母と娘
「チェリーとステンレスのオーダーキッチン」
茅ケ崎 K様
design:Kさん/daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
「はじめまして。Kと申します。
両親と娘(私)夫婦+子供2人の6名家族です。
築30年になる一戸建て住宅、1階キッチンのリフォームを考えております。
私の実家でもあるキッチンがいろいろと不備が出てきたため、ぼんやりとキッチンリフォームを考えていた時に友人から、遊びに行ったお宅のキッチンが素敵だった、寒川の方にある会社らしいとの話を聞き、ウェブから検索させていただきました。
ホームページを拝見し、とても素敵な雰囲気だったのでいろいろと想像を巡らせておりましたが、ついに水栓の調子が悪くなり、本格的にリフォームを進めることにいたしました。
現在はⅡ型(セパレートタイプ)ですが、L型もしくはI型+アイランド(小さめの作業台)をイメージしています。
リフォーム会社も決めておらず詳細は未定なのですが、カタログをいただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。」
Kさんからキッチンカタログを希望されるメールを頂きました。
ちょうどこの頃、湘南T-SITEさんからお誘いを頂いて、キッチンの展示を行なうお話が進んでいて、なかなか慌ただしい時期だったのを思い出します。
さっそくKさんにお送り致しました。
このカタログ、作り始めてからもう9年も経つのですね。自分でもびっくり。
現在はVol.1とVol.2という2冊を作っていて、それを皆さんにお送りしているのですが、内容がカタログというには何だか曖昧な中身だったVol.1をもう少し資料としてみんなに読んでもらえるようにと、昨年の5月に刷新して、その2冊を皆さんにお渡ししています。
最初の頃はほぼ手作りでして、原稿をWordで作って(今でもWordですが)それをコピー機に読み込ませて、両面印刷できるように編集して(コピー機素晴らしい)、少し厚めの紙を購入して、A3用紙で50部くらい印刷しては
それを折ってA4の冊子にして、ホッチキスで止めて、真ん中あたりの紙が出っ張っちゃうのをカッターで裁断して、とすべて手作業でしたね。
ありがたいことに応募してくださる方が増えて在庫がなくなってくると、ああ、刷らなくちゃと思いながらちまちま作っておりました。(結構指が痛くなるのです。)
ある時、印刷屋さんにお願いしたほうがいろいろとメリットがあることが分かり、(もっと早くに気が付ければよかった・・)今では原稿の作成だけを行なう形でやっておりますが、相変わらずちまちまと作り続けて9年が経ったのですね。時間が経つのは早い。
あれからいろいろなキッチンを作らせて頂いているので、また新しいものを作らないといけないなと思いながらも、なかなかはかどらない日々でございます。
基本的にウェブサイトの内容をコンパクトにまとめただけですので目新しいことは特にないのですが、(私とアキコの小話が載っていることくらいが新しい部分でしょうか。)私たちのキッチンが気軽に皆さんに見てもらえたらと思って、地域を問わず皆さんにお送りしているのですが、実際にキッチンを作らせて頂ける範囲としては、私たちが通える距離までのご対応とさせて頂いているので、と奥は北海道や沖縄県からもご応募があって実際に作らせて頂くことは難しいところが少し残念なところでもあります。でもそれを見てもらって良いキッチンになったらうれしいなあと思いましたら、今日もちまちまお送りしております。
そうして、カタログをお送りしてまもなくKさんからご連絡を頂きました。
「フリーハンドイマイ様
先日カタログをお願いした茅ヶ崎のKです。
早々に送っていただきありがとうございました。
ホームページでも何回も拝見していましたがカタログを見て、やはりイマイさんのキッチンにしたいと思っております。
家は積水ハウスで建てており、今までのメンテナンスも積水リフォームさんにお願いしておりました。
ですので、積水リフォームにも相談、見積をお願いする予定です。
ただ今回のリフォームは、家全体というよりキッチンのリフォームがメインですので、もし見積だけでも可能であればイマイさんが懇意にされている工務店さんなどご紹介いただけますでしょうか。
キッチンのイメージはわいているのですが、現在の壁をどのくらい変更(壁をなくす、動かすなど)していいものなのか、もっといいレイアウトがあるのではないかと素人にはわからないこともあり、まだ漠然としている状態です。今後どのように進めたらよいのかも含めご相談したいと思っております。
よろしくお願いいたします。」
うれしいご相談です。
私たちがこうであったら良いなというお仕事の形です。
私たちは家具やキッチンは作ることができても家作りまではもちろんできません。そうなるといつもいろいろな設計士さんや工務店さんにお世話になるのですが、ときにはいつも一緒に仕事をしている設計士さんや工務店さんとできたら、あうんの呼吸で楽しいだろうなと思っていたのです。
そこでまずはKさんのイメージを知りたいと思いました。どういう室内空間が好みなのか、どんなキッチンが好きなのか。形はいろいろありますが、まずはその人の持っている空気を知りたいのです。
そして、個人的には茅ケ崎という場所もありましたし、ちょうど渡した自宅を建てて間もなかったこともあって、自宅を設計してくれた茅ヶ崎在住のMA設計室の福原さんにお願いしたいなと思っていたのです。
さらにはKさんのメールの中に中村好文さんのお名前が挙がっていたこともあって、少しご縁のある福原さんならKさんのキッチンを快適な形にしてくれるのではないかと思ったのです。
そこで、まずは福原さんにも相談しましたら快く引き受けてくださって、一緒に打ち合わせにいらして頂けることになったのでした。
お話が変わりますが、ちょうどその週末から湘南T-SITEで「湘南料理道具市」が始まりました。
このあたりに住む皆さんによく知って頂きたいという思いで参加させて頂けることになったこのイベントですが、いろいろと考えていくうちに10年前に今の形にできあがった工房2階の展示室をこれを機に新しくしようという話が出てきたのです。それならば、ステンレスを使ったキッチンも魅力的だけれど、思いきって自分が好きな形でキッチンを表現してみたいと思いまして、道具市で展示させて頂くキッチンは少し懐かしい(少し昔のツヤのない石の台所のような印象)感じに仕上げたのでした。
そのキッチンやイベントの様子をKさん突然お母様と一緒に見に来て下さって、いろいろと楽しそうに話をされていったのでした。
なるほど、いろいろとおもしろそうなキッチンになりそう。
そういう印象を持って福原さんと一緒にKさんのところまで後日打ち合わせに伺わせて頂きました。
積水さんで建てられたというそこかしこに懐かしい印象の戸建て住宅。
さっそくダイニングに案内させて頂きました。
かなり広い家なのですが、何というかダイニングがうーん、狭い。(ごめんなさい、Kさん)
今までもいろいろなリビングダイニングを拝見させて頂きましたが、やはりだんだんと年を重ねてくると、増えたものを片付けることが大変になってくるのですよね。私も両親を見ていて時々そう思う時もあったりします。片づけるという気持ちを持ち続けることもなかなか大変だと思います。
で、主役は娘さんのT子さん。娘さんと言ってもわたしたちに年代が近いのでとてもお話の間隔が近くて何となくご近所さんのところにお茶を飲みに来てしまった感じ。
それで、この徐々に積み重なっていくものたちを整理したいことと、くたびれてしまったキッチンがいよいよ水栓が壊れ始めてしまったということで私たちを呼んでくださったのでした。
ただ一つ、お話を進めていくと難しい点がありました。
ツーバイフォーで建てられた空間だったのです。
以前にもそういう作りの空間をリノベーションできるかというお話が何度かありましたが、そのたびに設計士さんに相談すると「ツーバイフォーですか・・。」となぜか声が小さくなっていくのでした。
私自身、情けないことに建築にあまり詳しくない部分もあったりして、よく聞く「ツーバイフォー」がどうして困難なのかがはっきりとは分かっていない部分がありました。
それで、今回同席してくれた福原さんとその点を含めていろいろと相談することに。
いろいろ現地を見聞きしながら検討していくと、「ツーバイフォー」とは壁面全体で耐力を作る構造なので、リノベーションでの間取りの変更がかなり難しいのだそうです。
私としては、Kさんの今までのお話を聞くと、ぜひ福原さんの空間や空気感を感じてもらえたらうれしいなと思っていたのですが、空間構成を変えることが難しいとなると、できるのは内装で印象や生活スタイルを変えてゆくことでした。
そうなると設計士さんとして醍醐味を味わって頂くことも難しくなるのでした。
「イマイ君なら内装でKさんのイメージや暮らしかたの希望を実現させることはできると思うから大丈夫だよ。楽しみにしていますよ。」といつも兄のように(居ませんが)支えてくれる福原さんの言葉を聞いて、私自身気持ちに整理をつけて福原さんの代わりにキッチン全体の印象作りを担当させて頂くことになりました。
ただ、内装の作り方など建築的な納まりは私には分からないので、ここはいつも一緒に仕事をさせて頂いている設計士兼現場施工を請け負ってくださるkotiさんにお願いすることになりました。
kotiの伊藤さんは、以前にご自宅のキッチンを作らせて頂いたりしていて、あうんの呼吸というと大げさですが、とても親身に相談に載ってくださるので仕事がしやすいのでした。
そこでまずは間取りを変えることなく、ダイニングキッチンをどのようにしたらKさんご家族にとって使いやすいのかをKさんと、時々お母さんも一緒に打ち合わせていきました。
まず、このダイニングに来て思ったのはキッチンがとても暗かったのです。
キッチンとは壁を挟んだ部屋のリビングは庭先からの日差しがたっぷり入るのでレースを掛けていてもとても明るく心地良いのですが、壁一枚があることで、光はもちろん回り込んでこないので、昼間でも蛍光灯をつけないと手元が暗いほどなのでした。
そこで、構造の強度を変えることなく壁を抜ける部分を伊藤さんと考えて、まずはダイニングに向いて付いていたキッチンを反対の壁に向けることにして、もともとついていたキッチン上の吊戸棚とその吊戸棚がついていた壁を取り払うことにしたのです。
壁を取る代わりに梁を補強しましたが、以前よりも明るい空間に変えることができました。
また、そのキッチンの手前についていたキッチン対面カウンターが大きすぎてダイニングを圧迫していました。それがダイニングが狭く感じる要因でしたので、キッチンを撤去する際にカウンターも撤去して、代わりに今までなかった作業スペースを確保するためにペニンシュラタイプの下が収納になっている作業台を設けたのです。
これで広く明るいキッチンにすることができました。
で、その時にお母さんとお話になったエピソードがあります。
まずリノベーションは解体することから始めます。
伊藤さんと大工さんのお二人で、キッチン周りを手早く解体されて、まもなく解体が終わるかなという頃に、キッチンがきれいに納まるかどうかを確認するために現場を訪れました。
「イマイさん、Kさんがちょっとご相談があるそうなのですよ。」と伊藤さん。
別室で過ごされていたKさんにお声掛けすると、「イマイさん、もう工事が始まっているのに、こんなタイミングでごめんなさいね。実は母からお願いがあるそうなのです。」と。
「いや、別に私はいいんだけれどもったいないじゃない。まだきれいな板だし、今までここで使ってきた思いもあるから、新しい間取りでもどこかで生かせないものかしらと思って。でもあなた(T子さんのこと)が要らないっていうのならいいのよ。」とお母様。
「ええ、さっき要るって言ったじゃないの。どっちなの。」とT子さん。
何だか楽しそうです。
そこに伊藤さんもやってきてくれて、「じゃあ、せっかくだから少し使えるように考えてみます。」とお伝えして、構造上動かしづらかった電話のモジュラージャックがそのまま残ることになったので、その場所に電話が置けるような小さなカウンターを作ることにしたのです。
「伊藤さん、すみませんがここに下地を入れておいていただけますか。インロウで固定する小さなカウンターにしようと思いまして。」ということで、そのキッチンカウンターを一度預からせて頂いて、小さく長さをカットして、カット面を正面の木口の面取りのデザインと揃えて塗装も揃えて、最初からこのサイズだったかのようにして壁の隅っこに取り付けさせて頂きました。
そのできあがりを見たお母様。
「あら、これがあのカウンターだったの。全然気が付かなかったわ。てっきり捨てちゃったのかと思っていたのよ、ほほほ。」と。
「もう、何言ってるの、お母さん。」とT子さん。
やっぱり楽しそうです。
そのようなわけで、お父様とお母様がこの長く過ごされたこの場所の空気感は残しつつ、私やT子さんの好きな好文さんの印象(私の思う印象は、素朴で、材やテイストにとらわれず、その使う人が気持ち良い形を提案してくださるという印象。そして少し懐かしい印象。)を大切にキッチンを作らせて頂きました。
キッチンの設置も終わり、あとは伊藤さんのほうの仕上げ工事が少しという頃にT子さんからもうれしいご連絡を頂きました。
「フリーハンドイマイ 今井様
いつもお世話になっております。
本日、ほぼ工事が終了しました。
やっぱりあっちの方がよかったかな、もっとこうすればよかったかな・・と、正直いろいろ考えてしまっていたのですが、先ほどシートなども外されて全体が見えたらそれが一気に吹き飛んだと言いますか、やっぱりこれでよかったと思うキッチンでした!
新しいキッチンの収納はよく考えてゆっくりやろうと話しているので、まだ次回お会いできる時も落ち着いてないかもしれません。笑
打ち合わせの内容がころころ変わったり、工事が始まったのにまだ迷ったりと、本当に本当にご迷惑をおかけしております。
伊藤様にも大変お世話になり(明日もいらっしゃいますが)いろいろと無理を聞いていただきました。
とても丁寧に仕事をしてくださり感謝です。
伊藤様をご紹介してくださりありがとうございました。
最後の仕上げ工事もよろしくお願いいたします。」
それと今回はキッチンの工事と一緒に一緒に2階のお子さんたちの部屋をきれいにして、お姉ちゃんとお兄ちゃんが個室を持てるようにそれぞれの個室を作ったりと、キッチンから始まって、いろんなところまで手を加えさせて頂いて、心地の良い新たな風が通る空間ができあがったのでした。
「フリーハンドイマイ 今井様
お世話になっております。
本日もありがとうございました。
あれからレモンをかけてみましたら、作業台のシミも洗剤のシミもビックリするほどきれいに落ちました。
お手入れ方法も教えていただきましたのでメンテナンスしながら丁寧に、かつ、気持ちよく使い込んでいきたいと思います。
さっそくホームページの写真を拝見しました。
なんだか素敵に撮っていただき恐縮です。
母に、素敵に写っていると教えると、実際に素敵じゃない!と申しておりました。
それから、最後にお願いしたまな板は、ある時から母は使わなくなってしまって後悔していたようなので生まれ変わり喜んでいました。
また困ったことなどありましたらご連絡させていただきます。
それでは今後ともよろしくお願い致します。」
そういえば、まな板をお届けした時にお茶を頂きながら、T子さん、このようなお話をしてくださいました。
2020年11月11日の日記より「Kさんのチェリーのキッチンふたたびみたび」
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・・・なぜKさんが私たちにキッチンのオーダーをくださることになったのかお話してくださいました。
「幼稚園のママ友だちで集まった時にリフォームのお話になったのです。もともとこの家を建てた工務店さんに依頼する方法もあったのだと思うのですが、その友だちの話を聞いていると、遊びに行く家々のキッチンが寒川の家具屋さんがどうやら作ったらしいよ‥、という話になって。興味もあったし、何度もその家具屋さんが登場するなんてミステリアスでして。
ちょうどその頃から母がここをきちんとリフォームしたい、っていう話は出ていたのです。
それで私もその家具屋さんを調べてみたら、あぁいいなあと思えたのです。
父はやはり建てたところに依頼することが安心、っていう気持ちはあったようですが、私自身、以前に少しキッチンの仕事に携わっていたこともあって工務店さんと相性にどこか疑問を感じていたところもあったので、良いところがあったらと思っていた時にイマイさんを知ってその魅力を感じたのです。」
とてもうれしいお言葉。
たしかに茅ヶ崎では以前に何件も魅力的なみなさんのキッチンを作らせて頂きました。
みんなどこかでつながっているのだなあ。
そういうふうにいろいろなところでのご縁があって今があるのです。
大変ありがたいことです。
Kさん、また何かありましたらいつでもお声掛けください。
これからもよろしくお願い致します。
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ミステリアスな家具屋はすてきだねえ。
天板 | ステンレスヘアライン |
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扉・前板 | チェリー板目突板 |
本体外側 | チェリー板目突板 |
本体内側 | ポリエステル化粧板 |
塗装 | オイル塗装仕上げ |
チェリーとステンレスヘアラインのI型キッチンと吊戸棚
価格:1,100,000円(制作費・塗装費、設備機器費用は別)
チェリーの作業台
価格:520,000円(制作費・塗装費)
チェリーの食器棚
価格:510,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は40,000円から、取付施工費は180,000円から)