったり、難しい靴の修理をお仕事にされている工房に机などを作りたいのだということでした。
興味深い依頼ですが、その職の専用の道具となると、自分たちの力で実現できるのかな、ちょっと不安もありました。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

こちらは乾き利用のデスクのトップ。厚み6mmの鉄板を敷いています。この後にMさんが硬質なゴム板を敷いて完成。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

先ほどのサンプルが実際にどのようになったかということ、このような感じです。

オーダーシューズショップのチェリーとアイアンで作ったワークデスク

引き出しに付けたハンドルはKUMA鍛鉄工房さんの「角9mm槌目」を使っています。

まずはマイズミさんにお話をお伺いして、そのサロンを拝見させて頂きました。
「こんにちは、はじめまして。イマイと申します。」
まずは路面店に立ち寄らせて頂きます。
それが冒頭の印象。靴の存在感に圧倒されるような店構えで、お店というよりはもう工房ですね。店先に入ってもあまり寛げる場所がなくって、革の匂いが漂う作業場です。
「はじめまして。」
と、笑顔で迎えてくれた店主のMさん。細身でとても物腰の穏やかで、おそらく私よりもお若い。イメージしていた手がごつごつしていて、髭を三つ編みしているような思い描いていた靴職人さんとは違うのでした。
「じゃあ、サロンのほうへご案内します。」
と支度が残っているMさんよりも先にマイズミさんと私とでそちらに向かうことに。
工房から5分くらいと見えてくる車どおりの少ない場所に立つ古い集合住宅。
この一室をリノベーションしたというサロンは、「お邪魔します。」「ちょっと待ってくださいね、今電気付けますので。」と言ってブレーカーを上げて照明をつけても部屋の奥まで見渡せないようなとても雰囲気のある照度の室内。
躯体がむき出しの壁や床に素材をのそのまま見せたような間仕切壁が立ち、モールテックスを塗ったのです、と言っていた白いステージが応接スペースになっている独特の空間でMさんとマイズミさんの個性全開な感じです。

チェリーの本棚

こちらはチェリーの突板で作った本棚。

「ここにいくつか作りたいものを考えているのです。」
「どちらかというとお客様に見せる家具ではなく、バックヤードで使う家具なのですが、それをとても印象強く作りたいのです。」
なるほど。
マイズミさんのイメージは、こうでした。
空間と同じく素材そのままを見せられるような家具にしたくて、さらにはワークデスクとしての耐久性もきちんと考えられた形。そのほかにステージで使う音響機器をディスプレイしながらも家具自身がきれいに見える形になるようなオーディオラックも作りたい、ということでした。
うーん、とても抽象的だ。
Mさんの要望はどうなのかな、と思って、あとからいらっしゃったMさんにお話を聞くと、「素材の良さがきちんと表現されている形がすてきですよね。」ともっと抽象的だ。
私は作家ではないので掴みどころが難しいと形を考えるのにとても困ってしまうものでして、どちらかというとご要望という名前のいろいろな条件をクリアしながら形を作っていくことに慣れているので、頭を悩ませておりますと、「大まかなイメージは思い描いているものがありますので、それをMさんと詰めていってイマイさんに提示できるようにしますので。まずはこの場所を見てどんな感じがをつかんで頂けたらと思っておりまして。」とマイズミさんがフォロー。
そうですね、とひと安心。
ここから、マイズミさんの思い描く大まかなイメージをメインに肉付けを重ねて具体的に実現できる形へと考えていったのでした。

オーク節アリ材を使ったオーディオラック

オーディオラックはオークを使って製作しています。ステージの上にトラックファニチャーさんのソファとローテーブルがあるのですが、その印象に合わせて作ってもらえますか、ということで馴染むような形を考えさせて頂きました。このオーディオラックのトップは皮切り台と同じように下地のままでこれからMさんが靴に使っている革を張り込んで完成。

オーク節アリ材を使ったオーディオラック

側板や天板の面取りの具合。

素材をそのまま表現することはただシンプルになることではなく、形として成り立つ質素さで素材の良い表情もうまく出せたらよいなという話になりました。また、古いビルのような集合住宅でエレベーターもなく、半ば閉じられた階段しかなく、古いてっいを開けると少し入り組んだ設計の空間ですので、搬入がかなり難しいため、そのこじんまりした空間に搬入できる方法と現地で組み立てられる方法を模索しながら、どこまで装飾をそぎ落とすことが良いのか、3人で悩みながら形はできあがったのでした。

シナとスチールのシェルフ

こちらがバックヤードに置かれたもう一つのストック棚。シナの無垢材とスチームむき出しのフレームでできています。

シナとスチールのシェルフ

黒皮もついておらず、地金の鈍い色とシナの淡い色がとても良い感じで、ここに置いておいたらもったいないってマイズミさんもおっしゃっていましたね。たしかにとても良い表情なのです。

こうして、なかなか知ることのない世界を見聞きできてとても貴重なお仕事をさせて頂くことができたのでした。実はまだこれでサロンが完成したわけではないようでして、また存在感のある形が必要になったらお声掛けしますね、とお二人にそう言われてしまったのでした。
大変ありがたいお声掛けで、頭を悩ませながら頑張りたいと思います。
「今まで修理をメインに行なってきた部分があるのですが、ここでは自分の表現できる靴を作り上げていきたいと考えているのです。今考えているのは、ロード・・。」
面白い仕事が広がっていきそうで、私の楽しみにしています。
お二方、このたびはありがとうございました。

オーダーシューズ用作業台、皮切り台

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