思いをかたちにするちから
「ブラックチェリーのリビングボードのオーダー」
調布 K様
design:daisuke imai
planning:daisuke imai
producer:iku nogami
painting:iku nogami
Kさんから家具を設置したい部屋の壁面のサイズが入った写真と希望するイメージに近い家具の写真が手短な文章と合わせて送られてきたのでした。
「まだ具体的なイメージ等はありませんが、送らせていただきます。値段等も全く相場がわかりませんが、相談させていただきます。」
ということでしたが、頂いた写真などを拝見させて頂くと、何となくできる方向性が決まっておりましたので、「どんなものをしまいたいか」「私たちの制作例でどのような形が好きか、もしくはほかのメーカーさんで好きな家具はどのような形か」をおたずねしました。
Kさんから帰ってきたお返事はどの形もシンプルな形でしたので、まずは一つ形を考えてみようと思いお送りしたのがこのスケッチになります。
ベンチチェストというと、少し前だと上に向かって開くフタのようになっている形が多かったのですが、結局それだとあまり使いにくい収納になってしまうことが多かったのです。ベンチとなると高さ40センチ前後になることが多く、その場合にフタを開けると30センチ以上の深さの収納になります。
お子さんが小さいうちはおもちゃ箱として使えたりしますが、ふたが少し重くなることがありますので、手を挟まないように工夫しないといけませんね。
そうして、お子さんがおおきくなるとおもちゃが減ってくるので、今度はアルバムを入れよう、とか防災用品を入れようとか、夏の海水浴に使うものをしまおうとか、日常的に出し入れするものではないものをしまいがちになることが多かったりします。
そうなると、収納を作っても活かしきれなかったりします。
そこで、最近は引き出し式の収納にすることが多いです。
それほど大きな引き出しにしなければ、上に座っても人が立っても特に引き出すときに問題なく使えますので。
Kさんの場合もそのイメージで提案させて頂いたのでした。
その内容を見て頂いていくつか変更のご要望を頂けたところで、正式にご依頼を頂きましたので、より具体的にお話を進められるように図面を作成します。
そして、その図面を持って、Kさんのご自宅まで。
調布という町は私はなかなか好きでして、具体的にどこか良いかと言われるとそれほど詳しくは知らないのですが、街の空気が少しのんびり感じられて、そこかしこに緑が目に入る雰囲気が好きなのです。
このあたりの甲州街道もなんとなくとげとげしさが薄れているように思えるのでした。
で、さっそくKさんのお宅にお伺いさせて頂きました。
旗地ですがそれほどまわりが仕切られていないので広々と庭までたどり着けます。
目の前にはコインパーキングもあるので、駐車にも困らなそうです。
「お邪魔します。」
2階まで案内して頂くと広いリビング。ただ、ここに辿り着くまでの階段はそれほど広くなく一般的なサイズでしたので、おそらく天板の搬入は屋内からだと難しいかな。
本棚も場合によっては・・。
その様なことを考えながら2階のリビングにお邪魔します。
私は到着したら先に設置場所のサイズを測らせて頂くことが多いです。(よほど汗をかいている時は、まあ、イマイさん、まずは涼んで。とお茶を頂くこともあります。)
先に採寸しておく方が打ち合わせはスムーズですからね。
それと、打ち合わせをしている時に、「あっ、ここを測らないとね。」というのが明確に判断しやすかったりします。
そこで採寸。
今回は、形こそ大型の家具ではないのですが、三面の壁を使うので、なかなか採寸はたいへんです。それに建築は壁や床はどれほど正確に作られていても、木造でも鉄骨造でも、コンクリート造でもわずかな歪みや反りなどが出ています。
三面を正確に逃げなく作っていくと、設置した時に出たひずみが一番端っこで大きくなってつじつまが合わなくなることもあります。
そこでどこで逃げを作るかを考えながら採寸をしたりするのです。
すると、おっと、想定外のものが現れました。2つの換気口です。
ひとつはちょうどベンチチェストのL型の角部分。もう一つが本棚が設置される天井付近。
さてどうしよう・・。
今回懸念していたのは、本棚を可能であれば分割して作りたいところですが、左側面がリビングから見えるためそのつなぎ目が丸見えになってしまうのは気になると思いました。そこをどうするかをKさんに相談して決める点と、ベンチチェストの天板が本棚の棚面と揃えてつながっていくように見せる部分をどのように仕上げるか、という部分でした。
そこにさらに換気口の問題が出てきて、いろいろと悩むのでした。
Kさんも奥様もおおよそ図面の通りのイメージで進める形で良いと思っていらっしゃったので、私のほうでいろいろと思い巡らせながら良い案を考えていきます。
そうしてまとまったのが、本棚はやはりリビングから見た時の印象が大切ということで、分割しないで作ることに。
そうなると、搬入はバルコニーからになるので、お天気が左右してきますね。
それに分割しないとなると寝かせた状態で搬入して、リビングで起こせる高さを考慮しないといけません。具体的にお話すると、本棚を横から見た時に本棚の対角線(背板のてっぺんから地板の手前まで)の寸法が天井の高さを超えてしまうと起き上がらない。さいわい、巾木部分と支輪(天井の隙間を埋める材)部分のサイズを差し引くとギリギリ予定寸法でも起こせそうです。
(起こせない場合は、支輪のサイズを大きくして調整したりします。)
天板と棚板がぶつかる部分は、心持ち棚板のほうが上に出るほうが印象が良いので、その様な納まりにすることに。
それから、新たに出た換気口問題は、本棚の背板のほうが背板をクル抜く形で対応し、部屋の角にある部分はどうにか通気を妨げず、かつコンセントもあったので、それをそのまま活用できるように使いやすいかたちを提案することができたのでした。
さて、設置当日はあいにくの雨模様になりそうでしたので、Kさんにお願いして翌日にずらして頂くことに。
そしてその翌日は暑いくらいの良い天気。
おかげさまで大汗を書きながら無事にすべての搬入を問題なく終えることができたのでした。
設置作業は、壁と床のちょっとしたひずみがあって、その調整に大きく時間が掛かってしまいましたが、無事にその日のうちに作業完了。
できあがってしまうとかなりシンプルな形なのですが、こうしていろいろな問題をクリアして初めてその形ができあがるのです。
こうして見ると、Kさんから最初に頂いた写真や最初のスケッチにかなり近い形に仕上がったと思います。
ブラックチェリーを使ったのでまだ淡い色みの家具ですが、どんどん良い色に変わっていくと思います。
その時にはこのシンプルさがかえってチェリーの表情を良く引き出してくれると思います。
その時が楽しみです。
ありがとうございました、Kさん。
ブラックチェリーのリビングボード
価格:1,000,000円(制作費・塗装費)
*運送搬入費・取付工事費が別に掛かります。
(目安として、運送搬入費は30,000円から、取付施工費は70,000円から)
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