やさしい毎日
「ナラランダム張り突板とステンレスバイブレーション5.0ミリのオーダーキッチン」
八王子 O様
design:内田雄介設計室/daisuke imai
planning:内田雄介設計室/daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
玄関から入って左に折れると、リビングの向こうにこうしたキッチンの姿が目に入ります。今回は、ナラ板目の突板をランダムに張ったものを使っています。突板屋さんと相談してかなり色柄をばらした感じにしてほしいというリクエストにこたえてくれたのがこの印象で、とても良い配置で印象深い木取りにすることができました。
キッチンは内田さんの作品で良く登場するナラ材を使いまして、ダイニングテーブルはもう少し木目の印象がはっきりとしたコストを優先してタモ材で作っています。(ナラ材はただいまかなり高くなっているのです。)
キッチンとして使う部分と収納として多目的に使う部分とで、デザインを変えています。どちらも印象はインセットなのですが、キッチンとして使う部分は側板と引き出しの前面を揃えて、ダイニングの収納としてリビングからよく見える部分は、側板よりも少し奥に入れています。またキッチン側は使い勝手を優先して、開け閉めしやすく手が汚れていても木に触れにくいようにとハンドルをつけましたが、ダイニングの収納やシンク側キッチンの対面収納はすっきり見せるために手を掛けて開け閉めできる形にして、視覚的にも使い勝手の区別ができたらよいなと思ったのです。
私はこの導線が好きです。ペニンシュラタイプのキッチンにしてもセパレートタイプのキッチンにしても突きあたりとなる部分に出入り口があるととても使い勝手が良いと思うのです。Oさんの場合は、勝手口を出ると物置やゴミ置き場などにアクセスできるようになっていて、外の空間もキッチンのひとつの場所として活用できるところが魅力的でした。
「イマイさんにまたキッチンをお願いしたくて。」と、いつもながらの穏やかな調子で内田さんからお声掛け頂いたのです。
内田雄介さんの手掛ける住宅では、内田さんのご自宅を始めとして今まで数多くのキッチンを作らせて頂きました。
いろいろな形を作らせて頂きましたが、今まではシンプルなデザインですべてナラ材を使った形でしたね。
それが内田さんの味わいなのでしょうね、どの形も優しくその住空間にあった形をしております。
そして、今回ご依頼を頂いたOさんは、内田さんのご親戚で、さらには私たちの作る形を大変気に入ってくださっていらっしゃる(うれしい!)とのことで、とてもうれしいご依頼なのでした。
天板はステンレス5.0ミリ無垢のバイブレーション仕上げ。大変美しいのですが重いのです。ですので設置工事はかなり大変で、今回コンロ側のカウンターが長さ3500ミリほどありましたので、重さは90kgほど。両側が壁ができあがっていたりすると、うっかり重さでふらついちゃったりすると傷つけちゃうので、施工はいつも気を引き締めながら。
それでさっそくアトリエにお邪魔させて頂いて、打ち合わせをさせて頂くことに。
お姉さんもご主人様も、その日に限って駐車場探しに手間取って遅刻してしまったのに・・、とてもにこやかに私を迎えてくださって、ありがとうございます。
内田さんと一緒に仕事をする場合は、キッチンのレイアウトやサイズ感はすでに空間の中である程度決められていて、そこからそこに暮らす人がどのような形が使いやすいのかを私とお施主様とでお話させて頂いて、最後に内田さんが全体的なバランスを見て、まとめていくということが多いのです。
シンク側キッチンの様子。私たちが作るキッチンのワンポイントは、天板がキャビネットから浮いて見せるようにする場合に、食洗機の上に板を1枚入れること。理由は特にないのですが、この方がきれいだと思えるのです。最近は食洗機に操作部分が正面から見えない全面ドアパネルタイプのものがあるのですが、これにする場合には上に板を入れなかったりするのですが、そうなるとパネルの納まりが隣の引き出しと揃えることがなかなか難しかったりします。機種によっては上端から排気が行なわれたり、奥のランプの転倒が分かるようになっていたりして、上に隙間を取らないといけない場合があるためです。とても地味な部分ですが、板1枚が大きくコストに反映されることもあったりします。ただ、食洗機の説明書をじっくり読まないとそういう納まりが分からなかったりするので、いつも「難しいなあ。」と頭を悩ませながら作っております。
水栓は、クリンスイの浄水一体型水栓の「F914ECO」を採用しています。シャワーの切り替えに少しクセがありますが、慣れると使いやすい定番の器具ですね。
コンセントは最近お気に入りのグレー。最近はJIMBOではなく、PanasonicでもこのNKシリーズに寄せた製品が発売されていますね。JIMBOとは違った質感で、どちらの製品もきれいでしたので、この先、皆さんの好みが分かれる部分なのかな、と思っております。
なかなかお見せすることが少ない配管の様子。シンク下をオープンにする場合でも、私たちは基本的に配管はこのように露出したままにすることが多いです。よく「パネルを立てて、配管を隠せるようにできますか。」というお話も頂くのですが、(もちろん隠す納まりも可能です。)なるべくならこのままで納めるようにしています。水漏れがないかどうかが一目瞭然ですし、設備屋さんも作業しやすい。湿気もたまりにくいですしね。また、このように配管を露出しても、ひな壇だけは指定がない限りなるべくつけるようにしています。ずっと以前は付けていなかったのですが、ある設計士さんから、ひな壇があるとゴミ箱などが直接謝意間にぶつからないので、配管がストレスを受けることがなくなるので良いですよ。」と教わってからはこのような納まりにしています。ちなみに今回はパナソのニックの食洗機なので、シンプルな配管です。海外製の食洗機になったり、タッチレス式の水栓になるとこのあたりはもっと複雑になってきます。ちなみに右下のコンセントはコンポスト用のコンセントです。
そして、今回もその流れでお話を進めるつもりだったのですが、1つだけ試みてみたいことがあったのです。
instagramでインテリアやキッチンのことをつらつら見ることが多いのですがその中でとても心惹かれる形があったのです。
その形はどちらかというと昔よく見たような形に見えて、一見すると無骨で野暮ったく感じられそうに思えるのですが、写真に写る外国のその様子が、その形が、とても洗練されて美しく映ったのでした。
いつかこの形を私たちのキッチンに取り入れてみたいな・・、そう思って、そのインテリアの写真をコレクションしていたのです。
このタイミングで、今回こうしてOさんとのお話を頂くことができたということと、Oさんの「イマイさんのキッチンをいつか新居を建てる時には必ず組み入れたいって思っていたのです。」という言葉に何だか自信を持ってしまい、すっかり気分も調子に乗ってしまいまして、「実は内田さん、Oさん。」とスマートフォンを取り出して、話を切り出してみたのです。
すると、内田さんもOさんも声を揃えて、「いいですね。」と言ってくださって、さらには「イマイさんが考えてくださるのですから、きっとすてきな形だと思われます。お任せします。」とOさんに言って頂けたのです。
これはとてもうれしいお話になったのですが、「お任せします」という言葉はいつ聞いても気が引き締まります。
しっかり頑張ります。
それでそのデザインをOさんのキッチンにどのように取り込めば、私のイメージするところとOさんが使いやすい形になるかを模索するのでした。
引き出しの様子。ここにはあとから木製包丁差しを作らせて頂きました。
引き出しの様子。
引き出しの様子。ハンドルは真鍮直径8ミリのもの。オリジナルで作ってくださる作家さんと知り合うことができましたので、いろいろなサイズで使い勝手を検討することができるようになりました。
引き出しの様子。ちなみに引き出しは白いポリエステル化粧板で作っています。我が家のキッチンはシナ合板で作ったのですが、お客様にはいつも「掃除がしやすいように化粧板が良いと思います。お醤油などをこぼすと匂いが取れなかったりしますので。」とお話をしているのですが、自宅で使っている感じから思うとシナ合板でも掃除に不便はないかなと思えていて、どうしようかと迷っている部分です。ただ、調味料部分は絶対に液漏れがあるので必ず化粧板にしています。以前お醤油をこぼしてしまった方の引き出しがなかなか匂いが取れなかったことがあって、作り直したことがありましたので。
そして、ちょうどこのタイミングで、私たちの自宅が住み始めて半年を迎えたこともあり、キッチンの使い心地や私たちの暮らしを皆さんに見て頂こうとオープンハウスを企画していたのでした。
「イマイダイスケ自邸のオープンハウス Vol.1」
https://www.freehandimai.com/?p=20061
この時に内田さんやOさんがいらしてくださって、また、工房のキッチンとは違った実際に生活しているキッチンを見て頂いて、よりイメージを近づけていくことができたのでした。
リビング側の様子。浮かせた印象というのは内田さんの一貫したテーマなのかもしれません。このシンク側キッチンはコンロ側とは側板の見せ方を変えて、側板、天板、地板で「口」の字になるように囲ったデザインにして、タイル面からキャビネットが軽快に見える印象にしているのです。
収納の形は、扉になっています。取っ手の位置はコンロ側と合わせて、中央部分に手掛けを持ってきています。
こうして、形がまとまりましたので、いよいよ制作前の現場での打ち合わせです。
現場の施工は内田さんのお仕事ではおなじみの市丸さん。
今回は、キッチンのボリュームが大きいこともあり、壁がまだ立ち上がっている途中で仕上がり寸法を現場の状況から追いながら制作寸法を決めていきます。
こうして、何度かお仕事をさせて頂いている工務店さんだとニュアンスを分かってくださるのでとてもありがたいです。
コンロの様子。タイルはホワイトのモザイクタイル。タイル目地の汚れを気にされる方も多いのですが、私の自宅のキッチンでは、目地幅10ミリくらいの白い目地にしているのですが、使って2年経ちますが、普通のお手入れで目地の汚れはほとんどつきません。どちらかというと洗面所のタイル目地のほうがうっすら汚れがついてきたかも、という感じです。料理の油と人の油では汚れの具合が違うのかもしれませんね。
タイルをどこまで施工するかによってキッチンの設置工事の進みかたは変わってきます。今回は、コンロ側とシンク側でタイルの張り方が違うのです。簡単に説明すると、コンロ側はカウンターの上から天井まで張っていますが、シンク側は床から天井まで張っています。どのように施工方法が変わってくるかをお知りになりたい方はメールくださいね。
ガスコンロはリンナイの「RD641STS」。ダイヤルの形状などが デザインが急640から変わって、モダンな印象になりましたね。電池を取り付ける位置もスマートになりました。
手筈が整いましたので、いよいよ制作に取り掛かります。
今回の形が今までと違うのは「扉や引き出しがほぼインセットになっている」という点です。
「インセット」とは、キッチンキャビネット(本体)に対して、扉や引き出しなどの正面の仕上げ材が本体の内側に入っている場合を指します。ですのでキャビネットの板の厚み部分が正面から見えるのです。
反対に「アウトセット」という見せ方もあります。こちらの場合は、扉や引き出しの正面の仕上げ材が、本体の手前にくる場合を指します。ですので、キャビネットの板の厚みが扉や引き出しで隠れるので、すっきりしたデザインになります。
大まかには、少し懐かしいかたちはインセット、モダンな形はアウトセットになりやすいです。
そして、個人的にはインセットの形が好きなのです。
今回考えている形はそのインセットでもさらに扉や引き出しの前板が本体の奥に引っ込んでいる形なのです。
この形に意味があるのかと言われると、うーん、思いつかない・・。
常日頃、個人的にはかたちにはすべて意味があってほしいと思っております。
「ペインターパンツを履くなら、再度ポケットはきちんと使いたいよね」とか「ヨットパーカー着るなら、フードはきちんと被りたいよね」なんて言っていると、アキコから「あなたは変わっているのね。」なんて言われてしまうのですが、「その理由がそこにはきちんとあったからこそ生まれた形が美しい」と思っているのです。
でもね、今回ばかりは好奇心が勝ってしまいました。
縦のラインが強調されたデザインですので、当然内部も仕切られている。
そうなると大きなものはしまえなかったり、使い勝手に制約も出てしまいそうです。
そこで、このデザインを生かしながら、Oさんの希望する物のしまい方をあれこれ考えながら、ようやくこの形にまとまったのでした。
調味料用の引き出しの様子。
調味料用の引き出しの様子。
調味料用の引き出しの様子。
コンロ下は今回はこのような引出しにしています。上部は棚板、下が引き出しという形です。
コンロ下の最下段の引き出し。
こうして、キッチンはまとまりましたが、ここに至るまでにテレビボードのお話が出ていたのでした。
最初は、キッチンだけでお話が留まるところだったのですが、工房にいらして頂いた時に近々工房のショールームを改装することを考えているお話になりまして、思い切って展示してある古い家具たちをいろいろな方々に使って頂こうと考えていたのです。
「このテレビボードも良かったお使いになりますか。」というお話になりまして、そのままでは少しくたびれておりましたので、きれいにオイル塗装を塗り直して、さらには使い勝手をOさんの希望に合わせて、引き出しや扉を追加して、Oさんのご新居に合う形でリメイクさせて頂き、キッチンと一緒にお届けしたのでした。
テレビボードの昔の様子はこちらの古いブログに載っています。(この頃からアキコも文章書いてたんだ・・。)
旧「自由な手たち」
https://freehands.exblog.jp/17671960/
その隣は炊飯器をしまうスライドテーブル。
そのスライドテーブルの下の引き出しの様子。
ここからはキッチンではなく、食器棚となる部分です。ですので、真鍮のハンドルではなく、手掛けになっています。その引き出しの様子。
引き出しの様子。
引き出しの様子。
さらにはお話の中で、ポツポツと聞かれていたダイニングテーブルと椅子も合わせて追加で作らせて頂けることで、とても良いまとまりが生まれたのでした。
これだけいろいろな形を作らせて頂けたことをとても感謝しております。
その下の扉の様子。
その下の扉の様子。内側にメモが張ってあるのがチャーミングです。
手掛けの印象。この形、なかなか大変なのです。2つの治具を作って加工しています。いつもの突き通す手掛けのほうが加工は簡単なのですが、この印象はこの手掛けじゃないと出せませんから。
納品後にお伺いさせて頂きました時に、さらにうれしいお話を聞くことができました。
もともと奥様がPinterestなどを見ていて私たちの形を気に入ってくださったとのことでしたが、こうして打ち合わせを重ねるたびにご主人様が私たちのinstagramをチェックしてくださるようになりまして、今では奥様よりもご主人様のほうが毎日チェックしているくらいだそうで、「今度イマイさん、だいぶ遠くまでキッチンの取付に行ったのだそうだよ。」というような話がご主人から奥様にささやかれるのだそうで、二人のにこやかな様子を見ていると、そのやり取りが目に浮かびます。
「それでね、イマイさん。実は僕もイマイさんのファンになっちゃったものですから、あの取付作業の時に聞ていらしたユニフォームを私にも作って下さらないでしょうか。」と、おもしろいお話まで頂いたのでした。
ユニフォームと言っても、胸と背中に私たちのロゴが入っているだけのTシャツなのですが、それを気に入って頂いたのですが、何だか照れくさいのでした。
でもこうして、気に入って使ってくださるだけではなく、愛してくださる(と言ってよいでしょうか、笑)皆さんがそばに居るのは心強いです。
これからもこういう思いを届けられるように頑張ります。
工房に展示してあったテレビボードは正面のデザインを一新して、オイルを塗りなおしたら、すっかりきれいになりました。このボードは今、島根で頑張っているテライ君が作ってくれたものだったっけなあ。
潔いかたちです。側板と天板、地板の木口がテーパーがついているのですが、今ではあまりやらない45度の角度をつけているので、けっこう格子扉が奥まって見えて迫力があります。(今だと、3度くらいにすることが多いですね。)
追加でご依頼頂いたダイニングチェア。工房に展示してある形をベースにOさんのサイズに合わせて、寸法をデザインし直して制作。
印象として、可愛らしく仕上がりました、その印象を与えているのが座面の張り方でしょうね。今回はフレームに座を落とし込まないで、上に載せる形にしました。ご主人のお尻が大きかったから、ということもありまして、笑。フレームに落とし込むとしっかり座った時にフレームの木部が臀部にあたって感じることもありますので、こちらの方が座り心地が柔らかいです。
さらには、柔らかめのレザーを使って丸張りにしているので、ふんわりした印象で、ゆっくり沈むような座り心地になっています。
同じ椅子が工房のショールームにも1脚置かれていますので、もし気になる方は座りにいらしてくださいね。
こちらも追加でご依頼頂いたクリ材を使った包丁ケース。
同じく追加で作らせて頂いたクリ材を使ったまな板。まな板というと消耗品ですから、ここまで作り込むこともないのではないかと思えたのですが、Oさん、私たちの家具作りをとても気に入ってくださって、このような小さなものまで作らせて頂く機会をもらったのでした。ありがたいことです。
まな板を置く台もいろいろと考えたのです。最初はこの山なりではなく谷なりのカーブを描いた形で考えていたのですが、安定しなくて・・。それでこの山なりのデザインにしたら、まるで月見のような印象に。そのうち小物のほうでも販売しようと考えております。興味がある方はご連絡くださいね。
キッチン仕上
天板 |
ステンレスバイブレーション5.0ミリ |
扉・前板 |
ナラランダム張り突板 |
本体外側 |
ナラランダム張り突板 |
本体内側 |
ポリエステル化粧板 |
塗装 |
オイル塗装仕上げ |
ナラランダム張り突板と5.0ミリステンレスバイブレーションのセパレートキッチン
価格:1,810,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は50,000円から、取付施工費は160,000円から)