同級生
「オーク板目とステンレスバイブレーションとホワイトメラミンのオーダーキッチン」
横浜 O様
design:Fさん
planning:daisuke imai
producer:yasukazu kamai/hiroyuki kai
painting:yasukazu kanai
古くからお付き合いのある設計士のFさん。
以前にはご自宅をリノベーションされた時にキッチンを作らせて頂きましたね。
「おしゃべり」
Fさんの作る形はどこか欧風の物静かな印象を受けます。そして、少し懐かしい感じ。
ご自宅の時の集合住宅(というか、私にとっては子供時代に過ごした団地そのままの懐かしい住宅)で感じた優しく静かな印象をこのたびOさんのところでまた触れられることになったのです。
「今まで住まれていた家の印象はなるべくそのままに生かして、ここに庭がぐるりと望めるような階段室のような場所を作りたいのですよ。」とFさん。
「階段の途中の踊り場にはちょっとしたカウンターを設けて、庭を眺めながら本が読めたらすてきかな、と思ってるのです。」
いいなあ、とても素敵な響きです。
気持ち良い暮らしって、利便性ばかりが求められるのではなくて、どういう時間の過ごしかたをそこなら実現できるかが大切ですよね。
その感じ方は、皆さんいろいろで、あるひとつの音だったり、匂いだったり、肌触りだったり。
それを何かのきっかけで見付けて膨らませて、そのあとに磨いて研ぎ澄ませていく。
設計するってそういうことなのだと思います。
家も家具も同じで、思い出の引き出しを一つずつ開けていって、それが今とこれからの自分たちに必要かどうかを読み取る作業です。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」で出てきた「夢読み」のようにぼんやりしたものを次第に丁寧に読み取っていく作業です。
お施主さんはFさんの高校時代のご友人であるOさん。
Oさんご家族は2階で暮らして、庭をぐるりと見ながら階段を降りていくとるとお姉さんとお母様が暮らす1階に辿り着くというすてきな住宅。
写真を撮り忘れてしまいましたが、ぐるりと回る階段は本棚を囲むように回り込んでいて、その書物の階段が家族をつないでいる印象。
その二世帯のキッチンと食器棚の制作を任せて頂くことになったのでした。
それで、まずはOさんのところにお伺いしていろいろとお話を聞いていくのですが、1階と2階とでは色あいというか風合が大きく変わるのでした。
ここがおもしろいところです。
まさに夢を読むですね。
1階はお母様が長年使ってきたキッチンや食器棚の心地よさや勝手の良さを元にきちっとお話をしてくださいます。
しまいたいもののサイズを細かく拾い出して、しまう場所や動線がかなりしっかりと書き込まれたメモを見せてくださいました。家電のイラストも書かれてサイズがぎっしり書きこまれたメモ。
なるほど、あとはこの内容通りに制作することが可能かどうかを確認していき、かっちりとした印象のキッチンになっていきます。
かえって2階のOさんは、おおらかな印象。要点は抑えてありますが、全体の印象はあまり細かく考えずFさんが設計してくれる空間やキッチンを楽しみたいという印象。
Fさん自身もそれほどかっちり設計するのではなく、キッチンという場を俯瞰して、とても美しくまとめられるように考えていくかたですから、ふんわりとした印象のキッチンになっていきます。
ちなみに、今回のFさんのお話のように設計士さんが空間全体を考えてくださる場合の私たちの関わり方としては、キッチンの設計も設計士さんがまとめてくださって私たちはそのプランやレイアウトがうまく納まるように制作方法重視の設計をする場合もあれば、キッチンだけは私たちに振り分けてくださる方もいらっしゃって、御施主さんのお話を聞いて形の考えてきちんと納まるようにその部分は全て任せてくださる場合とがあります。Fさんはどちらかというと前者の方で、空間を考えながら、キッチンの形もその場所に適するようにふんわりと設計をしてくださるタイプ。
ですので、Fさんが作るキッチンのデザインがその空間に納まるように、使い勝手が悪くなることがないように細かい部分のアシストをしながらの打ち合わせです。
でも、お母様とお姉さんが使う1階のほうは、しまいたいものや、引き出しのサイズまで、ミリ単位の調整が必要な部分があって、どちらかというと、印象を重視するよりも実話的な形になりそうでしたので、私も最初から細かく打ち合わせに参加させて頂いたのでした。
その1階と2階の形の対比の面白さは、とても勉強になったのでした。
そして、今回もうひとつ興味深い経験をさせて頂いたのが「別の家具屋さんとの共同作業」でした。
Fさんが古くから付き合いされている「フランジプライウッド」さんという家具屋さんがいらっしゃって、以前からお話だけはFさんからお伺いしておりまして、Fさんのご自宅にお伺いした時にもフランジさんの家具を拝見させて頂いておりました。
そのフランジさんが今回は2階のソファや収納を受け持って、私たちがキッチンを受け持つ。そのリビングからの収納がキッキンの戸棚とつながっていくようなデザイン。
なかなか納まりが難しそうです。
当初、その納まりよりも難しそう、と感じていたのは「他の家具屋さんと一緒に作業すること」でした。
私はこの仕事を始めて27年経ちますので、今までもいろいろな家具屋さんや木工所を見てきました。そして、この仕事をしている皆さんだいたいが、けっこうクセのある人が多いのです・・。
よく分からないけれど自分のやり方を変えない人、ずっと喋っている人、腕よりも口が立つ人、仕事がとても上手だけれど意思疎通が取りづらい人・・。
もちろん、腕が良くて仕事が早く美しい方々も多く出会いましたが、なんとなく取っ付きにくい人が多い世界なのだなあと感じていたのです。
だから、あまり他の家具屋さんと一緒に納める仕事したくないなぁなんて思っておりまして・・。
でも、フランジさん、お会いしてみるととても物腰穏やかな方でお互いの納め方やどこで逃げをとるかなど、事前にきれいに納める方法をきちんと提案してくださったのでした。うれしいです。
今回は特に扉の割付のサイズを私たちとフランジさんで揃えてラインを通す必要があったり、フランジさんの戸棚と私たちの引き出しがツラ一で揃える部分があったりと、呼吸を揃えないと納まらない部分が多かったので、気持ちよく仕事をすることができてほっとしたのでした。
でも、よく考えると今お付き合いのある家具屋さんや木工屋さんはみんな優しいなぁ。
父が現役で頑張ってた時代はもっと取っ付きにくい人が多かったように思えたのは、そういう時代だったからなのかな・・。
このように皆さんが良いものを作ろう、という気持ちがよく現れた現場だったおかげでこうしてFさんらしい優しい場所が完成したのでした。
そして、Oさんやフランジさん、そしてFさんと、こういうすてきな出会いが持てたことに大変感謝しております。
天板 | ステンレスバイブレーション |
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扉・前板 | オーク板目無垢材 |
本体外側 | オーク板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
オーク板目とステンレスバイブレーションとホワイトメラミンのオーダーキッチン
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