作品を作るための道具であって
「漫画家さんのワークデスクのオーダー」
都内 N様
design:Nさん
planning:daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
2004年に漫画家さんから使いやすいデスクを作ってほしいという相談を頂いて、少し変わった形の机を作らせて頂いたことがあります。
「desk to live」
その時に漫画を描くためには傾斜している台がある方が描きやすいことや、紙を収納するうすい棚が必要なことなど、今まで知ることがなかった種類の机のことを教えて頂いたのでした。
また、漫画を描く時は一人で描くことよりもチームで作り上げていくのだという興味深いお話も聞かせて頂いたっけ。
「作家名は私だけの名前ではなくって、このひとつの作品を作り上げていくためのプロジェクト名みたいな感じです。」って。
今回Nさんにご相談頂けたのはこのYさんの机の様子を気に入ってくださったことがきっかけです。
「そちらのサイトで漫画家用デスクを拝見致しました。
特にキャビネットのアイディアは素晴らしく、私も欲しいと思いました次第です。
そしてこの度仕事場を新調しましたので、机も新しいものに使用と思い立ち、せっかくだからオーダー出来ないかと思いメール致しました。
まずは見積もりだけでもお願い出来ますでしょうか。
引っ越しは来月の半ば以降ですが、間に合うかどうかも含めご相談に乗って頂ければ幸いです。
よろしくお願い致します。」
そのNさんのイメージはYさんの机をもう少し作り込んだ印象になりそうでした。
やはり作家さんのオーダーで考える机だったり、家具だったりというのはその使い方にあった、その人にしっくりくる形になるので、どの形も独特ですよ。
その人にとっては家具が自分にとっての大きな道具ですから。
例えば、特徴的な形をオーダー頂いたみなさんを上げてみますと・・。
オーダーで作るキッチンなんてもうその家に住む人の道具ですから全てが独創的な形です。
ええと、何となく思い浮かぶだけでこれほど素敵な形がありました。
・海外の映画やドラマの翻訳を手掛けるKさんのウォールナットとマットホワイト化粧板で作った独特の形の本棚とデスク「猫との暮らしはこれから」
・国際的な琵琶演奏家である中村さんにオーダー頂いた独特の形状をした折り畳み椅子「べん べん べん」
・伝統的な技術で靴の修理、オーダーでの制作を行なっているハドソン靴店の村上さんが使う作業場のワークデスクたち「バックヤード」
・酵母から作り出すパンが魅力のKonasalonの熊崎さんのブラックウォールナット材を使った最初のスタジオのキッチン「Kona Salon、教室作り」
・体に優しい素材を使った料理を提供したり、教室を開催されている料理研究家KISSAKOのSさんのナラ材を使った最初のスタジオのキッチン「その日まで」
・鎌倉でチーズの専門店を開いているKさんの素朴で美しいチェリーと天然石の二漕シンクのあるセパレートキッチン「Hutte」
・自家製天然酵母で作るパンにインド料理のスパイスを取り入れた独特のパンを作る作家のうさぎパンさんのスタジオとなっているキッチン「biscotti」
・リラックスしてお料理を作ることの楽しさを教えてくださるとても温かな&MANDOのMさんのナラ節アリ材とコーリアンの四角いキッチン「カジュアル」
・デンマーク創業の家具メーカーの日本支社長さんを務めるオーナーさんの魅力的な素材と色使いが独特のコーリアンとクルミのキッチン「豊かな色」
ひとつひとつ見返してみると、その人となりがよく分かる形です。
このNさんの机もそういう思いで生まれました。
ある程度の形をメールでお伺いした後に実際の作業場を見させて頂けることになったのです。
漫画を描いている工房なんてなかなか伺う機会がなかったので、興味深い思いで訪ねさせて頂きました。
工房は一軒家の二部屋を使ったコンパクトな形で、アシスタントさんが数名いらっしゃって、忙しそうに手を動かしていらっしゃる。
Nさんの作業場も自身で機能的に使えるような工夫が所狭しとされている。
鏡で細かい表情を見ながら書かないといけない時のために、小さな手鏡がデスクにアームで固定されていたり、ポーズの参考となる書籍が手元にきちんと並んでいたり。
また、使うペンの置き方も独特だったり。
そして、いろいろなものが目線にすぐ入るような位置にクリップするためのメッシュパネルが机のまわりに立っていたり。
見ているだけでおもしろい。
こういう道具や素材をきちんとしまえて使いやすいようにするほかに、現在は手書きのほかにペンタブレットを使って描くことも多いのだそうで、そのタブレットをきちんとしまっておけるスペースと、さらには大きめのトレース台も使えるように、愛用しているデスクライトをクリップできるような構造に、とNさんの細かなご要望は続くのでした。
そして、それらの要望をうまく取り入れた形で今度この机を納品する新居にうまく運び込めるように組み立て方を考えなければいけません。
いろいろなものをクリップする場所と考えているパネルが大きいので、今度の工房となる新居の2階にはおそらく階段から入れることはできないと思われます。
そうすると、箱もオンにして作っていくのではなく、板状で搬入して現地で組み上げていく形になるので、その作業が滞りなく進むような形にしないといけません。
ひと通り細かなご要望をお伺いしまして、工房に戻ってからさっそく図面を書き直します。
図面の修正で難しいのが、ミリ単位を調整する時です。
一度「この形」と決めておいた図面を作成すると、その形に合わせるためにいろいろな板の厚みや長さが決まってくるのですが、数ミリ調整するとなると、その場所を調整する以外にその場所と間接的に関わっている部分も変えないといけなくなったりして、最初からその部分だけ書き直した方が間違いづらかったりすることもあって。
そのあたりのバランスを見ながら、形を描き変えていって、さらには制作を担当するノガミ君と打ち合わせながら、この納まりを目指すにはどういう構造で作っていくかなどを相談しながら形を考えていきます。
(淋しいところですが制作から10年以上も離れてしまうと、細かい納まりは私の経験だけではなく彼らの実感のほうが組み入れるほうが良い納まりになることが多いのです。)
そうして、再び形をNさんに確認してもらって製作に取り掛かります。
今回はタモ材とシナ合板を組み合わせた形で作ります。強度が必要な部分は無垢材を使い、軽量にすべき部分は突板を使います。
また、今までメッシュパネルで対応していたクリップするスペースはシナベニヤの有孔ボードを使って、意匠と使い勝手を向上させます。この有孔ボードとタモの入り組んだ作りを工房で固めてしまうのではなく、一度仮組して現地で組み直せるようにするところがなかなか大変だったりします。
さらには、Nさんご自身でパネルの着脱がしやすい構造にしなければいけなかったり、またオリジナルの傾斜台にはペンタブレットを埋め込んだ状態で使えて、さらにはトレース台もうまく活用できるように工夫がされて、こうして無事にこの魅力的なワークスペースが完成したのです。
Nさんありがとうございました。
ここから生まれる作品楽しみにしております。
漫画家さんのワークデスク
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